2023年01月12日
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅”第十三回 / 全国のサイクリストと一緒に走る、STRAVAセグメントアタックという形
2022年10月末。J Pro Tour最終戦の今治クリテリウムを終えて、そのまま四国での自転車旅をスタートした。四国は面積こそ大きくはないが、西日本最高峰の石鎚山、第二の高峰である剣山を有する山の多い地形で、本当にたくさんの上りがある。何日滞在していてもアタックしたい上りが尽きることはない。
INDEX
▷富士ヒルチャンピオンの「真鍋 晃」さん
▷山陽ローカルレースの帝王「真嶋伸一郎」さん
▷たくさんのKOM更新通知で知った、岡山と言えば「藤原正貴」さん
▷私の大好きな地域、東北には「齊藤 雅仁」さん
▷「才田アタック」で遊んでくれている、北海道の「木村 裕己」さん
▷これからも未知のクライミングを、日本中のクライマーと一緒に
▷富士ヒルチャンピオンの「真鍋 晃」さん
四国はクライマーのレベルが非常に高い。
特に、香川には今年の富士ヒル王者の真鍋 晃さんがいる。GPS計測のタイムをもとにタイムを競えるSTRAVAで、四国は現在進行形で活発にKOM(King of Mountain = 最速タイム)が変動している地域と言えるだろう。
彼らのKOMにチャレンジするのは毎回集中して臨む必要があるし、大抵敵わないのだけれど、すごく楽しませてもらっている。
そもそも真鍋さんを認識したのは、四国で少ないながらに持っていたKOMを大きなタイム差で失ったことだ。強い人がいるんだな、と思っていたので今年の富士ヒル優勝もそこまで驚きはなかった。
今回の旅でも、真鍋さんに挑んでは敗れ、たまに勝利を手にしては充実感に浸ったりなんていうことを繰り返していた。短い間にSTRAVAの世界で何戦交えただろうか。そして既に奪ったKOMをあっという間に奪い返されている。
真鍋さんにも楽しんでいただいている(と思う)。
このように、全国各地にしばらく滞在してたくさんの上りを走っていると、STRAVAのセグメントのリーダーボードで多く見かける名前を意識するようになる。彼らとバーチャルでの勝負を繰り返すことで、「なるほど、彼はかなりの強敵だ」という印象が徐々に強まっていく。
そしてアタックすると決めた上りでその名前を見つけた時、より一層気持ちが入るのだ。
こうして出会った、私が勝手に「ライバル」だと思っているクライマーの方々を紹介しようと思う。
▷山陽ローカルレースの帝王「真嶋伸一郎」さん
中国地方、特に山陽には瀬戸内を見渡せる秀逸なクライミングルートがたくさん存在する。また、そのいくつもが全国的な知名度は高くはないがヒルクライムレースの舞台となっている。
そのすべてのKOMを保持しているのでは?と言うのが真嶋さんだ。
彼のKOMを奪った記憶がない。そのくらい私にとっては格上のクライマーの一人で、瀬戸内に行くたびに、「ここも真嶋さんの山か。今回こそ!」と挑んでは敗北している。
どの上りもフィニッシュした後は、「今回も敵わなかった」と少しがっかりするが、眼下に広がる瀬戸内の海を見渡して、出し切った良い疲労感と共に「素晴らしい上りだった」と満足感に浸っている。
真嶋さんのタイムが今の力を出し切るという大きな理由になっているのだからすごく感謝している。いつも私はバーチャルで彼の背中を追いかけている。
▷たくさんのKOM更新通知で知った、岡山と言えば「藤原正貴」さん
藤原さんには、私が持っていた岡山近辺セグメントをすべて取られたのではないかと思う。近年、ものすごい成長速度で頭角を表してきているクライマーである。
岡山市と倉敷市の南部に位置する児島半島周辺には、たくさんの素晴らしいヒルクライムコースが存在する。何度か訪れた、藤原さんの庭とも言えるこの地域でのアタックは、いつもエキサイティングで、どの上りも集中してアタックした。
しかし、しばらく経つと頻繁にSTRAVAでKOMが更新されたとの通知が鳴り響くようになった。彼のSTRAVAのアカウント名がユニークであることも相まって、通知が届くたびに記憶に刻まれた。
私が今回取り上げさせていただいたクライマーの記録を目標に走ってきたように、彼は私のタイムを目掛けてアタックしているのかもしれない、私の趣味も少しは誰かの役に立っているのかもしれない、と想像したりする。
▷私の大好きな地域、東北には「齊藤 雅仁」さん
福島と秋田を中心とした東北地方は齊藤さんのテリトリーだ。STRAVAの上りセグメントでは彼の名前を頻繁に目にする。
大学時代に住んでいたこともあって東北は私の大好きな地域である。訪れるたびに未踏のセグメントで彼の名前を見つけると、このKOMはなかなか手強そうだと思うと共に、「今回もよろしくお願いします」と、その上りがより刺激的に感じられて、感謝している。
齊藤さんのタイムを何度追いかけたことだろう。彼とは一緒に走ったことも、会ったこともないが、何度も何度もヒルクライムで競ったことがあるような気持ちになっている。
ちなみに彼は「ストラバいいね」というチームに所属していて、私がSTRAVAでログをアップした時に誰よりも早く「いいね」を送ってくれる。ぜひ彼にフォローされて、登坂タイムだけではないその「いいね」の反応の速さも体感してみてもらいたい。
▷「才田アタック」で遊んでくれている、北海道の「木村 裕己」さん
木村さんは私のKOMを目掛けてアタックすることを「才田アタック」と呼んで、トレーニングに活かしてくれているらしい。私より速いクライマーは全国にいくらでもいるのだが、それでもこうやって一つの指標として、乗り越える壁として少しでも役に立っているのならば、それは本当に嬉しいことだ。
私が強い追い風でKOMを獲得した札幌の小林峠を、彼に更新された時は「強い選手がいるな」と思ったものだ。彼が今年のニセコクラシックで2位に入っていて、「なるほど」と納得した。
札幌近辺のセグメントはもうほとんど取られてしまったので、今度は私に代わって彼が札幌の壁となるのだろう。遠方から遊びに行った私より、地元の方々にとって身近な存在の彼が壁になっている方がずっと良いと思ったりする。
▷これからも未知のクライミングを、日本中のクライマーと一緒に
全国を旅するというのは、こんな出会いに満ち溢れている。私の記憶が定かであれば、今回紹介させていただいた方々とは一度も一緒に走ったことはないし、話したこともない。
しかし、彼らとSTRAVAでタイムを争うことで一緒に走ったような気持ちになる。「持てる力を出し切ったのに、さらに1分前にいるのか」とか「最後のひと踏みの差で、1秒先着だったな」など、リアルに感じられる彼らの速さを楽しんでいる。
今回のクライマーの中には、STRAVAのアカウント名が本名ではない方もいる。読者の方には、ぜひ彼らを探すところから楽しんでいただいて、KOMにチャレンジしたり、彼らのタイムに完敗して、彼らの速さを味わってみて欲しい。
次の旅では、どんな素晴らしい上りで、どんなクライマーとの出会いがあるだろうか。
才田直人の“自転車ワーケーション放浪旅” 連載中
第一回 プロローグ
第二回 旅の流儀
第三回 フェリーで広がる可能性 ~奄美群島~
第四回 自転車で訪れる八重山諸島
第五回 出発の地、目的の地、それは『レース』
第六回 東北沿岸を走る 東日本大震災から11年
第七回 ワーケーション自転車旅の装備
第八回 仕事の合間にライド。ライドの合間に仕事。
第九回 地域のシンボルとして愛される山
第十回 北海道 太平洋岸を行く3日間 600km
第十一回 自転車で楽しむ神話の土地 島根・鳥取
第十二回 上ったら食べる 旅の途中に立ち寄りたいご当地ラーメン
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著者プロフィール
才田直人さいた なおと
1985年生まれ。日本中、世界中を自転車で旅しながら、その様子を発信する旅人/ライター。日本の上るべき100のヒルクライムルートを選定する『ヒルクライム日本百名登』プロジェクトを立ち上げて、精力的に旅を続ける傍ら、ヒルクライムレースやイベントにも参加している。
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