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2022年10月04日

サイクリングサイエンス コラム 第18回/花は半開を看、水は適量を飲む

うだるような暑さも弱まり、秋の気配を感じる季節になりました。前回までは、暑さに慣れるための具体的な方法、ライド中の飲み物の選び方などをご紹介してきました。今回は水分補給の根幹である、飲む量にフォーカスしていきます。

▷水を飲むべき量はどれくらい?


▷過剰に飲みすぎても良くない


▷脱水の指標は体重を見よ


▷尿の色も目安になる


▷振り返りと客観的指標で最適な水分補給を探る


▷カフェイン飲料は脱水になるのか

▷水を飲むべき量はどれくらい?

「ライド中、どれくらいの水をどのぺースで飲むべきか」

この質問、よく尋ねられるのですが、実は非常に答えにくい質問です。なぜならば運動中にどれぐらい水を飲むべきかと言う問いに決まった答えはないからです。

運動中の水分補給における大原則は、失った分を補うことです。我々は生きている間に一定量の水分を日々失っています。さらにスポーツをすると、体温をさげるべく汗が分泌され、その分体内の水分を失います。スポーツ中の水分補給では、この失った分を補えば良いと言うことになります。

しかしこの水分の喪失量が、各状況によって著しく変化するため、はっきりとした答えが出せないのです。
水分損失量に与える影響としては、スポーツの種類、強度、時間などのスポーツ特異的なもの、天候、湿度などの外部環境に起因するもの、性別、年齢、身に着ける衣服など個人の素質に関連するものなど、挙げればきりがないほど出てきます。
この水分損失量に影響与える因子があまりにも多いため、「あなたにはこの量が適切です」と事前に計算することは事実上ほぼ不可能になります。

図1: 必要水分量に関与する因子

▷過剰に飲みすぎても良くない

「適量が分からないのであればとにかくたくさん飲めば良いのでは?」と言うご意見もあるでしょう。しかし、水分はとればとるほど良いというわけではありません。むしろ飲みすぎると身体に悪影響を及ぼしうるのです。過剰に水分を摂取すると、身体のミネラルが希釈されてしまい、運動関連低ナトリウム血症を引き起こしてしまいます。一般的に血清ナトリウム濃度が120mEq/L以下、血漿浸透圧が250mOsm/kg以下に低下すると、全身倦怠感、食欲不振、頭痛、悪心、嘔吐、無気力、傾眠などの症状があらわれ、血清ナトリウム濃度が110mEq/L以下、血漿浸透圧が230mOsm/kg以下になると昏迷、昏睡、痙攣などが起こるといわれています。この運動関連低ナトリウム血症は運動中の過剰水分摂取が原因と言われており、脱水を恐れるあまり、飲み物を多量に頻繁にとってしまうと、今度は逆に健康を損ねる結果につながってしまうのです。このため、自分にとっての適量を見定める必要があります。

▷脱水の指標は体重を見よ

さて、実際に脱水が起きているのかどうか、どのように判断すれば良いのでしょうか。

自宅でもできる簡便且つ効果的な方法は運動前後での体重計測です。人間の体重の60%以上は水分であり、また日々の生活で容易に増減します。逆に言えば、短いスパンでの体重変化は水分量の変化を反映しており、この体重変化の推移を追いかけることで水分量が足りているかを観察できるのです。

具体的には、運動前後での体重を計測します。スポーツ科学領域では、ここでの減少が体重の2-3%未満に抑えることが目標とされています。仮に体重60kgの選手であれば、1.2-1.8kg減少程度であれば補水はある程度充足されていると言えるでしょう。

3%を越える体重減少がある場合、補給の水分が足りていない兆候です。今一度補給の量と頻度を見直してみましょう。

一方で、全く体重が減っていない o rむしろ体重が増えているといった場合、保水過剰の可能性があります。人体にはある程度の水が貯蔵されており、運動前に脱水になっていない限り、1時間以内の短い運転であれば運動中に水を補給せずとも耐えられます。長時間の運動でも、2%程度の体重減少は許容できる範囲であり、問題ないと考えられております。すなわち、大きな食事をとったわけでもないのに、運動後の体重が増えていると言う場合、水の飲み過ぎの可能性があります。水の飲み過ぎは、先述の通り低ナトリウム血症を起こすリスクが指摘されています。一回の飲む量を減らすことを検討してみましょう。

図2 体重と水分補給の関係;体重が増えている場合は飲みすぎの可能性も

▷尿の色も目安になる

体重以外の別の指標は尿の色です。

尿とはそもそも体内の代謝の工程で生まれた廃棄物のうち、水に溶けるものを捨てています。また余分な水も同様に破棄し、心臓や血管、各臓器に最適な圧がかかるように調節されています。

この体内水分量の調節は腎臓が担っています。腎臓は血液内の水分量を常にモニターしており、水分量に会わせて尿の生成量を変化させて体液量を調節しています。仕組みはいたってシンプルで、血液の水分量が増えすぎたら尿の量を増やして余分な水を抜き、血液量が減ったら尿の量を減らす、という仕組みです。

さて、この尿の量の変化は計測しないとわからないのですが、尿の色は素人が見てもわかりやすい指標です。普段から尿の色に注意を向けておき、ライド前後の尿の色を観察してみましょう。普段よりも色が濃い場合は脱水になっている可能性があります。ただし、ビタミンB,C類が豊富なサプリやドリンクを飲むと、尿の黄色みが強くなることがあり、このスケールが当てはまらない例もありえます。あくまで普段の色からの変化に着目しましょう。

図3:尿色スケール:褐色になるほど脱水の兆候あり

▷振り返りと客観的指標で最適な水分補給を探る

走り終えた後、自分がライド中に飲んだ水の量と自分の口渇感を振り返ってみましょう。加えて、水分量が「過剰」「適切」「不足」だったかを体重の減少具合と尿の色で判断し、その日の水分補給が適正だったかを判定します。

「結構飲んだと思ったけどあれではまだ水分不足なのね」「思ったより飲み過ぎだったっぽい」このような、ライドの振り替えりと客観的な評価を繰り返すことで、自ずと個人に最適な給水プランが見えてきます。

▷カフェイン飲料は脱水になるのか

最後に、ローディーのみなさんがもれなく大好きなカフェインに触れておきます。

「カフェインには利尿作用があるため脱水になりやすい」「カフェイン入り飲料は水分補給にならない」という情報が巷にあふれています。しかしこの噂は研究により明確に否定されています。普段からコーヒーを飲んでいる50人の男性に対して、水とコーヒーを同量摂取してもらい、飲む前後の体重測定と血液・尿検査を行い、脱水症状が起きているのか比較する実験をおこなったものでは、両群で有意な差がないことがわかっています。つまりコーヒーを飲んでも水を飲んだ時と同様の水分補給効果があることが示されました。

コーヒーは身体に水分が十分にある時には利尿作用を示します。しかし、身体が脱水状態に近づくと、先程述べた腎臓の調節機能により尿量は自ずと減少します。カフェインの利尿作用は弱いものなので、腎臓の調整機能を打ち勝って発揮されることはありません。つまりカフェインをのんだだけで脱水状態になることは理論上発生しえないと言えるでしょう。


参考文献

McDermott, B.P. et al. National Athletic Trainers′ Association Position Statement: Fluid Replacement for the Physically Active. J. Athl. Train. 2017, 52, 877–895

Exercise-Associated Hyponatremia in Endurance and Ultra-Endurance Performance – Aspects of Sex, Race Location, Ambient Temperature, Sports Discipline, and Length of Performance: A Narrative Review 〔Medicina (Kaunas). 2019 Aug 26;55(9

Armstrong, L.E. Rehydration during Endurance Exercise: Challenges, Research, Options, Methods. Nutrients 2021, 13, 887

Killer SC, Blannin AK, Jeukendrup AE. No evidence of dehydration with moderate daily coffee intake: a counterbalanced cross-over study in a free-living population. PLoS One. 2014 Jan 9;9(1):e84154. 

Brad L. Bennett, PhD et al. Wilderness Medical Society Clinical Practice Guidelines for the Management of Exercise-Associated Hyponatremia: 2019 Update

これまでの記事はこちら
第1回 サイクリストと情報リテラシー」
第2回 FTPを信じていいのか?
第3回 FTPとどう付き合っていくか
第4回 TSS700の呪い
第5回 HRV 心拍数でわかるコンディション
第6回 ゆるポタで強くなる? 注目のPolarized Trainingとは
第7回 時間がなくても強くなれるインターバルトレーニングの極意
第8回 「キツイがこうかはばつぐんだ」インターバルトレーニングの組み立て方
第9回 誤解されている乳酸
第10回 糖を制するものは補給を制する
第11回 タンパク質との濃厚な関係

第12回 サイクリングサイエンス コラム第十二回/結局は普通が一番な脂質
第13回 第十三回/強者必睡の理をあらはす
第14回 え? 私の起床時間早すぎ?
第15回 筋肉の冷静と情熱の間
第16回 心身暑慣すれば夏もまた涼し

第17回 君子の飲料は淡きこと水の如し


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