記事ARTICLE

2021年05月11日

新連載 ラン先生のサイクリング・サイエンスコラム/第一回 「サイクリストと情報リテラシー」

あらたにコラムをほぼ月イチ連載を開始します。医師で、かつシリアスサイクリストのラン先生によるコラム、題してサイクリング・サイエンスコラム開始いたします。ご一読ください(ラン先生が多忙な場合は、たまに休載する場合もございますので暖かくお見守りください)。

初めまして。ランと申します。
 
普段は医師として勤務しながら、大学院で研究を行っています。一方で自転車歴は10年を超え、週末や長期休暇にはロングライドに励む傍ら、自転車レースでの医療班としても活動しています。

「もっと速くなりたい」とトレーニング情報を自分で調べているのですが、世の中に流布されている情報にはデマや不確かなものが多いなと感じています。
そこで、ロードバイクやトレーニングに関する正しい知識を広めるべく、自分のブログやSNSを使って論文を紹介する活動をしてきました。

さて、まず皆さんにお聞きしたいことがあります。
ロードバイクと関係のある”数字で表せるもの”をできる限り考えてみてください。

できました? おそらく沢山の数字が出てきたのではないでしょうか。

ロードバイクを始めると、いろんな数字に出会います。
自転車のフレームサイズ、タイヤの空気圧、ステムの長さ、心拍数、FTP、などなど。
改めて見てみると思ったより多くの数字に囲まれていることに気がついたのでは無いでしょうか。

自転車はデータスポーツ

このように、数字で確認できる情報を、定量的データと呼びます。
定量的データの利点は、何よりも客観的に見るこができる点です。プロスポーツの世界では、この定量的データを使ってパフォーマンスを高める手法が使われています。
試合中継で動画解析やAIの技術を使った解説をご覧になった方や、プロ選手がモーションキャプチャー技術を使ってフォーム練習をしているのをご存知の方もいるでしょう。
しかし、アマチュアの世界でもこれだけ自分のデータを集められるスポーツというのは珍しいのではないでしょうか。

自転車競技の話に戻ると、ペダル型やクランク型のパワーメーターを取り付けることで、ペダリングフォームの効率が数字として表示されます。これらのデータを元に、自分でフォーム改善を行うことも容易にできます。

このように、より早く走れるようになるために練習の効率を上げようとした時にはデータの力が効果的です。

しかし、この時以下のような課題が出てきます。
① どのデータが必要なのか
② 集めたデータをどう判断するか 
③ 指標にしたデータを元に、実際のアクションにどう落とし込むのか


このような課題を解決しようとインターネットで調べると、正誤のわからない情報がたくさん出てきて混乱した経験のある方も少なくないかと思います(私がそうでした)。詳しくは、今後の連載の中で皆さんにお伝えしていこうと思います。

情報の取捨選択

自分で調べていたところ、あるテーマについての記事で、相反する内容を推奨している記事が複数あり、どれを信じていいのかわからなくなってしまったことや、参照元がわからず根拠があるのかわからないことを経験しました。怪しい健康情報やスポーツ生理学の記事に関しては、自分の専門が医学であったため、情報の取捨選択ができました。

一方で、自転車のフィッティングに関してはずぶの素人であったため、ネット情報をかき集めて自分なりにポジションセッティングをしていました。
しかし、参考にしていた記事が適切なものではなかったようで、見事に臀部の筋肉を故障してしまいました。


SNSで見かけるスポーツの情報はデマも多い

自転車競技に関する情報はネット上で沢山見かけますが、その中には怪しいものもあります。特にSNSでは、それらしい数字をくっつけて科学的信憑性を謳いながら、堂々とデマを流しているものを見かけます。

不安や驚きを煽る文章の方が、SNS上では閲覧数を稼げるため、投稿する人にとってはショッキングな内容で書くことが有利に働きます。結果、嘘の情報や拡大解釈が織り交ざった、正確性に欠ける記事が生まれるのです。
閲覧数絶対主義のSNSでは仕方のないことかもしれません。

一方、科学論文の場合、研究の手順や分析に不手際がないか、査読を受けています。ですので、客観的であり信頼に足る情報と位置付けられています。しかし個人のブログやSNSは自由に発信でき、研磨を受けていない生の情報です。

勿論、生の情報が有用なケースもありますが、客観性という点では「個人の見解」は科学論文に劣ります。皆さんのサイクリスト生活をより良いものにするために、「個人の見解」を適用できる内容は限定的なのでは無いでしょうか。

データ社会だからこそ必要な情報を吟味する力

サイクリスト生活をよりよくするためには、ネットの海に数多ある自転車競技の情報の中から、正しい情報を選び、吟味する力が必要になります。この情報の取捨選択は、科学論文に普段から触れていない方にとっては馴染みがないかと思うのでご説明します。

情報の吟味は大きく2段階に分けられます。

・その情報は正しいものなのか
誰からの情報発信なのか。個人の思想なのか。研究結果なのか。特に情報の発信源があやふやなものは要注意です。

例えば、「タンパク質はアスリートに1日に2g/kg必要だ」という記事があるとします。
しかし、その記事は果たして研究結果なのでしょうか。研究結果だとしたら、どんな人を対象としたどのような実験なのか、実験期間は、方法はどのような方法を?そもそもこの記事には個人の意見がどれだけ含まれているのでしょうか。

・その情報は自分に当てはまるのか
情報そのものは正しくても、その情報は自分に当てはまるのでしょうか。「タンパク質を2g/kg摂取する」のは、若い男性には当てはまるかもしれません。しかし、若年女性はどうなのか。高齢の方は。持久系競技の人は。

得られた情報が自分に当てはまるのかを吟味する必要があります。情報そのものは正しくても、その適応が間違っていれば効果が無いどころか、かえって怪我をすることに繋がります。

FTPやSST, LTなどはトレーニングの当たり前として浸透していますが、その真意はどうなのか。この記事を通して既に普及している自転車競技の当たり前をもう一度考えるきっかけになれば幸いです。
(読者の皆様は私の記事に対しても「ほんとにそうなのか?」と是非疑って欲しいとも思っています。)

充実したサイクリストライフを目指して、一緒に学んでいきましょう。


ラン先生 インスタグラム:https://www.instagram.com/31_ran_/

関連記事

記事の文字サイズを変更する

記事をシェアする