2024年04月27日
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅”第二十九回 / ビールのつまみは「スパイスの効いた旅」 ベトナムの首都ハノイ
夕暮れ時。路上に置かれた小さな椅子に腰掛ける。日中の暑さで火照った肌の上を、心地の良い風が流れていく。
ビアホイと呼ばれる薄味の生ビールを出す路面店で、知らないおっちゃん達と小さなテーブルを囲む。BGMは鳴り止むことのないバイクのクラクションと、一切内容のわからない会話。
前回の記事から1ヶ月。再び私はベトナムにいる。今回の旅先は首都ハノイである。
バスが来ない!トラブルからのスタート
3月末。夜10時過ぎ。ハノイのノイバイ空港に飛行機が到着。最初の目的地である高原リゾート「サパ」に向かうバスまでは2時間半ほどあるので、フォーを食べながら時間を潰す。
乗車まで1時間くらいになったところで、バス会社から来たメールに返事をするが、その返答が来ない。
バス乗り場にも駐車場にも、私が乗る予定の夜行バスの姿は無い。あれだけ余裕のあった時間はあっという間に過ぎていき、気がつけば発車時刻を過ぎている。
途方に暮れているとタクシードライバーに話しかけられた。
サパまでタクシーで28,000円だと言う。乗る予定だったバスは3,500円。さすがに高いが、疲れ切った私は油断すると彼の提案に乗りそうになる。
結局、次に出発するバスを探してやる、という彼の提案に乗った。タクシーで空港外のバスの営業所へ。タクシードライバーに9,000円を要求された。バスの乗車券に加えて、タクシー代と手間賃が含まれているとはいえ、完全にボラれている。『それでもいいや』と思うくらいに疲れていた。
翌朝6時発のバスに乗り込んだ。元々乗る予定だったバスと同じ完全フラットシートは、しっかり横になることができて快適だった。夜行での移動に最適だったな、と諦めら切れない気持ちを胸にサパに到着した。
ベトナム最高峰の町「サパ」
私がベトナム北部に来たのは、先月ベトナム中部に滞在して、この国に少し慣れたこと、そして何よりこの高原リゾートの存在を知ったことが大きい。
サパが位置するのは、ベトナム陸路最高標高地点であるオークイホー峠の中腹。この峠をアタックしてみたくなったのだ。
苦労してたどり着いたサパ。6日間の滞在で、ロードで上れそうなルートのすべてでアタックを完遂し、超級山岳にどっぷりと浸り切った。
世界遺産の宝庫
旅先をハノイに選んだのは、自走圏内に4つの世界遺産があることも理由のひとつ。ライドと観光を合わせるにはもってこいの立地条件。もちろん今回の旅で全て訪れたが、私がおすすめしたいのはチャンアンである。
チャンアンは石灰質の岩が多くそびえ立つ地形が特徴的なエリアである。湖沼が多く、自然と史跡が混在して独特な景観を作り出している。この地形を味わうにはボートツアーがおすすめだ。
チャンアンの観光スポットは直径20kmくらいの中に点在しているので、自転車で移動するとちょうど良い。気に入った景色の前で自転車を降りてゆっくりと眺めることも簡単だ。
宅配便に振り回される
今回は荷物の発送に苦労した。私の旅のスタイルは自転車移動は限りなく軽装で、という前提があるので、荷物を先送りする必要がある。
先月(前回)のダナン滞在時にはViettel Postという宅配会社で問題なくクリアすることができた。しかし今回はそうはいかなかった。
1度目の壁は、バックパックを送ろうとすると、「箱がないから送れない」と言われたことだった。では買えば良いのでは? と思うだろうが、元々箱など売っていないのである。結局送ることができずに他の支店へ。そこでは麻袋のようなものに入れてくれて、何とか送ることができた。
2度目の壁はハノイへの発送時だった。PCの入っている荷物は送れない、というのだ。これまでも中身によっては破損時の保証代金が上乗せされてはいたが、送れないということはなかった。それが2店舗回っても送ってもらえなかった。
何でも「ハノイ特別ルール」があるらしく、高額製品の入った荷物は送れないらしい。本当に? と疑問に思ったが、どんなに粘ってもそれ以上は相手にしてもらえず諦めた。
会社を変えることにした。すがる思いで駆け込んだのはVietnam Post。郵便局である。
翻訳アプリで「ハノイにPCの入った荷物を送れるか」と聞いたところ即答だった。
「Yes」
私のこの数時間の苦労はなんだったのだろうか。何にせよ無事に荷物を送ることができた。
トラブルは旅のスパイス
私は今ハノイのホテルで、無事に届いたPCでこの記事を書いている。つい数日前の苦労はもう昔のこと。各国に食べたこともないような味の料理があるように、ちょっとした困難は旅のスパイスのようなものだ。旅がその国の味になる。
ベトナム滞在も残り数日。今回に限って言えば、すでにスパイスが十分に効いた旅を味わったので、何事もなく帰国できれば良いな、と思っているのだが。
オークイホー峠のSTRAVAのログ
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅” 連載中
第一回 プロローグ
第二回 旅の流儀
第三回 フェリーで広がる可能性 ~奄美群島~
第四回 自転車で訪れる八重山諸島
第五回 出発の地、目的の地、それは『レース』
第六回 東北沿岸を走る 東日本大震災から11年
第七回 ワーケーション自転車旅の装備
第八回 仕事の合間にライド。ライドの合間に仕事。
第九回 地域のシンボルとして愛される山
第十回 北海道 太平洋岸を行く3日間 600km
第十一回 自転車で楽しむ神話の土地 島根・鳥取
第十二回 上ったら食べる 旅の途中に立ち寄りたいご当地ラーメン
第十三回 全国のサイクリストと一緒に走る、STRAVAセグメントアタックという形
第十四回 離島時間に浸る ゆっくり走るという贅沢
第十五回 自転車で踏み込む世界遺産の森 奄美大島・加計呂麻島
第十六回 屋久島 自転車で感じる洋上のアルプス
第十七回 サイクルジャージは現代アート? 自転車で立ち寄る美術館
第十八回 雨で良かった。雨の日こそ走りたい道。梅雨を楽しむ。
第十九回 富士の高嶺に挑む 「富士ヒル」と「チャレンジヒルクライム岩木山」
第二十回 夏本番!あなただけの「おくのほそ道」を走ろう
第二十一回 南信州飯田 友人に会いに行く旅
第二十二回 乗鞍ヒルクライム 〜初登攀(はつとうはん)はレースで 念願の日本最高峰〜
第二十三回 / 残された未踏の地「北海道・道東」
第二十四回 海外ワーケーション! 日本から近い島国「台湾」
第二十五回 / 知られざる秘境 〜岐阜県と北陸三県の間に広がる山岳地帯〜
第二十六回 / タイでワーケーション(前編) タイ合宿の聖地「ナーソンリゾート」
第二十七回 / タイでワーケーション(後編) いつものスタイルで放浪旅に挑戦
第二十八回 / 雑踏!世界遺産!グルメ! 活気に満ちたベトナムを走る
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著者プロフィール
才田直人さいた なおと
1985年生まれ。日本中、世界中を自転車で旅しながら、その様子を発信する旅人/ライター。日本の上るべき100のヒルクライムルートを選定する『ヒルクライム日本百名登』プロジェクトを立ち上げて、精力的に旅を続ける傍ら、ヒルクライムレースやイベントにも参加している。