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2025年03月03日

才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅”第三十九回 / 二ヶ月タイの旅(後編)自転車がつないだ数々の出会い

二ヶ月タイの旅(前編)はこちらから

山岳に囲まれたペッチャブーンの自転車カフェ

プレーのホームステイで「ママ」と別れた私は、まずペッチャブーン県の町・ロムサックを目指した。山岳に囲まれた、ヒルクライム好きの私には天国のような場所である。

ここで思い出に残る出会いがあった。ハードな山岳ライドを楽しみながら、ロードシューズにクリートカバーを付けて軽いハイキングも楽しむ。そんなスタイルで大自然を満喫していたわけだが、あまりに険しい登山道に入りすぎたことで、クリートカバーが外れて紛失してしまった。

今回経験した最もハードな山歩き。20回ほどの渡渉を繰り返した、タートモークの滝へ至るハイキングルート。ロードシューズにはあまりにも過酷な道のりだった。

新しいクリートカバーを購入しようと町のショップに伺ったところ、在庫がなかったかわりに思わぬ展開に。自転車屋の店主が、サイクリストのオーナーが営む近所のカフェに電話をかけてくれた。

こうして知り合った「Havana Coffee Slowbar」の店主のティンさん。私は翌日、カフェで原稿を書いたり数時間ゆっくり過ごした。そこで、ティンさんから提案が。

「店を早仕舞するから一緒に走りに行こう」

休息日ではあったが、タイで自転車仲間ができることの方が休息よりも魅力的であることは言うまでもない。二つ返事でOKした。

「Havana Coffee Slowbar」の店主のティンさんと、ライドの前にカフェの正面で記念撮影。私と同様、彼もキャニオンバイクの乗り手だった。

ライドの後は、おすすめのレストランで夕食を食べて、帰りに屋台で買い出しをして、カフェでゆっくり話した。真っ暗闇の路面をライトで照らして、レストランから町まで帰ったのは良い思い出である。

すっかり真っ暗になった道を、帰路に着く。


しばしの休養に選んだ町チャイヤプームでの出会い

続いて、滞在した町はチャイヤプーム。オフの日にたまたま立ち寄った「Cafe Expresso」のオーナーのおばちゃんと、お互いカタコトの英語で話しているうちに仲良くなった。

学校の教師を定年後に、やりがいを失った生活から脱するためにカフェを始めたという彼女。コーヒーの淹れ方や、お菓子をはじめとしたフードの作り方も一から学んだそう。カフェに来る人と話すために英語も少しできるようになったという。

長時間カフェに居座る私は、店にとって迷惑な客だったかもしれない。しかし彼女は、オレンジやグアバを切って出してくれた。そして驚いたのは会計後。なんと食べきれないほどのオレンジとバナナを持たせてくれた。

信じられない量のフルーツをお土産にいただいた。宿に戻って盛り付けたら、フルーツの山が完成。

日本が大好きなようで、富士山の美しさを絶賛していた。いつか彼女が日本に来ることがあったら、富士山を見せてあげないといけないな、なんて思ったりしている。

タイで親交を深めた3人がコラートに集う奇跡的な時間

妹尾 郷さんとの出会いは昨年。タイ合宿の聖地ナーソンリゾートで初めてゆっくり長い時間話をした。郷さんは自転車選手を目指して参加したタイ合宿がきっかけで、タイで働き始め、コラートに住んで19年目になる。

熊坂 和也(クマ)と初めて会ったのは、かれこれ15年近く前のタイ合宿。当時からよく気が合って、日本でも何度か飲みに行ったりしていた。クマはなんと90日間に及ぶタイとマレーシアの長期旅行中。急遽コラートに駆けつけてくれた。

タイ合宿を通して出会い、親交を深め、フランスに挑戦し、プロになれずに帰国した。そんな共通点を持つ3人が、ナーソンではない、他のタイの地で出会う。

郷さんとクマは二人とも北海道の出身。選手を志すようになったクマは、郷さんの紹介でタイ合宿に来ることになったという。

私と郷さんは自転車で、クマはオートバイで一緒に走りに出かけたり、夕食に街に繰り出したり、昔話や近況を、毎晩遅くまで語り合う充実の3日間過ごした。

毎晩、郷さん夫妻のおすすめのお店に夕食に。充実したコラートでの日々はあっという間に過ぎていった。

滞在中、郷さん夫妻には本当にお世話になった。コラートという街が大好きになったし、おすすめスポットは全く回りきれなかった。また訪れなければ。

旅の終わりの地 チェンマイ

コラートを出てアユタヤに立ち寄ったあと、私は夜行電車の三等席という貧乏旅の代名詞のような厳しい移動に挑戦し、帰国まで10日以上を残して、とうとうチェンマイの地に戻ってきた。

アユタヤからチェンマイまでは夜行列車の三等椅子席にトライした。向かい合わせの座席で12時間。体力を使う大変な移動だったけれど、良い経験になった。

早くチェンマイに戻ったのには理由がある。旅の途中にアタックした登坂のタイムをSTRAVAで見た、チェンマイ在住のアメリカ人の友人ジョエルが、チェンマイ近郊で開催されるヒルクライムレース「ドイ・インタノンチャレンジ」に誘ってくれたのである。

今回の旅で最も印象に残った登坂ペッチャブーン県の「プータップブーク」。今のところ私のタイのベストヒルクライムルートである。ここでのタイムがレース参加へとつながった。

彼のチームに混ぜてもらい走ったレース結果は3位。ジョエルと、彼のチームでのレース参戦は素晴らしい経験だった。

ジョエルの所属チーム「KOMKOM SPACE」。タイ代表クラスの選手やたくさんのインフルエンサーが集まるタイの強豪チーム。

ドイ・インタノンチャレンジと日を同じくして、タイではアジア選手権が開催されていた。日本代表として、この冬はタイ合宿でトレーニングを積んでレースに出場した新城幸也選手、タイ合宿をきっかけにアジア選にサポートで帯同していたメンバーがレース後にチェンマイに集まり焼肉へ。

アジア選手権後の新城 幸也選手。昨年ナーソンで一緒に年を越し、今回アジア選の遠征に帯同していた林 次郎さん。今回の私のタイの旅の初日に車で一緒にナーソンに向かったレオ。ナーソンからこの日自走で250km走ってきた北浦 暁選手と夕食。

コラートに続き、またしてもタイで見知った仲間と集う。思えば、幸也さんと初めて出会ったのも、15年近く前のタイ合宿だったと思う。

タイ60日間の旅の終わり

そして60日間に及ぶタイを去る日。最終日はジョエルと、北浦くんとチェンマイ近郊の登坂へ。サドルトークに花を咲かせて、再会を誓って、私はこの旅のライドに終わりを告げた。

この旅の最終ライドはJoelと北浦くんと。最後までタイ北部の山岳地帯を満喫した。

ナーソンを出て、一人で走り出したタイの自転車旅。行く先々で自転車を通じ、数え切れない出会いが生まれた。心には常にたくさんの仲間がいた。進むほどに仲間が増えた。いっぱいの思い出を胸に、帰国の途に着いた私はいつものようにこう考え始める。

「さて、次はどこに旅立とうか」

自転車旅は、新たな出会いと発見に満ちている。それを求めて私は走り続ける。


今回の旅の様子はYouTubeでも発信していたので、ぜひこちらもお楽しみください。

自転車旅と百名登 才田 直人 / Naoto Saita『タイ自転車一人旅48日間』

才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅” 連載中
第一回 プロローグ
第二回 旅の流儀
第三回 フェリーで広がる可能性 ~奄美群島~
第四回  自転車で訪れる八重山諸島
第五回  出発の地、目的の地、それは『レース』
第六回  東北沿岸を走る 東日本大震災から11年
第七回 ワーケーション自転車旅の装備
第八回 仕事の合間にライド。ライドの合間に仕事。
第九回 地域のシンボルとして愛される山
第十回  北海道 太平洋岸を行く3日間 600km
第十一回 自転車で楽しむ神話の土地 島根・鳥取
第十二回 上ったら食べる 旅の途中に立ち寄りたいご当地ラーメン
第十三回  全国のサイクリストと一緒に走る、STRAVAセグメントアタックという形
第十四回 離島時間に浸る ゆっくり走るという贅沢
第十五回 自転車で踏み込む世界遺産の森 奄美大島・加計呂麻島
第十六回 屋久島 自転車で感じる洋上のアルプス
第十七回 サイクルジャージは現代アート? 自転車で立ち寄る美術館
第十八回 雨で良かった。雨の日こそ走りたい道。梅雨を楽しむ。
第十九回 富士の高嶺に挑む 「富士ヒル」と「チャレンジヒルクライム岩木山」
第二十回 夏本番!あなただけの「おくのほそ道」を走ろう
第二十一回 南信州飯田 友人に会いに行く旅
二十二回 乗鞍ヒルクライム 〜初登攀(はつとうはん)はレースで 念願の日本最高峰〜
第二十三回 / 残された未踏の地「北海道・道東」
第二十四回 海外ワーケーション! 日本から近い島国「台湾」
第二十五回 / 知られざる秘境 〜岐阜県と北陸三県の間に広がる山岳地帯〜
第二十六回 / タイでワーケーション(前編) タイ合宿の聖地「ナーソンリゾート」
第二十七回 / タイでワーケーション(後編) いつものスタイルで放浪旅に挑戦
第二十八回 / 雑踏!世界遺産!グルメ! 活気に満ちたベトナムを走る
第二十九回 / ビールのつまみは「スパイスの効いた旅」 ベトナムの首都ハノイ
第三十回 / バリ島 自転車で感じる「神々と自然と人々」が融和する島
第三十一回 / 吉野大峯と大台ヶ原 紀伊山地のレースコースを楽しむ
第三十二回 / 冬のリゾートで夏を楽しむ ニセコでロングステイ
第三十三回 / 国内最後の未踏エリア 北海道「北の大三角」【前編】
第三十四回 国内最後の未踏エリア 北海道「北の大三角」【後編】【ファンライド】
第三十五回 ワーケーション始まりの地 長野市「八景館」
第三十六回 もうひとつの台湾KOM。 台湾の強豪クライマーたちとの共演
第三十七回 『仙台』お世話になった人たちに会いに行く旅
第三十八回 二ヶ月タイの旅(前編)仲間と年越し、そして一人旅の始まり

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イラストレーター大野哲郎さんデザインの「uncle rinne(アンクル・リンネ)」の大会だけの書下ろしデザインです。
富士ヒルの挑戦を仲間とともに。この瞬間を刻む特別な一枚。

今回も超人気デザイナー uncle rinne による、ここでしか手に入らない特別デザインをご用意。イラストには rinne と sara が仲間たちと切磋琢磨し、富士ヒルという特別な日に挑む姿が描かれています。

「LET’S ALL GO HILL CLIMBING TOGETHER」のメッセージが、仲間とともに挑む喜びや、ヒルクライムの熱い想いを表現。シンプルながらもインパクトのあるデザインが、レースの思い出を彩ります。

カラーバリエーションは ホワイトとターコイズの2色展開。
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