2023年08月29日
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅”第二十一回 / 南信州飯田 友人に会いに行く旅
今年の8月はアルプスへ
標高1358m。真夏の暑さの中、大平峠を越えてダウンヒルに入る。大平宿の商店で缶ジュースを飲んで、果物をご馳走してもらって、一度クールダウンした身体ではあったが、標高を下げるほどに熱風が襲ってくる。
南アルプスと中央アルプスに挟まれた伊那谷。天竜川に沿って広がるこの盆地は「谷」という名前からは想像できないほどに広い。
山というのは裾野に近すぎると、「山の中」に入り込んでしまうためにその姿が見えなくなってしまうことが多い。しかし、空の開けた伊那谷ではアルプスの峰々がよく見える。私はここが大好きだ。
この8月は日本アルプスを中心に走ろうと決めていた。
毎年、夏が来ると「冬に走れない北へ」と思い、東北や北海道に向かっていたが、アルプスもその標高ゆえに冬は通行止めになり走ることができない。そして、その名の通り山々が折り重なるこの地域は私の大好きなヒルクライムの宝庫である。
飯田との出会い
その中で私がまず選んだのは飯田を中心とした南信州。
私がこの地域を初めて訪れたのは2009年。アルプスの山々はまだ雪をかぶっていて、青い空とのコントラストが美しい5月のこと。
当時の日本最高の選手を集めた最強チームで、日本の近代ロードレース史上もっとも世界に近づいた日本人チーム「梅丹本舗」がTOJに向けた合宿を飯田で行うということで、幸運にもその合宿に参加させてもらう機会を得た。
この経験は私にとって本当に大きかった。数ヶ月後、この合宿で知り合った梅丹本舗の選手であった福島晋一さんが立ち上げた日本初の地域密着型チーム「ボンシャンス飯田」に移籍した。晋一さんが積極的に行っていたフランスへの選手派遣のお世話になってロードレースの本場に挑戦するためだった。
懐かしさを感じる土地
全国を走っていると、山の深さや海の青さ、見たことのない絶景に感動したりする。それとは少し違って、「懐かしさを覚える」というものがある。もちろん一度訪れたことのある場所であればどこでも、過去に走った時のことや、その土地であったさまざまな経験が思い出されるが、それとは少し違う。
短い期間でも住んだことがあるからだろうか、飯田で感じるものは特別のように思える。ボンシャンスに所属していた当時、私は実績もお金もなく、感謝の気持ちもまともに伝えられない、何も持っていない選手だったと思う。
それでも、飯田の方々はフランスから帰ってくると暖かく迎えてくれて、地元開催のレースにみんなで応援に駆けつけてくれた。
懐かしさを覚えるというのは、たくさんの友人に会いに行きたくなる土地なのかもしれない。そして、その土地そのものを友人のように感じているからこそ、走っていて懐かしさを感じるのかもしれない。あの道は今どうしているだろう。元気かな?といった感じに。
日本アルプスには走りたいところがたくさんあるけれど、まずは選手時代に走り回った南信の山々から始めよう。友人に会いに行こう。真っ先にそう頭に浮かんだ。
仲間を訪ねる
選手一年目にフランスで共同生活をしていた仲間の一人、矢野智志さん。何年か前に、伊那谷に生活拠点を置いて『豊丘村観光協会とよおか旅時間』で働くことになったと聞いていた。
フランスに遠征していた頃の思い出話に花が咲いた。あっという間に時間が過ぎる。
私が渡仏して一年目。初めての海外。しかも観光ではなくて、選手を目指しての挑戦。期待は大きかったが、それ以上に不安も大きかったように思える。
困難を全てポジティブに楽しむ。矢野さんをはじめ、頼りになる先輩方と初年度を過ごせたことは、慣れない土地で生きることのハードルを大きく下げてくれた。
私の挑戦は当初「2年以内にプロになれなかったらフランスへ行くのはやめる、選手は諦める」という予定だった。気づけば予定から大きく逸れて、トータル6シーズンにも及んだ。結局プロになれずに帰国したが、充実感に溢れた一年目があったからこそ、何年挑戦しても厳しい中で挑戦を続けられたと思っている。
矢野さんが今、再び伊那谷にいることも、飯田に「懐かしさ」を感じているからだろう。
次はいつ、飯田に「帰ろうか」
ここ最近の豪雨災害で通行止めの道も多く、上りたい峠をたくさん残してしまった。今回の滞在で会うことのできなかった友人もたくさんいる。
でも大丈夫。飯田は人に、土地に、道に会いに行く町。たくさんの友人が待ってくれている町。また南信州を訪れよう。
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅” 連載中
第一回 プロローグ
第二回 旅の流儀
第三回 フェリーで広がる可能性 ~奄美群島~
第四回 自転車で訪れる八重山諸島
第五回 出発の地、目的の地、それは『レース』
第六回 東北沿岸を走る 東日本大震災から11年
第七回 ワーケーション自転車旅の装備
第八回 仕事の合間にライド。ライドの合間に仕事。
第九回 地域のシンボルとして愛される山
第十回 北海道 太平洋岸を行く3日間 600km
第十一回 自転車で楽しむ神話の土地 島根・鳥取
第十二回 上ったら食べる 旅の途中に立ち寄りたいご当地ラーメン
第十三回 全国のサイクリストと一緒に走る、STRAVAセグメントアタックという形
第十四回 離島時間に浸る ゆっくり走るという贅沢
第十五回 自転車で踏み込む世界遺産の森 奄美大島・加計呂麻島
第十六回_屋久島 自転車で感じる洋上のアルプス
第十七回 サイクルジャージは現代アート? 自転車で立ち寄る美術館
第十八回 雨で良かった。雨の日こそ走りたい道。梅雨を楽しむ。
第十九回 富士の高嶺に挑む 「富士ヒル」と「チャレンジヒルクライム岩木山」
第二十回 夏本番!あなただけの「おくのほそ道」を走ろう
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12月2日(土)に開催される「チャレンジレース in 味スタ」は、味の素スタジアムを会場として開催される新しいサイクルイベントです。
大会HPはこちら(エントリーもこちらから)
著者プロフィール
才田直人さいた なおと
1985年生まれ。日本中、世界中を自転車で旅しながら、その様子を発信する旅人/ライター。日本の上るべき100のヒルクライムルートを選定する『ヒルクライム日本百名登』プロジェクトを立ち上げて、精力的に旅を続ける傍ら、ヒルクライムレースやイベントにも参加している。