2022年07月04日
【第90回全日本自転車競技選手権】インタビュー 第三回 シエルブルー鹿屋 GM兼総監督 黒川剛さん / チームブリヂストンサイクリング監督 宮崎景涼さん / シマノレーシング監督 野寺秀徳さん
2022年6月26日(日)、 広島県中央森林公園サイクリングロードで行われた第90回全日本自転車競技選手権大会ロードレースにおいて、チーム監督や著名人にインタビューを行いました(第三回/全五回予定)。
▷シエルブルー鹿屋 GM兼総監督 黒川剛さん
▷チームブリヂストンサイクリング監督 宮崎景涼さん
▷シマノレーシング監督 野寺秀徳さん
▷シエルブルー鹿屋 GM兼総監督 黒川剛さん
「みんながファーストになる」を心がける
全日本選手権は国内最高峰の大会であり、広島は警察の交通規制なしで、距離も含めてこの規模の大会を開催できる国内唯一の会場(コース)だと思っています。
クローズドコースとしては修善寺や群馬も候補としてはありますが、全日本クラスとなれば広島しかないでしょう。 世界中の殆どのロードレースにおいてはタイトなコーナーなど「安全でない箇所」の設定が避けられず、広島にもそういう場所があるが、タイトな場所を安全に速く走り抜けることもロードレースの要素だし、勝敗を分ける要因になる。そのような観点から見ても広島は優れており、過去のレースでの完走率も低いことから、難易度の高い全日本にふさわしいコースだと考えます。
広島に頼るしかないのが現状
他の自治体等でも公道で1日だけなら開催できるかもしれないが、タイムトライアルなど複数の種目や各カテゴリーを含み、長期間(3~4日程度)且つ長時間にわたってレースを開催できる場所は、立候補地(誘致)が無ければ国内を見渡しても広島に頼るしかないのが現状です。
広島は周回コースなので地上からの補給ポイントを設けてもらっています。適度な距離で選手に接触できるし、機材交換もやりやすい。 クルマからのサポートよりも、現行方式は現実的で、これは安全面からだけでなく、運営面からも理にかなっている。加えてチームカーを入れるとなると、運営スタッフなど人員の確保など各チームの負担が増えるため、逆に各チームは助かる一面もあります。
海外のレースでしばしばみられるような、(暗黙の了解として)チームカーが誘導して、パンクなどのトラブルで遅れた選手を集団に戻すといった行為が仮にあったとしても、この広島のコースはアップダウンとコーナーが続くため効果は限定的である。この狭いコースをチームカーが選手を誘導して、他の選手や車両を縫って走ることは難しく逆に危ない。
仮にそういうケースが起きた場合も、この広島では(今走っている熟練した)ニュートラルカーがその役割を果たすことが、選手にとっては現実的ではないか。 今日のレースのように参加チームが多いと、選手集団を追えてサポートできるのは(抽選で選ばれた)前方の4~5チームくらいだろうし、残りのチームはレース状況も目視できず、トラブルにも対応できない後方待機の唯のドライブになる可能性が高いです。
広島のこのコースはハードなため集団から遅れる選手が続出する、基本チームカーは遅れ始めた選手達の後ろを走るようにコミッセールから指示をされるため、先頭(メイン)集団とチームカーの位置は更に離れることが容易に想像できる。 従ってトラブルが発生しコミッセールからチームカーへ無線連絡をもらっても、前の車両を抜ける場所が少ないことから簡単に選手には近づけず致命的な結果となる可能性が高くニュートラルカーでフォローしてもらい、必要ならチームピットで再度体制を整えることが現実的だ。 そういうことから客観的に考えても今回の広島はクルマを入れてサポートするコースではない。
仲裁機構の制度として利用されたかといえばそこは疑問
今回は、レースまでの限られた時間でJCFの判断にスポーツ仲裁機構も巻き込む事態になりましたが、仲裁機構にはもう少し時間をかけて冷静に(レギュレーションだけでなく、JCFや各チームからの)情報を集めた判断をすればよかった。 車両を入れるという意見は、運営面の安全性を(トータルとして)考えると「主催者の判断が正しい」という結果になった可能性は高いのではないかと思います。 しかし一度出た仲裁の判断は変えられません。
本来JCFは選手の多様な意見を反映するために仲裁の制度を取り入れる姿勢をもっています。しかし今回の一件が、選手とJCFの双方がロードレースをより良くしていく制度として利用されたかといえばそこは疑問です。
訴えたチームの意見が正当だとの仲裁の判断だったにしても、周囲のチームの意見としてはJCFの判断に問題を感じているチームは周囲にはありません。
今回の件では、女子レースがキャンセルされ他のチーム(選手)にも影響が出た。 この点では、全てのステークホルダーに理解される説明が欲しかったし、そもそも重要な全日本のレースをキャンセルすべきでは無かったと考えています。
一方でロードレースは公道で開催されることで住民にその魅力を訴求することも大きな役割であり、広島のようなクローズドコースを大事にしつつ、公道での開催も追求していかなければならないと思います。
開催地は持ち回りで
たとえば全国をブロックで分け複数の自治体を対象とした4〜5年に一回の開催持ち回り制度などを策定し、広島のようなクローズドコースを間に入れるなどして(フェデレーションの負担を減らしつつ)効率良く運用し、一般のファンを増やす取り組みにも注力しなければなりません。
しかし、警察や行政を巻き込むエネルギーを考えると、現在のJCFには負荷が高い。現実的に他のイベントと並行し全日本開催に向けて取り組んでいるエネルギーを考えると、なかなか現在のJCFへの批判はしにくいというのが個人的な意見でもあります。
また、私自身が2023年鹿児島国体などのレース運営に関与している視点からも、自転車競技の準備の大半はロード競技にとられる現実がある。トラックとロードでは準備の大変さで比較にならない。大会における準備は非常に重要で大切だ。我々選手サイドは多くの関係者が準備にかける労力へのリスペクトを忘れてはいけないし、私も大学生選手の指導者として、関係者へのあいさつ、接し方についてまできちんとした指導を心掛けてきたつもり。
「大会を開催したい」という人が減ってしまうと、レースが減り自分たちの首を絞めることになる。鹿屋体大では県内ローカルの小さいイベントだが、必ず学生も設営や撤去などを通じて運営の苦労を学ばせています。こうした活動を通じて学生も運営サイドの重要さを学ぶなど、相手の立場を考えられる選手に育っていく。このことが健全な競技発展には重要。 今回の件を含めレギュレーションだけの側面だけでなく、ロードレースを取り巻く様々な背景や現状も含めて、指導者が選手にきちんと説明をしなければならないと思います。指導者にとって競技の指導だけでなく、レースの環境を作ってもらう人々など、背景も含めて選手に伝えることも重要な役割でしょう。
「みんながファーストになる」を心がける
選手には「アスリートファースト」という言葉を勘違いしてはいけないということもよく言います。レースには自治体、スポンサー、住民、メディアなど様々な人々が関与している。何よりファンがいる。選手だけでなく関与するすべての人がより良くなることが重要です。「みんながファーストになる」を心がけ、それをとくに若い世代の選手に伝えることで、社会というものを知り、選手としての強さだけでなく、制度理解もできる選手の育成になっていくと考えて指導しています。
今回のトラブルは全日本選手権が舞台になってしまったけれど、全日本には優勝を狙う選手だけでなく、オリンピック選手ら日本のトップ選手と同じステージに立ち、働きながら完走を目的として出場する選手も少なくありません。そういったさまざまな選手の思いが寄せられたレースで、1カテゴリーのレースが開催できなかったことは残念。
このレース(女子)に向けて調整をしてきた選手を思うとJCFの判断は難しかったにせよ、キャンセルはすべき判断ではなかった。今回の判断は冷静さに欠いた、ということに尽きるのではないでしょう。 鹿屋からは中止になった女子レースに3名の選手が出場予定でした。国内の最高峰レースだけに残念。これは鹿屋だけでなくすべてのチーム、選手にいえると思います。
女子の育成は強化の面からも世界に近づけるチャンスがあると思っています。日本もそうだが世界的に女性の層は薄いし、そこは日本が世界で戦う強化ポイントにもなる。人数の少なさで女子の評価を下げてはいけません。
日本の自転車を正しく発展させたいなら、がんばっている女性選手を尊重しなくてはならないのです。
▷チームブリヂストンサイクリング監督 宮崎景涼さん
世界に挑戦するならトラックに可能性がある
東京オリンピックが終わり、次はパリという中で、私たちの狙いはトラックっ競技にあります。世界での台頭を考えるとロードよりもトラックに可能性があります。厳しい言い方をすると今の国内ロードのレベルでは世界に対してはほど遠いといっても過言ではない、というのが現実です。
むしろ世界に挑戦するならトラックに可能性がある。実際に先日のUCIトラックW杯マディソンで窪木、今村ペアが銀メダルを獲得するという快挙を成し遂げました。これまでだったら考えられないことです。ついこの間まで(イギリスの)ウィギンスとカベンディッシュが活躍していたマディソンW杯で、彼ら(窪木、今村)が銀メダル。そういった意味でも未来を感じています。
日本のロード界は現在団体が2つに分かれていて、状況はあまりよくないと思っています。ただこういった全日本のようなレースはありきたりの展開ではないので期待値は高いです。
過去にはブリヂストンもロード強化のためにヨーロッパに拠点を置いてレースを転戦した時期がありましたが、そういう経験を通じていえるのは、現地で活躍してもほとんど日本では報道されず活躍が評価されませんでした。
やはりオリンピックで活躍できないと多くの人の目に留まる事はできない。そうなると必然的にトラック競技という選択になっていきます。
ただ、国内のロードレースならこのようにメディアやファンに直接訴求することができます。活動にかける費用に対して効果を得るという側面からも海外でのロードレース活動は難しくなっていきました。
今回の全日本はスケジュールを縫って、トラック中心の選手が出場しています。暑い中の練習もしていないし、なかなか合わせにくいレースではありますが強化の一端と考えて出場しました。
▷シマノレーシング監督 野寺秀徳さん ん
いろいろな問題が生じたのは残念ですが、私たちは目の前にある目標に向きあっていく
コロナ禍の収束が感じられ、全日本選手権に観客を入れた状態で、今回開催してくれたことにまず私たちは感謝しています。
選手もようやく本当の目標が目の前に現れた、もうやっぱりこれまでの状況でいくら目標を作っても、なかなか出しきれなかった集中力というのが戻ってきたかなと思ってます。もちろん会場全体がそうですよね。
本当にまずはコロナ前の状況というのを取り戻せたかなと。今日の結果(レース)がどうあれ、喜ばしい気持ちに向いています。
一方でいろいろな問題が生じたのは残念ですが私たちは目の前にある目標に向きあっていきます。
この全日本でも問題がいくつかあり、皆が話し合うような問題も生じましたが、今後の自転車競技界にとっては決して悪いことばかりではないと信じてます。
私たちの立場からは気が付かなかった問題点や、今まで特に議論をされていなかったところを、誰かが意見をするという重要性を改めて感じました。
時代によって人々の考え方は変わっていきますし、選手側が何か疑問に思ったことを声に出すというはものすごく大事だなと思います。
例えばリーグが分かれてしまっていることについても、今まで当然のことだった日常で、突然違うことが起きると考え始めますよね。
かくいう私自身もそうですが、そういう意味で、コロナもあったし、ここで、みんながいろんなことを考え出して、いい方向に進むきっかけになることを望んでいます。
しかしながら直面している選手たちのことを考えると胸が痛みます。
チームや選手も当然NF側も、大会運営も含めて議論を重ねて、誰もがフィニッシュ地点に向かって集中できる環境というのを考えていきたいです。
【第一回】
チーム右京相模原ゼネラルマネジャー兼監督 桑原忠彦さん
キナンサイクリングチーム監督 石田哲也さん
Side by Side Radio 西薗良太さん
株式会社ENNE代表 中野喜文さん
【第二回】
チームユーラシア-IRCタイヤ監督 橋川健さん
EQADS(エカーズ)監督 浅田顕さん
群馬グリフィン GM 瀧澤成光さん
【第三回】
シエルブルー鹿屋 GM兼総監督 黒川剛さん
チームブリヂストンサイクリング監督 宮崎景涼さん
シマノレーシング監督 野寺秀徳さん
【第四回】
NIPPO・プロヴァンス・PTS コンチ監督 大門宏さん
レバンテフジ静岡 二戸康寛さん
【第五回】
バーレーン・ヴィクトリアス 新城美和さん
弱虫ペダルサイクリングチームGM 佐藤成彦さん
関連URL
公益財団法人日本自転車競技連盟 https://jcf.or.jp/
チーム右京相模原 http://www.teamukyo.com/
キナンサイクリングチーム https://kinan.racing/
バーレーン・ヴィクトリアス(新城幸也) https://twitter.com/yukiyaarashiro)
Side by Side Radio https://sidebysideradio.libsyn.com/
エンネ・スポーツマッサージ医院 https://enne.tokyo.jp/
NIPPO・プロヴァンス・PTS コンチhttps://teamnippo.jp/?page_id=35114
レバンテフジ静岡 https://www.levantefuji.jp/
弱虫ペダルサイクリングチーム https://yowapedact.com/
チームブリヂストンサイクリング https://www.bscycle.co.jp/anchor/team/
シエルブルー鹿屋 http://cielbleu-kanoya.com/
群馬グリフィン https://www.grifin.jp/
チームユーラシア-IRCタイヤ https://www.facebook.com/TeamEurasiaIRCtire
EQADS(エカーズ) https://www.eqads.jp/
シマノレーシング https://www.shimano.com/jp/shimano_racing/index.html
著者プロフィール
山本 健一やまもと けんいち
FUNRiDEスタッフ兼サイクルジャーナリスト。学生時代から自転車にどっぷりとハマり、2016年まで実業団のトップカテゴリーで走った。自身の経験に裏付けされたインプレッション系記事を得意とする。日本体育協会公認自転車競技コーチ資格保有。2022年 全日本マスターズ自転車競技選手権トラック 個人追い抜き 全日本タイトル獲得
関連記事
記事の文字サイズを変更する
- 小
- 中
- 大