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2023年06月13日

サイクリングサイエンス コラム 第26回 / 目の前で落車が起きた!その時あなたはどうする?【後編】

前回のコラムでは、目の前で落車を目撃した場合の簡易版救護法についてお話しました。
おそらく多くの方にとって、救護法は免許を取るために自動車学校で学んで以来だったのではないでしょうか。簡易版とはいえ、複雑で難しいためすぐに理解できなかったとしても無理もありません。救護法は1度の学習でマスターするものではなく、繰り返し練習することで身体にしみこませていく技術です。そこで今回は、前回学んだことを踏まえ、具体的なケースを使ったケーススタディで救護法について復習していきましょう。

INDEX


▷▶︎Case 1


▷▶︎Case 2


▷▶︎Case 3


▷▶︎Case 4


▷▶︎Case 5


▷事故に備えて今できることは


▷繰り返し練習して身体に叩き込む

それでは早速、一つ目のケースを考えてみましょう。

Case 1

グループライドでトレインを組んで交通量の多い平坦路を25km/hで走行していた。グループの1人が前方自転車の後輪と接触し、バランスを崩して横転。本人は意識がはっきりしておりしびれもない。

さて、グループライドをしていたら出くわしそうなケースです。この場合の対応を考えてみましょう。自分の頭の中で手順が完成したら、以下の回答例と比較してみてください。

1-3. 安全停止、事故の周知と人員確保
まず自分自身の安全を確保する。救護の大原則ですね。同時に周囲にも事故を知らせ、他のメンバーや走行している車の安全も確保します。

4a.怪我人の状態確認
怪我人の状況を確認しましょう。今回は交通量の多い場所なので1人は交通整理に専念して二次災害を予防したほうがよさそうです。

4b. 意識の確認
本人に近づいて意識の有無を確認します。このとき、必ず顔が向いている側から声をかけます。声をかけると返答があり、意識もはっきりしています。

4c. しびれの確認
身体の痛みやしびれがないか確認します。どうやらしびれもなさそうです。

  1. 怪我人の移動と保護
    意識障害もしびれもないので、ここで本人を起こして道路脇に移動させます。そして全身を観察してみましょう。今回は膝を擦りむいただけで骨折や捻挫はなさそうです。
  2. 事故後のアフターケア
    大きな怪我がなくとも、徐々に痛みが出ることがあります。 ライド後も継続して様子を確認しましょう。本人は肩に痛みが出始めたため、明日病院を受診すると決めたようです。

スムーズに手順を考えられましたか?基本的には手順に従っていくだけです。続いて次のケースを見てみましょう。

Case 2

グループライド中、交通量の多い下り坂で前方の自転車が路肩で滑り横転。スピードは35km/hほど出ていた。

このケースはどうでしょうか。一緒に考えてみましょう。

1-3. 安全停止、事故の周知と人員確保
まず自分自身の安全を確保して安全に停止します。周囲にも事故を知らせます。

4a.怪我人の状態確認
怪我人の状況を確認しましょう。今回も交通量の多い場所なので1人は交通整理に専念してもらいます。

4b. 意識の確認
本人の顔が向いている方から声をかけ、意識の有無を確認します。声をかけると返答があり、意識もはっきりしています。

4c. しびれの確認
身体の痛みやしびれがないか確認します。ここで本人は左腕のしびれを訴えました。

5.怪我人の移動と保護
しびれがあるため救急車を要請します。しびれがある場合、首の損傷が疑われます。本人を動かさずにそのままの状態で待機します。寒くないように上着を着せてあげましょう。

「しびれ→動かさない」
この大原則は押さえておいてください。

Case 3

グループライド中の休憩後、出発しようとしたときに目の前で友人が立ちごける。倒れた先にガードレールがあり頭を打った。

ロードバイク歴が何年になろうとも、立ちごけはしてしまうもの。今回は不運にも頭を打ってしまった様子です。

1-3. 安全停止、事故の周知と人員確保
今回は走行中ではないので、そのまま次の手順にうつります。

4a.怪我人の状態確認
休憩場所での事故なので交通整理は不要です。

4b. 意識の確認
本人の顔が向いている方から声をかけ、意識の有無を確認します。声をかけると返答があり、意識もはっきりしています。

4c. しびれの確認
身体の痛みやしびれがないか確認します。しびれはないと返答がありました。

  1. 怪我人の移動と保護
    意識障害もしびれもないので、本人を起こして全身を観察します。今回は目立った傷もありません。本人は立ちごけしたことにひどく狼狽している様子。
  2. 事故後のアフターケア
    大丈夫そうなので再出発します。しかし頭を打っているため、言動は注意して観察しておきます。10分ほど経過すると、本人が事故の状況について同じ質問を何度も繰り返すようになりました。今日の日付や現在地を聞いてみてもうまく答えられません。その場でライドを中止して本人に病院を受診させることにしました。

このように、頭部外傷後に言動に違和感がある場合は、脳震盪の可能性があります。ヘルメットの回でご紹介したとおり、ヘルメットを着用していても脳震盪が起きるリスクは残ります。頭を打った直後は大丈夫でも、その後24時間は厳重注意で言動を観察しておきましょう。

Case 4

ライド中に赤信号で待機中。目の前をママチャリが信号無視して交差点に進入。直進してきた車(30km/h以上)と接触した。自転車は大きく跳ね飛ばされた。

今回はシリアスなケースです。外でライドする以上自分が事故に遭うだけでなく、事故を目撃する可能性もあります。ロードバイクに乗る紳士・淑女たるもの、率先して事故対応できるようになりましょう。

1-3. 安全停止、事故の周知と人員確保
安全な場所に自転車を停め、周囲に事故が起きたことを知らせましょう。車と自転車の事故では被害が大きくなるので人手も沢山必要です。

4a. 怪我人の状態確認
横断歩道での事故です。交通量が多いので交通整理係を設置しましょう。

4b. 意識の確認
本人の顔が向いている方から声をかけて意識の有無を確認します。声をかけても応答はありません。意識はないようです。

意識がない場合、心肺蘇生法に移行します。
周囲の人に救急車の要請とAEDを持ってくるようお願いします。

心肺蘇生法ではまず呼吸と脈を確認します。呼吸をみるとどうやら息はしているようです。

  1. 怪我人の移動と保護
    意識がないため、頭部になんらかの外傷がおきている可能性があります。そのまま動かさずに救急車を待ちましょう。

最後は自転車が加害者になってしまったケースです。自転車といえど立派な車両。歩行者とぶつかれば歩行者側に大きな被害が出てしまいます。

Case 5

住宅街を走行中、目の前でスポーツ自転車が歩行者と接触した。自転車は転倒し、歩行者は道路に跳ね飛ばされた。自転車側は自分で起き上がったが歩行者はそのまま倒れている。

1-3. 安全停止、事故の周知と人員確保
安全な場所に自転車をとめ、周囲に事故が起きたことを知らせましょう。

4a.怪我人の状態確認
住宅街での事故で交通量は少なめです。

4b. 意識の確認
本人の顔が向いている方から声をかけて意識の有無を確認します。声をかけても応答はありません。意識はないようです。

意識がない場合、心肺蘇生法に移行します。
周囲の人に、救急車とAEDを持ってくるようお願いします。

心肺蘇生法ではまず呼吸と脈を確認します。しかし呼吸が確認できません。呼吸が確認できない場合はただちに胸骨圧迫を開始します。これは本人の呼吸や脈が戻るか、救急車が到着するまで続けてください。1人ではとても大変なので、適宜他の人に交代してもらいながら続けます。AEDが到着したら本人に装着してAEDの指示に従いましょう。

  1. 怪我人の移動と保護
    胸骨圧迫を続けながら救急車を待ちます。

自転車と歩行者の事故の場合、歩行者の方が被害が大きくなります。この場合、意識も呼吸もないため、すぐさま心肺蘇生法を実施します。

事故に備えて今できることは

さて、事故は遭わないに越したことはありませんが、万が一に備えてできることはあります。自転車乗りの方におススメしていることはエマージェンシーカードを携帯しておくことです。
エマージェンシーカードとは、診療に必要な情報をまとめたカードのことです。形式に指定はありませんが、本人氏名、家族への緊急連絡先、既往歴、服薬、アレルギー(特に医薬品)、加入しているロードサービスや保険などを記載しておきます。これがあると、診療する医療従事者だけでなく、搬送する家族・友人が大変助かります。これらをカードにまとめたものを、健康保険証と共にライドに持参しておけば、万が一の時にも役に立つことでしょう。家族や友人に、ライド予定のエリアや時間帯をあらかじめ伝えておくことも、何かあった時のために大切です。

繰り返し練習して身体に叩き込む

救急医療現場での教育を受けていない一般の方に、専門的な判断や救助活動は求められません。事故を目撃して、自分と周囲の人が事故に巻き込まれることなく、安全に救急車を呼ぶことができれば文句なしの満点です。実際に事故を目撃しても、落ち着いて行動できるよう、繰り返しシミュレーションをして身体にしみこませましょう。

参照:
Guidelines for Field Triage of Injured Patients: Recommendations of the National Expert Panel on Field Triage, 2011
外傷初期診療ガイドラインJATEC
日本赤十字

これまでの記事はこちら
第1回 サイクリストと情報リテラシー」
第2回 FTPを信じていいのか?
第3回 FTPとどう付き合っていくか
第4回 TSS700の呪い
第5回 HRV 心拍数でわかるコンディション
第6回 ゆるポタで強くなる? 注目のPolarized Trainingとは
第7回 時間がなくても強くなれるインターバルトレーニングの極意
第8回 「キツイがこうかはばつぐんだ」インターバルトレーニングの組み立て方
第9回 誤解されている乳酸
第10回 糖を制するものは補給を制する
第11回 タンパク質との濃厚な関係

第12回 サイクリングサイエンス コラム第十二回/結局は普通が一番な脂質
第13回 第十三回/強者必睡の理をあらはす
第14回 え? 私の起床時間早すぎ?
第15回 筋肉の冷静と情熱の間
第16回 心身暑慣すれば夏もまた涼し

第17回 君子の飲料は淡きこと水の如し
第18回 花は半開を看、水は適量を飲む
第19回 健全な精神は何処に宿る?
第20回 体動けば食指動かず
第21回 罪悪感なく飲むために
第22回 リバウンドの危機
第23回 サイクリストのスキンケア

第24回 ヘルメットの重要性
第25回 目の前で落車が起きた!その時あなたはどうする?【前編】


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