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2024年05月17日

サイクリングサイエンス コラム第三十五回/ カフェインのウソとホント

我々の生活に身近な存在であるカフェイン。普段からコーヒー、紅茶を愛飲している方、カフェを目的地にしてライドを楽しんでいる方、競技のためにカフェイン入りジェルを使用している方など、カフェインは我々の自転車生活においていつも傍に存在しています。

そんなカフェインについて皆さんはどれくらい理解されているでしょうか?巷にはカフェインにまつわる噂が溢れていますが、中には突拍子もないデマが紛れ込んでいます。今回は世間に流れるカフェインの噂について、その真意を解説していきます。

カフェインとは

そもそもカフェインとは一体何でしょうか。
カフェインとは向精神作用のある成分で、中枢神経系に直接的な影響を及ぼすことで身体的、精神的な効果を引き起こします。そんなカフェインですが、我々の身体には主に3つの働きを及ぼします。

カフェインの効果その1:疲労感減弱と覚醒

まず第一に、カフェインはアデノシンと呼ばれる神経伝達物質の働きを阻害します。アデノシンは本来、神経活動を抑制してリラックスさせる役割を担っていますが、アデノシン受容体がカフェインによりブロックされると、神経興奮が増し覚醒や興奮が促進されます。

図1, カフェインの作用機序。筆者作成

カフェインの効果その2:血圧や心拍数の上昇

第二に、カフェインは交感神経系を刺激しカテコールアミン(エピネフリン、ノルエピネフリン、ドーパミンなど)の放出を増加させます。これにより、心拍数や血圧が上昇し体のエネルギーレベルが増加します。

カフェインの効果その3:興奮作用

第三に、カフェインは神経伝達物質、特にドーパミンの放出を増やすことで一時的な幸福感や興奮感をもたらします。

これらの作用により、カフェインは一般的に覚醒や注意力の向上、体のエネルギーレベルの増加といった効果をもたらします。ただし、摂取量や個人差によってその効果や副作用は異なります。

図2:カフェインの作用まとめ。筆者作成。

このようなカフェインにまつわる様々な効果は皆さんも耳にしたことがあると思います。ここからは、巷に溢れるカフェインの噂について真相を解説していきます。

カフェインにまつわる噂と真相

噂①  カフェインを摂ると自転車が速くなる
真相① パフォーマンス向上に効果あり

読者の方が最も気になるテーマは、カフェインを摂ることで自転車競技に有利に働くのか、ではないでしょうか。答えは「有利に働く」です。
カフェインは先程述べた神経興奮作用の結果、スポーツのパフォーマンスが向上する作用があると広く知られています。少し前まではオリンピックのドーピング薬に指定されていたほどの効果です。

では、パフォーマンス向上のためには、具体的にどれほどの量を飲めば良いのでしょうか。
これは個人のカフェイン耐性と体格によって変わってきます。一般的には、体重あたり換算で3-6mg/kgのカフェインを運動の1時間前に摂取することで効果が期待できるとされています。体重60kgの方であれば180-360mg程度です。この容量はカフェイン過敏の方は2mgでも良いという研究結果もあります。

カフェインの運動への増強効果は有酸素、無酸素ともに認められており、どのスポーツ競技においても一定の効果が認められているものです。

噂② コーヒー常飲者はカフェインの効果がなくなるのでレース前はコーヒーを止めたほうが良い
真相② カフェイン絶ちの効果は未知数。試すならば長期間で段階的に減らすべし

カフェインは習慣的に摂取することである程度耐性がつくと知られています。しかし、スポーツのパフォーマンスという点では、この習慣摂取の影響は全く対照的な研究結果が報告されており、未だにその真偽は明らかになっていません。

2011年に報告された研究では、4日間のカフェイン断ち期間を設けてもカフェインによる運動向上効果には差がありませんでした。

しかし2017年に行われた別の研究では、事前に4週間のカフェイン断ちを行った場合、運動における良い影響が大きくなったという研究結果も報告されています。

これらのことから、カフェイン断ちの効果が出るかどうかはカフェインを遮断する期間によって変わるのではと推測されます。また、別の研究では、カフェインの耐性がつくかはそもそも遺伝子の影響もあり、個人間でかなりの差があるのではないかと推測されています。

もともと耐性が付きやすい人は、長期間のカフェイン絶ちすることで一定の効果が認めるかもしれませんが、あくまで推測の域を超えていません。また、コーヒーを常飲していた人が安易にカフェインを絶つと、カフェイン離脱症状が現れる危険性があります。
離脱症状とは、カフェインを止めてから数日の間頭痛や気分不良に苛まれるというものです。1週間もすればカフェイン離脱症状は自然とおさまってきますが、人によってはこの離脱症状が大変辛く、練習やレースに支障を来す方もいます。

もし次のレースに向けてカフェイン絶ちを試してみたいという場合は4週間以上の余裕を持ち、かつカフェインは段階的に減らす方が良いでしょう。

噂③  コーヒーやお茶を飲みすぎると急性カフェイン中毒になる
真相③ 中毒のほとんどは飲み物ではなく錠剤の乱用

昨今、カフェイン飲料を飲みすぎるとカフェイン中毒となって最悪の場合死に至るというのは、多くの人の知るところとなりました。では、カフェインを安全に摂取できる量はどれくらいなのでしょうか。

カフェインの許容量は体格・体質に大きな影響を受けるため、実のところ国際的な基準は定められていません。時折SNS等で見かける”推奨基準”は、カナダ保健省が定めた1日400mg以下という基準ですが、この基準もあくまで参考値であり、日本人にそのまま当てはめられるものではありません。実際は400mg以下でも体調を崩す人もいれば、超えても平気な人もいるなど、個人差が大きいものなのです。

では、カフェイン中毒に至る量はどれくらいなのでしょうか。こちらも個人差が大きいのですが、短時間で1,000mg以上を摂取すると急性中毒症状が出現し、5,000mg-10,000mgを摂取すると死に至る危険があるとする研究があります。

この量はコーヒーやお茶、カフェイン飲料だけで摂取することはほぼ不可能な量です。実際にカフェイン過剰摂取につながりやすいケースは、錠剤による過剰摂取です。
日本中毒学会の調査では、病院搬送や死亡例のうち95%が錠剤を使用していたという報告があります。飲み物だけでカフェイン中毒になるのはあまり現実的ではないので、心配する必要はありません。

図3:カフェイン中毒症例の中の錠剤使用割合。参照から筆者作成。

さらに、カフェインは他の成分との相互作用で効果が弱まる性質があります。
例えば、コーヒーやお茶に含まれるタンニンはカフェインの作用を打ち消す効果があります。コーヒーやお茶に含まれるカフェインは100%そのまま体内に吸収されるのではなく、他の成分によってある程度減弱された状態になっているのです。

そのため、コーヒーやお茶などの飲料だけでカフェイン中毒になる事はほぼ考えられないと言えるでしょう。対象的に、カフェイン錠剤にはカフェイン減弱作用のある成分が入っていないため、飲んだカフェインがそのまま体内に吸収され採用してしまいます。カフェイン錠剤を使われる方は過剰摂取に注意してください。

噂④  カフェインは利尿作用があり、運動中に飲むと脱水になる
真相④ 利尿作用は非常に弱く、運動中はさらに弱まる

カフェインは利尿作用と呼ばれる、尿を多めに作る作用があります。尿は腎臓が血液を濾過することで作られますが、カフェインは腎臓に送る血液の量を増やすため結果的に尿量が増える、つまり利尿作用があると理解されています。

しかし、カフェインの利尿作用は巷で想像されているほど強くはありません。尿量は脳を始めとする複数の臓器が体内の液体量をモニターし、非常に厳密に調節しています。そのため、たとえ腎臓に送る血液の量がカフェインによって増やされたとしても、体内の血液量が少ないと判断された場合、腎臓の濾過工程で水分は尿から再吸収されカフェインの利尿作用は打ち消されるのです。

図4:カフェインの利尿作用機序。体液量が減り、脱水気味になると脳がカフェインの利尿作用を打ち消す。筆者作成。

カフェインが持つこの利尿作用ですが、運動中はさらに弱まることが知られています。
カフェインを摂るだけで脱水に至るほどの利尿作用があるかというと、理論上は起きないといって良いでしょう。

過去の研究では、運動中にカフェインを含む飲料と含まない飲料を摂取した群で比較したところ、尿量も体内の水分量にも変化はなかったという報告があります。コーヒーやお茶を飲んだだけで体が脱水になるということはほぼありませんので、安心して飲んでください。

夏場の水分補給について、「カフェインが入ったお茶やコーヒーばかり飲むとカフェインの利尿作用で脱水症状や熱中症になってしまう」という噂が毎年流れます。しかし実際には、夏場の熱中症とカフェイン摂取にはほとんど関係がないと知られています。

熱中症に関係するのはカフェインの有無ではなく、気温、湿度、飲んだ水分の量と摂取/喪失したミネラルのバランスなど複数の要因が絡みます。つまり、熱中症対策としてカフェインを避けるのは有効な対策とはいえません。

噂⑤  コーヒーよりお茶の方がカフェインが多い
真相⑤ 一杯分であればお茶よりコーヒーの方がカフェインが多い

純カフェイン量を単位あたりの量で比較すると、最もカフェインが多く含まれている飲料としては玉露が挙げられます。その含有量はなんと160mg/100mLにも及び、コーヒーの2倍以上含まれていることになります。

図5:単位量あたりのカフェイン含有量。筆者作成。

これは確かに正しいのですが、1杯分の量で比較すると結果が変わってきます。玉露を飲んだことがある方であればお分かりでしょうが、奥深く濃厚な味わいの玉露は煎茶のようにがぶがぶ飲めるようなものではありません。同様にカフェインの量が多いと知られている抹茶も、1人分は70mLと少なめです。

このように、同じ量の飲み物ではなく一杯分あたりのカフェイン量で比較し直してみると、コーヒーが最もカフェイン量が多い飲み物といえます。

図6:一杯あたりのカフェイン含有量。筆者作成。

噂⑥ カフェインを起床後すぐに摂るとコルチゾール値が下がり健康に良くない
真相⑥ 飲む時間を変えても変化しない 常飲者では影響が小さくなる

最後はSNS上で話題になった少しマニアックな話題を取り上げます。早朝のコーヒーは、実は健康に良くないという噂。具体的には、朝のコーヒーは本来下がるはずのコルチゾール値を上昇させ高いまま維持してしまうので、結果として健康に良くないという噂です。
これを予防するため、コーヒーを飲むのは起きてすぐではなく、起床してから1〜2時間ほど経過してからがよいと主張するSNSの投稿を見かけます。

さて、このもっともらしい噂ですが実際にはほとんど科学的な裏付けは無いと言って良いでしょう。

確かにコーヒーを飲むことで、コルチゾールが下がらなくなることを示した研究結果はあります。しかしこの研究には続きがあるのです。

たとえコーヒーを飲む時間を遅らせたとしてもコルチゾールは上昇し、コーヒーを飲んでも飲んでいなくても、午後になるとコルチゾールは自然と下がっていくのです。昼以降に飲んだコーヒーはコルチゾールの増減に影響与えないこともわかっています。

そもそも、コーヒーによるコルチゾールの影響は非常に微々たるもので、生活リズムである体内時計に影響を与えたり、コルチゾール分泌不全や分泌過剰に至ったりするような強い影響はないと考えられています。

さらにカフェインのコルチゾールへの影響は、普段からコーヒーを飲んでいる人ではほとんど見られなくなるとわかっています。そのため、特に健康を気にしてコーヒーを飲む時間を調節したとて、ご自身の体には影響は無いと考えて良いでしょう。

参考文献
Antonio J, et al. Common questions and misconceptions about caffeine supplementation: what does the scientific evidence really show? J Int Soc Sports Nutr. 2024 Dec;21(1):2323919.

Lane JD, Adcock RA, Williams RB, Kuhn CM. Caffeine effects on cardiovascular and neZhang Y, Coca A, Casa DJ, Antonio J, Green JM, Bishop PA. Caffeine and diuresis during rest and exercise: A meta-analysis. J Sci Med Sport. 2015 Sep;18(5):569-74. doi: 10.1016/j.jsams.2014.07.017. Epub 2014 Aug 9.

uroendocrine responses to acute psychosocial stress and their relationship to level of habitual caffeine consumption. Psychosom Med. 1990 May-Jun;52(3):320-36.

Irwin C, Desbrow B, Ellis A, O’Keeffe B, Grant G, Leveritt M. Caffeine withdrawal and high-intensity endurance cycling performance. J Sports Sci. 2011;29(5):509–15.

Beaumont R, Cordery P, Funnell M, Mears S, James L, Watson P. Chronic ingestion of a low dose of caffeine induces tolerance to the performance benefits of caffeine. J Sports Sci. 2017;35(19):1920–7.

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