2019年05月22日
富士チャレンジ200へのイメージトレーニング③「逃げの哲学」イェンス・フォイクト
今年から「敢闘賞」「ポイント賞」を新設し、表彰種目として「チーム表彰」を設けた「富士チャレンジ200」(9月7日開催)では「積極性」をテーマにレースを企画しています。そこで果敢なレースに挑む「心構え」のイメージトレーニングとして、一流選手のマインドに学ぶこの企画。第3回は長い競技生活において積極的な走りを貫いたこの選手です。
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イェンス・フォイクトほど格言に満ちた選手は後にも先にも他にいない。中でも「Shut up legs!!(シャット・アップ・レッグス=脚は黙っておけ)」は彼の熱い走りをうまく表している。
「レースに出ると、脚が悲鳴を上げるまで追い込むんだ。逃げに挑めば勝つチャンスが巡ってくるけど、逃げに挑まなければチャンスは巡ってこない」。
1971年東ドイツ生まれの現在47歳は、2015年に現役を退くまでの18年間、数えきれないほどの逃げでライバルたちを苦しめた。
「秩序を保って物事を整理しようとするのは気の小さい人々がやること。混沌とした状況をコントロールしてこそ天才だ」。
まさにフォイクトは秩序を打ち砕く走りが信条だった。
ツール・ド・フランスには1998年から2014年まで毎年欠かさず出場し、2005年に逃げ切りを果たしてマイヨジョーヌを着用。17回の出場の中でステージ通算2勝を飾っている。
ただの逃げ屋ではなく、山岳もこなせるルーラーとしてドイツツアーやクリテリウム・アンテルナシオナル、ツール・ド・ポローニュでは総合優勝を飾っている。
「サイクリングはロケットサイエンス(宇宙工学)ではない」。
つまり数字では表せない人間臭さがフォイクトの走りにはにじみ出ている。
その代表的なエピソードとして、イヴァン・バッソ(イタリア)の総合優勝に貢献した2006年ジロ・デ・イタリアの出来事が挙げられる。バッソが総合優勝に向けて駒を進めていたレース終盤、フォイクトは第19ステージで勝ち逃げに乗ることに成功。
しかし総合リーダーチームのメンバーとして逃げグループの牽引に加わらなかったフォイクトは、力を溜めていたためステージ優勝のチャンスがあったにも関わらず、ライバルチームのフアンマヌエル・ガラーテ(スペイン)の背中を叩いて勝利を譲った。
チームの仕事に徹し、健闘した選手に勝ちを譲るこの紳士的な行動は実にフォイクトらしい。フォイクトはその2年後のジロで逃げグループからアタックし、独走でステージ優勝を飾っている。
「ただチャンスを待つのではなく、自分を信じて、自分の手に自分の運命を委ねて走る大切さをキャリアの中で他のサイクリストたちに見せつけることができたと思う。自分から仕掛けて、その走りを完遂するんだ。もちろん走っているときは苦しい。でも周りの選手は自分の2倍苦しんでいるかもしれない」。
無謀にも思える逃げに勇気を持って挑み、それを結果につなげてきたフォイクトの言葉には説得力がある。
◆富士チャレンジ200ホームページ
http://www.fujichallenge.jp/
写真と文:辻啓
著者プロフィール
辻 啓つじ けい
2009年から海外レースを中心に撮影を行なうフォトグラファー。イタリア留学時にのめり込んだロードレースと学生時代から続けた写真撮影がいつしか結びついて現在に至る。夏場はイタリアでサイクリングツアーガイドを行い、冬場はシクロクロスに参戦するサイクリストでもある。