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2017年02月14日

瀬戸圭祐の 「快適自転車ライフ宣言」 3-2)心臓と肺で走る!ペダリングの極意

瀬戸圭祐の 「快適自転車ライフ宣言」 第3章:快適に走る、楽しく走る、ライディングテクニック


2)心臓と肺で走る!ペダリングの極意

人類は動物であり、歩いたり走ったりする機能はDNAに刻み込まれている。しかし、ペダルを「回す」機能は本来もっていない。この地上で脚を回して移動する動物は、多分人間だけではないだろうか。つまりペダリングは本来もって生まれた運動能力ではなく、技術として身につけなければ習得できないのである。
スポーツバイクのペダリングはいうまでもないが、踏むものでも漕ぐものでもなく、「回す」ことが基本となる。要するに脚の回転運動を推進力に転換して進むのだが、人間として生まれながらにもっているものではないので、あまり効率的に行える動きではない。それを技術で効率的にするのが、ペダリングテクニックなのである。

効率の良いペダリングを身に着けると、脚力がなくても巡航速度を上げたり、仮に同じ巡航速度でも疲労しにくいサイクリングが可能になる。軽快な走りと、疲れない快適なライドで、自転車がますます楽しくなるのである。しかし、ペダリングテクニックについては、いろいろな説がありその理論もさまざまである。究極的絶対的なセオリーやテクニックなどは無く、人によって向き不向きもあるので、これがベストという正解はない。


<「心臓と肺で走る」ペダリングとは>

私がもっとも心がけているのは「心臓と肺で走る」ペダリングである。心臓?肺? と思われるかもしれないが、ひとことで言うと、どんな状況でも一定の範囲に収まる心拍数と呼吸数をキープするように、ペダリングすることだ。もちろん筋力も大切だが、それは身につけるのも維持するのもそれなりの努力が必要である。
急激な衰えの少ない心肺能力を使ってのペダリングを身につければ、私のように努力をしない人間でも、いくつになっても末永く自転車を楽しむことができるのである。
ケイデンスとペダルへの出力を、つねに一定に保つことができれば、心拍数と呼吸数が大きく変動することはない。つまり平地の巡航でも、上りでも、向かい風でも、ペダルへの力と回転数は変動させないように、こまめにシフティングなどで調整するのである。

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普段から心拍数を呼吸数を一定に保つようにすると末永く自転車を楽しみことができるだろう



<ハムストリングスでのペダリング>

意識するのは、ハムストリングスなど大きな筋肉の遅筋を多用することである。ペダリングに必要な筋肉はある意味全身に及ぶが、メインは太ももの前面にある大腿四頭筋と、ももの裏側にある大腿二頭筋、半膜様筋、半腱様筋などのハムストリングスである。大腿四頭筋は瞬間的に大きな力を発揮する速筋を多く含んでおり、スプリントなど大きな力で踏み込む時などに使う筋肉で、多用すると疲労しやすい。

ハムストリングスは膝を曲げたり股関節を伸ばしたりするためにあり、常時使っている筋肉で、長時間安定的に力を出すことができる。脚を「回す」には、大腿の裏側のハムストリングスを使い、腿を上下させる運動によってペダルを回転させるのが良いのである。
ちなみに「回す」ペダリングでは、膝から下には殆ど力を入れないので、ふくらはぎの筋肉はあまり使わない。

ハムストリングスを使った「回す」ペダリングは大きな力は出ないが、疲れにくく長時間続けることができ、つねに一定の力とケイデンスを保ったペダリングができる。エアロビクス効果も大きく心肺機能の強化にもつながっていく。
このハムストリングス多用の走りに慣れてくると心肺機能がとても重要なことを体感できる。心臓と肺でペダリングすれば、筋肉や関節への負担が少なくなる。もちろん心臓も肺も筋肉痛にはならないので、翌日にも響かない。心肺機能はあまり苦しい思いをしなくても、使えば使うほど鍛えられていく。
そして筋肉といった部分的な強化ではなく、人間の身体全体の機能がどんどん健康になっていくのである。

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ぺダリングの際はハムストリング使って、ペダルを“回す”意識を持ってみよう



<かるーいギアがあれば良いのだが……>

もちろん激坂などでは太もも前面の大腿四頭筋を使って踏み込むことが必要となり、平地と同様の一定レベルを保ったペダリングは困難であろう。しかし軽いギアを装備すればハムストリングスを使った疲れにくいペダリングも可能になる。
ちなみに、私のロードバイクはフロントトリプルでインナー24T、リアスプロケットは29Tまで装着しているので、大概の上りでは平地同様のケイデンスとペダルへの力を保つことができる。(ご参考:第2章第7項「自転車ナルシスト!自分だけの自転車に心酔する」
ポイントはケイデンスを確保できるよう軽いギアを使い、無理せずにラクゥ~~に回し続けることである。決して無理せず、息を切らさず、仲間とおしゃべりを楽しみながら走れるような、かるーいペダリングをこころがけるのである。

とはいえ、日本で売られているロードバイクでインナーに24Tなどを装着している例は、ほとんどない。一般にはコンパクトドライブでもインナー34Tが普通であり、それより小さいギアはクランクなどの制約もあって装着できないケースが多い。
シマノやカンパニョーロなどは、コンフォートタイプのロードバイクでも、プロ選手が使うようなギア設定にしているのはなぜなのだろうか? 是非とも私のような貧脚向けに、少ない歯数のギアを一般的に入手でき、容易に設定できるようにしてもらいたいものである。

さて、ペダリングの具体的なテクニックについてだが、前述のとおりいろんな人が、さまざまな理論をもっており、正解は自分で試行錯誤し体得して見つけていくしかない。多くの理論を考え試しながら走るのも楽しいかもしれないが、頭がゴチャゴチャになることもある。ここでは私が意識しているペダリングについて紹介したい。

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筆者は24Tというインナーをつけている。どんな上りでも平地同様のケイデンスをキープするためだ



<スムーズに円を描くイメージ>

正円に接線を引き続けるように ペダルを丸く回すと一番効率が良いと言われている。
つまり、回す軌跡と法線、接線の角度を意識しながら、ペダリングが描く円の接線方向に力を加えるのである。
ペダルから脚を外し、エアーペダリングをしてみると、綺麗に円を描くペダリングがいかに難しいかがわかる。次にもっとも軽いギアにして、空回りに近い感覚でのペダリングでスムーズに滑らかに円を描くように意識して回してみる。この練習で接線方向に力を加えながら、綺麗な円を描くペダリングの感覚を身につけたい。

考えながらできるペダリングのシンプルなポイントは次のとおり

1.回転の上部では、前方向に力を加える

2.ペダルが中間域にあるときは、真下に力を加える

3.回転の下部では、後ろ方向にわずかに力を加える

まずは、これだけを意識することにより、効率の改善を感じることができるだろう。

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綺麗な円を描くようにペダルに力を加えてみよう



<足をバンジージャンプさせるペダリング?>

さらに意識するのは、筋力で踏み込むのではなく、足の重さを活用してペダルを回すことである。
片足の重量は体重の6分の1程度である。体重60Kgの人なら片足の重さは10Kgもある。つまり2Lペットボトル5本分もの重さがあるのだ。
地球の重力を活用すれば、何もしなくても10Kgの重さでペダルを引き下げてくれるのである。地球に助けてもらえばずいぶんペダリングがラクになることが理解できるだろう。
そのためには余計な力を加えずに、重力に引っ張ってもらうよう、足がバンジージャンプする落下感覚を味わうようなつもりでペダリングするのである。

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脚の重量をペダルに乗せて、地球の重力を利用すれば体重をパワーに変換できる



<引き脚は踏み込む時に>

ペダルを下死点まで降ろしたはいいが、その後の上死点までのペダリングは初心者には難関である。
しっかり綺麗に回せている時はとくに必要ないが、いわゆる「引き脚」を使う場合もある。これは文字通り脚を持ち上げ、シューズに固定されているペダルを引き上げる動きのことである。言うまでもなくビンディングペダルでなければ「引き脚」は使えない。
引き脚は、ペダルを踏むのと同様の効果があるので、上手く使えるようになると、スタートや加速時、激坂など大きな力が必要なときに有効になる。
一方、ケイデンスを重視した回すペダリングでは踏み込みはあまり必要でないため、回転数が上がるほど踏み込むニーズは少なくなり、引き脚も必要なくなる。
ペダリング全体にいえることだが、特にペダルを引き上げる際に意識するのは、足首をあまり動かさずに脚を運ぶことである。無意識に回すと足首が開いてしまいがちである。これをあまり動かないように維持するのは、つねにカカトをつま先より高く保つように意識するのがコツ。これがスムーズに行えれば、綺麗な円を描くペダリングに近づいていく。

 

<片脚ペダリングで練習する>

片脚で回すとペダリングが上手くなるといわれている。
初心者がいきなり片脚で回すと上死点・下死点で止まりそうになり、ぎこちないペダリングになる。綺麗なペダリングは上死点・下死点をスムーズに流す動きがポイントとなるが、慣れないうちは上下運動になりがちで円滑に回すのに苦労する。ペダルの頂点では前に、最下点では後ろに力を加えることが求められるが、片脚ペダリングでの練習はこれを習得しやすい。
片脚ペダリングを滑らかにできるようになれば、両脚でも左右の脚を滑らかに連動させ、円の接線に沿ったスムーズなペダリングができるようになるのだ。

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自分のぺダリングを確認するためにも片脚ぺダリングをやってみよう。ふらつく恐れもあるので、実践の際は十分に注意が必要


 

<自分にあったペダリングを創造する>

前述のとおりペダリングセオリーは、角度が何度や何時の方向といった細かなセグメントでのノウハウや、姿勢や力の入れ方など様々な要素があり、ロジックも数多くある。
私の場合は、一度にそんなに多くの事を考えながらペダリングするほどの能力を持ち合わせてはいない。できるだけシンプルに考え、いくつかのポイントのみを意識してペダリングを練習するほうが上達しやすいと思う。ペダリングが上手な人ほど余計な力を使わず、重力を活用した滑らかに回すペダリングになる。
低負荷ペダリングになるほど、筋肉の収縮が弱い分、乳酸の発生が抑制でき疲労が溜まりにくい。また、ロングライドの終盤など脚の疲れがたまっているときには、どうすればラクにペダリングできるかを自然に模索し、自発的に疲れの軽減に努めるだろう。
そんな時こそ、ホントに自分にあったペダリングを創造するチャンスなのである。自分でいろいろと試行錯誤しながら、適したペダリングをクリエイトしていくのも、自転車の奥の深い楽しみなのである。

(写真/本人、小野口健太※一部月刊FUNRiDEの過去の写真を転用しています)

 

(瀬戸圭祐さんの「快適自転車ライフ宣言」は隔週火曜日掲載です。次回は2月28日(火)に公開予定です。お楽しみに!)


第3章:快適に走る、楽しく走る、ライディングテクニック

1)ビシッと決める、乗車ポジションとフォーム

2)心臓と肺で走る!ペダリングの極意

3)こまめなシフティングが快適ライドのコツ

4)ラクに上る、ヒルクライムのテクニック

5)テクニックの差が出る!下りを速く安全に!

6)悪路走破の快感で、MTBにハマってしまう!

7)過言ではない!天候が全てを左右する

8)疲れない走り方

9)身体と自転車と家族と、アフターケアが大切

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