2017年05月23日
瀬戸圭祐の 「快適自転車ライフ宣言」 3-9)身体と自転車と家族と、アフターケアが大切
瀬戸圭祐の 「快適自転車ライフ宣言」 第3章:快適に走る、楽しく走る、ライディングテクニック
3-8)身体と自転車と家族と、アフターケアが大切
ライディングテクニックの習得には一生懸命になっても、サイクリングの後のさまざまなアフターケアは疎かになりがちかもしれない。
仕事や日常の生活を快適にスムースに続けるために、自転車のみならず身体や家族へのアフターケアは、いつまでも自転車を楽しむためにも、疎かにしてはいけないとても重要なことなのである。
サイクリング後の疲れを残さず、回復を早めることは年齢とともに重要になってくる。クーリングダウン、ストレッチ、入浴、マッサージそしてエネルギーの補填と睡眠で早期回復しよう。自転車はサイクリストにとっては身体の一部であり、身体と同様に汚れを落としオイルを差してしっかりメンテナンスしたい。また忘れないようにしたいのが、家族や身近な方々へのケアである。上手にコミュニケーションして互いの理解に努めよう。
<クーリングダウンは必須項目>
全てのスポーツにおいてウォームアップとクーリングダウンを行うのは常識である。
とくに乗り手がそのままエンジンとなる自転車は必ず実施すべきであり、当日の走行や翌日以降の疲れに大きく影響する。ウォームアップを行ってもクーリングダウンをしない人は多いかもしれない。しかしクーリングダウンの有無は翌日以降に大きく影響するため、仕事がある人などにはある意味ウォームアップよりも大切なのである。
クーリングダウンには疲れた筋肉をほぐしてやるだけでなく、心身ともにリラックスをさせる効果があるので、ゆったりと時間をかけて行いたい。
もちろん、ゴール後の輪行や電車の時間など、ゆっくり行うことができないケースもあるだろう。そんな場合でも5分でも1分だけでもクーリングダウンを行ったほうが、身体には良いだろう。その後に帰宅してからちゃんと実施すればいいのだ。
<ストレッチはゆっくり呼吸して>
クーリングダウンは、まずラジオ体操などの屈伸運動を中心に行う。少し身体がほぐれてくれば次にストレッチをしよう。ゆっくりと呼吸を整えリラックスして脚を中心に全身各部のストレッチを行う。
1日走った身体の筋肉は疲労や筋肉痛の原因となる乳酸が溜まりやすくなっており、ストレッチをゆっくりとしっかり行うことで、各部位の血行を促進し乳酸が取り除かれやすくなる。太ももや膝の裏、アキレス腱などの脚の筋肉を中心に、腕、肩、背中、首などを10分~15分程度かけて伸ばしてやる。
ストレッチにより筋肉が適度に伸びて血流が増え、循環が良くなれば身体が温まって代謝がよくなる。ポイントはその部位をゆっくりと充分に伸ばすようにして、強い力を加えないことである。反動をつけたり急激に引っ張ったりすると筋肉の防御反応で逆に硬くなってしまう。
また同じ場所をあまり長い時間かけて伸ばし続けない。筋肉が緩んでしまって収縮しにくくなる。一箇所につき15~20秒程度が適切で30秒以上はかけないようにしよう。
もう一点ストレッチに大切なのは呼吸である。普通に息をして伸ばすときにはゆっくりと吐くようにする。息を止めてしまうと筋肉が緊張してしまい十分に伸びなくなる。できれば、サイクリング途中の休憩の時間にも時々ストレッチをする。特に脚周りや背中、腰などは痛みやコリにもなりやすいので休憩の度に頻繁にストレッチをすれば予防効果があり、疲れも溜まりにくくなる。
サイクリングの途中でもこまめにストレッチを行えば疲れが溜まりにくくなる
<自転車をストレッチマシンにする?>
自転車を使ってストレッチするのもツウっぽくてカッコイイ。自転車の横に向かい合って立ち、サドルとハンドルに手をかけてお辞儀をするように背中全体をストレッチしたり、サドルやトップチューブに片足をかけて上体を前屈しながら脚裏やアキレス腱を伸ばしたりできる。上半身や腕、肩などは信号待ちの時間にも自転車に跨ったまま捻ったり伸ばしたりしてストレッチすれば時間も有効に使える。
<部位別のストレッチ>
<栄養補給で回復力を高める>
クーリングダウンの前後には栄養補給をしよう。身体のエネルギーはかなり消費されている状態であり、早急なエネルギーの補填をしてやることで疲れの回復を早めることにつながる。できればゴール後30分以内に身体のエネルギー源である糖分を摂取する。吸収の早いゼリー状機能性食品や栄養補給タイプのエネルギーバー、菓子パンやフルーツでも構わない。あわせて水分の補給もしておきたい。夕食としてしっかりと食べる必要はなく、あくまでエネルギーの補填が目的である。食事が美味しく食べられるお腹のコンディションになっているだろから、夕食は後ほどゆっくりと楽しんで摂ろう。
イベント参加時はエイドステーションで補給食を摂りエネルギー切れを防ごう
<温泉効果で、汚れも疲れも落とす>
次に入浴である。もしゴール近くに温泉があれば是非とも利用したい。疲労回復の基本は筋肉の血行を良くしてやることである。血液によって新鮮な酸素と栄養を運び込み、疲労物質を排出するのが人間の身体の疲労回復の基本的なメカニズムだ。
温泉の温熱作用は血管の拡張、血流増加をもたらし筋組織の血行改善により新陳代謝を高め、水圧による末梢部分のマッサージ効果や筋緊張の低下により、疲労物質が除去されやすくなる。
また、ゆったりと気持ちよくお湯に浸かりくつろぐことで、脳の中でα波が増加し緊張とストレスが解きほぐされて行く。もちろん綺麗な景色や空気と温泉の雰囲気は気持ちをリフレッシュさせ心身を癒してくれるのである。
温泉でなくとも銭湯でも自宅の風呂でも構わないが、必ず入浴し身体の汚れを落として血行を良くすることで疲れも落としたい。
<できればマッサージをしたい>
最後にマッサージである。マッサージは入浴後や就寝前のリラックスした時間に行う。
心臓から遠い部分からはじめ、徐々に心臓に近づきながら手のひらで撫でたり揉んだり押したりしながら1箇所に4-5分、全体では数十分程度かけてゆっくりと行う。やはり一番酷使する脚を中心にマッサージをしたい。
最初は脚の指を揉みほぐし、次に土踏まずを強く押してやる。ふくらはぎは包むように掴み、円を描くように上げてくる。太腿は押したり強く掴んだりしながら脚の付け根まで揉みあげる。そしてオシリの上部、腰の下とわき腹の間くらいの部分や筋肉を揉み解すと気持ちがいい。腕や首なども揉んだり掴んだりしてグルグルと回すようにマッサージしてあげよう。
早く眠りたいかもしれないが、睡眠時間を少し削っても、ちゃんとマッサージしたほうが翌朝の疲れは少ないだろう。
<自転車は身体の一部、ちゃんとケアしよう>
テニスプレーヤーにとってラケットは腕の延長と言われるように、サイクリストにとって、自転車は身体の一部である。メンテナンスの基本は掃除と注油である。詳細については別の章で後日に書かせていただくが、サイクリングの後に風呂に入ってマッサージをするように、自転車も掃除と注油をしてやろう。
注油カ所はさまざまなポイントがあるが、サイクリング後の簡単なケアという観点ではチェーンへの注油を行う。もちろん変速機やワイヤー類などもサイクリング中に不調や重さを感じたならば注油メンテナンスが必要になる。
チェーンは通常1日走ればある程度の汚れは付着する。スプレータイプのチェンクリーナーを全体にまんべんなく吹き付け、2~3分置いて汚れが浮いてからウエスなどで拭き取る。そして必ず注油する。その状態で注油しなければスグに錆びてしまうのだ。オイルにもいろいろなタイプがあるが、手軽なのはスプレータイプである。タイヤやリムにかからないようにウエスなどでガードしてフロントギアの下に近い場所か、リアスプロケットのところでクランクを回しながら吹き付ける。オイルがチェーン内部のピンに浸み込むまで2~3分待ってから、外側に付着したオイルをウエスなどで拭き取ってやろう。オイルがチェーンの外側に残っていると、ホコリなどが付着して汚れやすくなってしまうので、きれいにしておきたい。
<ドロの汚れは早めに落とす>
フレームは布を少し湿らすか乾いた状態で汚れを落とす。布にケミカルスプレーを少し染み込ませて磨くと美しい光沢がよみがえる。目立った汚れを落とせば、サイクリング後のケアという意味では及第点だろう。
しかし、雨の中を走ってドロ水がかかったり、濡れた未舗装路を走った時などは洗車が必要だ。洗車は両輪をはずして行う。タイヤが巻き上げたドロが裏側にこびりついているのだ。タイヤやホイールはホースの水を直接かけて大きめのブラシでゴシゴシ洗っても大丈夫だ。サスペンションやハンドル周り、回転部分などは勢い良く水をかけると中に水が入りサビの元となる。バケツに薄めにクルマ用洗剤、もしくは台所用洗剤を入れてウエスかスポンジを使って身体を流すように洗ってあげよう。クランクは時々回しながら、ブレーキや変速機は操作しながら汚れを落として行く。洗車後は乾いた布で水分を拭き取り、必ず注油する。
サイクリングの後にそこまでするのは大変かもしれない。自転車のケアは翌日でも次の休日など時間のある時でも大きな影響はない。ただし放置しておくと汚れがこびり付いたり錆につながったりするので、自分の身体の一部と思って早めのケアをしてあげよう。
<家族へのケアは重要>
家族や身近な人へのケアは、アフターのみならず日常から気を使いたい。身体の疲れや自転車のトラブルはリカバリーできるが、家族などとのトラブルは回復が困難になる可能性もあり、ある意味サイクリングを気持ちよく続けるうえで、最も重要なことかもしれない。家族などとの関係は人それぞれで、一概にどうのこうのと言えることではないが、よく聞く悩み話としては、
「休日は家族の事は放っておいて、自分ばかり遊んでズルイ」
「何十万もする自転車にお金を使いすぎ」
「自転車を部屋の中に入れないで欲しい」
などと言われることが多いようだ。
対応策としてはちょっと禅問答みたいなるが、大切なのは相手への配慮と愛であり、相手の立場に立って考え、行動することである。
自転車に興味ない人には理解できないことが多いだろうし、自分の価値観を押し付けるのは得策ではない。例えば中流家庭の奥さんが、趣味で10万円のバッグを買って、またちょっと色が違う15万円のバッグを購入し、更に別のブランドの20万円のバッグを買うと言ったら、どう思うかというのと同じような事ではないだろうか。
自転車のことで家庭内に軋轢が生じるようなら、まずは相手の言い分にあわせる努力をしなければ、相手も理解をしようとはしないだろう。いつまでも気持ちよく自転車を楽しみ続けるために、家族やパートナーなど身近な人への配慮と、思いやりのあるコミュニケーションを大切にしたい。
(写真/本人)
(瀬戸圭祐さんの「快適自転車ライフ宣言」は隔週火曜日掲載です。次回は6月13日(火)に公開予定です。お楽しみに!)
第3章:快適に走る、楽しく走る、ライディングテクニック
8)疲れない走り方
9)身体と自転車と家族と、アフターケアが大切
著者プロフィール
瀬戸圭祐せと けいすけ
中学/⾼校時代に⽇本全国を⾛破し、その後、ロッキー、アルプス、⻄ヒマラヤ/カラコルム、ヒンズークシュ、北極圏スカンジナビアなど世界の⼤⼭脈を⾃転⾞で単独縦断⾛破。 ⼗数年ジテツウを続けており、週末はツーリングや⾃転⾞イベントなどを企画実施。 ⾃転⾞の魅⼒や楽しみを著書やメディアへの掲載、市⺠⼤学での講座、講演やSNSなどで発信し続けており、「より良い⾃転⾞社会」に向けての活動をライフワークとしている。 NPO法⼈ ⾃転⾞活⽤推進研究会 理事、(⼀社)グッド・チャリズム宣⾔プロジェクト理事のほか、 (⼀財)⽇本⾃転⾞普及協会 事業評価委員、丸の内朝⼤学「快適⾃転⾞ライフクラス」講師、環境省「環境に優しい⾃転⾞の活⽤⽅策検討会」検討員などを歴任。