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2022年12月30日

サイクリングサイエンス コラム 第21回 / 罪悪感なく飲むために

「Alco-’Holの踏破法」
早いもので2022年も年末を迎えています。ツール・ド・フランスの山岳コースはL’Alpe-d’Huezですが、師走の社会人ローディーにとってはAlco-h’olが山場となるでしょう。今回は自転車乗りが意識すべきお酒の乗り越え方についてお話していきます。

INDEX

▷“酒は百薬の長”は過去の話


▷アスリートは吞兵衛になりやすい


▷飲酒の影響を最小にするには?


▷水分補給を意識せよ


▷飲酒量を減らす努力を


▷高炭水化物食を飲酒前から取るべし


▷プロテイン摂取も忘れずに


▷飲酒習慣は脂肪をつけやすい


▷二日酔いでのライドはとても危険

▷“酒は百薬の長”は過去の話

漢書で「酒は百薬の長」と言われてから2,000年にわたり、人類は”少量の飲酒は健康に良い”と信じてきました。
特に近年我々がこの意見を信じているのは、過去に行われた大規模な研究がもとになっています。この研究では、全く飲酒をしないグループよりも、少量飲酒するグループのほうが寿命が長いという結果が得られ、広く人口に膾炙することになりました。

しかしこの研究は30年以上前に実施されたものです。2018年に発表された研究では飲酒に適量は存在せず、飲酒量が増えるに従い寿命に悪影響を与えると言う結果が報告されました。

図1, 文献2から引用。アルコール飲酒量が増えるほど健康へのリスクが増す。

つまり最新の研究結果から言える事は、お酒は飲まないに越した事は無いと言うことです。

▷アスリートは吞兵衛になりやすい

アスリートは非アスリートの人と比べ、飲みすぎる傾向にあることがわかっています。チームスポーツに取り組む大学生を対象とした研究では、スポーツをしないグループと比較して飲酒量が増えてしまう結果が出ています。

これはあくまでチームスポーツをする大学生を対象とした研究内容であり、自転車の集団に当てはまるとは一概には言えません。ですが、みなさんもライド後についついご褒美として飲み過ぎてしまった経験はありませんか?アスリートには気がつくと不健康な食事をとりすぎてしまう性向があることは念頭に置いておきましょう。

自分はアルコール依存なのではと心配な方は、こちらでアルコールの依存度合いを簡単に調べられます。簡単な10個の質問に答えるだけで、自分の飲酒習慣が適切かどうかを診断してくれます。

▷飲酒の影響を最小にするには?

とは言っても、アスリートだから全く飲むなというのは現実的ではありませんし、ライド後のビールを楽しみに頑張っているというローディの方も多いことでしょう。アルコールは身体に悪影響は多少あれども、運動するきっかけにもなります。

ここからは、飲酒がアスリートに及ぼす影響を学びつつ、できるだけライドへの影響を少なくするためにどのようにお酒を楽しめばいいのか、飲み方のコツについてご紹介していきます。

▷飲酒量を減らす努力を

飲酒の悪影響は飲む量に比例して大きくなります。飲酒の影響を出来るだけ小さくする方法は後述しますが、飲酒量を控えることが何よりの最善策です。ご自身が楽しめる適量をご自身のペースで楽しみましょう。

参考までに、最近更新された健康に影響のない飲酒量の目安は週に純アルコール量100g以下です。純アルコール量はアルコール度数×容量で求められます。

図2. 純アルコール量の一例。東京都保健衛生局HPより引用。

100gがどれくらいの量かというと、ハイボール350mでアルコール量は20g。生ビール中ジョッキも20g。日本酒1合で約22g。すなわち1週間でこれらの飲み物を5杯以内にとどめておくのが適切な飲酒量となります。

▷水分補給を意識せよ

アルコールには強い利尿作用があります。これはバソプレシンと呼ばれる体内の水分量を調節するホルモンのはたらきをアルコールが阻害し、尿を過剰に排泄してしまうからです。バソプレシンへの影響は、低容量のアルコール摂取ではほとんど認められませんが、アルコール量が増えるに従って利尿作用が強まっていきます。

寒さによって冬ライドでは水分補給がおざなりになりがちです。また、脱水は二日酔い症状を誘引してしまいます。脱水を予防するために、飲み会の前にはしっかりと水分補給をしておきましょう。運動後である場合は、第18回の連載でご紹介した適切な水分量を見極める指標(体重測定と尿の色)を参考に、ライドで損失したであろう水分を飲酒前にしっかり補給した上で楽しく飲酒しましょう。また飲酒中も常にお水を摂ることで、翌日への影響を減らすことが期待できます。

▷高炭水化物食を飲酒前から取るべし

アルコールの分解は多量の糖分を必要とすると同時に、食べ物から糖分を吸収する工程も阻害してしまいます。ここで必要な糖分を得るため、筋肉内に貯蔵されているグリコーゲンが分解されます。

図3.アルコール分解の模式図。筆者作成アルコールは筋グリコーゲンを消耗してしまう。

このグリコーゲンは、本来であれば運動の時に使われる大事なエネルギー源です。貯蔵量は1400kcalほどしかなく、ロングライドにいけばすぐに枯渇してしまいます。ライド後に何も食べずに飲酒してしまうと、アルコールを分解するための糖分が足りず、低血糖症状や悪酔いの原因になってしまいます。また飲酒中にグリコーゲン補給が十分になされていないと、翌日以降のライドにも大きく影響与えてしまいます。

飲み会の食事は油っぽい食事が多くなりがちですが、ライド終わりの飲み会もしくは翌日にライドを控えている場合は、意識して炭水化物を摂取しましょう。人によっては飲酒すると食欲が減退することもあると思います。そのような傾向があるという方は、意識して飲酒前からグリコーゲン補給を始めましょう。
呑兵衛は食事の代わりにアルコールで炭水化物を摂取しがちですが、残念ながらアルコールのカロリーは体内でグリコーゲンの形に変換することができません。そのため、アルコールは体内に入っても貯蔵できず、すぐに燃やされることになります。お酒を飲むと体温が上がるのは、貯蔵できないカロリーを身体がとりあえず熱として消費しようとするからです。グリコーゲン補充は必ず食事から摂りましょう。

▷プロテイン摂取も忘れずに

アルコールは我々が大好きな筋肉の合成をも阻害します。この影響は、少量の飲酒では微々たるものですが、飲酒量が増えるほど筋合成スピードも低下します。

この影響を少しでも減らすべく、飲みの場では意識してタンパク質を摂取しましょう。飲み会前後にプロテインを足すのも良い対策です。

▷飲酒習慣は脂肪をつけやすい

ここまでの話を聞いて、アルコールは貯蔵されないカロリーだから太らないのでは?と気づかれた方。確かに正解です。アルコールそのものに含まれるカロリーは身体に脂肪としては貯まりません。

しかし、通常我々の身体は体温を維持するために脂肪を燃やしていますが、飲酒するとアルコールがその座を奪い、本来燃やされるはずだった脂肪が残ってしまいます。全体として見るとアルコール摂取は脂肪をつける結果になります。特に肝臓や内臓脂肪を増やす傾向が強くなります。
いうまでもありませんが、減量中の方は飲酒をしないほうがベターです。

図4:アルコール飲酒と脂肪の関係。参照より引用。
アルコールが燃えると本来使われるはずだった脂肪が身体に蓄積する。

▷二日酔いでのライドはとても危険

二日酔いでのライドはとても危険

飲んだ翌日に襲ってくる二日酔い。二日酔い状態でも血中アルコール濃度が下がっているのであれば、法律上自転車に乗ることは問題ありません。しかし、二日酔い状態は認知機能、運動機能(特にバランス能力)の低下を引き起こします。

興味深い研究をご紹介します。
自転車乗りを集めて夜通しパーティーをし、そのあと二日酔い状態で自転車に乗らせるという奇天烈な研究です。ちょっと参加したくもなるこの研究ですが、結果として二日酔い状態は酔っぱらっている時同様、転倒が増えることが報告されています。

図5:運転能力と血中アルコール濃度、および二日酔いとの関係。参照より引用。
黒い点は二日酔い状態の成績。酔っ払い時の赤い点同様に自転車運転能力が低下する。

翌日にライド予定なのであれば、二日酔いを起こさない量にとどめておくべきです。

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参考文献
厚生労働省HP, 飲酒とJカーブ https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-03-001.html
東京都福祉保健局:https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/joshi-kenkobu/insyu/02/

Alcohol use and burden for 195 countries and territories, 1990–2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016, The Lancet, 1015-1035, SEPTEMBER 22, 2018

Relationship between General and Sport-Related Drinking Motives and Athlete Alcohol Use and Problems, Addict Behav. 2013 Dec;38(12):2930-6

Alcohol, athletic performance and recovery, Nutrients. 2010 Aug; 2(8): 781–789.

Hartung B, Schwender H, Mindiashvili N, Ritz-Timme S, Malczyk A, Daldrup T. The effect of alcohol hangover on the ability to ride a bicycle. Int J Legal Med. 2015 Jul;129(4):751-8. doi: 10.1007/s00414-015-1194-2. Epub 2015 May 5. PMID: 25940454.

Alcohol Consumption, Athlete Identity, and Happiness Among Student Sportspeople as a Function of Sport-Type
Jin Zhou, et al, Alcohol Alcohol 2015 Sep;50(5):617-23

これまでの記事はこちら
第1回 サイクリストと情報リテラシー」
第2回 FTPを信じていいのか?
第3回 FTPとどう付き合っていくか
第4回 TSS700の呪い
第5回 HRV 心拍数でわかるコンディション
第6回 ゆるポタで強くなる? 注目のPolarized Trainingとは
第7回 時間がなくても強くなれるインターバルトレーニングの極意
第8回 「キツイがこうかはばつぐんだ」インターバルトレーニングの組み立て方
第9回 誤解されている乳酸
第10回 糖を制するものは補給を制する
第11回 タンパク質との濃厚な関係

第12回 サイクリングサイエンス コラム第十二回/結局は普通が一番な脂質
第13回 第十三回/強者必睡の理をあらはす
第14回 え? 私の起床時間早すぎ?
第15回 筋肉の冷静と情熱の間
第16回 心身暑慣すれば夏もまた涼し

第17回 君子の飲料は淡きこと水の如し
第18回 花は半開を看、水は適量を飲む
第19回 健全な精神は何処に宿る?
第20回 体動けば食指動かず


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