2022年01月25日
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅”第二回 旅の流儀
旅は自由だ。行きたいところへ向かい、好きなものを食べ、満足するまでその空気に浸れば良い。ただそこにちょっとした制限や自分なりのルールを決めることでより充実したものになる。と、私は感じている。
▷移動は自転車
▷峠はアタック
▷仕事はリモート
▷荷物は宅急便
▷フィールドは無限大
移動は自転車
私の旅はいつだって突然始まる。日本地図を見ながら、「この地域はまだ訪れたことがないな。飛行機に空席があるな。よし明日出発しよう。」といった感じだ。
公共交通機関でスタート地に到着するとゴールまでは、すべて自転車で移動する。これは私のルールだ。海峡を渡るためにフェリーに乗ったりといったイレギュラーなことはあるが。
ちなみにスタート時にゴールが決まっていることはほとんどない。帰る必要がなければ、ただただ行きたい方向へ流れていく。
大きな橋が水害で流されて、臨時で架けられた代用の橋が自転車通行止めという状況に遭遇したことがあった。目的地までは引き返すと100km、予定通りのルートは50km。迂回路は見つからず、工事関係者に相談しても「自転車は通れない」の一点張り。
困り果てて、近くの商店で捕食を調達しつつ、迂回路がないか再度確認したところ、店主が「ちょっと待ってろ」と言って店を出て行った。軽トラで帰ってきた店主は「お隣さんに借りてきた」と、自転車を荷台に、私を助手席に乗せて慣れない様子でマニュアル車を走らせた。先ほど何を言っても無駄だったガードマンの横をさっと通り抜け、川を渡ると「気をつけてな」とひと言、店主は自転車と私を降ろして戻って行った。通行止め区間を軽トラでワープした私は、自転車で移動を完結することはできなかった代わりに、ちょっとした特別な時間を味わうことができた。
後日再びこのエリアを通った時にお礼に行ったのだが、「軽トラを出すくらい当然のことなのに、わざわざお土産まで」と言った雰囲気で、これが当たり前の日本っていうのはすごく良いな、と印象に残っている。
峠はアタック
私は訪れた土地の上りを走ることを楽しみの一つとしている。STRAVAで人気の上りや、好みに合う上りを見つけてはルートに組み込む。そして基本的にタイムアタックをする。
初見なので、距離や標高差の情報以外には不確定要素が多い。それがたまらなく楽しい。
初めての上りはいつだって特別で、2回目以降にそれ以上のインパクトを感じることは稀だと思っている。そして、その瞬間に全力で挑む。ゆっくり流すのとでは登坂の印象や頂上にたどり着いた時の達成感、景色の見え方も変わる。登り始める時に疲れているかどうかは関係なく、「一期一会」を最大限に味わうためにアタックする。これも私のルールだ。
仕事はリモート
「才田、今どこにいるの?」
「〇〇です」
「先週より遠くにいってるじゃん」
オンラインミーティングで定番のやりとりである。私の業務内容はノートPCを用いたデータ解析がメインなので安定したネット環境があればリモートワークが可能だ。宿を選ぶ際には口コミやWebの情報を参考にWiFiの早そうなところを探す。旅の期間が長いので金額も抑える必要があるし、宿を決めることは想像以上に難しい。
万が一回線がひどい時のために近くにWiFiのある飲食店があるかもチェックしておく。最近大容量モバイルルーターも導入したので行動力が広がりそうだ。
フレックスタイムを利用すれば、平日の日中にライドもできるので楽しみ方が広がる。
荷物は宅急便
基本的に「長距離を走る日 = 移動日」なのだが、多くの場合は空荷で動く。
すでに述べたように、上りでアタックするし、1ヶ月を超える旅の荷物はそれなりに重いし、トレーニングという観点でも余計な物は持ちたくない。
ここで活躍するのが宅配業者である。同県内では当日便があったり、コンビニに留め置くこともできる。当日便は遅れが出たり、ものによっては荷物の破損保証が効かないので注意が必要であるが、うまく使うことで旅にぐっと広がりが出る。
多くの場合は基本的に前日夕方までに宅配業者の営業所から荷物を発送する必要がある。締め切りは待ってはくれないので、仕事が片付いた夕方遅くに土砂降りの中、自転車で荷物を出しに行くなんてこともある。
新潟県の民宿に滞在していた時、タイムリミットが迫る夕方に雨が降っていた。そんな中、民宿の女将さんが営業所まで車を出してくれたことがあった。ついでに買い出しでスーパーにも寄ってもらった。ちょっとしたハードルは、人の温かさを感じるきっかけでもある。
荷物を送ってしまったらその晩はどうするの?と思うだろうが、心配無用。衣類や充電器類などの必需品が入った荷物がもう1セット用意してある。空荷で動くためのテクニックだ。
フィールドは無限大
自転車は移動手段。行程に好きな登りを組み込み、移動自体を楽しむ。そして観光やグルメも外せない。仕事にも手を抜かない。
自分なりのルールだったり、少しの制約があることで楽しみが倍増する。まだまだ訪れたいところは山ほどある。
写真と文:才田直人
著者プロフィール
才田直人さいた なおと
1985年生まれ。日本中、世界中を自転車で旅しながら、その様子を発信する旅人/ライター。日本の上るべき100のヒルクライムルートを選定する『ヒルクライム日本百名登』プロジェクトを立ち上げて、精力的に旅を続ける傍ら、ヒルクライムレースやイベントにも参加している。
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