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2024年10月11日

『信州高山ヒルクライムチャレンジ2024』おもてなし溢れる、大スケールのヒルクライム

レースのスタート前。お年寄りから赤ちゃんまで、沿道から温かい声援が送られる。クラシックカーに先導された選手たちのパレードが村内を進む。助手席には、村の観光PRキャラクター「高山タカオ」君にちなんだタカの着ぐるみが乗っている。

タカオ君の口癖は「飛騨じゃねぇし」。そう、ここは岐阜県の飛騨高山とは全く別の長野県北部に位置する高山村。「日本で最も美しい村」に名を連ねる山間の村である。

旗を振って声援を送る高山村の方々。パレードカーの助手席には観光PRキャラクター「高山タカオ」君にちなんだタカの着ぐるみが。

今年で11年目を迎える「信州高山ヒルクライムチャレンジ」は、2013年に地元のロードバイク愛好家30名ほどが集まった走行会から始まった。公式な計測はなく、仲間内の小さなイベントだった。

2016年にヒルクライム大会として初開催。標高1900 mの笠岳登山口をフィニッシュとする、距離20 km、標高差1300 mという日本有数のスケールを誇るコースが舞台である。

今年のエントリー数は314名と、昨年の約200名から大幅に増加している。口コミで広がり、リピーターが多いのも特徴だ。一度この大会の魅力に触れたら、もう離れられない。

ゲストライダーとして参加した私、才田直人が大会の様子をお届けする。

「おもてなし」に溢れた大充実の前夜祭

この大会で欠かせない話題が前夜祭である。15時から17時と早い時間帯に開催されるので、翌朝のレースに向けても安心。テーブルには、おやき、ピザ、フルーツ、手打ちそば、地元のワインやビールなど、高山村の人たちが心を込めて準備してくれた、村の魅力が詰まった料理が並ぶ。

手打ちそばからフルーツまで、高山村の名産品がずらりと並ぶ前夜祭。

レース前日だから…そんなことは忘れて、誘惑に負けて楽しむが勝ちである。

「乾杯!」

受付からレース本番まで、各々が頑張ることが多いヒルクライムレースでは、選手の横の繋がりが希薄なことが多い。全員が「明日は頑張ろう!」と一緒に杯を掲げる。このシーンはとても印象的だった。

私を含めたゲスト4人によるトークショーでは、大会アドバイザーの鈴木雷太さんの司会進行で、コース対策や注意点を議論。筧五郎さんのアドバイスをもとに危険箇所が路上ペイントされるなど、具体的な対策が共有された。

グルメに舌鼓を打ちながら、ゲストのトークショーを楽しめる。自転車界のワイン通といえば宮澤崇史さん。ボトルを手に、自然と笑顔に。

走行会から発展したからこその、アットホームなおもてなし。このレースは、高山村の人たちが作り上げた、プロの運営企業が関与していない「手作り」のイベントである。

その土台に、雷太さんをはじめとしたエキスパートのアドバイスが加わることで成長してきた。そして、最後に選手が全力で、安全にレースを走ることで、大会は完成する。

国内屈指のスケールを誇るコースに挑む

いよいよ大会当日。芝生広場での開会式は開放感があり、選手たちはリラックスした様子でスタートを待つ。早朝の霧雨は回復傾向。空は徐々に明るくなってきた。

少しずつ明るくなる空の下でスタートを待つ選手たち。

村内のパレード走行の後に、レースがスタートを切った。

沿道の応援が背中を押してくれる序盤の集落を抜けて、次第に森の奥深くへと入り込んでいく。一転して、静かで厳しいヒルクライム特有の、自らとの対話の時間が始まる。

標高が上がるにつれて植生が変わる。ブナなどの広葉樹から白樺が目立つようになる。樹林帯を抜けてラスト5km。雲の上に出た。周りには背の低いクマザサが増え、空が開けて日差しが降り注いだ。自分と向き合った選手たちを、この山が歓迎してくれているかのようだった。

村の人々の温かい声援を受けて始まり、森の中で自分と戦い、そして雲の上で感じる解放感。標高差の大きなコースだからこそ味わえる景色と心の変化。このレースは、選手たちに特別な体験を与えてくれる。

フィニッシュ地点は再び霧の中。大きな挑戦を終えた笑顔の選手たちは、完走のご褒美の冷えたコーラを手に健闘を称え合う。

そして安全に下山するのも重要なこと。ゲストライダーが先導しながら、各自が慎重に安全に下る。この大会はやはり、選手の協力が最後の1ピースとなって完成する「みんなで作り上げる」大会である。


下山後には豚汁とレモンそばが待っていた。冷えた体に染み渡り、心まで温まっていく。開会式と同じく表彰式も屋外で行われ、レースを終えた選手たちは、心地の良い疲労感とともに、芝生の上で入賞者を祝福する。豪華賞品のじゃんけん大会も大盛況だった。

信州高山ヒルクライムは、最後まで村の人たちの心のこもったおもてなしに包まれていた。

フィニッシュ後のおもてなしは、温かい豚汁と、柑橘系の香りが爽快なレモンそば。
表彰式の後には豪華賞品の当たるじゃんけん大会。

総合優勝は男子は櫻庭悠真さん、女子は大石由美子さん。

レース中、私は林道に入ってしばらく櫻庭さんと一緒に走る時間があった。フィニッシュ後、「きついペースでした」と語った彼のチャレンジに、健闘を讃え合い、レース後に握手を交わした。

選手にとって、リザルトの掲載が早いのは嬉しい。

みんなで作り上げた大会、そして私のできること

今回はゲスト参加ということで、レースを作り上げる高山村の人たちの想いや取り組み、大会運営の裏側も少し見ることができた。

そして、大会の安全と楽しさをアンバサダーとして長年支えている雷太さん。二日前からコースを試走し、参加者に安全な走り方やコース攻略のコツを伝えてくれた五郎さん。そして地元に溶け込み、前夜祭では得意の料理を手伝うことでも大会を盛り上げた宮澤さん。

五郎さんが試走して、危ないと感じたところには、大きな路上ペイントがなされた。後日撮影したので、字は少しかすれ気味。

ゲストとして、私ができることは全力でレースを走ることだと思った。もし私の走りから何か感じてもらえたなら本当に嬉しい。

そしてもう一つ、私にできることがあった。それは、大会当日に見られなかった山頂からの絶景を届けること。

来年こそ、この景色をみなさんに見てほしい。大会の数日後、そう願いながら私は再び山頂に立っていた。

フィニッシュ地点から見下ろす、最終登坂ルート。
山頂からは晴れていると、横手山など渋峠方面が一望できる。

関連URL

信州高山ヒルクライムチャレンジ2024 オフィシャルページ

信州高山ヒルクライムチャレンジ2024 リザルト

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