2023年02月03日
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅”第十四回 / 離島時間に浸る ゆっくり走るという贅沢
INDEX
▷「越冬」目指すは南の島
▷美しい珊瑚礁に囲まれた「多良間島」
▷沖縄本来の空気が流れる「伊是名島」
▷No Attackの贅沢
▷「越冬」目指すは南の島
35℃を超える暑さは苦にしない、むしろ好きな私だが、寒さにはめっぽう弱い。この冬は南へ逃げようと以前から決めていた。
私の仕事はアスリートを相手にする業務が多くあるので、冬に暖かい地域で行われるトレーニングキャンプを訪問することもある。
そんな中、宮古島での仕事が入った。こうして私は12月中旬、冬本番の空気に呑み込まれつつある東京を後にして沖縄へと飛んだ。
私は今回沖縄でたくさんの島々を訪れた。
宮古島(伊良部島、下地島、来間島、池間島)、沖縄本島(屋我地島、瀬底島)、阿嘉島(慶留間島、外地島)、渡嘉敷島、座間味島、久米島、伊江島、伊平屋島、伊是名島。
*()は橋で渡ることのできる島
今回はこれらの島の中でも普段なかなか訪れることがないであろう2つの島を紹介しようと思う。
▷美しい珊瑚礁に囲まれた「多良間島」
多良間島は宮古島と石垣島の間に浮かぶ楕円形の小さな島である。宮古島からフェリー、または飛行機でアクセスできる。
日帰りで楽しもうとすると、フェリーでは滞在時間を確保することが難しく、今回は飛行機を選んだ。プロペラ機は船とはまた違った非日常感があり心が躍った。
多良間空港に到着すると宮古島地域の交通安全を守る「宮古島まもる君」が出迎えてくれた。まもる君は全20人の兄弟。そのうち19人は宮古島本島や橋で繋がった伊良部島に設置されているが、1人だけ多良間島の交通安全に目を光らせている。
安全なライドを守ってくれていることを彼に感謝してから、まずは島を1周してみる。15 km程度ですぐに走り終わってしまう。
続いて最高標高地点「八重山遠見台」を目指す。標高34mほどの丘とも言えない高台だが、展望台は立派で遠く石垣島まで見通すことができる。珊瑚礁が隆起してできたこの島がどれだけ平べったい地形をしているか良くわかる。
自転車でもすぐに走り終わってしまう小さな島。ここからが離島の醍醐味だと思っている。やることが無くなってから本当の意味でゆっくり時間が流れ始めるのである。
さとうきびは収穫の真っ最中。よく積荷満載のトラックに出会う。
走っていると平仮名に馴染みのない「°」が付いている標識を何度も目にする。この島特有の言語について解決するために「ふるさと民俗学習館」へ向かった。
博物館にはこの言葉に関する説明書が置かれていて、職員の方は丁寧に、実際に声に出して発音してくれた。私の知る日本語にはない発音で、それを日本の仮名に「°」を付けて表現していることが面白い。こうして知った新たな発音を、今度は標識を目にする度に声に出してみたりする。
「リ°」、「ハ°」、「イ°」、声に出そうとしてもできない。何と読むのだろうと気になって仕方がなかった。
もう一つ紹介したい場所がある。島でも一際目を引く新しい建物「すまぬむたらま」。
食事やカフェのできる観光拠点のようなところで、WiFi完備のコワーキングスペースを備えている。コインロッカーもあるので、日帰りの人はまずここに来て荷物を預けるとグッとフットワークが軽くなるだろう。
今回は休みを取って島を訪れたので、ワーキングスペースを使うことはなかったが、こんなことなら一泊して離島での仕事時間も味わいたかったな、と思ったりした。それはまた次の機会に。
コワーキングスペースを備えた「すまぬむたらま」。売店で買った商品の飲食も可能。
プロペラ機で多良間島を後にする。上空からはバリアリーフがよく見える。
▷沖縄本来の空気が流れる「伊是名島」
続いて紹介したいのは、沖縄本島の本部半島にある運天港からフェリーで1時間弱の洋上に浮かぶ伊是名島である。
私が初めて沖縄を訪れた2015年。名護のゲストハウスに滞在していた時に、伊是名在住の方がフェリーが欠航になって急遽泊まりに来た。その時に聞いた話の中には、島特有のゆったりした空気感や人の優しさが感じられて、この島に興味を持つきっかけになった。
また、この島は原田マハさんの小説「カフーを待ちわびて」の舞台となった島でもある。小説を読んでからはイメージがさらに膨らみ、この冬は絶対に訪れようと決めていた。
伊是名島へはフェリーで到着。輪行しても手荷物扱いにはならず自転車料金がかかるので、そのまま乗船すると良いだろう。
午後遅くにフェリーで島に上陸するとまずは一周。やはりあっという間に周り終わってしまった。しかし美しい海岸線や、想像通りのさとうきび畑の中に沈む夕日を見てすぐにこの島に魅了された。
さとうきび畑の夕日。島では太陽もいつもよりゆっくり沈んで行くように感じてしまう。
伊是名島が他の離島と全く異なるのは観光地化が進んでいないことだ。サンゴを積み上げた石垣、高さの低い平家建ての一軒家、一面に広がるさとうきび畑。人が多く住んでいる印象があり「生活感」が強く感じられる。コンビニも存在しないこの島には昔の沖縄そのものが残っているような気がしてならない。
ずっとこんな雰囲気が残っていてほしい、と思うのは1人の観光客としてのわがままであるが、そう願ってしまうほどに魅力的な時間が流れている。
伊是名山森林公園から海に向かってダウンヒル。ピラミッドのように形の整った伊是名城跡が青い海に映える。
(写真)琉球王国、第二尚氏王統の初代国王である尚円王(しょう えんおう)は伊是名島の出身。島内には重要文化財の墓もある
▷No Attackの贅沢
今回紹介したこの二つの島には、この記事を書いている時点でSTRAVAのセグメントが一つも無い。そういった意味でも私のようなついついKOMに向かってアタックしてしまう病に罹った人間にとっては本当の意味でゆっくりできる島であった。
次回はもっともっとゆっくりと、何もやることがない、贅沢な島時間を味わいに来ようと思う。
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅” 連載中
第一回 プロローグ
第二回 旅の流儀
第三回 フェリーで広がる可能性 ~奄美群島~
第四回 自転車で訪れる八重山諸島
第五回 出発の地、目的の地、それは『レース』
第六回 東北沿岸を走る 東日本大震災から11年
第七回 ワーケーション自転車旅の装備
第八回 仕事の合間にライド。ライドの合間に仕事。
第九回 地域のシンボルとして愛される山
第十回 北海道 太平洋岸を行く3日間 600km
第十一回 自転車で楽しむ神話の土地 島根・鳥取
第十二回 上ったら食べる 旅の途中に立ち寄りたいご当地ラーメン
第十三回 全国のサイクリストと一緒に走る、STRAVAセグメントアタックという形
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著者プロフィール
才田直人さいた なおと
1985年生まれ。日本中、世界中を自転車で旅しながら、その様子を発信する旅人/ライター。日本の上るべき100のヒルクライムルートを選定する『ヒルクライム日本百名登』プロジェクトを立ち上げて、精力的に旅を続ける傍ら、ヒルクライムレースやイベントにも参加している。
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