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2017年03月28日

瀬戸圭祐の 「快適自転車ライフ宣言」 3-5) テクニックの差が出る!下りを速く安全に!

瀬戸圭祐の 「快適自転車ライフ宣言」 第3章:快適に走る、楽しく走る、ライディングテクニック

 

5)テクニックの差が出る!下りを速く安全に!

ダウンヒルは判断力とテクニックで上手くなる。
上りや平地などほとんどの場合は体力や持久力がものを言うが、それらに自信がなくても、ダウンヒルでは上級者になれる。
ダウンヒルの爽快感は自転車の醍醐味だが、そのテクニックは体力や筋力では身につかない。
何よりも安全を確保することが最優先であり、危険を避け先を読む判断力、安全なライン取りやコーナーリングのテクニックを、知力とセンスで身につけたい。
スピードの技術は、安全技術が身につかねば求めるべきではない。

 

<安全が全てに優先する>

ダウンヒルでは、大ケガや命にかかわる事故に遭遇するリスクが高くなる。
わずかなハンドリングミスや、判断の遅れで転倒や衝突などの大事故につながる。
対向車線に飛び出してしまったタイミングで自動車が来たら、転倒で崖下に落ちたら、バランスを崩したりカーブを曲がりきれなかったりで路壁に激突したら……、命をも奪いかねないリスクがあることをつねに意識しておく必要がある。

高価なバイクが甚大なダメージを受け、多大な損害を被るリスクもあるし、仲間や他の道路利用者を巻き込むこともあるのだ。
下りでの注意点は多い。
路面状況、対向車、後続車、カーブの度合い、道の広さ、勾配の変化、風向きや強さ、カーブミラー、自分のポジショニング、前後を走る仲間の動き、などなどたくさんある。

特に路面状況は石、砂、木、落ち葉、ゴミなどの落下物や濡れの状況、穴や溝などの凸凹などに目を凝らしたい。また、カーブの内側は砂や埃が溜まりやすくなっているのでスリップに十分注意したい。
自分が安全なラインで下っていても、対向車線からクルマやバイクがセンターラインを超えて膨らんでくる可能性がある事もしっかりと意識しておきたい。

タイムを競うレースなどで無い限り、人より少し速く下ったところでたいした意味は無いのである。
ダウンヒルを安全に、そして快適に楽しむテクニックについて考えてみたい。

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下りでは路面状況を確認したりと細心の注意を払おう


 

<下りの準備は、峠でしっかりと行う>

ヒルクライムでは体温が上昇し、汗でウエアも湿りがちになる。風を切るダウンヒルでは体温が下がり、湿ったウエアでそのまま下るとどんどん熱が奪われてしまう。身体が冷えるとブレーキングが遅くなったり、身体の柔軟性がなくなってハンドリング操作が鈍ったりと危険要素が増えていく。
さらにダウンヒルで重要な判断力が低下し、回りの状況をしっかり把握しての的確なライン取りや、スピードコントロールが鈍るおそれがある。
それらを防止するために、ヒルクライム後はまずはちゃんと休息をとって、呼吸や心拍を整えることにより、判断力をしっかり確保する。

防寒のためにウィンドブレーカーなどを着用し、風をシャットアウトできるようにして体温低下を防ぐ。
標高の高い峠は、上った直後は感じなくても下り始めると想像以上に寒いことがあり、また、峠を越えた途端に天候が変わる可能性もあるので、防寒や雨対策は万全にしておきたい。

視界の確保も大切で、メガネやサングラスに汗や汚れがついてないかも確認しておきたい。
ギアは上りではインナーを使っていただろうが、下りではチェーンのバタつきを抑えてテンションをとるために、アウターに入れておくのが望ましい。下りはじめたら少しずつギアを重くしていき、加速が必要な際に踏み込める程度のギアに早めにセッティングしたい。
こころの準備もダウンヒルモードにセッティングである。

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峠を走る際は下山時に備えた防寒ウエアも必ず持って行こう。汗冷えした身体は想像以上に体温を奪い、バイクコントロールを鈍らせるおそれがある


 

<重心を低く、しっかりポジショニング>

下りは、平地や上りのポジションだと、地球の引力の法則から前かがみの前輪荷重になってしまう。これを意識的に後輪荷重へと移動させる。つまりオシリをサドルの後方に移動し、できれば浮かせた状態もしくは、ふとももでサドルのノーズ部を挟むようにする。ペダルは水平に保って効き足を前に持ってくる。これにより体重がペダルにかかり重心が低くなる。重心は低いほど安定するので、より地面に近い場所に荷重するほうが好ましい。

サドルに重心がかかると、重心位置が高くなるだけでなく、路面からの振動が身体に伝わり、視線がぶれやすくなってしまうのだ。
ヒザ、ヒジ、手首、足首などに余計な力を入れず関節を柔らかくして路面の振動を吸収させる。
後輪にしっかり荷重をかけると、ハンドリング操作が軽くなり、またブレーキングの際の後輪の制動力もアップする。
ハンドルは、ドロップポジション(下ハン)を握ると重心が下がり車体が安定しやすくなる。さらにブレーキを少ない力でかけることができ、リラックスもしやすくなる。
ブレーキブラケットを握る場合に比べて、数センチは後方を握ることになるので、そのぶんサドルの後ろに乗りやすく後輪荷重しやすい。
ただし、ドロップポジションを握ると、より姿勢が前のめりになるので、躊躇する人もいるだろう。手の大きさやブラケットの位置に応じて、自分がブレーキ操作しやすいのならブラケットを持っても構わない。無理にドロップポジションをとる必要はないのだ。自分が安心して確実に操作できるポジショニングが大切である。

顔は下を向かず、つねに頭を地面と垂直に起こしておき、視界を広く確保する必要がある。
しっかり顔を上げて、広い視野を保ち、先々までの状況を的確に判断して対応できるようにしよう。
また血流を良くし、体温を下げないためにも時々脚を正回転させてやるとよい。カーブでの立ち上がりなどでは積極的に脚をまわして暖めるとともに安定を確保しよう。とくに冬のダウンヒルなどでは、脚を止めて下った後は、冷え切って回らなくなってしまうので注意が必要だ。なお、逆回転させるのはチェーンが外れやすくなるのでNGだ。

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お尻をサドル後方に移動し、後輪にしっかりと荷重する


 

<ブレーキング>

ブレーキングは車体が安定している直線路で行い、カーブ途中ではできるだけ行わない。
カーブに侵入する前にカーブの状況やその先を予測し、安全に曲がりきれるスピードまで充分に減速しブレーキングを終わらせる。
直線での減速は、フロントブレーキを中心に行う。制動力はリアよりもフロントブレーキが圧倒的に強い。制動性を高めるためのブレーキングの割合は前輪8:後輪2程度が良いといわれている。
ただしむやみに力を入れると安定を失い転倒のリスクもある。フロントブレーキでの急減速は前輪がロックする事もあるのだ。早めにリアブレーキで少しずつ減速しながら、フロントブレーキを強めるなどしてうまくコントロールしたい。ブレーキを掛けた際に、荷重が前に掛り過ぎないよう、腰を後ろに引いておくのもポイントだ。
早めに少しずつ減速するのが安全確保の必要条件である。
先の状況を読み違えたり想定外の障害物があるなど、カーブに入ってから減速が必要になった場合には、リアブレーキを少しずつ握って当て効きで微妙なコントロールを行う。
カーブでのブレーキングは、不必要なスリップや転倒につながるので慎重に行いたい。
 急ブレーキは非常に危険であり厳禁だ。
また、長い下りが続くとブレーキを握る手が痛くなってくることがある。そんな時は身体をブレーキにする。つまり前傾から上体を大きく起こして風圧をモロに受けて減速するのである。ずっと前傾姿勢を続けているストレスからも開放され、また周りの景色を見る余裕も生まれてくる。直線の安全な場所で行える気持ちいい瞬間だ。

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当て効きなど微妙なブレーキコントロールは急には難しい。平地や勾配の緩い安全な下りで練習しよう


 

<走行ラインを見極める>

ダウンヒルであっても道路交通法に基づき、左側走行が原則である。
直線路や見通しの良い大きなカーブならばキープレフトを維持しよう。
しかし急カーブや九十九折れ、S字カーブやヘアピンカーブなどでは、ずっと道路の左端をキープして走行することは、安定して快適に下るのには無理がある。

カーブでのライン取りは、周りの状況と安全の確認をしっかり行い、センターラインを絶対に割らないことが前提である。
右カーブの場合は道路の左側から入って行き、後続のクルマなどに注意しながらカーブの頂点付近で走行レーンの中ほどに切れ込んで行く。そして再び左側に抜けて行く「アウト・ミドル・アウト」が基本。
左カーブの場合は、同様に「ミドル・イン・ミドル」もしくは「ミドル・イン・イン」のラインで曲がれば、安定したなコーナーリングがしやすくなる。
カーブのアールの度合いや路面状況、勾配やクルマのエンジン音などの周りの状況をしっかり把握し、見えている状況のみではなく、その先がどのようになっているかも考えながら、カーブへの最適な進入速度と進入位置を見つけて、それらを総合的に判断してラインを決める。
コーナーリング途中にペダリングで加速することは、安定を失いかねないのでできるだけ行わない。
従って、ラインをしっかり決めることが大切であり、その後はラインに乗って重力に引かれるままに狙った通りにコーナーを抜けていくのである。

 

<カーブでのポジショニング>

カーブに近づいたら曲がる方向、つまり左カーブであれば左脚のペダルを上死点の12時〜1時あたりの位置でキープして、カーブの終わりが見えるまでペダリングを停止する。
カーブでは遠心力で外側に膨らもうとする自然の力学に対し車体を内側に傾けてバランスをとる。その際内側のペダルを上げて曲がる方向にヒザを開くと、より重心が下がって安定して回りやすい。ペダルを上げておくことで、重心が傾いたときにペダルが地面に触れてしまうことも防止できる。

カーブを走行するのに意識せねばならないのは、曲げるのではなく曲がることである。
スピードが出ている時に曲がるにはバイクが傾いた状態になることが必要で、バイクが傾くと前輪は傾けたほうに切れ込む。ハンドル操作で曲げるのでなく、身体と自転車を曲がりたい方向へ傾けて、切れ込んでいく感覚で曲がるのだ。
外側のペダルは下死点付近において荷重をかけるようにする。コーナーリングの最中にもっとも地面に近づくのは外側の脚であり、ここに体重をかけることで低重心となって安定しやすくなる。
外脚荷重は、タイヤをグリップさせる力である「コーナリングフォース」を高めることができる。地面に押し付ける感じにすることにより、横滑りに対応しやすく安定感が増すのだ。
視線は、顔を上げて視界にあるコーナーの最も遠いところを見ながら、狙ったラインどおりにトレースして行く。

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目線を上げてコーナーのもっとも遠いところを見るように意識しよう


 

<車体と身体の位置関係>

カーブでバイクを傾ける際、安定を保つためタイヤのグリップを生かす必要がある。
カーブにさしかかったら、ブレーキ時に後ろに引いていた腰を元に戻して、ニュートラルポジションを取って前後輪を安定させる。
バイクと身体の傾け方には自転車を中心に身体がどちらに傾いているかによって、次の3つのパターンがある。

瀬戸さん表

初心者の場合、最初はバイクを傾けることが怖いという人もいるが、頭を傾けずに外脚荷重を意識すれば安定して曲がれるので、身体で覚えたい。

「リーンウィズ」とは、身体と自転車の傾きが一直線に上になる基本フォーム。
「リーンアウト」はきつめのカーブでもスピードを殺さずに抜けて行けるテクニカルなフォーム。
「リーンイン」路面が荒れている場合や、安定を確保したい際のフォームだが、スピードはやや落ちる。
初心者は「リーンウィズ」だけでも良いが、状況によって使い分けることができれば、快適に速く下れるようになる。

 

<カーブを抜けて行く>

カーブの終盤では、目線をカーブの出口からその先にあわせる。
下を見ないように、顔をしっかり上げて、対向車などが来ないかなど状況把握をしっかり行い、カーブミラーがあれば先の状況をチェックする。
カーブのアールが弱まってくれば、傾けていた車体を徐々に垂直に戻し身体を起こしてペダリングを再開する。
カーブに入る前にギアを1、2枚分軽くしておくとカーブからの立ち上がりがスムースになるので覚えておきたい。
ただし、次々とカーブが続くコースもあるので、安易に加速ペダリングせずに、先を見て状況に応じて対応する必要がある。

ちなみに、左回りコーナーよりも右回りコーナーを苦手とする人が多い。一般に右利きの人が多いがその場合通常は左足が軸足になる。軸足中心の回転はラクだが、軸足でない右足を中心に回るのは右利きの場合不得意となるのである。また地球の自転も公転も左回りであることも先天的に影響しているという説もある。ちなみに陸上やスケート、野球などのステージは全て左周り設計となっている。

 

<周辺状況への注意>

仲間とともに下る場合は、お互いが干渉しないように車間を十分に取る。
しかし、個々人のスキルの違いから近づきすぎたり追い越したりする場合もあるし、大人数の集団だと団子状態になる瞬間もあり得る。
どうしても抜きたいのなら、大きな声で「右から抜いて行きま~~~す!!!」と叫んで、相手にしっかり認知させる必要がある。
前方を走る者は後ろを振り返ってはいけない。ダウンヒルの高速状態で後ろを見るのは、バランスを崩しやすく危険であり、その瞬間は前方の状況認識ができないため、周辺環境が察知できなくなる。前を向いたら対向車線からクルマがはみ出してきたということにもなるのだ。
サイコンやガーミンを見つめることも同様に危険であるので、下りでは意識しないようにしたい。
ハンドサインは無理して出さない。高速でのセンシティブなハンドリングが必要な状況で、片手運転はバランスを失うリスクが高くなる。
集団で団子状態になったら、一番遅い人にスピードを合わせ互いに車間を確保することに努める。見通しの良い直線路などで安全を確保しながら抜け出して、早めに団子状態を解消しよう。
クルマやオートバイが追い抜きをかけて来た場合は、左に寄って抜かせてあげよう。戦いを挑んでも危険が増すばかりで、良いことは何も無い。
休日のクルマは峠の道に慣れていないことも多いので、平日以上に注意が必要だ。

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集団で下るときは、いざという時に止まれるだけの間隔を前走者に対して必ず空ける


 

下りはいともカンタンにスピードが出る。初心者でもどんどんスピードが出せてしまうが、コントロールする技術がないと安全には下れない。
確認しなければならない情報量が非常に多く、かつアクションを即断即決する判断力が必要である。
総合的な判断とバイクコントロールテクニックは一朝一夕では身に付かない。
経験値を高めることで、徐々に出来るようになり、自然と身体が覚えていくのである。
安全確保のテクニックを身につければ、後はスピードへの恐怖心との戦いである。
そこにはダウンヒルに吸い込まれて行く、ちょっと危険な快感が待ち受けているので、要注意だ……。

 

(写真/本人、小野口健太)

 

(瀬戸圭祐さんの「快適自転車ライフ宣言」は隔週火曜日掲載です。次回は4月11日(火)に公開予定です。お楽しみに!)


第3章:快適に走る、楽しく走る、ライディングテクニック

1)ビシッと決める、乗車ポジションとフォーム

2)心臓と肺で走る!ペダリングの極意

3)こまめなシフティングが快適ライドのコツ

4)ラクに上る、坂を楽勝でこなす方法

5)テクニックの差が出る!下りを速く安全に!

6)悪路走破の快感で、MTBにハマってしまう!

7)過言ではない!天候が全てを左右する

8)疲れない走り方

9)身体と自転車と家族と、アフターケアが大切

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