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2023年02月22日

才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅”第十五回 / 自転車で踏み込む世界遺産の森 奄美大島・加計呂麻島

まさにジャングル。日本中を走っている私だが、沖縄でもここまで深い森をロードバイクで経験したことはない。

冬でも基本的にレッグウォーマーを付けずに走ることのできる北限は奄美大島だろう。

寒いことが嫌いな私はリモートワークを武器に冬は南へ逃げようと決めていたが、日本の南部には島しかなく、走りごたえのある場所は正直言って少ない。沖縄本島に次ぐ面積を持つ奄美大島は魅力的で、ずっと訪れたいと思っていた。

ちょうど奄美大島で仕事が入ったこともあり、2週間以上に渡ってこの島にどっぷり浸かることになった。

INDEX

▷日本のジャングルを走る


▷トンネルの有効活用を!


▷「シマ」を体感する


▷加計呂麻島にショートトリップ


▷神様のドリンクで超回復!


▷冬に奄美大島という選択肢

固有種の多く住む奄美大島。みんなで道を譲り合おう。

▷日本のジャングルを走る

荒れた林道。シダ植物などの巨大な植物が生い茂り、林道が呑み込まれていく。まるでひょこっと恐竜が現れそうな雰囲気があり、常に生き物の気配を感じる。

奄美大島と徳之島の固有種かつ絶滅危惧種であるアマミノクロウサギの糞はそこら中に散乱している。鳥たちは自転車に驚いて一斉に羽ばたいていく。何度も見たのは琉球猪。目の前を横切ることが何度もあった。

呑み込まれつつある林道。木々が張り出してきて道幅はかなり狭まる。
糞はそこら中で見かけるが、アマミノクロウサギと出会うことはできなかった。

奄美大島が、徳之島や沖縄本島北部、西表島とともに「世界自然遺産」に登録されたのは2021年。奄美以外の登録地域の全ての島を走ったことがあるが、自転車で世界遺産の森を味わうことができるのは林道の多い奄美大島が一番かもしれない。

ぜひ国道や県道から逸れて、林道に踏み込んでほしい。ただ、危険なことも確か。安全運転はもちろん、最低限のテクニックや自分の力量を把握しておくことは必須だろう。時間が経つほどに道が荒れていくことが想像できるので、楽しむなら今だと思う。

▷トンネルの有効活用を!

島の中部から南部のエリアはとにかく山がちな地形。中部に位置する最大の町「名瀬」から南部の町「瀬戸内」に向かう国道58号は長いトンネルが連続する。

名瀬を出て、2km前後のトンネルを3つ越えると、最後に最も長い4.2kmに及ぶ網野子トンネルを抜けて瀬戸内にたどり着く。

全てのトンネルの上には旧道の峠道が走っている。荒れている道も多く、標高差も300m前後と結構なボリュームがある。

上りたい峠は旧道を、それ以外はトンネルを活用することでライドの幅がグッと広がるだろう。歩道がないトンネルもあるので安全運転で走りたい。綺麗な路面でボリュームが最大の「網野子峠」と、荒れた路面でジャングルに飲まれゆく「三太郎峠」がおすすめだ。

綺麗な路面、350mを越える標高差、7%を越える平均勾配。
網野子峠はヒルクライムを楽しむには最適。
深い森の中を進む三太郎峠。走行にあたっては、路面に十分の注意が必要。

▷「シマ」を体感する

基本的に三方を山、残りを海に囲まれた奄美の集落は「シマ」と呼ばれていたらしい。まさに陸の孤島である。

これを身をもって経験するには、ぜひトンネルではなく旧道を選ぼう。大きな上りを越えた先に、小さな小さな集落が現れる。すぐにまた次の上りが始まる。トンネルがなかった頃はどれだけ移動が大変だったのだろうかと想像する。

急勾配の旧道を走ってこそ、なぜトンネルが多いのか理解できるし、トンネルでのワープ感も楽しめる。

4.2 kmにも及ぶ網野子トンネル。歩道もないので注意して走行したい。

▷加計呂麻島にショートトリップ

瀬戸内からフェリーで20分ほど。大島海峡を渡った先にあるのが加計呂麻島だ。

奄美大島の南部と、この加計呂麻島にはトンネルが通る前のこの島々の本来の姿が残っているといっても良いかもしれない。

この島の南西海岸は10%前後の勾配のキツイアップダウンが続き、路面も悪い。裏返しのグレーチング、苔、穴、倒木、落ち葉、工事。平坦な道はほとんどないし、下りはかなり注意が必要で、猪の飛び出しも多い。

昔からこの島では、大きなガジュマルの木を囲むように神への祈りの場ができて、その周りに集落ができたらしい。

どうせ速く走るのが難しいこの島。ゆっくり走りガジュマルの木の下でちょっと足を止めてみてほしい。大木のもつ包容力をこれでもかと感じることができる。今回もガジュマルの木の下に移動販売のカフェが出ていて、地元の人が談笑している場面に出会った。今でも生活の場の中心にはガジュマルの大木があるのだなということがよくわかった。

包容力のある大きなガジュマル。

▷神様のドリンクで超回復!

ライドのお供としてぜひ試してほしいのが「みき」だ。

米、白糖、さつまいもが原料の発酵飲料で、酸味の強いヨーグルトと甘酒の間のような味わい。強い濃度のドロッとした舌触り。正直言うと苦手な人も多そうではある。

100 gで90 kcal、脂質はほぼ0で少量のタンパク質を含む。良質な天然素材の栄養ドリンクだ。

元々は神事の際のお供え物だったらしい。神様も愛飲する栄養満点のドリンク、クセのある味だがぜひトライしてみてほしい。

島のスーパーや地場産品の直売所ですぐに見つけることができる。

▷冬に奄美大島という選択肢

南の島といえば沖縄。奄美大島を訪れたことのある人は極端に少ないだろう。沖縄のようなリゾートの華やかさはないかもしれないが、走りがいのある深いジャングルを全身で感じ、奄美群島でしか製造できない黒糖焼酎や、名物の鶏飯を味わい、島独特の文化に浸る。

奄美名物の鶏飯。鶏肉や錦糸卵を乗せたご飯に鶏がらスープを注いでいただく。

鹿児島や沖縄からのフェリーの他に、東京や大阪からは飛行機でのアクセスが可能。もちろん直行便だ。次回の南国の行き先候補に「奄美大島」を加えてみてはどうだろう?

何もない贅沢なひと時を。

才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅” 連載中
第一回 プロローグ
第二回 旅の流儀
第三回 フェリーで広がる可能性 ~奄美群島~
第四回  自転車で訪れる八重山諸島
第五回  出発の地、目的の地、それは『レース』
第六回  東北沿岸を走る 東日本大震災から11年
第七回 ワーケーション自転車旅の装備
第八回 仕事の合間にライド。ライドの合間に仕事。
第九回 地域のシンボルとして愛される山
第十回  北海道 太平洋岸を行く3日間 600km
第十一回 自転車で楽しむ神話の土地 島根・鳥取
第十二回 上ったら食べる 旅の途中に立ち寄りたいご当地ラーメン
第十三回  全国のサイクリストと一緒に走る、STRAVAセグメントアタックという形
第十四回 離島時間に浸る ゆっくり走るという贅沢

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