2017年03月14日
瀬戸圭祐の 「快適自転車ライフ宣言」 3-4)ラクに上る、坂を楽勝でこなす方法
瀬戸圭祐の 「快適自転車ライフ宣言」 第3章:快適に走る、楽しく走る、ライディングテクニック
4)ラクに上る、坂を楽勝でこなす方法
峠へのチャレンジは感動と爽快感を得ることができる。峠越えは自転車と苦楽をともにしながら一歩ずつ目標に向かって上り、一緒になって爽快に下ることができ、そして自転車との一体感を味わうことができるサイクリングの醍醐味だ。
マラソンを愛するランナーがゴールした時に達成感を得るのと同様、ヒルクライムを愛するサイクリストは、上り切った時の達成感が大きな目的でもある。
上りきった峠からの大景観も、そこにたどり着くまでの苦労があってこそのものであり、クルマやバスで労せずしてやってきた場合とは同じ場所でも景色の見え方も、風の気持ちよさも、喉を潤す水分の快感も、何もかも素晴らしさが違うのである。
ところで、筆者はヒルクライマーでもアスリートでもなく、快適な自転車ライフを楽しむ峠好きのホビーライダーであって、スピードは求めていない。
従って、限界に挑戦するタイムアタックや、いかに速く上るかといったノウハウではなく、ラクに上って、ヒルクライムを楽しむ方法について、個人の見解を述べさせていただきたい。
<ペースを一定に保つ>
ヒルクライムで重要なのは、バテずに心地よく上りきることである。
上りはじめから飛ばして、後でバテてしまい、ヘロヘロで峠にたどりつく人をよく見かけるが、これでは辛さが楽しさを大きく損なってしまうだろう。
無理のない自分のラクなペースを知り、そのペースを守ることで快適に上りを楽しむことができるのである。
ラクなペースの目安として、会話ができ笑っていられるペースがおすすめだ。このペースであれば、息が上がってヘロヘロになることはない。
前半は余裕を持って、息を切らさないようにゆっくり上り、最後まで体力や脚を残すことを意識するのがコツ。ゆっくりマイペースで上っていれば、いつかは頂上に到着するのである。
ヒルクライムでは上り勾配がつねに一定ということはない。
勾配がきつい部分では頑張って、勾配がゆるくなるとゆっくり走って休みたくなることがあるが、これではペースが一定にならない。勾配がきつい部分はペースを落としてゆっくり上り、勾配がゆるい部分ではペースを落とさないようにし、勾配によって負荷を変えないようにする。
そうすることで一定のペースを維持して走行できるのである。一定のペースというのはスピードのことではなく、身体への負荷を一定にすることであり、疲れずに快適に上る大切なポイントである。
ネットなどでヒルクライムコースの平均勾配や最大斜度、走行距離や標高などを調べることができるので、事前にペース配分を頭に入れ、ガーミンなどで現在地を確認し、考えながら上れば、脚や体力だけでなく頭や知力を使ったヒルクライムが可能になる。
マイペースで走るテクニックを身につければ、いつものコースでも、今までよりラクに、しかも速く上ることができるのである。
勾配がきついときこそがんばらないのが身体への負荷を一定にするポイント
<リラックスできるポジションをとる>
ラクに快適に上るには、ペダリングやフォームを安定させていくことが大事である。
リラックスできるポジションが重要であり、状況に応じてフレキシブルにポジションを変えていく。上半身はアップライトかつ自然に前傾したラクなポジションを心がけよう。
腕がつっぱると肩周りの筋肉が縮まってしまい疲れの原因になるだけでなく、ハンドルをひきつける際に上半身のパワーがうまく伝わらなくなる。腕は力を抜いて軽くひじが曲がる程度にリラックスさせる。
両手の位置はブラケット部分を軽く握っても、ハンドルバーの上部でもいい。上ハンドルを持つと呼吸がしやすいのである。
頭を下げないことも大切である。上体が倒れて息がしづらくなるだけでなく、路面の状態、先の状況、勾配の変化を見逃してしまい、結果的に疲れやすくなる。
なるべく遠くの前方を見たほうがいい。遠くを見るとバランスがとりやすくなるし、コース状況を把握できるので走行ラインを見極めることができる。頭の位置もほとんど動かさなくてすむ。しっかり前を見ながらヒルクライムすることを意識しよう。
<使う筋肉を時々変えてみる>
上りは平地とは違い重力に逆らって走るので、つねにペダルを回し続けなければ進まない。つまり、乗車しながら休むことができないのである。
従って、同じ筋肉ばかり使っていると疲れやすくなるので、いくつか使う筋肉を分散させながら上るのがコツである。周期的にサドルの上でのポジションを変えることで、使う筋肉群を順番に休ませる。
フレッシュな筋肉群を使いつつ、疲労した筋肉群に小休止を与えることで、疲れを和らげることができるのだ。
例えば、最初はサドルの後方に腰を据え、臀筋群を活用する。次第に疲れを感じ始めたらサドルの前方に座り大腿四頭筋からの力をより引き出せるようにしてみる。座ったままで長時間ペダルを回転させていると、背筋や腰を伸ばしたくなってくる。その際にはサドルから腰を浮かせて数秒間ダンシングして両脚をストレッチしたりする。
ただしダンシングは、長く続けると脚が酸欠状態になって、疲れやすくなるので短時間にとどめておく。
ダンシングの仕方は、尻をサドルから前に浮かしギアの中心(ボトムブラケット)の真上に持ってくる。腰とボトムブラケットを結ぶ軸をつねに地球の水平に対し垂直に保つ。
体重をペダルにのせて、地球の引力で引っ張ってもらうようなイメージでペダリングする。体を左右に振らず、軸をぶらさずに踏み込みに合わせ自転車を左右に振って、体の垂直を維持することがポイントである。
尻の痛みや圧迫感を感じた時なども、少しだけダンシングすれば尻がストレスから開放される。
また、急な勾配に差し掛かった際に、ダンシングを取り入れても良い。息があまり上がらないように、ゆっくりとしたダンシングで急な勾配をクリアしよう。これらの流れを周期的に繰り返し、ペダリング時に使う筋肉を意識してこまめに変えることが、疲労を溜めない秘訣である。
<重量を軽くすれば、ラクに上れる>
ヒルクライムは重力に逆らうので、総重量が軽ければ軽いほどラクに上れる。
総重量というのはロードバイクの車体はもちろん、飲み物や補給食、防寒衣や工具類等の携行品など、持っている全てのものが対象である。不要なものはできるだけ持たない方が良い。コース途中に補給ポイントや自販機があるのであれば、飲み物/補給食は最小限にする。ただし、上りではこまめな水分補給が大切だ。喉が渇く前に少量の水分補給を頻繁に行うのが望ましいので、必要量を考えて持って行こう。
また、荷物はできるだけ車体に装着し、直接身につけないようにする。リュックなどは背負わないほうが疲れない。例えば大きなスーツケースを手に持って運ぶか、キャスターで転がして運ぶかのどちらがラクかということである。
総重量のなかで最も重いのは自分の体重であり、一番不要なのは自分の体についた余分な脂肪などである。
ロードバイクを1キロ軽くするには、場合によっては何十万円もかかるが、自分の体重を1キロ軽くするのは少しの努力でできることなのである。
エンジン出力(自分の体力)が同じならば、重たいほど速度が遅くなり、燃費も悪くなることはご理解いただけるであろう。
リュックよりも車体に装着できるバッグ類を選んだ方が、身体への負担が減る
<心臓と肺でのペダリングが大切>
ペダリングは心臓と肺で行うのが、疲れず身体にも良いことは「3-2)心臓と肺で走る!ペダリングの極意」で書かせていただいた。じつは心臓と肺でのペダリングを最も意識して欲しいのがヒルクライムである。
峠を上るのに大切なポイントはあせらずゆっくりと無理をしないペースを維持することである。つねにゴールまでの体力配分を考えながら身体に余計な負担をかけないように無駄なエネルギー消費をおさえて上るようにしたい。
そのためには、急坂であろうが緩い上りであろうがケイデンスを一定に保ち、脚への負荷も変えない。リズミカルなペダリングで呼吸も心拍数も一定の範囲内に保って大きくアップしないようにする。
リラックスして話しをしながら上って行けるペースを、最後までキープすることが大切である。
初心者は最初に重めのギアで上りはじめ、疲れてくると軽めのギアにシフトチェンジしがちである。重いギアを回すと多くの速筋繊維が動員されてしまい、急速に疲弊する。しかし疲れた脚の回復は、呼吸や心拍の回復以上に時間がかかってしまい大きなロスとなる。
大切なのはリズミカルなペダリングをしっかり意識すること。最初から軽めのギアでクルクル回転させて、ペダルが重くなる前にどんどんギアを軽く変速していく。上りであっても平地と同じような負荷とケイデンスでペダリングするほうが、疲労を抑えることができる。
ケイデンスをカウントしながら心地よいリズムを作って上ることをおすすめする。そうすることで一定の出力で上り続けやすくなり、結果的に平均速度はよくなるため、トータルで考えると早くラクに上れるのである。
<無理せずに、押し上る>
ロードバイクなどの場合は、フロントのインナーが例えば34Tまでしかなく、急な勾配ではケイデンスを維持できないギア設定の場合もあるだろう。
「脚がきつくなって、ギアもなくなってしまった」という場合には、道路を蛇行しながら上る方法もある。蛇行すれば勾配はゆるくなるので、脚への負担を軽減して上り続けることができるかもしれない。しかし急勾配での蛇行はハードな状況下での複雑な動きで、周りへの注意もおろそかになりかねず、クルマなどと接触する危険もある。細心の注意を払う必要があり、無理に蛇行する必要はない。キツければ降りて押せばいいのだ。歩く程度の遅いスピードとなると、そのほうがエネルギー効率の観点からもラクになる。
見栄を張らず、頑張り過ぎないほうが結果的に楽しめるのである。
急な勾配は自転車を押して歩いた方が、ラクに越えられることもある
<コースマネジメントで楽しんで上る>
コースは上りを短くし、下りを長く設定する。急坂は大変そうだが、短距離短時間で高度を稼げて効率的なのだ。そして下りは長い距離をたっぷりと楽しむのである。下りが急勾配や急カーブが続けば初心者は存分には楽しめないだろう。
上り始めから峠までの距離と標高差を事前にしっかりと認識し、余裕をもったおおまかな所要時間を掴んでおく。時速は平均勾配にもよるが自分のペースを考慮して4~10Kmでゆっくりと進む前提としておく。途中の橋や分岐などのポイントの通過予想時間をあらかじめ設定しておけば、ペースの適切さや峠までの距離、標高差なども認識できて気分がラクになる。また、高度計やGPSがあれば、標高や現在地がリアルタイムでわかり、精神的に随分ラクでおすすめである。
ヒルクライムは慣れてくると、楽しく気持ちよくなってくる。そこにはハマると抜けられない、底なしの楽しみが待っている……。
(写真/本人)
(瀬戸圭祐さんの「快適自転車ライフ宣言」は隔週火曜日掲載です。次回は3月28日(火)に公開予定です。お楽しみに!)
第3章:快適に走る、楽しく走る、ライディングテクニック
4)ラクに上る、坂を楽勝でこなす方法
5)テクニックの差が出る!下りを速く安全に!
6)悪路走破の快感で、MTBにハマってしまう!
7)過言ではない!天候が全てを左右する
8)疲れない走り方
9)身体と自転車と家族と、アフターケアが大切
著者プロフィール
瀬戸圭祐せと けいすけ
中学/⾼校時代に⽇本全国を⾛破し、その後、ロッキー、アルプス、⻄ヒマラヤ/カラコルム、ヒンズークシュ、北極圏スカンジナビアなど世界の⼤⼭脈を⾃転⾞で単独縦断⾛破。 ⼗数年ジテツウを続けており、週末はツーリングや⾃転⾞イベントなどを企画実施。 ⾃転⾞の魅⼒や楽しみを著書やメディアへの掲載、市⺠⼤学での講座、講演やSNSなどで発信し続けており、「より良い⾃転⾞社会」に向けての活動をライフワークとしている。 NPO法⼈ ⾃転⾞活⽤推進研究会 理事、(⼀社)グッド・チャリズム宣⾔プロジェクト理事のほか、 (⼀財)⽇本⾃転⾞普及協会 事業評価委員、丸の内朝⼤学「快適⾃転⾞ライフクラス」講師、環境省「環境に優しい⾃転⾞の活⽤⽅策検討会」検討員などを歴任。