2017年12月05日
瀬戸圭祐の 「快適自転車ライフ宣言」 5-5) 予防する!身体のトラブル
瀬戸圭祐の 「快適自転車ライフ宣言」 第5章:ゴキゲン! 「カラダ」と「バイク」のメンテ技術!
5-5) 予防する!身体のトラブル
自転車は楽しい!しかし身体のトラブルがあれば、乗り続けるのは楽しみどころか苦しみに変わってしまう。ビギナーに一番多いトラブルはオシリの痛みだろう。これをいかに防止するかは切実な問題なのである。身体のあちこちの痛みも正しいポジショニングで予防できる。疲労もある意味トラブルだが、ライド中や前後にボディケアを意識すれば予防できるのだ。
<オシリの痛みはビギナーの洗礼!?>
自転車を始めたビギナーは、最初の難関としてオシリの痛みを経験する人が多い。これに上手く対処することが、自転車と末永く仲良くお付き合いできるかどうかのポイントとなる。体力的にバテたとしても、休憩しエネルギー補給をすれば回復するが、オシリの痛みはそうはいかない。サイクリング中に痛くなったら多少の対応はできるが、特効薬的な対策はない。
事前の準備をできる限り万全にしておくのが最大の対策となる。毎回痛みがあれば自転車に乗るのがイヤになり、サイクリングも楽しくもなくなってしまう。しっかりと事前対策をしたい。どんなスポーツでも、慣れないうちは痛みやトラブルはある。 テニスや野球ならラケットやバットを振ると掌にマメができるだろう。しかし慣れてくると力の入れ方も分かってきて、痛くなる部分も適応して強くなってくる。
お尻の痛みはビギナーにとっての洗礼なのかもしれない。
<痛みの原因は様々、人それぞれ>
痛みの発生には様々な要素がある。まずは坐骨や臀部が痛くなる場合。これは体重がサドルにかかりすぎていることが主な要因となる。次に男性の場合、尿道など股の前部の圧迫による痛みで小便をする際に痛みが強くなる。前傾姿勢を取り続けた場合や、サドルの角度が上向きの場合に起こりやすい。もうひとつが下着やズボンの縫い目の硬い部分が股間とサドルに擦れて起こる痛みである。
どの痛みについても最大の要因はサドルとオシリの相性の問題であり、自分のオシリに合ったサドルに出会えればほとんどは解決する。が、痛くなるには少なくとも数時間以上は乗りつづけなければならず、ショップでサドルを選ぶ際に試すことは非現実的である。
<パッド入りパンツは必需品>
最も簡単に効果が見込める痛みの予防策となるのが、パッド入りパンツの着用である。レーサーパンツ(レーパン)にはパッドが付いているので、まずはレーパンを履いて乗車してみる。パッドの存在感に初めは違和感を覚える場合もあるが、すぐに慣れてくる。サドルにまたがってしまえば違和感はやわらぎ、走っていれば存在感すら無くなってくる。
陰部の痛みが出る場合についても、パッドの厚いレーパンである程度予防できる。その効果を実感したらレーパンはサイクリングと切り離せないものとなるはずだ。ただしパッドの薄いものは効果も薄い場合があるので、痛みがある場合には厚めのパッドつきレーパンをお勧めする。例えばお尻が小さめで臀部の肉が薄い人は、ロングライド向けのパッドが厚めのもののほうが安心できるだろう。
レーパンやビフショーツは恥ずかしくて履きたくないという方もいるだろう。そのような人はパッドつきのバイカーズパンツやMTB用ショーツの着用、もしくはパッド付きアンダーウェアの上にカジュアルパンツなどを履くのであれば抵抗は少ないだろう。
パッドつきパンツの下に下着のパンツは履いていけない。パッドは肌に直接重ねることを想定して生地もその表面も設計されている。肌とパッドの間に下着がはいるとパッド本来の機能が発揮されないだけでなく、擦れたり下着の縫い目などがこすれたりで痛みの原因になる。パッドは厚みだけでなく、その形やデザイン、クッション性やショーツ本体の生地もさまざまなので、いろいろと試してみて自分に合ったものを探してみよう。
パッドにもさまざまな種類のものがある。自分好みの形状や厚さを探したい
<サドルとお尻、それは男女の関係?>
お尻の痛みの最大の要因は、サドルとお尻の相性である。相性ピッタリのサドルであれば痛みとは無縁である。初めからそんなサドルに出会える人はシアワセである。
見た目や印象が良くて使ってみたが、痛みが出るといったことも多い。一概に柔らかければ痛みが出ないわけでもなく、硬いサドルでも問題ない場合もある。逆に柔らかすぎるサドルは疲れやすかったりもする。別のサドルに変えてみたが、しっくりこなくてまた別のサドルにと、次々に替えるケースもあるのだ。そんなことを繰り返してやっと出会った痛みの無い快適なサドルは、ずっと使い続けたい生涯のパートナーにもなり得る。サドルとお尻の相性は男女の仲のように、じっくり付き合ってみないと分からない。サドル探しは婚活のようなものかもしれない。
<サドル選びのポイント>
そんな相性ピッタリのパートナーを見つけ出すヒントを考えてみたい。
まずは、骨盤が広い人は幅が広めののサドルを、骨盤が狭い人は細い形状のサドルを選ぶことから始める。ショップによってはサドル幅と坐骨幅を計ってチェックしてくれるが、個々人の骨盤の形状でも左右されるため、完璧ではない。また、お尻の肉が少なく痩せている人はより厚めのクッションをもつサドル、お尻の肉が豊富な人はクッションが固めでベースが広いサドルがフィットしやすい。
穴あきタイプや溝付きタイプは、尿道や前立腺への圧迫が軽減されるので陰部の痛みには効果的だ。サドルの先端を正面前から見たときの断面が平たいタイプと丸いタイプとでも、股や足の付け根への当たり具合などが人によって異なってくる。
買い替えの予算が厳しい人には、安価なサドルカバーをつけるという方法もある。クッション材やジェルなどが入っていて柔らかい乗り心地になり、一時的な痛み対策になる。
サドル選びのポイントとなるのが自身の骨盤の幅。幅を測定してくれるショップも増えているので、利用してみてはいかがだろうか
<サドルの形状と特徴>
自分のオシリに合った、痛くならないサドルに出会えれば幸せであるが、選び方や形状ごとの特徴などを理解した上でショップの人と良く相談して購入したい。
<ポジショニングで身体の痛みを予防する>
ロードバイクの場合、ビギナーは前傾姿勢に慣れないため、ハンドルを近く高くしてアップライトな楽なポジションになりがちで、そのぶんサドルへの加重が多くなる。
サドル、ペダル、ハンドルに体重が上手く分散できず、サドルに体重が集中するとおしりが痛くなりやすい。サドルの上下、前後、角度、ステムの長さやハンドルの高さ、角度を調整して痛くならないポジションを模索してみる。
例えば、ハンドルが遠い場合はサドルの前部に座りがちで、より前傾になって骨盤の寝かせすぎによる尿道や陰部への負荷が大きくなる。ポジションは乗る人の体型や乗り方によって様々なので一概には言えないが、ステムを短くして適切なポジショニングにすることでサドルに座る位置も改善され、尿道や陰部の痛みが軽減される。
サドルが低すぎたり、ハンドルが遠すぎたりした自分に合っていないポジションはお尻だけでなく体各部の痛みの原因になる。事前にしっかりポジション調整を行っておけば、それだけで身体の痛みが予防でき、改善されるのである。もちろんペダリングも正しく行いたい。重いギアを踏み込み続けていると各部への負荷が大きくなり、とくに膝が痛くなりやすい。ケイデンス70-90で軽く回そう。
サドルの前後位置を数ミリ変えるだけで痛みが和らぐ場合もある。それだけ自転車のポジショニングは繊細だ
<ポジショニングは自分で模索する>
ショップなどで身体の各部を計測し、自分の体力や脚力を考慮して理論上は正しいポジションをセッティングしていても、身体の各部に痛みや凝りが出てくることもある。長距離を走ったり標高差のある長い上りが続いたり、向かい風が延々と吹き続けたりして身体に疲れが溜まってきた場合だとか、体調が思わしくなかったりすると、たとえ正しいポジションを取り続けていても、身体の痛みやトラブルになることもある。実際に疲れが出てきたときに、身体が欲求する姿勢が自分にとって最もラクなポジションであり、逆に元気な時は多少のポジションのズレがあっても痛みや凝りは出てこない。
手や腰など身体の一部が痛くなってきたら、それらを少しでも和らげることのできるポジションを探してみる。休憩の度にハンドルの角度やサドルの前後位置などをこまめに調整して試行錯誤を繰り返すのである。ポジショニングの詳しいノウハウについては、第3章の第1項「ビシッと決める、乗車ポジションとフォーム」をご参照頂きたい。
https://funride.jp/serialization/jitensyalife16/
<ウォームアップはトラブル予防に必須>
スポーツにおいてウォームアップとクーリングダウンを行うのは常識である。とくに乗り手がそのままエンジンとなる自転車は、それらは必要不可欠であり走行や疲れに大きく影響する。
ウォームアップは筋肉の柔軟性を高め、関節の可動域を広げるため、ケガの予防になる。まずはラジオ体操などの屈伸運動で身体をほぐすことからはじめる。次の行うのがストレッチである。太ももや膝の裏、アキレス腱などの脚の筋肉を中心に、腕、肩、背中、首などを10分~15分程度かけて伸ばしてやる。ストレッチにより筋肉が適度に伸びて血流が増えてくる。血の循環が良くなれば温まって代謝がよくなり筋肉の反応力も高まって活発に動きやすくなるのだ。ストレッチには活動をしやすくするだけでなく、関節を伸ばすことによる可動範囲の改善、および心身ともにリラックスをさせる効果がある。
ストレッチの注意点はゆっくりとその部位を十分伸ばすようにして、強い力を加えないことである。反動をつけたり急激に引っ張ったりすると筋肉の防御反応で逆に硬くなってしまう。また同じ場所をあまり長い時間かけて伸ばし続けない。筋肉が緩んでしまって収縮しにくくなる。一箇所につき15~20秒程度が適切で30秒以上はかけないようにしよう。もう一点、ストレッチに大切なのは呼吸である。普通に息をして、伸ばすときにはゆっくりと吐くようにする。息を止めてしまうと筋肉が緊張してしまい十分に伸びなくなる。
<サイクリング中もストレッチ>
乗り始めてから体が温まるまでの間は、ウォームアップ走行として普段よりも軽めのギアを回しながらゆっくりめに走り出す。休憩の時間にもストレッチをしたほうが良い。とくに脚周りや背中、腰などは痛みやコリにもなりやすいので、休憩の度に頻繁にストレッチをすれば予防効果があり、疲れも溜まりにくくなる。
自転車を使ってストレッチするのもツウっぽくてカッコイイ。自転車の横に向かい合って立ちサドルとハンドルに手をかけてお辞儀をするように背中全体をストレッチしたり、サドルやトップチューブに片足をかけて上体を前屈しながら脚裏やアキレス腱を伸ばしたりできる。上半身や腕、肩などは信号待ちの時間にも自転車に跨ったまま捻ったり伸ばしたりしてストレッチすれば時間も有効に使える。
<クーリングダウンは疲労回復に大きく影響>
走行後のクーリングダウンは必須項目である。ゴール後は忘れてしまったり蔑ろにしたりしてしまいがちであるが、後の疲労回復に大きく影響するので必ず行いたい。とくに翌日が仕事など疲れを残したくないなら、クーリングダウンはウォームアップや走行中のストレッチよりもずっと効果がある。
ゴール直前の10分~15分からクーリングダウンを開始する。走り始めと同様に普段よりも軽めのギアを回しながらゆっくりと流すように走る。フルで走ってきて急に運動を止めると乳酸などの疲労物質が筋肉中に残ったままになりやすい。ゴール前を軽く流すように走り、ラジオ体操などの整理運動とストレッチを行うことで、血流が整って疲労物質が排出されて行くのである。尚、クーリングダウンのストレッチは念入りに行ったほうが疲れは残りにくい。
ストレッチは筋⾁や⾝体の疲れを和らげ、気持ちもリラックスさせてくれる
<部位別のストレッチ>
<日焼け対策>
日焼けは紫外線(UV)によって起こるが、紫外線にはUVA、UVB、UVCの三種類がある。UVAは長波長のUVで短時間で肌の表面を赤く焼き、ひどい場合には水ぶくれやただれを起こす日焼けの原因だ。UVBは表皮細胞の中まで届き、遺伝子DNAを傷つけ皮膚を中から黒くしていく中波長の紫外線で、これは皮膚に与えるダメージが大きい。UVCは最も有害だが、オゾン層と大気中の酸素分子で完全に吸収され、地表には届かない。
紫外線の量はGWから5月下旬にかけてが1年で最も多くなる。そのころはサイクリングにベストシーズンであるが、急な日焼けをしやすい時期なので日焼け止めを忘れずに塗りたい。
日焼け止めは2種類の表記方法で大別される。まずUVA防止効果の「PA分類」。これは+の数で表され、PA++などと表記されている。+の数が多いほど効果は高い。UVB防止効果の指数が「SPF値」。SPF30といった数値が高いほど防止効果は長続きするが、その分肌への刺激も強くかぶれやすくなるので薬局等で確認して購入したい。
日焼け止めとともに、地肌を露出しないようアームカバーやレッグカバーを併用すれば日焼け対策効果は大きくなる。また、UVカット効果の高いサングラスは、紫外線や異物から目を保護してくれるので、着用をお勧めする。
身体のトラブルの予防には、心の準備やウォームアップも重要である。様々な準備に追われて忘れ物をしたり、時間がなくなって無理を強いられたりすればトラブルの元になる。時間や気持ちに余裕を持って楽しむことが、トラブル防止にはとても大切なのである。
(瀬戸圭祐さんの「快適自転車ライフ宣言」は隔週火曜日掲載です。次回は12月19日(火)に公開予定です。お楽しみに!)
(写真/本人)
第5章:ゴキゲン!「カラダ」と「バイク」のメンテ技術!
5)予防する!身体のトラブル
6)カラダの異常!どうする!?
7)サイクリストの義務!自転車の健康管理
8)パンク!!! スマートな対処はカッコイイ
9)センシティブ!ディレーラー調整のコツ
10)命を預ける!?ブレーキのメンテナンス
著者プロフィール
瀬戸圭祐せと けいすけ
中学/⾼校時代に⽇本全国を⾛破し、その後、ロッキー、アルプス、⻄ヒマラヤ/カラコルム、ヒンズークシュ、北極圏スカンジナビアなど世界の⼤⼭脈を⾃転⾞で単独縦断⾛破。 ⼗数年ジテツウを続けており、週末はツーリングや⾃転⾞イベントなどを企画実施。 ⾃転⾞の魅⼒や楽しみを著書やメディアへの掲載、市⺠⼤学での講座、講演やSNSなどで発信し続けており、「より良い⾃転⾞社会」に向けての活動をライフワークとしている。 NPO法⼈ ⾃転⾞活⽤推進研究会 理事、(⼀社)グッド・チャリズム宣⾔プロジェクト理事のほか、 (⼀財)⽇本⾃転⾞普及協会 事業評価委員、丸の内朝⼤学「快適⾃転⾞ライフクラス」講師、環境省「環境に優しい⾃転⾞の活⽤⽅策検討会」検討員などを歴任。