2023年03月09日
サイクリスト あの日の夢~これからの夢 沖美穂さん(後編)「自分は何をやりたいんだ、自分は何者なのか」
「競輪のことを知らなかったので、毎日が新しいし、自転車のことなので興味がありました。競輪は競走するスタイルは細かく言うと違うけど、大きくいうとロードレースのショート版なので、戦法などのアドバイスはしました」
特に沖さんが生徒たちに熱心に伝えたのは、プロ選手としての心構え、立ち振る舞い方だった。
「どちらかというと競輪のアドバイスより、プロ選手としてデビューした時の準備としてコメントの仕方、立ち振る舞い方、写真の撮られ方とかを教えました。競輪では今日の調子とか毎回コメントを聞かれるので、30秒バージョン、1分バージョンと、しつこいほどホームルームの時間で練習しました。当時は海外のレースにも帯同していたので、海外の選手の表彰式を徹底的に見て、どういう振る舞いをするか見たことを全部伝えました」
「現在ナショナルチームで活動する太田りゆ、梅川風子は私が担任でした。ちょっとした自慢なんですけど、自分の教え子は平均してコメントも上手だと思います。すごく練習したし自分も何回も言うことによって自信がついた経験があるから、自分は強い、調子いいと何回も口に出すことが大事と伝えました」
新たなインプットを求め、大学院へ
競輪学校の教官を4年間務めた後、沖さんは新たなステージにチャレンジする。
「教官として競輪のことを勉強して教えることもありましたけど、自分が経験したこと、インプットしたことをアウトプットしていたので、ほとんど伝えきった気がしました。自分が生徒だったら質のいい教えを聞きたいと思うから、自分も1年1年アップグレードできるようにしてきた。それが3年目のときにあと1年ぐらいで全部伝えきっちゃうかなと思い、すごく勉強したくなり、スポーツマネジメントの本を中心にいっぱい本も読みました」
そこで、沖さんが次に目指したのが大学院への進学だ。
「たまたま順天堂大学の小笠原(悦子)先生(順天堂大学女性スポーツ研究センター長、順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科教授)と出会う機会があり、高卒でも過去のスポーツの成績があればAO受験で大学院に入れると聞きました。杉山愛さん(元プロテニス選手)にも以前、小笠原先生のゼミにいて、絶対やった方がいいよと話していただき、やってみようかなと思って一生懸命履歴書を作りました」
2017年4月に、順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科に入学。慣れない学生生活は戸惑いも多かった。
「社会人向けの夜間の講義で、2年間、夕方6時過ぎから11時ぐらいまで授業もいっぱいありました。教官を辞めて、都内のJKA本部に非常勤で働かせてもらっていたので、5時半まで仕事してダッシュで大学院に通っていました」
「大学に行ったことないので、勉強のやり方の基礎がない。パワポとかエクセルとかいじったことないのでどうやってやるの、と後悔しました。スポーツマネジメントも全部英語の教科書で、1カ月半ぐらいかけて英語のパワポを作ってひとりで発表する。ボツワナの学会で発表したこともありました。今まで英語でしゃべる機会なんてなかったので、ハーバード大学出身のアメリカ人の友達のところに毎日通って練習しました」
著者プロフィール
光石 達哉みついし たつや
スポーツライターとしてモータースポーツ、プロ野球、自転車などを取材してきた。ロードバイク歴は約9年。たまにヒルクライムも走るけど、実力は並以下。最近は、いくら走っても体重が減らないのが悩み。佐賀県出身のミッドフォー(40代半ば)。