2017年05月09日
瀬戸圭祐の 「快適自転車ライフ宣言」 3-8) 疲れない走り方
瀬戸圭祐の 「快適自転車ライフ宣言」 第3章:快適に走る、楽しく走る、ライディングテクニック
3-8)疲れない走り方
サイクリングで最も大切なことは楽しむことであり、そのためには疲れないで走ることはとても重要である。ポイントは頑張らないこと、無理をしないことだ。
<心臓と肺で走るペダリングがカギ!>
ペダリングは踏むのではなく抵抗を感じないほどに軽く回す。物足りなく感じるくらいがラクに長い時間走り続けるにはちょうど良い。無理をすると筋肉に疲労物質がどんどん溜まって疲れやすくなり、だんだん走れなくなってしまう。上りでも脚が回せなくなったらあっさりと下車して押したほうがラクだしエネルギー効率も良くなる。無理に乗り続けても運動量や時間に大きな差はないのだ。
気持ちのうえで頑張らずにラクして楽しむというスタンスを明確に持っておくことが疲れないで走る最大のコツなのである。脚の回転数(ケイデンス)を一定にし、ペダルの重さも起伏や風などによって変動することのないように細かなギアチェンジを行う。シフティングテクニックは、疲れないライディングのための必須科目だ。そのためにもペダリングは心臓と肺でもコントロールして走るようにしたい。(「第3章2項:心臓と肺で走る!ペダリングの極意」ご参照)
つまり外部環境の変化があったとしても心拍数が大きく上がらないように一定のペダリングにあわせたリズムを維持し、呼吸もつねに会話をしながら走れるラクな一定の呼吸数を保ち、決して息を切らさないように走る事である。走行中のさまざまな環境の変化に対して、脚の回転数と負荷をギアチェンジやペース配分で調整し、心拍数と呼吸数は変動しないようにコントロールすることが、疲労や筋肉痛などを起こさない秘訣なのだ。
ケイデンスとペース配分を調整して、辛い上りでもラクして走ることを心がけたい
<ポジショニングも疲れに影響する>
正しいポジショニングを取ることは基本であり、ペダリングとともに身体に合ったフォームで走ることが疲れを少なくする最初のステップだ。(「第3章1項:ビシッと決める、乗車ポジションとフォーム」ご参照)
サドルやハンドルの位置や高さがきっちりと合っていなければ、疲れやすいだけでなくあちこちに痛みや凝りが発生することとなる。上半身がぶれないようにペダリングすることも余計な疲労を減らすポイントだ。身体を振ること自体が無駄なエネルギーだし車体が左右に揺れることも無用の抵抗を増やすこととなる。身体を揺らすダンシング(立ち漕ぎ)は負荷も大きいので、無理にする必要は無いのである。逆に上半身を活かしたペダリングは疲れを和らげる。腹筋や背筋、二の腕なども上手に無理なく使うペダリングができれば、そのぶん負荷が脚から分散され全身での効率良いライディングが可能となる。
<こまめなストレッチは疲労を軽減する>
正しくポジションが取れていても身体の各部が凝ることはある。
フラットハンドルの場合はポジション変更がしづらく腕や肩が凝りやすい。安全な場所を走行している際に片手を離してグルグルと回したり、大きく伸ばしたり手の開閉を繰り返したりすることで凝りは和らぐ。
腰も凝ったり痛くなったりしてくることがあるが、尻を浮かせて前に突き出し上半身を反らしてストレッチしよう。信号待ちの時間は自転車にまたがったままでも、手軽なストレッチは可能だ。手や腕だけでなく首もグルグルと回してストレッチすれば気分のリラックスにもなる。
目はつねに風に晒されていて乾きやすく、また紫外線により疲れやすい。ときどき目薬をさせばすっきりする。
休憩の度にこまめにストレッチする事も、疲労軽減の大切なテクニックなのである。
<上手に下って体力回復>
長い下りは回生のチャンスでもある。峠からの下りは身体をあまり動かさずに下ってしまいがちだ。
峠を上りきった後は火照った身体を徐々にクーリングダウンし、下りでは身体を冷やさないことが、疲れを残さないための小技である。
短い下りであれば、またすぐに平坦や上りとなって脚を回すこととなるが、長い下りの場合は身体を冷やしてしまう事がある。ポイントは、なるべく脚を止めてしまわずに回し続けることである。それにより身体に急な変化を与えることなくゆっくりとクーリングダウンすることができ、なおかつ身体を冷やさないこととなる。下りでも安全を確保しながらペダリングすることで、疲労を軽減しつつ、身体を休めることができるのだ。
<我慢しない、欲求を満たせば疲れは吹っ飛ぶ>
サイクリングでは自分の欲求に応じて好きなように時間を使い、行きたいところへ行って存分に楽しみたい。無理することも欲求を我慢しなければならないこともない。欲求に応じて少しでも疲れを感じたら少しずつ休み、少しでも喉が渇いたら少しずつ飲み、少しでもお腹がすいたら少しずつ食べるのだ。そうすることで疲れも渇きも空腹にも悩まされることはなくなるのである。すべて身体が欲求していることであり、それを補充するのは身体にも精神的にも心地よいのである。
しかしあくまでも早め早めの少しずつが原則である。喉が渇くのを長い間耐えてカラカラになってからガブのみするだとか、空腹を我慢し続けお腹がぺこぺこになってから腹いっぱいに食べるなどというのは日常生活でも好ましいことではない。体調コントロールが大切なサイクリングにおいてはそのようなことはご法度である。
こまめに休憩をとり、そのたびに少しずつ喉の渇きをいやし、少しずつエネルギー補給をしてやれば身体は快適を維持してくれるのである。
<水分とエネルギー補給>
水分補給は快適なサイクリングを続けるのに必要不可欠なことである。喉が渇く前にこまめに補給する。夏場なら15-30分に一回、100-200cc程度をとるのが良い。暑い日には1時間に1リットルもの汗をかく場合もある。ちなみに寝ているだけでも一晩で数百ccから1リットルの発汗があるのだ。
汗は水分と同時に塩分も排出していく。スポーツドリンクはこれらの失われた塩分やミネラルをバランスよく補給してくれるが、大汗をかいた後などでは塩分は補給しきれないので梅干や塩飴なども摂るようにしたい。また水分補給は熱中症の予防にもなる。
補給食はカロリーと糖分の摂取を心がける。ゼリー状のスポーツバランス携帯食やチョコレートなどを、お腹が空く前に休憩のたびに少しずつ食べるようにしておこう。ちなみに脂肪分は不要である。水分と補給食は常に一定量を持っておくようにしたいが、コンビニなどの購入可能な場所が無い山の中など以外では多くを持つ必要はない。
荷物を少なく軽くするのが快適なサイクリングの基本であり、水分も食料も1日分を全て持って走るのはエネルギーの無駄遣いとなる。
<現在地と目的地までを常に認識しておく>
サイクリング中は現在地を認識するのは基本であり、常に地図上のどこにいるのかを把握するようにしていたい。クラブランや経験豊富な引率者に付き添ってのグループライドなどでは仲間達とワイワイと楽しみながら、景色や街並みウォッチングを満喫し、コースは全く他人任せに能天気に走ることもあるかもしれない。
しかし、皆について行くだけだと、自分では予期していない上りが続いたり、ペース配分が自分には合わなかったりといった肉体的な負担が発生しやすい。さらに先の行程が、その時点での自分の体力ではかなりハードであると分かった際などの、精神的な負荷も大きくなるのである。
もちろん一人で走る際には、現在地の把握は必須であり、先を考えない行動は自分が辛い思いをするだけでなく、人に迷惑をかけることにもなるので責任感をきっちり持ちたい。
<走り慣れたルートに置き換えるとラクになる>
コースがしっかり頭に入っていると、とくに帰路においての精神的疲労が軽減できる。疲れが溜まってくると同じ距離でも長く感じるだろうし、実際にペースが落ちて時間がかかることもある。そんな時に自分が何度も走ったことのある道や、慣れたコースの距離に置き換えて考えるのである。○○まで残り何Kmとなった際に「よく行く公園までの往復の距離だな」といった感覚が持てる。知らない景色の中であっても「公園に向かう途中の橋を越えたあたりだ」というふうに置き換えて考えると随分と近く感じてラクになるものである。
このように普段走る場所を想定して5kmとはどういう距離なのか、10kmとは20kmとは、と身体で覚えておくことにより自分にとっては最も確実な体力と距離と時間のバロメーターとなるのである。
<距離表示板の起点はどこ?>
ちょっと脱線するが、「長野市まで30km」との表示があった場合、長野市のどこまでが30kmとなるのかご存知だろうか?
こういう場合の起点は各都市の市役所または町村の役場となる。平成の大合併で全国の市町村は軒並み広く大きくなっていて、同じ市でも両端の距離が何十kmにも及ぶ例も珍しくない。たとえばさいたま市まで40kmという表示があってもそれが大宮なのか浦和なのか蕨なのかによって10km以上も違いが出てくる。目的地までの距離を正確に把握することも、疲れない走りにつながるのである。
<事前に標高差を確認しておく>
日本は国土の8割程度が起伏のある地形であり、世界有数の山岳国家である。平野の河川沿いコースなどを除けば、1日走ればほとんどの場合は大なり小なりのアップダウンがあって然るべきである。
サイクリングの際には事前にルート上のどの場所にどの程度の標高差のアップダウンがあるのかを認識しておく。九十九折れか直登か緩急変化のある上りか、峠はトンネルか切り通しか、谷沿いの道か尾根道か中腹か、各部分の勾配の度合いなどを良く調べておきたい。全てを詳しく頭に入れておくのが面倒ならばせめて高低差は何mでそれを何kmの距離で上るのかということだけでも認識しておけば随分と体力やペースの配分がしやすくなり、気分的にもラクになれるのである。
走るコースの標高差や残りの距離を把握できていると適切なペース配分が可能となる
<標高差を身体で覚える!?>
標高差や距離を頭に入れたら実際に走る時に、それがどの程度の体力を必要とし、どのようにペース配分すれば良いかを身をもって感じとってみよう。その際単なる経験としてではなく、毎回状況によって同じではない自分の体力や環境に合わせて、どのようなペース配分でどのように走れば疲れずに楽しむことができるのか、峠越えの後、帰宅までの体力を余裕を持って残しておくにはどのようにすれば良いのかと言った事を身体と相談しながら走ることを覚えるようにしたい。
そういう経験を積み重ねればアップダウンがある場合でも、余裕を持って体力とペースの配分ができ、身体で標高差を覚える事ができるようになってくるのである。他にも、荷物の削減や自転車の整備、天候の的確な予測と対応、ウエアリングなどなど疲れにくくするノウハウはさまざまなジャンルに及ぶ。一番のポイントは、頑張らないこと、無理をしないこと、ラクして楽しむというスタンスを明確に持っておくことといった、精神的な構えである。
ゴールしたときに「あぁー疲れた」というのでなく、「あぁー楽しかった」と言えるようにサイクリングを満喫したい。
楽しくサイクリングするために不必要な疲れを身体に溜めない工夫をしよう!
(写真/本人、海上浩幸)
(瀬戸圭祐さんの「快適自転車ライフ宣言」は隔週火曜日掲載です。次回は5月23日(火)に公開予定です。お楽しみに!)
第3章:快適に走る、楽しく走る、ライディングテクニック
8)疲れない走り方
9)身体と自転車と家族と、アフターケアが大切
著者プロフィール
瀬戸圭祐せと けいすけ
中学/⾼校時代に⽇本全国を⾛破し、その後、ロッキー、アルプス、⻄ヒマラヤ/カラコルム、ヒンズークシュ、北極圏スカンジナビアなど世界の⼤⼭脈を⾃転⾞で単独縦断⾛破。 ⼗数年ジテツウを続けており、週末はツーリングや⾃転⾞イベントなどを企画実施。 ⾃転⾞の魅⼒や楽しみを著書やメディアへの掲載、市⺠⼤学での講座、講演やSNSなどで発信し続けており、「より良い⾃転⾞社会」に向けての活動をライフワークとしている。 NPO法⼈ ⾃転⾞活⽤推進研究会 理事、(⼀社)グッド・チャリズム宣⾔プロジェクト理事のほか、 (⼀財)⽇本⾃転⾞普及協会 事業評価委員、丸の内朝⼤学「快適⾃転⾞ライフクラス」講師、環境省「環境に優しい⾃転⾞の活⽤⽅策検討会」検討員などを歴任。