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2024年10月23日

才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅”第三十五回 ワーケーション始まりの地 長野市「八景館」

「自転車ワーケーション放浪旅」始まりの地「長野市」

2020年。人々の生活を一変させた新型コロナウイルスのパンデミックは、当時私が勤めていた会社にも影響を及ぼして、社員は皆リモートワークに切り替わった。

そんな中、私は自転車のトレーニング時に鎖骨を骨折。傷が癒えた頃には、会社のオフィスが引き払われたことで、半永久的に「出勤」がなくなった。

私にとって、これはチャンスだった。自転車で旅をしながら、リモートワークを行う。そんな夢のような生活に向けて、初めての場所として選んだのが、長野県長野市だった。

これには理由がある。私が2015年から長く所属していたベルマーレレーシングチーム。長野市は、監督である宮澤崇史さんの出身地であることから、よくチーム合宿を行っていた。滞在先は「ビジネス旅館八景館」。宮澤監督が現役時代に全日本選手権を優勝した際にも、チーム合宿の拠点となった宿である。

よく知っている旅館。山々に囲まれた環境。ワーケーションに初挑戦する街として、またリハビリで乗り込む街として、長野市は最適な場所であるように思えた。

山が近い長野市。国道最高表地点の渋峠も長野市からなら十分に自走圏内。

先輩であり、友人である「八景館」との出会い

馴染みの旅館である以上に、八景館に滞在する理由がある。ベルマーレ合宿より前に遡る2010年〜2011年の年末年始。常夏の練習環境を求めて選手が集う、タイでの合宿のこと。宮澤監督の中学校時代の後輩で、八景館を営む北村さんがタイ合宿に来ていたのである。

北村さんの目標は、国体長野県代表と、さらには国体優勝。ブランクが長く、選手と一緒にトレーニングに出る走力はなかった北村さんは、毎朝ひとりで走りに出て、夕方に帰ってくる。休養日も無しに毎日200〜300km走っていたと思う。月に4000km以上走ることもあるタイ合宿で、選手の誰よりも走行距離は長かった。

タイで長い時間を一緒に過ごした北村さんは、先輩であり友人。だから初めてのワーケーションは、不測の事態もあるかもしれないし、北村さんに頼ってしまおうと思ったわけである。

私は昨年、実業団レースを引退した。今まで、合宿やリハビリなど、常に選手としての意識を持って訪れてきた長野に、自転車の旅人として改めて来てみたくなった。

そして、この夏、久しぶりに長野市にやって来た。もちろん宿泊先は「八景館」である。

久しぶりに訪れた八景館。新たに屋上に設置された広告用の電子パネルが新鮮だった。

毎晩の語らいの時間こそ、私の「八景館」

工事現場などの職人さんの長期滞在が多い八景館。とにかくご飯がすすむ料理が多いので、どれだけ走っても、毎晩エネルギーが体に満たされるのは間違いない。

そして、夕食後の雑談時間が、私にとっての「八景館」の時間。北村さんと、昔の思い出話や、自転車談義、お互いの近況など、毎晩数時間があっという間に過ぎ、飽きることがない。

滞在中、走りに出かけたり仕事をしたり、観光に出かけて、宿に戻ってガッツリ食べて、お酒を飲みながら食後の会話を楽しむ。こんな毎日を送って、気づけば2週間の滞在となった。

メインが2品、3品!?とにかく白米がすすむ、八景館の朝ご飯と晩御飯。

馴染みのコースで立ち止まってみる

今まで合宿で幾度となく走ってきた国道19号線。地脚作りには最適な、緩やかなアップダウンが続く快走路である。

長野市と松本市を結ぶ国道19号線。

長野と松本を結ぶこの国道の中でも、信州新町を通る区間は「ジンギスカン街道」と呼ばれている。その名の通り、昭和初期からジンギスカン料理が親しまれてきた信州新町には、街道沿いに多くのジンギスカン店が並んでいる。しかし、合宿中はいつも「通り過ぎるだけ」で、一度もジンギスカンを食べたことはなかった。

今回は初めて食べてみよう!と、「焼肉レストラン むさしや」に入った。自分で肉を焼いて食べるので、熱々のジンギスカンを楽しめる。

「サフォークラムジンギスカン定食」。ランチはよりお得にジンギスカンがいただける。

ここで提供されるジンギスカンには、生後12ヶ月未満のサフォーク種という品種改良されたラム肉が使われている。臭みが全くなく、噛むと濃厚な肉汁が口の中に広がる。

甘みと塩味が強めの秘伝のタレが絡み、ご飯がどんどん進む。こんなに美味しいなら、練習の合間にでも立ち寄って食べるべきだった。

ニンニク、玉ねぎ、生姜、唐辛子などの新鮮な食材を使った秘伝のタレが、ご飯に抜群に合う。

善光寺平を一望できる富士ノ塔

長野最終日。朝一番で「富士ノ塔」へ上りに行った。夜の語らいの時間に、北村さんが高校の自転車部時代に一番たくさん上った馴染みのヒルクライムコースだと聞いたからだ。

海抜998 mの山頂を目掛けて、道の荒れた、細い急勾配の林道を駆け上がる。宮澤監督が練習に使わなかったのも頷けるくらいに、現状では荒れてしまっている。トレーニングにフォーカスしない今だからこそ楽しめる上りである気がした。

山頂の展望台からは善光寺平が一望できて、晴天の日には富士山までもが見えるらしい。反対側には北信五岳の一つ「飯綱山」を目の前に望む展望台もある。

中腹に朝日山観世音堂があることから「朝日山」とも呼ばれる「富士ノ塔」山頂から、善光寺平(長野市街地の広がる長野盆地のこと)を望む。

幾度となく滞在した長野市は、慣れた土地に「帰る」に近い感覚がある。山々に囲まれた善光寺平をみて、また遊びに来よう。その思いを強くして、長野市を出た。

北村さんと一枚。初めて一緒に写真を撮った違和感?で表情が硬いような。

才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅” 連載中
第一回 プロローグ
第二回 旅の流儀
第三回 フェリーで広がる可能性 ~奄美群島~
第四回  自転車で訪れる八重山諸島
第五回  出発の地、目的の地、それは『レース』
第六回  東北沿岸を走る 東日本大震災から11年
第七回 ワーケーション自転車旅の装備
第八回 仕事の合間にライド。ライドの合間に仕事。
第九回 地域のシンボルとして愛される山
第十回  北海道 太平洋岸を行く3日間 600km
第十一回 自転車で楽しむ神話の土地 島根・鳥取
第十二回 上ったら食べる 旅の途中に立ち寄りたいご当地ラーメン
第十三回  全国のサイクリストと一緒に走る、STRAVAセグメントアタックという形
第十四回 離島時間に浸る ゆっくり走るという贅沢
第十五回 自転車で踏み込む世界遺産の森 奄美大島・加計呂麻島
第十六回 屋久島 自転車で感じる洋上のアルプス
第十七回 サイクルジャージは現代アート? 自転車で立ち寄る美術館
第十八回 雨で良かった。雨の日こそ走りたい道。梅雨を楽しむ。
第十九回 富士の高嶺に挑む 「富士ヒル」と「チャレンジヒルクライム岩木山」
第二十回 夏本番!あなただけの「おくのほそ道」を走ろう
第二十一回 南信州飯田 友人に会いに行く旅
二十二回 乗鞍ヒルクライム 〜初登攀(はつとうはん)はレースで 念願の日本最高峰〜
第二十三回 / 残された未踏の地「北海道・道東」
第二十四回 海外ワーケーション! 日本から近い島国「台湾」
第二十五回 / 知られざる秘境 〜岐阜県と北陸三県の間に広がる山岳地帯〜
第二十六回 / タイでワーケーション(前編) タイ合宿の聖地「ナーソンリゾート」
第二十七回 / タイでワーケーション(後編) いつものスタイルで放浪旅に挑戦
第二十八回 / 雑踏!世界遺産!グルメ! 活気に満ちたベトナムを走る
第二十九回 / ビールのつまみは「スパイスの効いた旅」 ベトナムの首都ハノイ
第三十回 / バリ島 自転車で感じる「神々と自然と人々」が融和する島
第三十一回 / 吉野大峯と大台ヶ原 紀伊山地のレースコースを楽しむ
第三十二回 / 冬のリゾートで夏を楽しむ ニセコでロングステイ
第三十三回 / 国内最後の未踏エリア 北海道「北の大三角」【前編】
第三十四回 国内最後の未踏エリア 北海道「北の大三角」【後編】【ファンライド】

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