サイクリスト あの日の夢～これからの夢　沖美穂さん（前編）「自転車の本場ヨーロッパ　日本人の考え方を捨てて戦う」

「残り2周で落車してしまったんです。途中で雨が降ってきたんですが、ちょっと集団から遅れ始めていたので下りでオーバースピードで追いかけて、滑って転んでしまいました。当時のシドニーの道路は沖縄みたいに貝殻が入っていて滑りやすいって聞いてたんですけど、レース中はそんなことも忘れていて…　起き上がって、41位で完走しました」

そのとき、沖さんの頭の中ではいろんな思いが駆け巡っていた。

「転んでからゴールまでの1周ちょっとの間、私は何をやってきたんだろうといろいろ考えました。オリンピックという目標も叶ったし、ここでやめようかなと思いました」

一方で、まだ自転車で燃え尽きていないという気持ちが沸々と湧いてきた。

「今まで何も知らないで走っていたな、と思いました。ロードの集団走行とか駆け引きとか、そういうのを知りたいなという気持ちになったんです」

「当時は日本では男子の話は聞けるけど、女子の話はほとんど聞けないし、女子はみんな弱いみたいに言われる。なんで女子は弱いんだ、教えられる人も知っている人もいないのに、なぜそんな勝手なこと言うのかな？　本当のこと言ってるのかな？　というところに、私は火がついたんです」

そして、ロードレースの本場ヨーロッパで走りたいという思いが芽生えた。

「自分が行って本当のところを見たい。もう1回やろう、と決めました」

単身フランスへ　無我夢中でつかんだ勝利

翌2001年、ヨーロッパ挑戦のチャンスが訪れる。フランスで活動していた福島晋一さんから連絡があったのだ。

「6、7月ぐらいに晋一さんの方から、『フランスの女子チームがツール・ド・フランスの女性版のレースで選手が1人足りないって募集しているけど、来ない？』って聞かれて、即答でお願いしました」

当時、1人で飛行機に乗るのも初めてだったが、フランスに到着し、福島兄弟が滞在していた「農家の小屋みたいなところ」で合流した。そこは、後に新城幸也なども住むことになる日本人選手の拠点となるところだった。しかし、次の日から福島兄弟は1週間ほどレースに出かけ、いきなり1人きりになった。

その後、チームに合流し、日本人初の女子プロロード選手となった沖さん。最初に出場したレースが、ボルドーでのワールドカップ。25位で完走し、「悪いリザルトではなかった。行けるかなと思った」と手ごたえを感じた。

そして、当時のツール・ド・フランスの女子レース「グランブクール・フェミニン」に参戦。10日間のステージレースだった。

次のページへ　　Page １ 　２ 　３ 　４ 　５ 　６ 　７