2020年08月31日
【日本縦断ギネスレコーズチャレンジ】スペシャライズド S-WORKS ルーベ チーム 機材レビュー/前編
日本縦断を支えたバイクは高岡さん自身がセレクトしたもの。そして実際に組み付けを行ったCUBさんこと、鏑木裕さん(RX BIKEメカニック)は機材導入までの経緯などを、こと細かに記録していました。どんな経緯で選ばれたのか。その全貌をお伝えします。
【前編】
①フレーム:スペシャライズド S-ワークス ルーベ・チーム
②ハンドル回り:プロファイル・フリップ/エルゴ/50A
③バーテープ:スペシャライズド・S-WRAP ルーベテープ
④サドル:スペシャライズド・パワーミラー
⑤メインコンポ:スラムRED AXS 1×12
【後編】
⑥ホイール・ロバール ラピーデCLX
⑦タイヤ:コンチネンタル・グランプリ5000クリンチャー(28C)
⑧ペダル・ルックKEOブレードカーボンセラミックTi
⑨フェンダー・SKSスピードロッカー
⑩ライト:ガーミン・UT800&RTL515
⑪そのほか:ロックタイト(中強度)などケミカル類
後編はこちら
高岡の日本縦断ギネスチャレンジにおける使用機材に関して記しておきたい。
ベースにしたフレームは、スペシャライズドのエンデュランスバイク、ルーベ。その〝S-WORKSチーム〟グレードをベースにして、スラムコンポーネント、ロバールホイール、コンチネンタルタイヤなどで組み上げている。
細部のディテールまでに及ぶ機材選択の基本となる考えは、トラブルとなる要素をできる限り排除しつつ、長距離をイーブンの低出力(およそ180~200w)を維持した際に、バイクに体を安心して委ねられるかどうかである。
①フレーム:スペシャライズド S-ワークス ルーベ・チーム
ペシャライズドのルーベは、乗り心地の良さを追求した長距離ライド向けモデル。優れた直進安定性、32cの極太タイヤも装着できる余裕、そして細かな振動を除去する〝フューチャーショック〟を搭載していることが特徴となっている。
高岡の選択肢としては、このほかにもスペシャライズド・ターマックSL7や同ヴェンジ、ジャイアント・TCR、スペシャライズドのタイムトライアル用バイクであるシブTTなども挙げられたが、最終的にルーベをチョイスしたのは乗り心地の良さにつきる。体に疲労を蓄積させにくいだけでなく、疲労した状態でのコントロール性を考えたのだ。
また、タイムトライアル向けのエクステンションバーを装着しているが、この〝TTポジション〟では上半身の体重をハンドルへ載せることになる。通常では前輪に加わった振動がそのまま肘から肩へ伝わることになるが、ヘッドパーツ部に内蔵されたフューチャーショックがすばらしい乗り心地を実現したことで、長時間にわたってこの超前傾フォームを維持できることとなった。
なお、〝チーム〟というグレードは短めのヘッドチューブ長が特徴となっており、低いハンドル位置と強めの前傾姿勢が実現しやすいのが特徴。普段、ターマックやTCRで練習を積み重ねている高岡にとって、慣れ親しんだライディングフォームが取りやすくなっている。
高岡さんのコメント「このチームは通常モデルよりもヘッドチューブが短くできる。 今メインで乗っているロードバイクと同様のポジションが再現できるのが最大のメリット。フューチャーショックによって従来のフレームよりも快適性が高い。スムーズな路面なら上りごとにロックして、 頂上でリリースをして、という活用を行った。またDHポジションでもフューチャーショックを用いることができた。
②ハンドル回り:プロファイル・フリップ/エルゴ/50A
フューチャーショックに関しての下りでハンドルの話題になったため、そこにも触れておこう。ハンドルバーはスペシャライズドのアルミ製ドロップバー(シャロー)をベースにして、プロファイルのTT(タイムトライアル)&トライアスロン向けエクステンションバーのフリップ/エルゴ/50Aを追加している。これは郊外平地の直線セクションにおいて、強い前傾フォームを維持することで体が受ける空気抵抗の軽減を目的としたものだ。肘を乗せるパッドには跳ね上げ式を組み合わせることで、登坂時に〝上ハン〟を握ることも可能にしている。
なお、ブレーキブラケットを握るノーマルポジションとTTポジションでは骨盤の傾斜角が大きく異なることとなるが、これを可能にしたのがシェル全体のクッション性に優れるスペシャライズド・パワーミラーサドルであった。TTポジションにあるような『超前傾フォーム』であっても、デリケートゾーンへの局所的な圧迫が回避されるのだ。
高岡さんのコメント「2600kmと長い道のりなので、より多くのハンドルポジションが選びたい。コースは平坦基調の場面が多い。このDHポジションによって平地の巡航速度は1~2キロは変わっただろう。ハンドルの上を持ちたいゆえに、アームレストは跳ね上げ式にした」
③バーテープ:スペシャライズド・S-WRAP ルーベテープ
カーボンバーにはXTRM(エクストラム)の薄手バーテープを巻くケースが多い高岡ではあるが、今回のチャレンジではルーベテープを使用した。優れたクッション性と高い摩擦が特徴で、ハンドルバーに巻くだけで乗り心地が向上する。とりわけ上ハン部分は重ねしろを多めにとり、手のひらへのストレスを少しでも減らすよう心がけた。
TTバーの先端には、スラムのシフトスイッチとSHAKES・pistola(シェイクス・ピストーラ)グリップを装着。シェイクスは指関節がしっかりと掛かってくれるため、余分な握力を使わなくとも力強いペダリングが維持しやすくなる。
④サドル:スペシャライズド・パワーミラー
全長240㎜という短さで、ペダリングパワーを引き出しやすい前乗りポジションを実現したのがパワーサドルであったが、それをベースに座部全体を3Dプリンターで製作したのが〝ミラー〟というバージョン。3Dプリンター化によって、優れたクッション性がもたらされ、低出力ペダリングによる『どか座り』でもお尻が痛くなりにくくなっている。クッション性の向上だけならば今までもGEL素材があったものの、ヘヴィーな重量がデメリットとなっていた。ミラー化によって、軽量性と乗り心地が両立されたことになっている。
⑤メインコンポ:スラムRED AXS 1×12
高岡のバイクへ対するフィロソフィーのひとつに、「使わないものは装着しない」というものがある。今回のチャレンジにおいては、インナーギヤがその最たるモノである。
チャレンジ2週間前に、スラムの1×12コンポであるRED AXSで群馬CSCでの実業団レースを走っているが、E1クラスにおいて終盤まで積極的に集団を引く走りを展開していた。起伏のあるレースコースであってもインナーギヤが不要であることを確認していたので、たとえ2600㎞のライドであっても登坂斜度7%程度までであればアウターギヤのみで行けると判断していた。
群馬CSCの時と同様に、ギヤはフロント50T/リア10~33Tを選択。また、シフトスイッチは通常のブレーキレバー部に加えて、TTバーの先端にも追加している。
高岡さんのコメント「ケイデンスを調整して走れるので、ローギアのワイドレシオは気にならない。フロントは50Tを使用。一番使ったギアは15~17T。トップギアはほとんど使わなかった。下り? 時速60km出ている時、そんなときはエアロの方がむしろ重要だろう」
高岡が今まで培ってきたワンデーレースやロングライドでのノウハウを元にしたフレーム&パーツセレクトは、このように細部に渡るまで強いこだわりが宿っており、その結果は2600㎞を走行した後も「機材は完璧だった。体のダメージはほとんどない。脚はまだまだ動くし走れる」と言うほどであった。
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写真:辻 啓、山本健一
文:鏑木 裕(RX BIKE)
著者プロフィール
山本 健一やまもと けんいち
FUNRiDEスタッフ兼サイクルジャーナリスト。学生時代から自転車にどっぷりとハマり、2016年まで実業団のトップカテゴリーで走った。自身の経験に裏付けされたインプレッション系記事を得意とする。日本体育協会公認自転車競技コーチ資格保有。2022年 全日本マスターズ自転車競技選手権トラック 個人追い抜き 全日本タイトル獲得