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2023年03月29日

才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅”第十六回 / 屋久島 自転車で感じる洋上のアルプス

巨大な山々の塊

それが第一印象だった。

九州最高峰である標高1935mの「宮之浦岳」を要する屋久島。それを中心とした独立峰の島。という勝手なイメージをもっていた。

2023年2月上旬。鹿児島港から直行便の高速船で2時間。下船した私の目の前に現れたのは幾重にも重なる山々の連なり、まさに山塊だった。

屋久島の山々は、海岸線や集落から目にすることのできる「前岳」と、その背後に隠れて基本的に見ることのできない「奥岳」に大別される。宮之浦岳は下界からはその姿を見ることもできない。

これは走りごたえがありそうだ。

INDEX

▷屋久島1周サイクリング「ヤクイチ」


▷屋久島には雪が降る


▷標高差1300mを超えるヒルクライム 淀川登山口 


▷絶景のヒルクライム 白谷雲水峡(しらたにうんすいきょう)


▷旅の締めは地元の焼酎を水割りで

奥岳の中でも永田岳だけは永田集落から見ることができる。あまりに遠く、高い。小さくしか見えないその山容ではあるが、その迫力を十分に感じられた

▷屋久島1周サイクリング「ヤクイチ」

屋久島には外周路があって、島をぐるっと1周することができる。距離は100km弱で、獲得標高は1500m程度。大部分が緩いアップダウンで平坦は少ない。

島の西縁には「西部林道」という標高差約250mの長い上り区間があり、ヤクイチのハイライトともいえるヒルクライムが楽しめる。

このエリアではヤクシカとヤクザルに会うことができる。彼らの住処にお邪魔しているといって良い。人に慣れきった彼らは一切逃げることなく、かといって変に近寄ってくることもなく、自然体でそこにいる。もちろん餌を与えたり、変に刺激したりといった行為は絶対にしないこと。

昔から「ヒト2万、サル2万、シカ2万」と言われる屋久島。西部林道ではまさにそれを体感できる

日本で最も雨の多い屋久島はその急峻な地形と相まって迫力のある滝が多い。ヤクイチの途中で気軽に立ち寄ることができて、ライドの良いアクセントになること間違いなし。道を少し逸れて足を伸ばそう。

千尋(せんぴろ)の滝。外周路から標高差200mほどのショートクライムの先に現れるこの滝。巨大な一枚岩を流れ落ちる落差60mの美しい姿を展望台から見ることができる
大河(おおこ)の滝日本の滝100選にも選ばれている。九州一の落差88mを持ちながら、かなりの横幅をもって岩盤を滑るように流れる大瀑布。滝壺のすぐ近くまでアクセスすることが可能

▷屋久島には雪が降る

九州本土最南端「佐多岬」の60km南方。東シナ海の洋上に位置する屋久島。一般的には南の島という印象があるが、標高の高いエリアでは雪が降ることで知られる。

今回、私が島を訪れる1週間ほど前に、日本列島は寒波に襲われた。屋久島で雪を見るチャンスかもしれないと膨らむ期待。

同宿の客に話を聞くと、「積雪でトレッキングツアーはすべて中止、ただ車道は除雪されていて自転車で走ることは問題ない」とのこと。なんという理想的な状況であろう。

▷標高差1300mを超えるヒルクライム 淀川登山口

私が屋久島を訪れた目的は、この超級山岳の登坂といっても良い。

海岸線近くをスタートして、徐々に標高を上げる。その標高差ゆえに亜熱帯から亜寒帯まで植生や気候の変化を楽しめるのも屋久島の特徴。

標高1000mに近づくと周囲は杉が多くなり、とうとう路肩に雪が現れた。本当に屋久島で雪の中をクライミングできるとは。

周囲に屋久杉が目立つようになる標高約1350m。淀川登山口がこの上りのフィニッシュとなる。ここまでの登坂距離は20kmを超える。先ほどまで海岸線にいたはずが、今や雪の中。一気に標高を上げる屋久島の地形を肌で味わえる。

路肩の崩壊による工事区間もあり、後半は道幅も狭くなるが、路面は概ね綺麗に整備されているので走りにくいと感じるところはほとんど無かった。

気をつけないといけないのが、巨大な標高差とそれに伴う寒暖差。下りはかなり寒くて歯がガチガチと鳴り続けるほどに震えが止まらず、下り切る頃には顎が痛くなった。路肩の雪の影響や、標高を上げて雲の中に入ることも考慮すると下界との気温差は10℃を軽く上回る。私のようにならないためにも、防寒対策は入念に。

雪の壁とまでは行かないが、十分にインパクトのある路肩の雪の中でペダルをプッシュした

▷絶景のヒルクライム 白谷雲水峡(しらたにうんすいきょう)

もうひとつ、この上りもぜひ走っておきたい。

宮之浦の市街地からすぐに上り始めることができ、遊歩道のある渓谷を目指すこの登坂は道路が綺麗に整備されていて、ストレスなくヒルクライムが楽しめる。

やはり屋久島特有の海岸線から一気に標高を上げていくプロフィールが素晴らしく、中腹にある「雲の展望台」と呼ばれるポイントから下界に開ける景色は息を呑むほど美しい。登坂距離7.5km、標高差600m、平均勾配8%に迫る本当にダイナミックな上りである。

山肌に刻まれた登坂ルートの奥には宮之浦の市街地と海。雲の展望台付近の眺めは抜群

そしてこの上りで、是非おすすめしたい楽しみ方がある。

下山途中にある「益救雲水」という水汲みスポット。古くから不老長寿の水とされているらしい。ボトルの中身をこの水でいっぱいにして宿へ下ろう。

(写真)屋久島の大自然の恵みをボトルに満タンに詰めて下山する。

▷旅の締めは地元の焼酎を水割りで

ライドの汗を流したら、屋久島が誇る芋焼酎「三岳」を不老長寿の水で割って飲みながら、白谷雲水峡のクライミングを振り返る。こんな贅沢な時間はないだろう。

大変地形が厳しく変化に富んだ屋久島。

ヤクイチで島を1周するも良し、超級のヒルクライムに挑戦するも良し。もちろん少しハードなライドになるが、そのチャレンジを受け止めてくれる懐の深いこの島に是非自転車を持って訪れてみてはいかがだろうか。

屋久島の焼酎を屋久島の水で割る。最高の贅沢

参考
ヤクイチ + 淀川登山口ヒルクライムのアクティビティ
https://www.strava.com/activities/8502455798

白谷雲水峡のアクティビティ
https://www.strava.com/activities/8497321740


才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅” 連載中
第一回 プロローグ
第二回 旅の流儀
第三回 フェリーで広がる可能性 ~奄美群島~
第四回  自転車で訪れる八重山諸島
第五回  出発の地、目的の地、それは『レース』
第六回  東北沿岸を走る 東日本大震災から11年
第七回 ワーケーション自転車旅の装備
第八回 仕事の合間にライド。ライドの合間に仕事。
第九回 地域のシンボルとして愛される山
第十回  北海道 太平洋岸を行く3日間 600km
第十一回 自転車で楽しむ神話の土地 島根・鳥取
第十二回 上ったら食べる 旅の途中に立ち寄りたいご当地ラーメン
第十三回  全国のサイクリストと一緒に走る、STRAVAセグメントアタックという形
第十四回 離島時間に浸る ゆっくり走るという贅沢
第十五回 自転車で踏み込む世界遺産の森 奄美大島・加計呂麻島

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