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2023年04月22日

才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅”第十七回 / サイクルジャージは現代アート? 自転車で立ち寄る美術館

ロードレースに感じるアート
色とりどりのサイクルジャージに身を包んだ選手たちが小魚の大群のように流動的に動き、その形を変えていく。テレビでツール・ド・フランスを見ていて、まるでアートのようだと思ったことがある人は少なくないはず。

そんなサイクルジャージで、美術館を訪れる。これはある意味アートなんじゃないか。

サイクルジャージ x 現代美術

美術館にサイクルジャージで訪れるのはどうなんだろう。以前はそう考えていたこともあったのだが、ライドルートの途中に現れた美術館にどうしても訪問したい。そんな場面に多く出会うようになった。カラフルで目を引くデザインの多いサイクルジャージを現代アートと捉えてしまえば、ジャージで訪れる美術館も悪くない。むしろ良いとも思えてくる。

あくまで個人的な意見ではあるが、自分もアートの一部になって美術館の空間を楽しんでしまおう。何か心が軽くなった気がした。

そうして訪れた印象に残っている美術館を紹介しようと思う。

十和田市現代美術館

青森県の中でも最高の雰囲気を味わえるサイクリングルートのひとつ十和田湖。その中でもメジャーな奥入瀬渓流からのアプローチルートの拠点とも言える街が十和田市だ。

十和田市街地で突然現れた一面の水玉模様に目を奪われた。

私はあまり下調べもせずにこの街を通りかかった。きれいに整備された並木道が碁盤目状に張り巡らされた美しい街。そして目の前に突然、草間彌生の水玉模様のアートが現れた。そして広々とした開放的な公園のような空間に立体的なアートの展示が次から次に現れる。

そして現代的な建物が目の前に。吸い込まれるように館内へ。それ以外の選択肢はなかった。

屋外にはたくさんの作品が並ぶ。背後には無機質で美しい美術館。

数を絞った見応えのある作品の数々。この日のライドはまだまだ先が長かったのだが、「この空間にもっと浸りたい」という気持ちが強く、美術館を後にすることができずに数時間を過ごしてしまった。最後は自然光をふんだんに取り入れたカフェで、青森ならではのアップルパイを食べて、ようやく走り出す決心がついた。

清流と木漏れ日を存分に味わうには自転車の速度感が最適だ。

これからは新緑の季節。青空の下での奥入瀬渓流と組み合わせたライドは間違いなく充実したものになるはずだ。その際は十和田の名物「十和田バラ焼」も忘れずに。牛バラ肉とスライスした玉ねぎを、自分で鉄板で焼く。非常にシンプルな料理だがご飯が止まらない。ライドの疲れに染み渡る。エネルギーチャージにおすすめだ。

歴史を感じる雰囲気のある店内で煙を浴びながらバラ肉を焼く。音と匂いだけでご飯が進みそう。

奈義町現代美術館

岡山県奈義町。初めて名前を聞いたという人も多いだろう。岡山県の内陸部の中心都市である津山市から西に20kmほど行ったところにある山間の町だ。「こんなところに」といっては失礼かもしれないが、驚くような現代美術感がある。

中国山地の迫力ある山々をバックにその独創的な建築が映える。

芝生に点在する彫刻と独特な外観の美術館。山頂付近に白雲を纏った背後には山々が。


作品はパーマネントコレクション(永久収蔵品)の3つのみ。建物自体がこれらの作品を展示するためにデザインしてあるので、美術館そのものが作品といっても良いかもしれない。内部に一歩踏み込むと、そこはまさに作品の中。作品と一体となって空間を楽しむといった感じだ。

アート好きの人でも知らない人が多いかもしれない美術館ではあるが、ぜひ訪れてもらいたい。

館内には天地がわからなくなるような不思議な空間が広がる。

美術館だけでなく、町全体がアートに力を入れているようで、ふと信号待ちで彫刻が目に入ったりもする。少しハードな山岳ライドから谷間の道を利用した比較的イージーなルートまで、「美術館ライド」にとっては晴らしい立地だと思う。

津山市はB級グルメ「ホルモンうどん」で有名な街。ライドの際にはぜひこちらもお忘れなく。驚くほど大ぶりの牛ホルモンとうどんに濃いめのたれが絡む。あっという間に完食してしまうはず。

ホルモン好きの私にはたまらない一品だった。プリプリのホルモンが絶品だった。


六花の森

日本有数の広さを誇る十勝平野。その中心都市である帯広から、「これぞ北海道」と思える広大な平原を南に進むこと約30キロ。北海道のお土産の定番、六花亭が運営するカフェや美術館のある公園がある。

青空の下、小川の流れる庭園内には気持ちの良い散歩道が続く。

敷地内には小屋が立ち並ぶ。それぞれが「展示室」といった構成になっているので、公園全体を美術館といっても良いかもしれない。六花亭の包装紙のデザインを手がけた坂本直行さんの作品が展示されている。北海道のお土産で何気なく見ている包装紙のデザインの歴史が学べる構成になっていて面白い。

北海道のお土産をもらった際に見たことがある人も多いはず。十勝六花の包装紙の絵柄でいっぱいの展示室。


また十勝平野の西方に聳える日高山脈の絵画が展示されている部屋もある。これらの絵画に引き込まれているうちに「あぁ、この山々を自転車で超えたいな」と思わずにはいられなかった。数日後にはこの山脈を突き抜ける日勝峠の山頂に立っていた。

十勝山脈を最も高い標高で超えるならば日勝峠へ。標高1000mを超える。大型トラックに信じられない速度差で抜かれるので注意が必要。


サイクリングはお腹が空くもの。そんな時は他ではなかなか食べられない出来立てのマルセイバターサンドがおすすめ。

併設のカフェで巨大なガラス越しに、自然本来の姿を生かしながらも綺麗に手入れされた六花の森の庭園を眺めながら味わえる。

その美味しさに思わずお土産を買って帰りたくなってしまったら、ショップからの郵送が可能。

美術鑑賞、庭園散歩、カフェで小休止、非常にバランスの良い穴場だと思う。

カフェレストラン「六’cafe」。庭園に面した抜群のロケーション。
焼きたてのバターサンドと並ぶ人気商品のアイスサンド。北海道の短い夏にはこちらもおすすめ。

そしてアートは自分の中から

自転車の醍醐味は自然を肌で感じて駆け抜けることにある。その中で自分だけの瞬間をスマホのカメラで切り取ってみる。これも立派なアートだと思う。

美術館を訪れることで、感性が磨かれて、ライドの中での気付きがどんどん増えて、楽しみ方が膨らんでいく。

自転車の上から今までとは違った景色が見える。そんなきっかけになるかもしれない。

北海道根室半島での一枚。大海原と空を背景に牧草ブロックが並ぶ草原。これぞアートだと思う瞬間だった。

才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅” 連載中
第一回 プロローグ
第二回 旅の流儀
第三回 フェリーで広がる可能性 ~奄美群島~
第四回  自転車で訪れる八重山諸島
第五回  出発の地、目的の地、それは『レース』
第六回  東北沿岸を走る 東日本大震災から11年
第七回 ワーケーション自転車旅の装備
第八回 仕事の合間にライド。ライドの合間に仕事。
第九回 地域のシンボルとして愛される山
第十回  北海道 太平洋岸を行く3日間 600km
第十一回 自転車で楽しむ神話の土地 島根・鳥取
第十二回 上ったら食べる 旅の途中に立ち寄りたいご当地ラーメン
第十三回  全国のサイクリストと一緒に走る、STRAVAセグメントアタックという形
第十四回 離島時間に浸る ゆっくり走るという贅沢
第十五回 自転車で踏み込む世界遺産の森 奄美大島・加計呂麻島
第十六回_屋久島 自転車で感じる洋上のアルプス

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