2016年02月24日
バラ♥サイ VOL.3(後編)赤松綾さん
両親の反対を押し切って上京。鉄パイプをひたすら溶接する日々がはじまった
ご両親、特にお母さんには「あんたなんぼほど学校行くのん」と、専門学校への進学を反対されたアヤ(そらそやろ。私が親でもそう言うわ(笑))。その反対を鉄の意思で説き伏せ、めでたく進学に。さて、ちょっ と興味があります。『自転車を作る学校での日々』について聞いてみましょう。
ちゅなどん:現在、東京サイクルデザイン専門学校での2年目が終わろうとしています。全部で3年制の3分の2を消化している現在、どんなことができるようになったかな?
アヤ:最初はこんな簡単なことからやるんか、って驚きました。自分は自転車屋さんでずっとバイトしてたから、基本的なこと(メンテナンスなど)はひと通り身についてたので。あと、やっぱり東京でのバイトも自転車関連でせなあかんな、って思いました。そうじゃないと東京まで来た意味がない、と。
ちゅなどん:じゃあ、どんな授業がアヤにとってときめいた?
アヤ:ビルディングですね。こういうの(授業で作ったフレームのミニチュアの溶接部を指して)です。これはやったことなかったので。最初はただ切っただけのチューブとチューブをまっすぐ継ぐ溶接を練習するんです。何本も練習しました。これはほんま数こなして経験せなあかんと。……で、それから、三角の角度がついたものを溶接するんです。これが難しい。片側から火を入れると、火の作用であっち側に歪んでいくんですよ。ちゃんと固定してるのに。プロはそういうことも頭に入れて、火を入れるんですって。溶接は丁寧に、と思ってゆっくりやり過ぎると焦げるので、素早く丁寧にせなあかんのです。
あと、アールを切って……チューブが丸いんで、そこへ沿わせるようにカーブさせて削るんです。“ざぐり”っていうのがあるんですけど、それなんて角度は1度、いや 0.1度とかそういうレベルなんですよ。よくジオメトリーで“ヘッド角”というのがありますが、それが1度ずれることなんてあり得ない世界なんです。1度違うだけで性能がぜんぜん違ってくるんですよ。
ちゅなどん:(おっと…アヤのトーク熱が3℃くらいあがったやん)
アヤ: 面を合わせたりするのは最終的には機械でできるんですけど、私たちは学生なのですべて手作業でやるんです。削るのも何もかも。その角度を合わせるのがめ ちゃくちゃ難しかったですね。もう途中で泣きそうになるくらい。ぜんぜん合わへんのですよ。1mm違うだけで隙間が空くわけです。そうなるとチューブは買い直し。わたしはめっちゃ慎重にやってたんで、買い直したことは今までないんですんが、その代わり作業は遅かったですね。
ちゅなどん:さっき先生にお話を聞いたら、授業でフレーム1本作るのに16日間用意してる、って言うてはったけど、アヤはたっぷり16日間使い切ってた?
アヤ:時間ギリギリまで使ってましたね。1年生の時は16日かけて作っても納得いくものは作れなかったです。一応それでも評価はAをいただいたんですけど、自分の中では「なんやこれは~」っていう出来でした。
ちゅなどん:自分ができるようになったな、って手応えを感じたんはどれくらいから?
アヤ:いちばん最近に作った4台目のミニベロですね。ロードバイク・マウンテンバイク・シクロクロスバイク、とそのあとに。でもシクロクロスも納得いってないですね。自分のレースで使ってますけど。ミニベロも完璧じゃないですけど、今の自分にはあれ以上できないかな、と思います。このミニベロは母親にプレゼ ントするつもりで設計からやりました。色の好みはちゃんとリクエストを聞きましたよ。今までの感謝の気持ちを込めて作りました。
ちゅなどん:うわ~、めっちゃええ話しやん。お母さん喜ばはるなぁ。
ライドイベントで目が行くのはやっぱり女性のバイクばかり
アヤ:東京に来てちょっと落ち着いたころに、なにかのイベントに出てみようと思って、調べていたらちょうどRaphaのWomen’s100の募集をみつけたんです。山梨ってどこにあるん? って調べるとこからやったんですけど、学校終わってから行ける場所なんかな、って。
ちゅなどん:そうそう、アヤとはそこで知り合ったんよね。他の女性がみんなどっちかと言うとかわいらしい雰囲気やった中でずいぶんオトコマエな子がおるな、と。青い BONTのシューズ履いてて(BONTは熱成形できるハイエンドバイクシューズで、競技やってる人しかまず選ばないというイメージです)。「ジブン、ええ靴履いてるな。なんか(競技)やってるん?」って話しかけて。ちょうどそのとき、女性ばかりでチーム作って走るのにメンバー探してたところやったから、スカウトしたんよ。
アヤ:あの時はびっくりしました。知ってる人ひとりもおらんかったんで。意外と年上の女の人ばっかりや(ちゅなどん 注:わるかったな!)。みんなどんな感じで走るんやろか。喋ってくれるんかな、とか。なので、後ろの方から観察してましたね。それがいちばんよくわかるじゃないですか。そして、女性のバイクめちゃくちゃ見てましたね。いろいろ衝撃でした。高級なバイクが多かったんですけど、付いているパーツのグレードが バラバラとか。あと、前後のタイヤが違うのついてるとか、私の中じゃありえへん、てことがたくさん(笑)。それと、やっぱり背が小さい人はバイクに乗せられてる感じで、もう見ててほんまかわいそうで。ちゅなどんも小さいですよね。
ちゅなどん:はい……かわいそうなちゅなどんです。女性のバイクは周りの男性からのお下がりパーツで構成されることがままあるので、パーツのグレードがバラバラっていうのはよくあるよね。かくいう私もそうですけれど。
アヤ:小さい女性がカッコ良く乗れるバイクを作りたい、ってやっぱり思いました。
ラスト一年。卒業に向けて、次なる進路は……
フレームビルダーになるための勉強を3年間やってようやく手応えを掴んできた。願わくばこの道に進みたい。けれど……。
ちゅなどん:今まさに、来年の卒業に向けて就職のガイダンスが始まる時期だけど、アヤはこの先、やっぱりフレームビルダーになりたい……よね?
アヤ:はい。まずは目指したいです。でも実際のところ、やっていけんのかなって不安に思うことも多いです。今、自転車の作りかたを学ぶ学校にいて、バイトも自転車業界で、私生活はシクロクロスでレース……。全部自転車じゃないですか。業界のいろんなことを見聞きしていると、これで将来自分が生活していけるんかな、って。あと、ひとりっ子なんで親のことももちろん考えます。
ちゅなどん:そうね。好きで選んだ道だけど、結果自分の生活を脅かす選択になってしまうかもしれない。単純に考えて、自転車のフレームを作ることが安定した収入を生む仕事に就ける環境。今の日本ではそれほど選択肢はないように思うね。
アヤ:親は「ええとこ(大きい会社)に入って欲しい」って言いますけど難しそうです。シクロクロスをやってる縁で声をかけてくださってるショップさんがあったりします。自転車チームのレースメカニック、というお話も。ほかに、こういうことも先輩からの話しでは聞くんですよね。例えば自分で工房を持つための資金を貯めるために、いったん別の業界や仕事を選んでしまうと“この収入がある仕事を捨ててまで、果たして独立できる気持ちになれるのか”とか。それにビルダーは1回やめちゃうと腕が、なまっちゃうんですよね。いろんな選択肢の中で、(経済的に)ちゃんと食べていける選択ができるんかなって。どれを選んでも自分次第、っていうのはわかってるんですけど、もしかしたら、自転車じゃない選択も……あるかもしれないです。
ちゅなどん:せっかく勉強したんやし、それが活かせるところに行けるのがしあわせやね。ところでアヤはバイク乗ったときに「あ、これもうちょっと後ろの三角をどうにかしたらええな」とかそういうのってわかるん?
アヤ:めっちゃわかりますよ! ジオメトリーでまったくといっていいほど乗り味が変わります。とにかく思うのは、乗り続けたいなって。乗ってないと自転車ってわかんないじゃないですか。作り手としてそれはすごい思います。だから、ロードだけじゃなくて、マウンテンバイクもシクロクロスも全部乗りたいんです。
ちゅなどん:あと、アヤはもともと身体能力高いんやし、レースやってるんやから、遊びじゃなく、ちゃんと練習してなにかのタイトル取るの、目標にしてみるとか?
アヤ:それいいですね! 今年はちゃんと練習もがんばります! ちょっと目指してみようって気になりました!
ちゅなどん:残された学生の時間をめいっぱい楽しんで、世界が拡がって、よい方向に進めばいいね! 今日はどうもありがとう。いつか、小さい日本人女性ちゅなどんのフレームも作ってくださいね! 頼んだで!
(写真/編集部、協力/学校法人 水野学園 東京サイクルデザイン専門学校)
著者プロフィール
ちゅなどんちゅなどん
自転車好きが高じて一時期飽きるほど自転車に乗り、とうとう自転車に"乗る理由"がなくなってハンドメイドサイクルキャップを制作販売、自走納品する『自作自演型サイクリスト』 その傍ら、あるときはサイクリングイベント会社で、あるときは自ら企画するイベントでアテンドライドしています。持ち味はよく通る声と年の功からにじみ出る安定感。 ハマっ子歴19年。関西弁ネイティブ。