2022年10月01日
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅”第十回 / 北海道 太平洋岸を行く3日間 600km
サイクルロードレースの世界に身を置く才田さん。レースではクラッシュ(=落車)といったトラブルは避けては通れないもの。先日のレースで落車に見舞われた才田さん。シーズンの計画が狂ってしまい、ライフワークともいえるワーケーションにも影響がありました。怪我の療養期間をへて旅の再開です。
INDEX
▷ワーケーション旅の再開
▷1日目 襟裳岬へ
▷2日目 釧路へ
▷3日目 最東端へ
▷日常が戻ってくる気配を感じて
▷ワーケーション旅の再開
レース中の落車の怪我による1ヶ月半の療養期間を終えて、再び乗り始めて2週間。実走への不安がなくなってきたタイミングで急遽、北海道出張が入った。
気付けば宿も決めずに、前乗りのために千歳行きの飛行機に乗っていた。体力はまだ本調子とはいかないが日常が戻ってきた。
千歳での仕事を終えて、東へ進むことに決めた。普段は山を走る傾向のある私だが、怪我明けでまだ体調が整わない。平坦を坦々と距離を踏むために北海道の長い海岸線は最適だ。
▷1日目 襟裳岬へ
千歳から太平洋岸の苫小牧に出て海岸線を南東へ進む。
まずはベーカリー&カフェ「勇輪」を目指す。昔のチームメイト、小橋勇利くんのご両親が営むお店だ。
お店にはたくさんのジャージやトロフィー、写真が並ぶ。彼が史上初の高校生優勝を果たしたジャパンカップオープンレースの写真にはガッツポーズの小橋くんの後ろでもがく私の姿も。
ご両親と当時の話をしているとあっという間に時間が過ぎる。しかし、まだ200km近いこの日の行程のうちの60kmにすぎない。先は長いし、何よりも次から次にお客さんが来店するのでお店も忙しい。心身共に満充電して再スタートした。
襟裳岬までの海岸線は優駿ロードと呼ばれる競走馬の産地。次々と牧場が現れる。
道の駅「サラブレッドロード新冠」には名馬の碑が並び、“三冠馬”ナリタブライアンの小さな資料館もある。
そして珍しいレコードの博物館が併設されている。蓄音機の歴史が学べて大量のレコードを所蔵していた。シアターでは20分間、国内最大級のスピーカーでリクエストの曲を聞かせてくれる。しばし目を閉じて、重奏的な音に浸り一休みすると良いだろう。長いルートの最高のアクセントになった。
そして、寄り道し過ぎて遅くなった私を、この日のゴールの襟裳岬は最高の夕日で迎えてくれた。
▷2日目 釧路へ
黄金道路と呼ばれる襟裳岬から広尾まではトンネルが多い。覆道も含めると空の下よりコンクリートの下を走っていることが多いのではないだろうか。
一番長い黄金トンネルは5キロに迫る北海道最長の道路トンネル。黄金海岸の入り口の展望台で写真を撮っていると工事現場のおじさんに声をかけられて、トンネルの名前と長さが刻まれている反射板をくれた。
憂鬱な長いトンネルも予想外のお土産をもらったことで楽しいイベントになった。反射板を腕に巻いて安全に走破することができた。
この日は有給を取っていたが、日中に出席したいミーティングが入っていた。その場所に選んだのはナウマンゾウ公園の道の駅。
このオンラインミーティングが長引いた。残り110キロ。日没まで3時間40分。平坦基調で信号がほぼ無いので軽快に進むが、ミーティングが長引いたことで、その前に食べた昼飯から時間が開いて空腹に。しかしここは北海道。とにかくお店がない。
やっとのことで見つけた厚内の商店で菓子パンを食べて回復し、無事日没前に到着することができた。北海道では常に背中に補給食を。
▷3日目 最東端へ
釧路から根室へは太平洋岸に沿って走る北太平洋シーサイドラインがおすすめだ。標高差100メートルに満たない小さなアップダウンを繰り返すこのルートは断崖や牧草地、湿地帯と変化に富んだ風景が次々に現れる。
この海岸線は牡蠣の有名な産地である。昆布森の直売所に立ち寄った。なんとLLサイズが180円。一個から購入できて、おばちゃんがその場でナイフで開いてくれる。
信じられないほど大ぶりな牡蠣はクリーミーで旨味が強く磯をそのまま食べているよう。直売所のおじさんも「美味しかったか? ここの牡蠣は評判が良いから」と自信が溢れていた。
絶景の連続だが、ひとつ挙げるとすれば霧多布岬だろう。抜けるような青空の中、岬がまるで大海原に飲み込まれて行くように姿を消していく。
ここで初めて野生のラッコを見た。海にプカプカと浮いている黒い塊が見えるが、肉眼だと厳しい。望遠鏡で観察していたおじさんに、ちょっと覗かせてもらうとその姿がはっきりと見えた。いろいろな動物に出会ってきたがラッコは初対面だった。
そして東へ東へ進んできて、目の前には海しか無くなった。今回の旅の終着点、日本最東端の納沙布岬。
この先の洋上には北方四島がある。今は自由に行き来できないその島々が、はっきりと目の前に見える。
なんにせよ今回のゴールは、自転車で到達できる日本最東端。自転車の楽しみの原点は長距離を移動することにある。そう強く再認識した旅になった。
▷日常が戻ってくる気配を感じて
根室で宿泊したゲストハウスで、久々に軽く飲みながら旅人達と話す機会があった。コロナ禍で忘れかけていた大事な時間だった。
北海道という広大な土地は、「平坦基調でじっくり、絶景を見ながら距離を乗りたい」という要求に完璧に応えてくれた。最高の天気と、久々の旅人との交流というプレゼントを添えて。
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅” 連載中
第一回 プロローグ
第二回 旅の流儀
第三回 フェリーで広がる可能性 ~奄美群島~
第四回 自転車で訪れる八重山諸島
第五回 出発の地、目的の地、それは『レース』
第六回 東北沿岸を走る 東日本大震災から11年
第七回 ワーケーション自転車旅の装備
第八回 仕事の合間にライド。ライドの合間に仕事。
第九回 地域のシンボルとして愛される山
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著者プロフィール
才田直人さいた なおと
1985年生まれ。日本中、世界中を自転車で旅しながら、その様子を発信する旅人/ライター。日本の上るべき100のヒルクライムルートを選定する『ヒルクライム日本百名登』プロジェクトを立ち上げて、精力的に旅を続ける傍ら、ヒルクライムレースやイベントにも参加している。
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