2024年03月25日
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅”第二十八回 / 雑踏!世界遺産!グルメ! 活気に満ちたベトナムを走る
クラクションがうるさいほどに鳴り響き、逆走するバイクが突っ込んでくる。左右未確認の飛び出しや信号無視、ウインカーを付けない右左折は当たり前。そんな中、車両の合間を縫うように歩行者が道路を横断している。
今回の旅先はベトナム中部の中心都市「ダナン」である。
旅にはその土地のルールがある
日本の常識に囚われたまま自転車で走ることは難しい。日本人の「譲り合い」の精神は一旦捨てて、車列の中に強引に突っ込んでいく。でないと、行きたい方向にうまく進むことができない。
意外だったのは思ったほど事故を目にしないことだ。今回3週間の滞在で目にした交通事故は2件。
このカオスと思える交通事情が皆の共通認識だからだろう。信号無視が当たり前の交差点には、不測の事態に対応できるようにどの車両も少しスピードを抑えて進入する。
例外は大型トラックやバスくらい。彼らは衝突事故を起こしたとしても相手を突き飛ばす側だからだろう。ベトナムに弱者優先の言葉はない。
五感を研ぎ澄ませて、自分の身は自分で守る。信号や交通ルールはサイクリストを守ってはくれない。
世界遺産の宝庫
ベトナム有数のビーチリゾートであるダナンはもうひとつ強力な観光資産を持つ。今回私がダナンを旅先に選んだのは自走圏内に3つも世界遺産があることが大きい。
①ミーソン聖域
4~13世紀のヒンドゥー教寺院の遺跡。廃墟と化したその建築に惹きつけられて近づくと、壁を彩るレリーフでは神々が楽しげに踊っていたり、色々な動物が登場したりと、遊び心が垣間見られて楽しい。
また、ベトナム戦争の爆撃によって崩落した遺跡もあり、その修復を進められている。栄えて、廃れて、壊して、直す。人間のその時々の都合に振り回された歴史を感じることができる。
②古都ホイアン
16~17世紀に栄えた貿易港。アジア太平洋戦争やベトナム戦争の戦禍をまぬがれた昔の街並みが保存され、その建物がお店や博物館として現役で「生きている」。朝の静けさから、徐々に人手が増し、その路地に屋台が並び始め、日暮れになるとランタンが灯る。歩くのが大変なほどの観光客でごった返す夜がこの街のハイライトだろう。
③フエの建造物群
19~20世紀、華麗な宮廷文化が花開いたグエン王朝。王宮や帝廟が世界遺産登録されていて、街全体の広いエリアに遺産が点在している。
私は1週間以上この街に滞在して、史跡を自転車で回った。このような遺産の観光には小回りが効く自転車が一番だと改めて実感した。また、王宮や帝廟は広いのでスニーカーを背負っていくと行動力が倍増する。
日本人の口に合うベトナム料理
ベトナム料理で思い浮かべるメニューはフォーや、生春巻きだろうか?美味しいものばかりのベトナム料理の中でも、私のお気に入りをいくつか紹介したい。
迷ったら屋台で手軽に
フランス統治下時代の影響か、パンの文化が広く浸透しているベトナム。朝から屋台が多く並び、安く手軽に食べられるファストフードがバインミーだ。ベトナム風のフランスパンにレバーパテや炙った豚肉、たっぷりのパクチーなど様々な具材のカスタムが可能。組み合わせによってバリエーションが広がり、店によって味も様々。毎日食べても飽きない。
シチュエーションに合わせてカフェでゆっくり
ベトナムでは独自のコーヒー文化が発展している。今回訪れた世界遺産の街フエが発祥のカフェ・ムォイ(塩コーヒー)はその濃密なコーヒーと強烈な甘さが癖になる。
塩コーヒー以外にもベトナムでぜひ味わってほしいコーヒーがある。
まずはカフェ・デュア(ココナッツコーヒー)。ベトナムコーヒーとシャーベット状のココナッツミルクの組み合わせ。常夏のベトナム。アイスデザート感覚で楽しむことができるココナッツコーヒーはライド中や後の休憩についつい注文してしまう一品。
もう一つお勧めしたいのがカフェ・チュン(エッグコーヒー)。ベトナムコーヒーの上に卵の黄身とコンデンスミルク、砂糖を一緒に泡立てたクリームを乗せたもの。かなりコッテリな味わいで、ホットで飲むとよりその濃厚さが際立つ。
お弁当のテイクアウトでホテル飲み
街中を歩いていると、コム・タムという看板をよく目にする。店頭のガラスケースの中には大皿がたくさん並び、その横にはいくつかの鍋が食欲をそそる湯気を上げている。
ワンプレートの定食スタイルの料理店で、店内飲食も可能だが、弁当箱に入れてくれるのでテイクアウトすることもできる。自分で食べたい惣菜を指差しすれば、テンポよく弁当箱に詰めてくれる。学生街には250円ほどの安くて美味しいお店が並ぶ。
自転車で味わう「これぞ東南アジア」
治安が安定していて、食べ物が美味しい。観光地が豊富で物価が安い。そしてカオスとも思える交通環境が強烈なアクセントになる。
あなたが思い浮かべる東南アジアがきっとベトナムにはある。ぜひ刺激的なライドを求めてベトナムを訪れてみてほしい。
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅” 連載中
第一回 プロローグ
第二回 旅の流儀
第三回 フェリーで広がる可能性 ~奄美群島~
第四回 自転車で訪れる八重山諸島
第五回 出発の地、目的の地、それは『レース』
第六回 東北沿岸を走る 東日本大震災から11年
第七回 ワーケーション自転車旅の装備
第八回 仕事の合間にライド。ライドの合間に仕事。
第九回 地域のシンボルとして愛される山
第十回 北海道 太平洋岸を行く3日間 600km
第十一回 自転車で楽しむ神話の土地 島根・鳥取
第十二回 上ったら食べる 旅の途中に立ち寄りたいご当地ラーメン
第十三回 全国のサイクリストと一緒に走る、STRAVAセグメントアタックという形
第十四回 離島時間に浸る ゆっくり走るという贅沢
第十五回 自転車で踏み込む世界遺産の森 奄美大島・加計呂麻島
第十六回 屋久島 自転車で感じる洋上のアルプス
第十七回 サイクルジャージは現代アート? 自転車で立ち寄る美術館
第十八回 雨で良かった。雨の日こそ走りたい道。梅雨を楽しむ。
第十九回 富士の高嶺に挑む 「富士ヒル」と「チャレンジヒルクライム岩木山」
第二十回 夏本番!あなただけの「おくのほそ道」を走ろう
第二十一回 南信州飯田 友人に会いに行く旅
第二十二回 乗鞍ヒルクライム 〜初登攀(はつとうはん)はレースで 念願の日本最高峰〜
第二十三回 / 残された未踏の地「北海道・道東」
第二十四回 海外ワーケーション! 日本から近い島国「台湾」
第二十五回 / 知られざる秘境 〜岐阜県と北陸三県の間に広がる山岳地帯〜
第二十六回 / タイでワーケーション(前編) タイ合宿の聖地「ナーソンリゾート」
第二十七回 / タイでワーケーション(後編) いつものスタイルで放浪旅に挑戦
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著者プロフィール
才田直人さいた なおと
1985年生まれ。日本中、世界中を自転車で旅しながら、その様子を発信する旅人/ライター。日本の上るべき100のヒルクライムルートを選定する『ヒルクライム日本百名登』プロジェクトを立ち上げて、精力的に旅を続ける傍ら、ヒルクライムレースやイベントにも参加している。