2024年08月21日
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅”第三十三回 国内最後の未踏エリア 北海道「北の大三角」【前編】
最後になるかもしれない「未踏の地」のワクワク感
この先は、国内で初めて走ることになる数少ないエリア。知らない地域を走るワクワク感を味わえるのは、これが最後になるかもしれない。どんな出会いが待っているだろうか。
全国を旅してきた私にとって、一部の離島を除いて最後に残された「未踏の地」は、札幌から稚内まで日本海を北上し、稚内から網走までオホーツク海を南下する「北の大三角」。
今回はその前編で、札幌から稚内までを北上し、最北の離島「礼文島」と「利尻島」を旅する。札幌から稚内までの距離は、寄り道を含め約350km。2日間で走る計画を立てた。急ぎすぎず、ゆっくりしすぎず、ちょうど良いペースだ。
2024年7月4日、札幌を出発。早々に予報外れの雨に打たれたが、すぐに止んで青空が見えた。悪くないスタートだ。この先は、国内で私に残された、数少ない初めてのエリア。どんな出会いがあるだろうか。
私を歓迎してくれたオロロンラインと最北の大地
海岸線の断崖に沿って道がゆったりと伸びる。私はオロロンラインに平坦な直線路のイメージをもっていたが、この断続的に現れるアップダウンは、札幌を出て約250kmの天塩まで続いた。
天塩から先、道は平坦基調に。そして、平原の奥、遠く海の方向に浮かぶ尖った「三角形」が目に入った。今回の目的地のひとつ、利尻島にそびえる利尻山。日本最北端の百名山、通称「利尻富士」だ。待ちに待った対面は、遠く霞む景色の中からぼんやりと現れ、利尻富士から「やっと気付いたね。ずっと見ていたよ」と言われているような感覚を覚えた。
青空の下、追い風が背中を押してくれる。幻が現実になるように、利尻富士の輪郭が徐々にはっきりしてくる。
ブルベや日本縦断のライダーたちから、強烈な横風や向かい風、豪雨といった恐ろしいエピソードをたくさん聞いてきた。しかしこの日は、これ以上ない好天に恵まれ、オロロンラインのイメージは一転した。稚内に到着したとき、私は満足感でいっぱいだった。これから渡る島への期待は最高潮に高まっていた。
いざ、日本最北の離島へ
日本最北の離島「礼文島」と「利尻島」へのアプローチは、利尻島への飛行機か稚内からのフェリー。私はもちろんフェリー。島の間も船で行き来ができるので、「稚内→礼文島→利尻島→稚内」と周遊できるチケットもある。一番安い「二等席」は7,420円。
今回最も苦労したのは宿探しだ。礼文島と利尻島は、寒冷かつ西風が吹き付ける過酷な気候条件のため、高山植物が自生し、花々が咲く短い夏には観光客が押し寄せる。大手予約サイトでの宿探しを断念し、民宿に直接電話をして何とか一泊分の宿を確保した。
結果的に、島の滞在スケジュールは一泊二日となった。もう少しゆっくりしたかったが、宿の都合で弾丸ツアーにせざるを得なかった。
7/7(日)06時30分発 稚内→礼文(礼文島をサイクリング)
7/7(日)16時30分発 礼文→利尻(利尻島に移動後に宿泊)
7/8(月)17時40分発 利尻→稚内(利尻島をサイクリング後、稚内へ戻る)
こうして上陸した日本最北の離島である礼文島。曇天の七夕だったが、午前中は時折青空も覗いて、どの岬からも素晴らしい景色が望めた。もし晴天なら、どんな絶景だったかを想像する。外周路が存在しないため、「島一周」はできない礼文島ではあるが、道という道を走りきった。
礼文島を後にして利尻島行きのフェリーに乗り込んだ。到着と同時に雨が降り始め、願いも虚しく、翌朝まで止むことはなかった。
稚内に戻るフェリーの出発まで時間があったので、ライドを遅らせて雨宿りしながら、同じ宿のお客さんと話していると、なんとその人は、私が学生時代に所属していた自転車チームのメンバーだった。当然、共通の知り合いも多く、会話は弾んだ。気付けば雨が上がっていた。北海道の離島での偶然の出会い。世界は狭い。
旅に「余白」を残す
結局、利尻島のライドでは、最後に雨に降られてずぶ濡れになったが、島を走破することはできた。これ以上望むのは欲張りというものだろう。オロロンラインで、追い風とともに私を歓迎してくれた利尻富士は、遂にはその姿を見せてくれなかった。見逃した絶景がたくさんあるだろう。
「また来ればよいか」
このくらいの「やり残し=余白」を残すことが、旅をいつまでも楽しむコツだと思う。次回のために楽しみを取っておく。それに、雨だったからこその出会いにも恵まれた。「余白」を胸に、島に別れを告げる。私の「今回」の旅はまだ折り返し地点だ。
(後編へ続く)
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅” 連載中
第一回 プロローグ
第二回 旅の流儀
第三回 フェリーで広がる可能性 ~奄美群島~
第四回 自転車で訪れる八重山諸島
第五回 出発の地、目的の地、それは『レース』
第六回 東北沿岸を走る 東日本大震災から11年
第七回 ワーケーション自転車旅の装備
第八回 仕事の合間にライド。ライドの合間に仕事。
第九回 地域のシンボルとして愛される山
第十回 北海道 太平洋岸を行く3日間 600km
第十一回 自転車で楽しむ神話の土地 島根・鳥取
第十二回 上ったら食べる 旅の途中に立ち寄りたいご当地ラーメン
第十三回 全国のサイクリストと一緒に走る、STRAVAセグメントアタックという形
第十四回 離島時間に浸る ゆっくり走るという贅沢
第十五回 自転車で踏み込む世界遺産の森 奄美大島・加計呂麻島
第十六回 屋久島 自転車で感じる洋上のアルプス
第十七回 サイクルジャージは現代アート? 自転車で立ち寄る美術館
第十八回 雨で良かった。雨の日こそ走りたい道。梅雨を楽しむ。
第十九回 富士の高嶺に挑む 「富士ヒル」と「チャレンジヒルクライム岩木山」
第二十回 夏本番!あなただけの「おくのほそ道」を走ろう
第二十一回 南信州飯田 友人に会いに行く旅
第二十二回 乗鞍ヒルクライム 〜初登攀(はつとうはん)はレースで 念願の日本最高峰〜
第二十三回 / 残された未踏の地「北海道・道東」
第二十四回 海外ワーケーション! 日本から近い島国「台湾」
第二十五回 / 知られざる秘境 〜岐阜県と北陸三県の間に広がる山岳地帯〜
第二十六回 / タイでワーケーション(前編) タイ合宿の聖地「ナーソンリゾート」
第二十七回 / タイでワーケーション(後編) いつものスタイルで放浪旅に挑戦
第二十八回 / 雑踏!世界遺産!グルメ! 活気に満ちたベトナムを走る
第二十九回 / ビールのつまみは「スパイスの効いた旅」 ベトナムの首都ハノイ
第三十回 / バリ島 自転車で感じる「神々と自然と人々」が融和する島
第三十一回 / 吉野大峯と大台ヶ原 紀伊山地のレースコースを楽しむ
第三十二回 / 冬のリゾートで夏を楽しむ ニセコでロングステイ
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著者プロフィール
才田直人さいた なおと
1985年生まれ。日本中、世界中を自転車で旅しながら、その様子を発信する旅人/ライター。日本の上るべき100のヒルクライムルートを選定する『ヒルクライム日本百名登』プロジェクトを立ち上げて、精力的に旅を続ける傍ら、ヒルクライムレースやイベントにも参加している。