2022年10月22日
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅”第十一回 / 自転車で楽しむ神話の土地 島根・鳥取
INDEX
▷神様が引き寄せた半島
▷中国地方を代表する二つの独立峰
▷絶景の連続 島根半島
▷出雲大社だけではない神社の数々
秋の訪れ
神無月と呼ばれる10月。八百万の神がある一箇所に集まるために、各地の神様が不在の1ヶ月となることに由来する(諸説あり)。そして全国で唯一、神在月と呼ばれ神様が集まる地が島根県の出雲である。
残暑が落ち着き、秋の深まりを感じるようになる10月。私の旅の目的地は季節が早く進む東日本に別れを告げて、西日本に舞台を移す。この時期にちょうど広島で出張が入ったこともあり、山陰まで足を伸ばすことにした。
▷神様が引き寄せた半島
今回取り上げるのは島根県東部と鳥取県西部。島根半島を中心とした地域である。
日本最古の文字の記録としては「記紀」と呼ばれる古事記や日本書紀が有名だが、島根県の出雲には同時代の出雲国風土記という古文書が存在する。
出雲国風土記の中に「国引き神話」という話がある。この地の神様である八束水臣津野命(やつかみずおみつぬのみこと)が国を作るにあたって、出雲国は小さすぎるので海の向こうの各地から土地を引っ張ってきて継ぎ合わせた、という話である。こうしてできたのが島根半島だ。
私は地質学科で一応大学院まで卒業しているのだが、それは一旦置いておこう。
▷中国地方を代表する二つの独立峰
八束水臣津野命が土地を引っ張るための縄を固定するために杭を立てた。東に立てた杭が「大山」、縄が「稲佐の浜」。西に立てた杭が「三瓶山」、縄が「弓ヶ浜」である。
この杭にあたる2つの山は共に、遠くからでも目立つ独立峰である。そう、私にとっては自転車で上るべき山ということになる。
大山は多くのルートが存在し、標高差も1000mに迫る大きな上りである。
どの方角から見るかによって、これほどまでに印象の変わる山は少ないのではないだろうか。西側から見ると富士山のような整った美しい姿を見せてくれる。一方で北側や、特に南側からは切り立った巨大な断崖を押し出して迫ってくる。そしてどこから眺めても大山は圧倒的な存在感でいつも変わらずそこに鎮座している。
その山容と同様に、複数あるルートも勾配や道の整備状況、景観、本当に多様で何度登っても新たな発見がある。
三瓶山は大山に比べると規模は控えめではあるが、標高600mほどを走る周遊道路がある。開けた空、広がる草原、まっすぐ緩やかにアップダウンしながら続く道。
日本百名山を記した深田久弥の言葉を借りると、「中国地方は顕著な峰が少ない。たいてい似たような形である。個性的なのは、大山と島根県の三瓶山、この二つの火山だけである。」というように、大山と並ぶ中国地方を代表する山に違いない。
その広大な景色に思わず足を止めて写真を撮りたくなる。そして写真ではその開放感を伝えきれないことに気がつき、少し残念な気持ちになる。とにかく清々しい満足感に満ちたルーを、あなたの目で実際に確かめてほしい。
絶景の連続 島根半島
そして島根半島自体も非常に素晴らしいサイクリングルートと言って良いだろう。半島中央には東西に山脈が走り、300m前後の標高差の上りが南北に無数に通る。市街地に近い南側からピストンで楽しんでも良いし、絶景の海岸線が続く北側に抜けて、また他の上りを走って南側に戻るようなハードなライドを楽しんでも良いだろう。
ひとつおすすめを上げるとしたら、枕木山だろうか。比較的激坂の多い島根半島の中では緩斜面かつ勾配が安定している。松江からのアクセスが良く、フィニッシュにはトイレや駐車場もあるので幅広いレベルのサイクリストが登坂を楽しめる。
そして何よりも上りのフィニッシュから少し足を伸ばした華蔵寺の展望台から望む景色が素晴らしい。眼下に広がる中海、そして西側の杭と縄となった大山と弓ヶ浜半島が一望できる絶景に登坂の疲労も吹き飛ぶはずだ。
▷出雲大社だけではない神社の数々
もちろん神話の土地だけあって神社が多い。最も有名なのは出雲大社だろう。大きなしめ縄が映えるこの神社には多くの観光客が集まるが、その他にも訪れたい神社が多くある。
松江市街地からすぐ訪れることのできる国宝の神魂神社や、島根半島の西端に位置する日御碕神社、東端に位置する美保神社。
多くが素戔嗚尊(すさのおのみこと)や大国主命(おおくにぬしのみこと)といった神話でよく知られた神様と深い関わりのある神社である。この地を訪れるのであれば、その前に「記紀」を読んでから訪れてほしい。きっと何倍も楽しめるはずだ。
そうすることで神社はサイクリングの目的地になるし、事実、私も初めて訪れた2018年に比べて、少し知識を持って訪れた今回は全く充実度が違った。あまり踏み込むと話が終わらなくなるので今回はこの辺りでやめておこうと思う。
最後になるが、神在月は本来は旧暦の10月、現在の暦では11月にあたる。この記事を読んだ後に、私が今回紹介したこの地域を訪れると、神様たちと出雲の地で出会うことができるかもしれない。
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅” 連載中
第一回 プロローグ
第二回 旅の流儀
第三回 フェリーで広がる可能性 ~奄美群島~
第四回 自転車で訪れる八重山諸島
第五回 出発の地、目的の地、それは『レース』
第六回 東北沿岸を走る 東日本大震災から11年
第七回 ワーケーション自転車旅の装備
第八回 仕事の合間にライド。ライドの合間に仕事。
第九回 地域のシンボルとして愛される山
第十回 / 北海道 太平洋岸を行く3日間 600km
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著者プロフィール
才田直人さいた なおと
1985年生まれ。日本中、世界中を自転車で旅しながら、その様子を発信する旅人/ライター。日本の上るべき100のヒルクライムルートを選定する『ヒルクライム日本百名登』プロジェクトを立ち上げて、精力的に旅を続ける傍ら、ヒルクライムレースやイベントにも参加している。
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