2022年08月29日
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅”第九回 / 地域のシンボルとして愛される山
日本は無数に山がある島国だけれど、全国を旅していると、地域の人や自転車乗りにとって特別な山に出会うことがある。今回は印象に残っている各地の山々を紹介しようと思う。
INDEX
▷顔を上げれば、そこに山がある 眉山
▷稲佐山
▷赤城山と榛名山
▷手稲山
▷次の出会いを求めて
▷顔を上げれば、そこに山がある 眉山
2019年春。
10日間ほどの四国滞在を予定して徳島に渡った。生憎の雨。市内の観光も楽しみにしていたので、無理に自転車に乗ることもないだろうと、徒歩で街をぷらぷらしていた。
徳島ラーメンや阿波踊りといった予め調べておいたポイントを回りながら、この街は小さな山の周囲を囲むように広がっていることがわかってきた。そして何やら小説の舞台になったり、ロープウェーが通っていたり、この街の象徴のような山らしいということもわかってきた。「常にすぐそばにある」そんな感じだ。
雨が止んだ。すでに日は傾いてきているが、行き先は「常にすぐそばにある山」眉山に決まっている。
標高差200m程度のショートクライムではあるが、ドライブウェイがあり、手軽にクライムできる。この時は実際東西ルートを往復したが、勾配など表情も違って楽しめた。「街のシンボルとなる山」を意識した瞬間だった。
私の住む広大な関東平野は、山が遠いので、さっと上って帰ってくる、といった感覚がなかった。初めて、手軽にヒルクライムを楽しめる街もあるのだなと実感したのはこの時だったと思う。それと同時に「街のシンボルとなる山」を意識した瞬間でもあった。
▷稲佐山
超一級の観光地であり、住民にも観光客にも親しまれている山の筆頭と言っても良いのが、日本三大夜景のひとつにも選ばれている長崎の稲佐山だろう。メインルートは市街地からガツンと上り始める急勾配の前半と緩斜面の後半の構成。長くはないのだがパンチがある。
山頂には展望台があり公園としてしっかり整備されている。夜景が有名なだけあって抜群の見晴らし。
山に囲まれ、狭い平地に市街地が形成されている長崎。グラバー園や大浦天主堂、平和記念公園といった観光地もぎゅっと詰まっている。ちゃんぽんやトルコライス、角煮まんなどグルメも豊富でサイクリングには抜群だろう。
地形があまりに険しいので走った時間のわりに全く距離が伸びないという欠点もあるが、市街地からアプローチ抜群の稲佐山にぜひ上ってみてほしい。
▷赤城山と榛名山
利根川流域、群馬の高崎や前橋、渋川を走っていると大きな山が目に入る。つねにそばに横たわっていて、気になって仕方がない、上らずにはいられない、そんな巨大な存在感を放つ。赤城山と榛名山だ。ヒルクライムレースでも有名なこの2つの山は標高差1000m前後のスケールを誇る。
市街地からあっという間にアプローチできてビッグクライムを味わえるのが山に囲まれた群馬の特権だろう。もちろん長野や岐阜など山の多い県はあるが、この赤城と榛名は独立峰であることがその存在感を引き立たせる。
「シンボル」という意味では外せない上りだと思う。ルートがたくさんあることも見逃せない。何度訪れても新鮮なルートで楽しめるだろう。
▷手稲山
北海道にあるこの山はちょっと印象が異なる。シンボルとなる山というよりは札幌市民定番のヒルクライムコースといった感じだ。札幌市街地の西部に位置していて、街から急に登坂が始まると言って良い。500mほどの標高差があり、北海道は路面の舗装の悪い道が多いが、ここはそんなこともない。勾配変化が小さく、緩過ぎず急過ぎず比較的上りやすいのでビギナーから上級者まで楽しめるクライミングルートだ。
ここは市街地の非常に近くにありながら、スキー場の上りである。北海道ならではだろう。冬こそがハイシーズンのスキー場も、この上りに関して言えば、夏でもしっかり主役を張ることのできる力を持っている。
私は単独でのアタックだったが、日々札幌のヒルクライマーが登坂に挑む姿を思い浮かべながらアタックしたことをよく覚えている。
▷次の出会いを求めて
北九州小倉の市街地からすぐ、稲佐山と同様夜景の有名な皿倉山。今回取り上げた中で唯一登ったことのない山である。
一度目は正月に訪れたが前夜の雪で途中からアイスバーンに。泣く泣く引き返した。
二度目は自然災害による長期通行止め。事前の確認不足で、行ってみたら通れなかった。
つくづく縁がないなと思いながら、いつか登頂できる日を楽しみにしている。基本的に一期一会を大事にしていて、複数回同じ上りを訪れる事が少ないので、逆に縁が深いのかもしれない。
たくさんの人に愛される上り。その理由は実際に上ることで肌で感じることができる。街から近いということはワーケーションの合間に上るのに最適でもある。
まだまだ知らない「はじめて」の上りに出会う瞬間が今から楽しみだ。
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅” 連載中
第一回 プロローグ
第二回 旅の流儀
第三回 フェリーで広がる可能性 ~奄美群島~
第四回 自転車で訪れる八重山諸島
第五回 出発の地、目的の地、それは『レース』
第六回 東北沿岸を走る 東日本大震災から11年
第七回 ワーケーション自転車旅の装備
第八回 仕事の合間にライド。ライドの合間に仕事。
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著者プロフィール
才田直人さいた なおと
1985年生まれ。日本中、世界中を自転車で旅しながら、その様子を発信する旅人/ライター。日本の上るべき100のヒルクライムルートを選定する『ヒルクライム日本百名登』プロジェクトを立ち上げて、精力的に旅を続ける傍ら、ヒルクライムレースやイベントにも参加している。
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