2019年04月25日
富士チャレンジ200へのイメージトレーニング①「逃げの極意」トーマス・デヘント
9月7日(土)に開催される「富士チャレンジ200」のテーマは「積極性」。今年からレースを動かした選手へ「敢闘賞」を授与するほか、ポイント賞も新設します。その「富士チャレンジ200」へ向けたイメージトレーニングとして、今週から「積極的な走り」を身上とするプロ選手のインサイドストーリーをお届けします。
筆者はジャーナリストの辻啓さん。
勝率は決して高くない。逃げ切る可能性なんて1割に満たないかもしれない。しかし、選手たちは勝利に向かって逃げる。ロードレースにおける「逃げ」にはある種の美学がある。
「こいつが逃げたら集団の空気が変わる」
そんな逃げのスペシャリストたちが、これまでロードレースの展開を刺激的なものにしてきた。歴史を遡ると、90年代に逃げまくったジャッキー・デュランや、00年代に逃げでレースを沸かせたトマ・ヴォクレールらが代表格だ。
現在、現役選手の中で最高峰の逃げ屋と賞賛されるのがベルギーのトーマス・デヘント。これまで全てのグランツール(ジロ、ツール、ブエルタ)で逃げ切り勝利を達成している。
2012年にはジロ・デ・イタリアの最終日前日に大逃げを成功させて総合3位に入っている。2017年のツール・ド・フランスでは合計1,047kmもの距離を逃げるという記録を打ち立てた。デヘントはライバルチームにとって「最も逃したくない選手」である。
「昔は集団を驚かすような動きができたけど、成績を残すにつれて、警戒されて逃げにくくなっている。自分が逃げに乗るとタイム差があまり広がらないんだ」。
そう嘆き気味に話すデヘントだが、19年シーズンも変わらず逃げが生まれるタイミングを見計らって集団を抜け出し、絶妙なペースコントロールで集団を撹乱する。それはもはや芸術の域だ。
「集団がスピードを上げれば逃げもスピードを上げる。逆に集団のスピードが落ちる補給ポイントはリードを広げるチャンス。逃げメンバーの中で声を掛け合うことは本当に大事なんだ」と、憧れの選手にイェンス・フォイクトの名前を挙げるデヘントは逃げの秘訣を話す。
ちなみに、逃げない日には、チームのエースのために集団の先頭に立って何時間も風を受け続ける。「集団の中で走っていたら勝てない。それに、集団内の位置どりが苦手だから、逃げに乗るか、集団の先頭で走ることが性に合っているんだ」。
デヘントは誰よりも前で走らないと気が済まない性格らしい。
仮に結果に繋がらなくても、ファーストアタックを仕掛け、フィニッシュラインを目指して勇敢に逃げる選手には賞賛が送られる。「逃げ」とは記録に残りにくいが、記憶に残る行為だ。
仮に逃げ切りが決まらなくても、少人数で大人数に立ち向かう姿は観るものを魅了する。結果だけでなく、そんな勇敢な走りが評価されるのはロードレースならではの魅力だ。
◆富士チャレンジ200 HP
http://www.fujichallenge.jp/
著者プロフィール
辻 啓つじ けい
2009年から海外レースを中心に撮影を行なうフォトグラファー。イタリア留学時にのめり込んだロードレースと学生時代から続けた写真撮影がいつしか結びついて現在に至る。夏場はイタリアでサイクリングツアーガイドを行い、冬場はシクロクロスに参戦するサイクリストでもある。