2021年06月08日
【第17回Mt.富士ヒルクライム レースレポート】主催者選抜クラス ついに56分台突入! 池田隆人さんがコースレコードで初優勝!
6月6日に開催された「富士の国やまなし」 第17回Mt.富士ヒルクライム。2年ぶりに主催者選抜クラスも開催され、男女とも熱い戦いが繰り広げられた。男子は池田隆人さん(Team ZWC)が初優勝、女子は望月美和子さん(SAGISAKA)が2度目の優勝を飾った
序盤のアタック合戦から優勝候補が動く!
今年の主催者選抜クラス男子は、過去の富士ヒル王者で強豪ヒルクライマーの森本誠さん、兼松大和さん、コースレコード保持者の田中裕士さんが参加を自粛。その一方で、2年前の第16回大会王者・佐々木遼さん(Team GOCHI)、第16回大会2位で非公式ながら昨年の「秋のMt.富士ヒルクライム」でトップタイムを出した加藤大貴さん(COW GUMMA)ら強豪を含む69名が出走した。
中でも注目を集めていたのが、25歳の新星・池田隆人さん(Team ZWC)。3年半前からオンラインのZwift中心のトレーニングで力をつけ、UCIワールドチーム・モビスターの、Eレーシングチームのトライアウトを兼ねたZwiftアカデミーではタレント発掘プログラムの最終選考まで残った。
事前に行ったスバルラインの試走(料金所~五合目)では55分34秒のベストタイムを持ち、優勝候補の一角に食い込んでいた。
午前6時半に主催者選抜クラス男子がスタート。料金所付近で小雨がぱらつき始めるが、ここで早くも最初のアタックがかかる。最終的に3位に入った板子佑士さんが振り返る。
「ファーストアタックはいつもの大野(拓也)さん(天照CST)が飛び出しました。それに優勝した池田さんが反応しました。思い切って最初の1回目は私もついて行きましたが、これは決まらず」
3km地点付近で再びアタック合戦が起こり、加藤さんとチームメイトの金子宗平さん(COW GUMMA)、池田さん、橋本晴哉さんの4人が抜け出す。
1合目下駐車場手前で金子さんが脱落し、先頭3人に絞られると徐々に集団との差を開いていく。5km地点手前で橋本さんが遅れ、逃げは加藤さんと池田さんの2人となった。
「2回目、何人か逃げができて、そこで私は様子見ましたが、これが決まった。池田さん、加藤さんが含まれていて2人逃げになったという感じですね」(板子さん)
この逃げに乗った加藤さん自身も「僕もまさかこの逃げが決まるとは思わなかった」と、その後の展開は予想できていなかった。
しかし、池田さんはより積極的なレース展開を描いていた。
「大野さんが真っ先にアタックして、それにぴったりついて逃げができました。逃げ切るしかないと思って、最初から全開で頑張って逃げようとしました」と、逃げ集団のローテーションでも積極的に先頭を引いた。
経験豊富な森本さん、兼松さんがいなかったことも、レース展開に影響したかもしれない。
「彼らがいたら、2人逃げは決まらなかったでしょうね。引くか、ブリッジをかけるか、してたでしょうね」(板子さん)
「違った展開になっていたでしょうね。森本さんは逃げは放っておかないと思います。ある程度アタックをかけて、今日みたいな展開だったら、集団を引っ張って僕らを追走したと思います」(加藤さん)
一騎打ちの優勝争いを制したのは!?
ここでレース展開はいったん落ち着く。約10kmの間、先頭は加藤さんと池田さんのハイペースの2人旅が続き、集団との差はますます開いていった。
「集団が見えなくなったので、池田さんとこのまま回していこうか、という話をして。まだ15km以上残した早い段階だったので先は長かった」
しかし、早くも15km手前で池田さんはアタックを仕掛ける。そのスピードについていこうと粘った加藤さんもついに引き離されてしまった。
「加藤さんが疲れてきた感じがあったので、あそこが仕掛け時だと思いました。向かい風もあってかなりきつかったんですけど、なんとか逃げ切れてよかったです」(池田さん)
「淡々と池田さんと逃げていましたが、途中で強く踏まれる場面があり、そこでついていけなくなって一人旅に。あとは集団に追いつかれないように淡々と…」(加藤さん)
メイン集団は20km地点で約3分、先頭の池田さんから離されていた。この中にいた板子さんは、集団の統率が十分ではなかったと語る。
「集団の利を生かして、うまく回していければチャンスはあった。ヒルクライマーなのでローテーションに慣れていない人も含まれていたと思います。長い時間強く引き過ぎてしまう人もいて、均等に回していければもう少し違っていたかもしれません。私は登坂力はトップに敵いませんが集団スプリントに持ち込めればチャンスはあると考えていました」
しかし、先頭の池田さんのペースは緩むことなく、危なげない走りで残り9kmを独走。コースレコードを40秒以上更新する56分21秒56で、富士ヒル初優勝を飾った。
2位には57分52秒32で加藤さん、3位には得意のスプリントを制した板子さんが58分26秒62で入った。
普段は物静かな青年だがレースでは積極的に走り、優勝候補として注目されるプレッシャーをはねのけて勝利した池田さん。ZWIFTでのインドアトレーニング中心で、チームメイトともオンラインでの交流が主というまさに新世代サイクリストの台頭を感じさせるレースとなった。
男子TOP3のコメント
優勝:池田隆人さん(TWEM ZWC)
「本当に自分でも信じられない。うれしいです。勝つことは目標だったけど、本当に勝てるとは思ってなかった。少しプレッシャーを感じていたんですけど、自分の力を出せました。展開は少し予想外のところはあったんですけど、うまく走れたと思います。(試走とは)雨が降ったのと風向きが違っていました。あとは他の選手がたくさんいたので、試走ではマイペースで走れるけど、レースでは他の選手のペース配分を考えながら走るのがだいぶ違ったと思います。今後は乗鞍を目標にやっていきたいと思います」
2位:加藤大貴さん(COW GUNMA)
「今年4月に日光白根のヒルクライムに出場していますが、やっぱりこういう大規模なレースは久しぶり。緊張感を持って臨みました。レースが一年近く空いてしまっていたので、どういうふうに過ごしていたか思い出しながらコンディションの調整をしました。(今後は)美ヶ原のレースはキャンセルになってしまったので、乗鞍は優勝を目指していきたい。今日のレースでだいぶモチベーションをもらいましたね! 負けてられんぞ!と(笑)」
3位:板子佑士さん
「ヒルクライム自体、去年は1戦も出ていませんでしたから、久々に緊張しましたね。スタート前の大会前日に感じる、あのもやもやした気持ちというか(笑)。楽しかったです。富士ヒルはレース展開があるので面白いですよね。私は最後まで集団でいければチャンスがあるので、また富士ヒルに挑戦したいと思います」
男子チャンピオン 池田隆人さんのバイク
池田さんの愛車はキャニオン・エアロードで、各所のセッティングもエアロを意識したもの。「富士ヒルはヒルクライムでも高速なので、エアロロードを使っています。乗鞍でもこのバイクを使うかもしれません」
主催者選抜クラス女子、望月美和子さんがプレッシャーを跳ね除け2度目の優勝!
9名がエントリーした主催者選抜クラス女子。中盤から望月美和子さん(SAGISAKA)、石井嘉子さん(アーティファクトレーシング)の2人が先頭に立ち、最後は望月さんがスプリントを制して1時間13分41秒29で優勝。
2位は1秒差で石井さん、3位には佐野歩(Iinfinity Style)さんが続いた。
望月さんはこれまで年代別クラスで2度、主催者選抜クラスで1度優勝しており、4度目の富士ヒル表彰台頂点となった。
優勝:望月美和子さん(SAGISAKA)
「ホッとしました。15回大会で優勝していたので、今年も勝ちたい気持ちがあったし、仲間からも頑張ってと応援をたくさんいただいたので、勝ちにこだわって走らせてもらいました。今までローラーが嫌いで乗ってなかったのですが、平日も時間を作ってローラーに乗るようにしました。レース展開は、今までは独走が多かったんですけど、レベルが上がってきてなかなか(石井さんを)切り離すことができなくて、最後スプリントで差すまでずっと不安とプレッシャーがすごかったです。ヒルクライムが一番得意なので、これからもヒルクライム中心に出て結果を残していきたいです」
女子チャンピオン 望月美和子さんのバイク
望月さんのお気に入りが、LANGMAのカラーリング。フレームの内側から光っているように見える独特のグラフィックがポイント。「男性のサイクリストからもLivがいいなあとよく言われます」
公式サイト
Mt.富士ヒルクライム https://www.fujihc.jp/
大会スポンサー・企画協力
ビオレーサー https://bioracer.jp/
グリコパワープロダクション http://www.powerproduction.jp/
Zwift https://www.zwift.com/ja
写真:小野口健太
著者プロフィール
光石 達哉みついし たつや
スポーツライターとしてモータースポーツ、プロ野球、自転車などを取材してきた。ロードバイク歴は約9年。たまにヒルクライムも走るけど、実力は並以下。最近は、いくら走っても体重が減らないのが悩み。佐賀県出身のミッドフォー(40代半ば)。