2025年06月04日
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅”第四十二回 / 「九州縦断自転車旅 友人の顔が浮かぶ道を行く」

昨年11月以来の九州へ
鹿児島空港を出ると、目の前に広がる霧島の山々。お茶畑の向こうに聳える山塊を見ると、再び九州の地に降り立ったことを実感する。昨年11月以来の九州である。
数ヶ月前に、山口県下関での座談会の出演依頼を受けた私は、下関を目指して九州を南から北へと走ることにした。約20日間の九州の旅になる。これで何度目の九州縦断になるだろうか。
自転車で旅するにはちょうどいいスケール感。未踏の峠を越えながら進むルートを考えていると、たくさんの友人の顔が浮かぶ。自然と、九州縦断の道のりが決まっていく。
これまで全国を自転車で旅してきた私ではあるが、その中でも九州は特に友人が多い。私のような得体の知れない旅人を、快く受け入れてくれる九州の人たちの人柄のおかげだろう。
私にとっての九州始まりの地「鹿児島」
鹿児島初訪問は約7年前。イベントのゲストとして招かれたのがきっかけで、私の初めての九州長期滞在になった。それを機に友人がたくさんできた。急な連絡にも「飯に行こう」と言ってくれるのが、鹿児島の人たちだ。
霧島で整骨院を営む冨ちゃんが、仕事の合間を縫ってランチに誘ってくれた。自転車競技部出身の冨ちゃんは、鹿児島でのイベント開催時にいつも手伝ってくれた同い年の友達である。
友人のまた友人という関係であったことから(要するに全くの他人だった)、初対面でいきなり自宅に泊めてもらったのが始まりだった。こんなメチャクチャな出会いから約7年。今でも仲良くしてもらっている。
そして、鹿児島最後の夜に予定をこじ開けて飲みに誘ってくれたのは城戸さん夫婦。やはり同じイベントに参加してくれたのがきっかけだった。正直に言って、地元霧島を熟知している城戸さんに頼り切って、当時のイベントが進行していたと言っても過言ではない。
久しぶりにお二人とゆっくりお話しすることができた。お酒を交えた楽しい時間と引き換えに、翌日の超級山岳「えびの高原」越えでは地獄を見たが、これぞ九州の醍醐味である。
大先輩と飲み明かす熊本の日々
一泊だけ宮崎に寄り道したのち、熊本に入った。今回は阿蘇を中心に走りたいと考えていたが、絶対に訪ねたい場所があった。宇城市に「綱田誠ローカルデザインスタジオ」を構える綱田さんである。
昨年出会って意気投合。3日間、酒を飲みながら語り明かした大先輩。60代とは思えない屈強な体力と、繊細な手仕事もこなす器用さで、廃材を使った一点もののカバンを生み出すカバン職人である。
今回は、自転車の要素を詰め込んだオリジナルバッグを作っていただけることになり、それもこの旅の大きな楽しみだった。
阿蘇を中心に自転車で大自然を満喫し、毎日夕方から飲み始め、あっという間に日が回る。気づけば、熊本の滞在は10日間に及んだ。なのに驚いたことに、写真が一枚もない。それだけ濃くて、カメラを構える暇すらなかったということだろう。
九州から本州へ踏み込む
熊本から筑後へ。筑後に3泊したのち九州最北の地である門司港へ。この2区間は輪行で移動した。以前は、移動は全て「自走」にこだわっていた。しかし、日本全土のほとんどを走ってしまった今となっては「美味しいところ取り」も自転車の楽しみ方の一つと捉えるようになった。
ローカルの鉄道旅を輪行袋さえ持っていれば簡単に味わえるのも自転車の良いところである。
門司から関門トンネルの人道を通って下関へ。乗車禁止のこの人道を、ゆっくり進む。いつだって九州を出る時は、一歩一歩を徒歩で踏みしめる。とうとう本州最西端の街・下関に到着した。
自転車を通して、人と人を繋ぐ活動を展開するグループ「仁力俥JPT」。今回、その活動の一環である座談会に話者として呼んでもらい、自転車旅について、自転車乗りの方々を前に、ゆっくりお話することができた。
仁力俥JPTの代表・水口さんと知り合ったのは、昨年11月。わずか半年の間に話が進み、座談会の開催にまで至った。会場は満員御礼の大盛況。好きでやっていることを、このように伝える機会をいただき、心からありがたかった。
人との繋がりが、思いもしなかった旅へと広がっていく
座談会の翌日。新門司港から四国・徳島に向けて出発するフェリーに乗るため、私は北九州に戻った。
19時発のフェリーまでの間、元競輪選手の林次郎さんに昼食に連れて行ってもらった。次郎さんと、自転車選手の冬のトレーニングの地である「タイ合宿」で出会ったのが、1年半ほど前の年末年始。その後、昨年11月に北九州を訪れた際に、次郎さんの自宅に泊めていただき、水口さんを紹介してもらった。
そして、熊本のカバン職人・綱田さんを紹介してくれたのは水口さんだった。昨年の九州滞在があったからこそ、その延長線上に今回の九州の旅がある。
初めて鹿児島を訪れた時から、自転車を通して人と人との繋がりを感じてきた九州。今回、その繋がりは、より強固な絆となったように思う。
フェリーに揺られながら、次に九州を訪れるときのことを考える。途端に、たくさんの顔が浮かぶ。その顔は、来るたびに増えていく。初めて九州を訪れてから約7年。一人では想像さえできなかった「九州の旅」が、たくさんの仲間との繋がりの先に、今もなお続いている。
与論島滞在時の連載記事はこちら
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅” 連載中
第一回 プロローグ
第二回 旅の流儀
第三回 フェリーで広がる可能性 ~奄美群島~
第四回 自転車で訪れる八重山諸島
第五回 出発の地、目的の地、それは『レース』
第六回 東北沿岸を走る 東日本大震災から11年
第七回 ワーケーション自転車旅の装備
第八回 仕事の合間にライド。ライドの合間に仕事。
第九回 地域のシンボルとして愛される山
第十回 北海道 太平洋岸を行く3日間 600km
第十一回 自転車で楽しむ神話の土地 島根・鳥取
第十二回 上ったら食べる 旅の途中に立ち寄りたいご当地ラーメン
第十三回 全国のサイクリストと一緒に走る、STRAVAセグメントアタックという形
第十四回 離島時間に浸る ゆっくり走るという贅沢
第十五回 自転車で踏み込む世界遺産の森 奄美大島・加計呂麻島
第十六回 屋久島 自転車で感じる洋上のアルプス
第十七回 サイクルジャージは現代アート? 自転車で立ち寄る美術館
第十八回 雨で良かった。雨の日こそ走りたい道。梅雨を楽しむ。
第十九回 富士の高嶺に挑む 「富士ヒル」と「チャレンジヒルクライム岩木山」
第二十回 夏本番!あなただけの「おくのほそ道」を走ろう
第二十一回 南信州飯田 友人に会いに行く旅
第二十二回 乗鞍ヒルクライム 〜初登攀(はつとうはん)はレースで 念願の日本最高峰〜
第二十三回 / 残された未踏の地「北海道・道東」
第二十四回 海外ワーケーション! 日本から近い島国「台湾」
第二十五回 / 知られざる秘境 〜岐阜県と北陸三県の間に広がる山岳地帯〜
第二十六回 / タイでワーケーション(前編) タイ合宿の聖地「ナーソンリゾート」
第二十七回 / タイでワーケーション(後編) いつものスタイルで放浪旅に挑戦
第二十八回 / 雑踏!世界遺産!グルメ! 活気に満ちたベトナムを走る
第二十九回 / ビールのつまみは「スパイスの効いた旅」 ベトナムの首都ハノイ
第三十回 / バリ島 自転車で感じる「神々と自然と人々」が融和する島
第三十一回 / 吉野大峯と大台ヶ原 紀伊山地のレースコースを楽しむ
第三十二回 / 冬のリゾートで夏を楽しむ ニセコでロングステイ
第三十三回 / 国内最後の未踏エリア 北海道「北の大三角」【前編】
第三十四回 国内最後の未踏エリア 北海道「北の大三角」【後編】【ファンライド】
第三十五回 ワーケーション始まりの地 長野市「八景館」
第三十六回 もうひとつの台湾KOM。 台湾の強豪クライマーたちとの共演
第三十七回 『仙台』お世話になった人たちに会いに行く旅
第三十八回 二ヶ月タイの旅(前編)仲間と年越し、そして一人旅の始まり
第三十九回 / 二ヶ月タイの旅(後編)自転車がつないだ数々の出会い
第四十回 / 「南インド」45日間(前編) 押し寄せる「刺激」の波に飲まれる
第四十一回/「南インド」45日間(後編) 走るほどにインドに染まる
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著者プロフィール

才田直人さいた なおと
1985年生まれ。日本中、世界中を自転車で旅しながら、その様子を発信する旅人/ライター。日本の上るべき100のヒルクライムルートを選定する『ヒルクライム日本百名登』プロジェクトを立ち上げて、精力的に旅を続ける傍ら、ヒルクライムレースやイベントにも参加している。