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2025年09月02日

才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅”第四十五回 / 溢れ出る夏休み感!大好きな真夏の東北を走る!

脳天からジリジリと照りつける日差し。青空にモクモクと浮かぶ入道雲。緑の絨毯のように広がる水田。その平野を囲むように聳える山々。そして、大地を撫でるように吹き抜ける風。

これぞ、日本の夏休み。

「季節」と「場所」を掛け合わせると無数の組み合わせが生まれる。その中で、私が心から大好きなのが「夏の東北」である。

今回は車に自転車を積み込み、約4週間の旅に出た。久しぶりの夏の東北に、胸が高鳴る。

庄内平野の水田と、奥に聳える月山。大好きな夏の東北の風景。

ヒルクライムの原点「蔵王エコーライン」

東京を発ち、福島で数日を過ごした後に向かったのは、宮城県の蔵王。ここには東北を代表するヒルクライムコース「蔵王エコーライン」がある。

私が仙台で学生時代を送っていた頃、自転車に出会い、初めて挑んだ超級山岳がこのエコーラインだった。まさに私にとってのヒルクライムの原点。

100万年に及ぶ火山活動が作り出した景観。その中を進む「蔵王エコーライン」。

今回、再び上るにあたり、当時一緒に走った懐かしい仲間や、いま仙台に住む元チームメイトに声をかけてみた。驚いたことに、当日たくさんの仲間が集まってくれた。

思い出のコースで、かつての仲間と山頂を目指す。息を切らしながらペダルを踏み込む。当時の記憶が鮮やかに蘇ってくる。

ヒルクライムの原点を再確認する。そんな特別な時間になった。

蔵王エコーラインを終えて。途中離脱の方もいたが、11名が集まってくれた。

山形の大先輩を訪ねて

土井雪広。

自転車ロードレースファンなら誰もが知る名前だろう。ブエルタ・ア・エスパーニャ完走2回、全日本選手権優勝。アルデンヌクラシック3連戦に出場など、数えきれないほどの実績をもつ、日本を代表する元プロロードレーサーだ。

2010年。私が土井さんに初めて会ったのは、プロを夢見て挑戦していたフランスでのこと。舞台はグランプリ・プルエー(現在のブルターニュ・クラシック)。世界トッププロが集うレースの前日に、アマチュア最高峰のレースが行われていた。

フランスのトッププロチームの一つ「コフィディス」で、メカニックをしていた知り合いに、「トップ3に入ったら連絡してこい」と言われて臨んだレース。プロにつながるのか?期待が膨らむレースだったが、結果は42位。夢の厳しさを思い知った。

そして翌日のプロのレース。世界の強豪が集う集団から飛び出した8人のエスケープの中に、スキル・シマノのジャージを着た土井さんがいた。約200km、逃げ続ける姿が、観戦していた私の目に焼きついた。

プロを目指して燻っていた私と、世界の舞台で堂々と戦う土井さん。フランス西部の田舎町で初めて挨拶を交わしたとき、私にとって彼は夢を体現する存在だった。

その後、お互いヨーロッパでの活動を終え、日本での選手活動を通して一緒に練習するようになり、やがて一緒に酒を飲む仲にまでなった。今は故郷の山形に戻って暮らしている土井さん。東北に行く機会があれば必ず会いに行こうと思っていたが、今回それが実現した。

土井さんが山形で営む自転車店「NAMEKAWA BASE」。旅で使い倒している自転車を、整備してもらった。

今回も一緒に飲みに行った。思い出話から今後の話まで、尽きることなく時間は流れた。フランスでの出会いから15年。まさか一緒に酒を酌み交わす関係になるとは、当時は想像もしていなかった。次にまた東北に来るときも、必ず会いに行こう。

左から土井さん、橋口さん、私、高杉。ビール関連の仕事で偶然山形に来ていた自転車仲間の橋口さんのところへ飲みに行った。高杉は元チームメイトで、大学の後輩でもある。

38回を誇る伝統のレース「矢島カップ Mt. 鳥海バイシクルクラシック」

今回の東北旅の最大の目的は「矢島カップ」への参戦。秋田と山形の県境にそびえる鳥海山を舞台にした、タイムトライアルとヒルクライムの2ステージで競う大会である。

秋田県由利本荘市の矢島町を舞台に開催される「矢島カップ」。メイン会場は、鳥海山ろく線「矢島駅」のすぐ近く。背後には巨大な鳥海山(2,236m)

学生時代、東北で自転車を始めた頃から、このレースの話は耳にしていた。しかし、フランス挑戦や帰国後の実業団活動が重なり、これまで一度も走ることがなかった。長年の思いがようやく叶った。

第1ステージのタイムトライアルは、トップと15秒差の5位。総合逆転が狙える位置で第2ステージのヒルクライムへ。タイムトライアルを制した小村さんや、優勝経験もあるベテランの田崎さんといった強豪が前にいる。彼らを突き放さなければ総合優勝はない。

ノーマルバイクでタイムトライアルに出走。結果は5位。

レース中盤で集団は10人弱に絞られた。清々しいほど牽制のない力勝負。残り7km、決戦の火ぶたを切ったのはレジェンド田崎さん。キレのあるアタックで集団は崩壊した。私は動じず、自分のペースを信じた。「フィニッシュまで最速で辿り着ける」リズムを刻み続け、ついに独走に持ち込むことができた。

結果は、2位に1分以上の差をつけての総合優勝。

優勝を争ったライバルたちと、フィニッシュ地点で一枚。みんな出し切った表情で気持ちが良い。

憧れの先輩と、同じカップに名を刻む

総合優勝者に授与される「矢島カップ」は圧倒的な存在感を放つ巨大なトロフィー。その側面には歴代優勝者の名前が刻まれている。

その中に、第16回優勝者として刻まれた「土井雪広」の名を見つけた。

高校生でこのレースを制した土井さん。常に先を走り続けてきた大先輩と、同じカップに自分の名前が刻まれる。フランスで初めて出会った日から、私はずっと土井さんを追いかけ続けているのかもしれない。

大好きな夏の東北。仲間との再会。そして大先輩との縁。私が再び東北を訪れない理由は、どこにもない。

表彰式で矢島カップを掲げる。重い!
矢島カップには「土井雪広」の名前があった。

才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅” 連載中
第一回 プロローグ
第二回 旅の流儀
第三回 フェリーで広がる可能性 ~奄美群島~
第四回  自転車で訪れる八重山諸島
第五回  出発の地、目的の地、それは『レース』
第六回  東北沿岸を走る 東日本大震災から11年
第七回 ワーケーション自転車旅の装備
第八回 仕事の合間にライド。ライドの合間に仕事。
第九回 地域のシンボルとして愛される山
第十回  北海道 太平洋岸を行く3日間 600km
第十一回 自転車で楽しむ神話の土地 島根・鳥取
第十二回 上ったら食べる 旅の途中に立ち寄りたいご当地ラーメン
第十三回  全国のサイクリストと一緒に走る、STRAVAセグメントアタックという形
第十四回 離島時間に浸る ゆっくり走るという贅沢
第十五回 自転車で踏み込む世界遺産の森 奄美大島・加計呂麻島
第十六回 屋久島 自転車で感じる洋上のアルプス
第十七回 サイクルジャージは現代アート? 自転車で立ち寄る美術館
第十八回 雨で良かった。雨の日こそ走りたい道。梅雨を楽しむ。
第十九回 富士の高嶺に挑む 「富士ヒル」と「チャレンジヒルクライム岩木山」
第二十回 夏本番!あなただけの「おくのほそ道」を走ろう
第二十一回 南信州飯田 友人に会いに行く旅
二十二回 乗鞍ヒルクライム 〜初登攀(はつとうはん)はレースで 念願の日本最高峰〜
第二十三回 / 残された未踏の地「北海道・道東」
第二十四回 海外ワーケーション! 日本から近い島国「台湾」
第二十五回 / 知られざる秘境 〜岐阜県と北陸三県の間に広がる山岳地帯〜
第二十六回 / タイでワーケーション(前編) タイ合宿の聖地「ナーソンリゾート」
第二十七回 / タイでワーケーション(後編) いつものスタイルで放浪旅に挑戦
第二十八回 / 雑踏!世界遺産!グルメ! 活気に満ちたベトナムを走る
第二十九回 / ビールのつまみは「スパイスの効いた旅」 ベトナムの首都ハノイ
第三十回 / バリ島 自転車で感じる「神々と自然と人々」が融和する島
第三十一回 / 吉野大峯と大台ヶ原 紀伊山地のレースコースを楽しむ
第三十二回 / 冬のリゾートで夏を楽しむ ニセコでロングステイ
第三十三回 / 国内最後の未踏エリア 北海道「北の大三角」【前編】
第三十四回 国内最後の未踏エリア 北海道「北の大三角」【後編】【ファンライド】
第三十五回 ワーケーション始まりの地 長野市「八景館」
第三十六回 もうひとつの台湾KOM。 台湾の強豪クライマーたちとの共演
第三十七回 『仙台』お世話になった人たちに会いに行く旅
第三十八回 二ヶ月タイの旅(前編)仲間と年越し、そして一人旅の始まり
第三十九回 / 二ヶ月タイの旅(後編)自転車がつないだ数々の出会い
第四十回 / 「南インド」45日間(前編) 押し寄せる「刺激」の波に飲まれる
第四十一回/「南インド」45日間(後編) 走るほどにインドに染まる
第四十二回 / 「九州縦断自転車旅 友人の顔が浮かぶ道を行く」
第四十三回 / 寄り道だらけの自転車四国お遍路【前編】
第四十三回 / 寄り道だらけの自転車四国お遍路【後編】

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大会公式サイト
https://yatsugatakekougen-longride.jp/


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