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2022年02月23日

才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅”第三回 フェリーで広がる可能性 ~奄美群島~

波に揺られて

2022年2月19日。
ホッと一息ついた。昨日、今日、明日。この3日間で唯一、与論港に寄港した那覇行きのフェリーの船内にいる。

大型フェリーで奄美群島を巡る。

昨日、暴風の中、与論港に姿を現した巨大なフェリーは大荒れの波に阻まれて着岸できずに港で待っていた私たちに背を向けて大海原に消えていった。

日に上り下り一便ずつしかないフェリー。昨日は両便共に与論港を抜港(天候により着岸できずに寄港予定の港を飛ばすこと)し、明日のフェリーは欠航が決定。
今日のフェリーは上り便の抜港が早々に決まり、残すは今日の下り便のみ。沖縄本島、本部に向かう便だ。この頼みの綱が無事着岸して、無事乗り込むことができた。

奄美群島最南端の与論島。
白い砂浜が点在し、プライベートビーチの様な貸切状態。高台には「サザンクロス」という名前の博物館兼展望台が立っている。島のどこにいてもこのタワーが見えると言っても良い外周20 kmほどしかない小さな島だ。

美しい白い砂浜が次々と現れる与論島。

乗るべき予定のフェリーに乗れなかったことで1日滞在が増えたわけだが、そのおかげでゆっくりと人の暖かさや離島の良さに触れることができた。

まずは昨日、嵐の中、宿を出る際にオーナーに「抜港になったら戻っておいで」と声をかけてもらった。
船の動向次第で宿泊するかわからない私の部屋をキープしてくれた。不安だったWiFiも非常に速く、仕事環境も完璧だった。すでにもう一泊したい、という気持ちにさえなっていた。そしてフェリーに乗れなかった私はそこまでショックも受けずに宿に帰った。

もう1つがお気に入りの食堂に、もう一度行けたことだ。一昨日に訪れたのだが、ここで久々に全国を放浪旅をしている人にも会った。食堂の女将さんも交えて3人であれこれ雑談するのがすごく充実した時間に感じられた。そして、再びこの食堂を訪れればこの3人が揃うであろうことはなんとなく想像できた。まさにその通りになり、フェリーの時間までゆっくりと「与論の時間」を味わった。

なぜ奄美群島に?

奄美群島。この鹿児島と沖縄の間の海域に連なる島々はなかなか訪れる機会がなかった。今回この地を訪れることになったのは、いくつかの条件が重なったからである。

まずもっとも大きな理由は、徳之島で仕事があったからだ。奄美群島はランニング関係の合宿地として有名で、LEOMOにフォーム解析の依頼が入った。

もう一点はこの初冬に膝を痛めたこと。思うように練習ボリュームを積めない今だからこそ、ライドだけにこだわるだけではない旅をするチャンスだと思ったのだ。

2021年に世界遺産登録された徳之島。アマミノクロウサギなど希少動物が生息し、手付かずの自然が残る。残念ながらウサギには出会えず。

そして、冬は暖かい南に限る。

旅の始まり

会社のメンバーと一緒に飛行機で荒天の徳之島に降り立った。横殴りの雨の中、屋外での計測は厳しいものだったが充実感も大きかった。2日間の仕事を終えて東京に帰る会社のメンバーと別れた私は、奄美群島を自転車で走る旅をスタートさせた。

なんせこの時期のこのエリアは天気が悪い。時折雨が落ちる曇天の中、仕事が終わってその日のうちに徳之島を一周した。外周は70kmほどだが内陸も走ったので120kmくらいの走行距離。遅い出発だったので最後はナイトライドになったが半袖で走れるほど暖かいことに嬉しさを感じた。
新たに世界遺産に登録された徳之島の自然を風を切って味わうことができた。

世界遺産の森の中をナイトライド。トンネルが眩しい。

フェリーに乗り、次なる島、沖永良部島へ。
沖永良部島は徳之島よりひと回り小さな島で、山らしい山はなく、島全体がひとつの小高い丘と言った印象である。港に着くと、輪行袋を持って立っていられないほどの暴風に、良くフェリーは着岸できたなと感心したが、既に述べた通り、このあと抜港、欠航に悩まされることを私はまだ知らない。

沖永良部島の北海岸は断崖絶壁が続く。

沖永良部島のおすすめは北の海岸線だ。波の浸食によって断崖がくり抜かれた潮吹き上げ洞窟「フーチャ」から、田皆岬までの区間である。断崖絶壁が続く絶景ルートだ。荒れた海から生み出される大きな波が岸壁に打ち付けて迫力のある光景が目の前に広がる。この時ばかりは「荒れた天候で良かった」と思ってしまった。

そして再びフェリーに乗り与論島にたどり着いた。
のんびりな旅とは言っても、自転車という観点では1週間近く滞在するには幾分狭過ぎるこの島を、なんとか着岸したフェリーに乗って後にしたのである。

船旅という可能性

奄美群島では名産品の黒糖焼酎で一杯やるのがたまらなく良い。夜はやや肌寒くなるので、宿のポットでお湯を沸かしてお湯割りにする。そしてこの辺りではどこのスーパーマーケットでも売っている鳥刺しをつまむ。
自転車は非常に高い機動力で旅を豊かにしてくれるが、海は渡れない。離島から離島へフェリーで渡るという経験を通して、自転車旅の新たな可能性を感じることができた。
今日から沖縄本島。今度は泡盛でまた一杯やるのだろう。こうして私の旅は続いていく。


才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅” 連載中
第一回 プロローグ
第二回 旅の流儀

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