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2016年06月08日

【Mt.富士ヒルクライム下山対策】これで怖くない、疲れない下りの技術を伝授

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上りのあとには必ず下りが待っている。
普段のライドからヒルクライムレースの下山まで使える、安全に下るためのテクニックと心構えをじてんしゃPitの江下店長に聞いた。
※ファンライド2015年6月号の記事を再録します。Mt.富士ヒルクライムへご参加の方はぜひご一読ください。

教えてくれた人

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江下健太郎さん(えしたけんたろう)じてんしゃPit店長◆かつて愛三工業レーシングチームでプロロードレーサーとして6シーズン活躍したのちMTBライダーに転向。現在もCoupe du Japon MTBに参戦し続ける。ロード、MTB、シクロクロスの荒れた下りで定評のある現役レーサー店長。

下りを『特別な時間』と考え安全を考慮する

「最近は平坦よりも上りの方が走り甲斐があるという理由で、どんどん峠にサイクリストが集まってきています。それ自体はいいことなのですが、下りの正しい走り方やマナーを知らない人も多いです」。そう話すのは埼玉県日高市のスポーツ自転車ショップ「じてんしゃPit」の江下店長。まだまだ下りに対しての意識が高くない人が多いという。
「上りをがんばって走って『楽しかった!じゃあ下ろうか』と軽い感覚で下ろうとする人がいますが、下りは『特別な時間』であることを意識してほしいです。上りは軽く自分の限界に達することができるので、スピードもそこまで出ませんが、下りは出そうと思えばいくらでもスピードが出せてしまう。そのぶん少しの判断ミス、操作ミスが重大な事故に繋がる確率も高まります」
では具体的にはどのようなことを意識すればいいのだろうか?
「まず下りのテクニックを覚える前に大原則として、自分の許容量以上のスピードを出さないということを徹底しましょう。また、こう説明すると自分の許容量を勘違いしてしまう人がいるのですが、許容量というのは『オーバーランしない、転ばないスピード』ではなく、『落石や浮き砂、センターをオーバーしてふくらんだ対向車などに遭遇しても、安全に回避できるスピード』のことです。人それぞれバイク操作の技術に差があり、道によっても見通しの良し悪しなどがあるので、人や状況に応じて下りの適正スピードは異なります」

安全に下るためのテクニックを身につける

自分の下りのスピードに対する許容量を理解したら、このあと紹介する江下店長の安全に下るためのテクニックを身につけたい。
「安全に走るために下りのテクニックはしっかりと磨いてください。本場ヨーロッパのセミプロのレースでは下りは本当に丁寧にスピードを落として、安全に下っています。日本のホビーレース以上にゆっくりです。それでいて、平地や上りはプロ並みにめちゃくちゃ速いんです。ヨーロッパでは下りを走ることの危険性がしっかり認識されていますが、日本ではまだまだ認識の甘さを感じます」
仲間や集団で走るときにも重要なポイントがある。
「チームメイトや友達など、誰かと一緒に走るときは絶対に速い人について行こうとせず、自分のペースを守って下ってください。速い人は下りきったところで、後ろの人たちを待ってあげるといいと思います。またヒルクライムイベントでの下山は、大勢の人が周りにいるということがポイントです。参加者それぞれの下りの技術はまちまちなので、どんな挙動をするかは想像もつきません。しっかりと車間距離を取って走りましょう。あと前の人は絶対に抜かないと心がけたほうがいいですね。もうレースは終わっているので、お互いに思いやりの心を持ちましょう!

【まずはじめに】

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下りに対する自分の許容量を正確に知る

下りではペダルをこがなくても、自重に任せていくらでもスピードを出せてしまう。そうすると簡単に自分の持っているライディングスキルの許容量を超えてしまう。
下りを走るうえで最も大切なことは、どんなことがあっても、落ち着いてブレーキングやバイクコントロールが100%確実に行えるスピード(自分のライディングスキルの許容量)以上は絶対に出さないようにすること。それさえ守れれば、あとは少しのテクニックを身につけるだけで、下りの安全性はグッと高まる。

許容量を自ら小さくしない!

当然下りは上りよりも身体が冷える。身体が冷えるとブレーキングが遅くなったり、身体の柔軟性がなくなったりとどんどん自身の許容量が狭まっていく。しっかりと下山対策をしておこう。
「また、視界が歪むことがあるので、下山を開始する前にアイウエアのレンズに汗がついてないか確認することも重要です」と江下店長は言う。

下りでの重心位置を覚える

バイクがもっとも安定するのは自転車の中心であるBB部に重心があるときだ。下りでも、バイクの中心に重心をもっていくことを意識してみよう。下りでは重力で自然と重心が前の方に行くので、サドルの座る位置を後ろへと移動させることで、自転車の重心を中心に戻していく。下りの勾配がきつければきついほど、サドルの座る位置は後ろへ。安全に走るためには10%を超えるような急勾配では、お尻を浮かし、サドルよりも後ろに体を引くことも必要になる。また、柔軟にサドルのうえで動けるように、リラックスして走ることも大切だ。

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勾配にあわせて自転車の中心に重心をもっていくことを意識すれば、平地と同じようにバイクをコントロールできるので安全

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 正しいブレーキング&コーナリングをマスターする

ブラケットでも下ハンドルでも得意な握り方でブレーキング

下りではブレーキングによる正しいスピード調整が求められる。「よく下りでは下ハンドルを持ちましょうとも言われますが、下りで下ハンドルを持つのが怖い人もたくさんいますので、ブラケットと下ハンドル、自分の得意な握り方をすれば大丈夫です。それよりもどれだけブレーキを引けばどれだけ制動するのかをしっかり把握しておきたいですね」

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基本的には1~2本の指でブレーキをかけるが、握力の弱い人は4本の指を使い、ブレーキするのも一つの手

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〈ブラケット〉てこの原理が働くので、ブレーキレバーの下の方を持った方が引きは軽い。無理のない程度に下の方に指を置きたい

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〈下ハンドル〉たしかにブラケットを持つよりもブレーキ操作はしやすいが、より重心が前に行きやすいので、怖い人は無理に持たない

【ここも重要】

ブレーキはよく効くものを

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できればブレーキにはしっかりと手をかけたい。「大手メーカーの上級グレードは引きが軽く、制動力もぜんぜん違うので、下りのブレーキングがグッと楽になります。完成車からのグレードアップで真っ先に検討してほしいと思います」

コーナー前にしっかり減速する

オーバーランやスリップの恐れのある下りコーナーは危険箇所のひとつ。コーナーでは正しいブレーキングとスピード調整が必要になる。基本は直線のうちに十分に減速し、コーナー中はブレーキをかけないこと。

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当然ブレーキをかけなければ、どんどん加速していく。それを見越して、直線ではしっかり減速を

【覚えておこう】

直線フロントブレーキ
コーナーリアブレーキ
直線とコーナーではメインに使うブレーキが反対になる。安全に走るために上記の組み合わせを覚えておく。

コーナー中は脚を平行に

コーナリングでは外脚荷重といわれてきたが、脚を地面と平行にする方法もおすすめしたい。「脚を平行にすると下半身に余裕ができるので、座る位置を後ろに動かせるメリットがあります。外脚荷重をすると脚が伸びきってしまい、それ以上は座る位置を動かせないんです。状況に応じた使い分けができるとベストです」。

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 〈脚を平行〉基本的に脚を平行にしたほうが、身体を動かす余裕があるので重心を調整しやすい
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〈外脚荷重〉コーナーに対して外側の脚を伸ばし荷重をかけると、バイクの挙動は安定しやすい。

先々の状況確認が大切

下りではスピードが出ているうえに、峠道などは見通しの悪いカーブも多いので、余裕を持った状況確認を心がけたい。
「下りでは路面の状況ばかりが気になってしまい、視線が下にいきがちです。しかしそれでは先々の状況を早く正確に確認できず、行き当たりばったりになってしまい大変危険。しっかり顔を上げて、広い視野を持つことで、前もって状況に対応できるようにしましょう。カーブミラーも必ず確認する習慣をつけておくといいでしょう」

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対向車のほかにも路面状況やカーブの度合いなど確認することは多い。総合的に判断できるように広い視野と心に余裕を持ちたい
ヒルクライムイベントでは

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「ヒルクライムの下山ではテクニックレベルの違う大勢のサイクリストが周りにいるので、普段よりも下りの難易度が高まります。基本は絶対に前の人を抜かないこと。あとお互いの身を守るために、ぎこちない挙動をしている人には近づかないことも重要です。休憩するために途中で止まるのもいいですが、その際はしっかり周りに声を掛け、邪魔にならないようにしましょう」。

【下山の荷物をしっかり準備する】

下山用に十分な荷物を用意する。標高の高いフィニッシュ地点は想像以上に寒く、天候が崩れる可能性もあるので、防寒や雨対策を欠かさない。また、レース中に汗をかいたウエアは身体を冷やすものになる。必ず着替えの準備を。「水筒で暖かい飲み物を持っていくのもおすすめです。バタつかないようにウエアは自転車専用の方がいいですね」。

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江下店長が用意するヒルクライムイベントでの下山グッズ

(写真/小野口健太)

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