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2023年06月23日

才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅”第十九回 / 富士の高嶺に挑む 「富士ヒル」と「チャレンジヒルクライム岩木山」

日本の最高峰を舞台に開催されるレース

唯一無二の圧倒的な存在感。国土の多くを山岳地形が占める日本においても、富士山ほどのインパクトを持つ山は他にない。

どこから眺めても、八の字に広がる美しいその姿。何度見ても感嘆の声を上げてしまう。そして標高3776mのこの山は日本の最高峰である。

富士見三景に数えられる「御坂峠」。山間に覗く河口湖越しの富士山に息を呑む。

2月末に怪我をした私はコツコツとリハビリを行い、5月に入ってやっとトレーニングと言えるようなライドができるようになってきた。

毎年6月、この日本一の富士山を舞台に日本最大規模のヒルクライムレース「Mt.富士ヒルクライム」通称、富士ヒルが開催される。

富士ヒルは完走タイムによって、リングがもらえる粋な演出があり、ただ順位を競うだけではなく、各自の目標となるタイムに挑戦する参加者が多い。優勝タイムが60分を切る中で、最も多くの人が目標とするタイムが90分。今回、その目安となるペースメーカーのお仕事をいただいた。

参加者数日本一 富士ヒルがもつエネルギー

エントリー人数は8000人を超え、それぞれが目標に向かって全力で挑戦する。会場はエネルギーに溢れている。ペースメーカーを勤めながら、怪我明けの私はものすごい元気を分けてもらった。自転車は自分のペースで楽しむことが一番大切だと改めて実感した。

自転車を始めた頃に毎日一緒に練習してもらった増田さんと、フランスで選手生活を共にしたワン・インチー。参加者の方々からはもちろん、選手の仲間からもたくさんのパワーをもらった。

富士ヒルで吸収したエネルギーを解き放ちたい。富士山を訪れたついでに甲府にどっぷり浸かって3週間トレーニングを行った。

怪我からの復帰は間に合わないだろうと、ダメ元で申し込んでいた「チャレンジヒルクライム岩木山」へのモチベーションが沸々と湧いてきた。

青森県弘前市の「津軽富士」

日本には富士山の姿を地元の山に重ねて「〇〇富士」と呼称することがある。

青森県弘前市の西部に位置する岩木山は「津軽富士」と呼ばれ、やはりこの地域で圧倒的な存在感を放ち、富士の名にふさわしい姿を見せてくれる。

青森ワイナリーホテルから望む弘前市街地と岩木山。岩木山は津軽地方のシンボルだ

以前弘前に滞在した時に、この山を毎日のように眺めていた。当然のようにアタックしたい衝動に駆られた。

この時に見つけた「岩木津軽スカイライン」に衝撃を受けた。坂道を転げ落ちないように必要最低限のスイッチバックを繰り返しながら、ただ山頂に向かってまっすぐ伸びる九十九折。そしてこの魅力に溢れた登坂路が自動車専用道路であり、自転車では上れないということに本当にがっかりした。

岩木津軽スカイラインは歩行者・自転車通行止めの有料道路。

待ちに待った念願のクライミング

しかし、チャンスがなくなったわけではなかった。年に1回開催されるヒルクライムレースの日にだけ、この道を上ることができる。昨年は全日本選手権と日程がバッティングして、チーム活動を優先した。泣く泣く岩木山への挑戦は断念した。

今年は怪我の影響で全日本の資格を取れず。開催日程も重ならなかった。最高のコンディションでこの上りと向き合いたかった気持ちはあるが、数年間待ち続けたこの山に上る機会に恵まれた。

レースの中で「憧れの道」を噛み締める

登坂距離9km。平均約9%。数字でもわかる通り申し分ないボリュームを誇る激坂に選手たちが挑む。スカイラインで繰り返されるスイッチバックは69回。各コーナーに「xx/69」という標識が立ち、上るほどにカウントダウンされていく。

レースが進む。呼吸は乱れ、筋肉に痛みが走る。ライバルたちを振り落とすために、1秒でもこの坂を早く上り切るために、フィニッシュまでペダルを踏み続ける。

終盤に差し掛かると急に視界が開ける。残り少なくなった体力を振り絞って優勝争いをしながらも、思わず眼下に広がるその絶景に目を奪われる。

つい先月まで、満足に追い込むことができず、こんなギリギリの勝負を楽しむことは想像すらできなかった。夢にまで見たこの登坂と全力で向き合うことができる。これ以上ない幸せだった。

スカイラインのフィニッシュは1247mの8合目。立派な看板を前に、ついつい記念撮影したくなる。

まだ再スタートは始まったばかり

梅雨時期の開催ということもあり、雨のレースになることが多いというこのレース。今回は澄んだ青空が広がった。年に一度しか走ることのできないこの山を、晴天の下で上ることができた。長年待ち焦がれた、このチャンスを岩木山が歓迎してくれたのかもしれない。

最高の青空のもと、それぞれの目標を胸に激坂に挑む。


レース結果は2位。

日本一の「富士山」はレースへのモチベーションを蘇らせてくれた。そして津軽富士「岩木山」はレースは思い通りにいかないことの方が多いということを思い出させてくれた。

まだまだ、ヒルクライムと向き合う日々は終わりがなさそうだ。


富士ヒルのSTRAVAアクティビティ

https://www.strava.com/activities/9200437611

チャレンジヒルクライム岩木山のSTRAVAアクティビティ

https://www.strava.com/activities/9286407047


【番外編】レース遠征でリモートワーク

もちろん今回のレースを絡めた旅もワーケーションスタイル。甲府と弘前のリモートワークスポットを紹介したい。

甲府「Chatraise PREMIUM YATSUDOKI TERRACE 石和」

甲府の程近く、石和温泉に位置するこのカフェ。全国に展開する洋菓子のシャトレーゼが運営するカフェで、洋菓子はもちろん、おすすめは100円で山梨のご当地グルメ「ほうとう」が楽しめる「ワンカップ HO-TO-」。この値段とは思えないほど具沢山。

WiFi完備のおしゃれな店内で山梨グルメを楽しみながらリモートワークができるなんて、最高の贅沢だ。

「ワンカップ HO-TO-」と好みのスイーツの組み合わせが最高だ。

弘前「弘前レンガ倉庫美術館」

駅からは少し歩くが、徒歩圏内に位置する現代美術館。エントランスでは奈良美智さんの「犬」が出迎えてくれる。この美術館の2階は誰でも無料で利用できるオープンスペースになっていて、高速のWiFiも完備されている。

洗練された静かな空間でのリモートワークは少し特別な経験になるだろう。

青空に映える趣のあるレンガ倉庫。館内は独創的な展示で溢れているので美術鑑賞も忘れてはならない。

アートを感じながら美術館内でリモートワーク。好みのアーティストの書籍を手に取って休憩もできる。アートを身近に感じられる新しい感覚だった。

才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅” 連載中
第一回 プロローグ
第二回 旅の流儀
第三回 フェリーで広がる可能性 ~奄美群島~
第四回  自転車で訪れる八重山諸島
第五回  出発の地、目的の地、それは『レース』
第六回  東北沿岸を走る 東日本大震災から11年
第七回 ワーケーション自転車旅の装備
第八回 仕事の合間にライド。ライドの合間に仕事。
第九回 地域のシンボルとして愛される山
第十回  北海道 太平洋岸を行く3日間 600km
第十一回 自転車で楽しむ神話の土地 島根・鳥取
第十二回 上ったら食べる 旅の途中に立ち寄りたいご当地ラーメン
第十三回  全国のサイクリストと一緒に走る、STRAVAセグメントアタックという形
第十四回 離島時間に浸る ゆっくり走るという贅沢
第十五回 自転車で踏み込む世界遺産の森 奄美大島・加計呂麻島
第十六回_屋久島 自転車で感じる洋上のアルプス
第十七回 サイクルジャージは現代アート? 自転車で立ち寄る美術館
第十八回 雨で良かった。雨の日こそ走りたい道。梅雨を楽しむ。

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