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2023年05月27日

才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅”第十八回 / 雨で良かった。雨の日こそ走りたい道。梅雨を楽しむ。

青空の下、太陽の日差しを浴びながら、風を切って疾走し、絶景を味わう。これがサイクリングの魅力であることは間違いない。

しかし太陽にも休暇は必要なんだろうと思う。もうすぐ、どんよりとした空模様が続く梅雨のシーズンがやってくる。

梅雨はサイクリストにとって最も憂鬱な季節の一つである。しかし、そんな雨を少しでも楽しめたら、どんなに素晴らしいことだろう。

雨の日こそ走りたい。走っていて、ふとそう感じたことはないだろうか?

静寂の清流 四万十川

高知県西部を流れる日本屈指の清流として名高い四万十川。

川沿いを走っていると、あまりにゆったりと大らかな流れであるために、どちらが上流かわからなくなることもある。峠道が九十九折で勾配を緩くするように、この河も大きな蛇行を繰り返すことで、穏やかに流れている。

どんよりとした空の下、大きく蛇行して流れる四万十川。

高知県西部の街、宿毛(すくも)に滞在していた私は、雨が止んだタイミングを見計らってライドに出かけた。雨が降ったり止んだり。そんな一日。

こんな記事を書いてはいるが、私も皆さんと同じように雨は好きではない、むしろ大嫌いだ。
ぐずついた空模様。再び雨が降り出すまでに長くはかからなかった。しとしと降り続く雨。一人、四万十川に沿って走る。

雨模様だからか、そもそも田舎だからか、サイクリストはもちろん、車もほとんど走っていない。

「静かだ」

うっすらと立ちこめる霧と雨。そこにぼんやりと浮かび上がる沈下橋。晴れていては味わえなかったであろう幻想的な雰囲気。

ここは雨の日にこそ走るべき道だ。気が付けば、そう感じるようになっていた。

霧が垂れ込める幻想的な雰囲気の中、四万十川に掛かる沈下橋。

沈下橋は増水時は水中に沈むため、水の抵抗となる欄干がない。そのために橋上からは遮るものが一切なく、目の前には清流四万十の大らかな流れが広がる。

雨が降り、川に注ぐ。大きな流れになる。当たり前ではあるが、普段意識しないことを身体中で感じた経験だった。

紫陽花に囲まれて上る 折渡峠

サイクリストとは真逆で、梅雨を首を長くして待ち続け、最も輝くものといえば何を思い浮かべるだろうか?私の場合、それは紫陽花である。

梅雨の中休み、太陽の下では苦しんでいるようにすら見えてしまう紫陽花。そう、この花を楽しむライドは雨の日こそふさわしい。

秋田県由利本荘で印象的な峠に出会った。

折渡峠(おりわたりとうげ)である。標高差150mほどの小さな峠だが、勾配はなかなか厳しく、10%前後を刻むので上りがいがある。

青空の下、紫陽花は元気を失いつつあった。

この峠は「あじさいロード」と名付けられていて、峠道の両側には紫陽花が途切れることなく続く。

私が偶然この峠を通ったのは7月の後半、紫陽花もその元気をかなり失っていて、「また来年お会いしましょう」といった雰囲気になっていたが、それでも十分にその景色に惹かれた。

この日は天気が崩れる予報ではあったが、走っている時間帯は青空も覗いていた。

次回は梅雨の季節に雨の中で紫陽花に囲まれて上る。そんな普段は嫌って回避するようなチャレンジも良いかもしれない。

雨の中、活き活きとした紫陽花の中を走る自分を思い浮かべる。きっと素晴らしい体験になるだろうと想像する。

雨の降る紀伊半島 堀坂峠

日本で最も雨の多いエリアの一つ、紀伊半島。三重県松阪はその玄関口と言っても良いだろう。

屋久島に次いで、日本第二の降雨量を誇る尾鷲へ南下するために松阪に滞在していた私は、宿でデスクワークをしながら雨の一日を過ごしていた。

降り止むことなく降り続ける雨。普段の私なら「今日はゆっくり湯船に浸かって、明日晴れたらライドを楽しもう」くらいに思うところである。

ただ、雨の多い紀伊半島に来た、ということが私の心の中にあったのだろう。気付けば走りに出ていた。

スタートから本降りの雨の中、目的地は松阪に来たら絶対に上りたいと思っていた「堀坂峠(ほっさかとうげ)」。

季節は12月。かなりの寒さの中、一本バシッと上って帰ってくる一時間のライド。

4.5kmほどの短い峠だが麓の集落を過ぎると勾配が増す。あとは山頂まで10%前後の勾配が淡々と3kmほど続く。

美しい杉の木立を縫うように進む峠道。

寒い。視界には霧がかかり、急勾配をペダルに力を込めてゆっくり上る。

寒さで動かなかった身体も、気がつけば湯気を上げている。全力でアタックしているために苦しさを感じながら、同時に生まれた感情は「美しい」ということだった。

綺麗に整然と立ち並ぶ杉の木立。その中を九十九折に進む峠道。

「あぁ、私は確かに紀伊半島に踏み込みつつあるんだな」

雨音だけが響く森の中。登坂の厳しさ、峠の美しさの余韻に浸る。あっという間に体は冷え切って、宿まで帰り着いた時にはガタガタ震えていた。

峠の山頂には鳥居。一層幻想的な雰囲気に。

梅雨の時期であれば気温も高く、もっと純粋に雨の雰囲気を味わえると思う。堀坂峠に限定するわけではなく、雨でこそ紀伊半島の深い山々は美しい表情を見せてくれるはずだ。

松阪から与原へぶけることから与原峠とも呼ばれるようだ。

まずは安全第一で

雨のライドは普段以上に危険も多い。まずは安全第一。激しい雨や長雨、雷雨の時は災害の恐れも高まる。まずは身の安全を一番に考えて欲しい。

その上で、雨でこそ輝く景色を見つけるライドに出かけてみてはどうだろう。少しだけ雨が好きになるかもしれない。

才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅” 連載中
第一回 プロローグ
第二回 旅の流儀
第三回 フェリーで広がる可能性 ~奄美群島~
第四回  自転車で訪れる八重山諸島
第五回  出発の地、目的の地、それは『レース』
第六回  東北沿岸を走る 東日本大震災から11年
第七回 ワーケーション自転車旅の装備
第八回 仕事の合間にライド。ライドの合間に仕事。
第九回 地域のシンボルとして愛される山
第十回  北海道 太平洋岸を行く3日間 600km
第十一回 自転車で楽しむ神話の土地 島根・鳥取
第十二回 上ったら食べる 旅の途中に立ち寄りたいご当地ラーメン
第十三回  全国のサイクリストと一緒に走る、STRAVAセグメントアタックという形
第十四回 離島時間に浸る ゆっくり走るという贅沢
第十五回 自転車で踏み込む世界遺産の森 奄美大島・加計呂麻島
第十六回_屋久島 自転車で感じる洋上のアルプス
第十七回 サイクルジャージは現代アート? 自転車で立ち寄る美術館

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