2023年03月09日
サイクリスト あの日の夢~これからの夢 沖美穂さん(前編)「自転車の本場ヨーロッパ 日本人の考え方を捨てて戦う」
「一人で生活する、しかも日本語が通じないところでという経験が初めて。日本人だからと、ちょっと馬鹿にされている思いはありました。おかげで、人のありがたみを感じましたね。両親もそうですけど、今まで応援してくれた人とか友達とかのことをすごく大事だなと思いました」
しかし、ロードレースのことを学びたいと思って飛び込んだヨーロッパは、沖さんにとって新鮮な発見の連続だった。
「女子選手がいっぱいいる、チームもたくさんある、自分よりも強い選手が100人ぐらいいる。日本のレースでは女子は20人ぐらいしかいなかったのに、ヨーロッパは大きな組織で動いていて、プロ選手がいるんだというのが驚きでした」
「ヨーロッパの選手はレースが上手で、自分にないテクニックがいっぱいありました。風向きで隊形を変えたりするのも衝撃的でした。ただ、教えてくれる人もいっぱいるし、練習相手もいっぱいいるし、レースもいっぱいあって、本当に自転車やるならここなんだなと思いました」
日本人とは異なるヨーロッパの人々の考え方にも衝撃を受けた。
「ある大きいレースの前に、 監督に『お前、今日調子いいか、強いか』と聞かれ、『いや、そんなことないです』と遠慮したんです。本当に具合が悪かったり、調子が悪くてとかじゃなくて、普通に答えたんですけど、それでメンバーから外された。『なんで外したかわかるか?』と聞かれて、『いや、わからない』って返事したら、『だからダメだ』と言われたんです」
「監督としては、チームにはたくさん選手がいるから、調子いいかって聞いたときに、調子いいって一言で答えてくれる選手、自信を持って走ってくれる選手を出したいと言われました。すごくグサッときて、泣いたんです。レースに出られないのが悔しいんじゃなくて、その一言でレースに出られなくなるのかって思いました」
「謙遜って、日本人はクセになっているから自然と出てしまう。それを捨てろと言われて、それから毎日みんなの前で『I am strong』と言わされました。最初は言うのが恥ずかしかったんですが、だんだん自然に言えるようになりました。その時の監督にはすごく感謝してますね」
他にも、ヨーロッパの選手の何気ない一言でハッとした出来事があった。
著者プロフィール
光石 達哉みついし たつや
スポーツライターとしてモータースポーツ、プロ野球、自転車などを取材してきた。ロードバイク歴は約9年。たまにヒルクライムも走るけど、実力は並以下。最近は、いくら走っても体重が減らないのが悩み。佐賀県出身のミッドフォー(40代半ば)。