2017年09月01日
【U23ジャパンナショナルチームレースレポート】 U23世界最高峰レース「ツール・ド・ラヴニール(8/18-27)」レースレポート
7.ツール・ド・ラヴニール 第7ステージ(8月25日)
コロンビアがステージを制圧し、ベルナルがソロ優勝
日本は翌日の最難関ステージにて、雨澤の総合順位アップを狙う
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いよいよ泣いても笑っても残るは3ステージ。ツール・ド・フランスでおなじみの超級山岳マドレーヌ峠(24km/平均勾配6.2%)を始め、1級&2級山岳が連なるアルプス山脈が最終決戦の舞台となる。
この3ステージの走行距離合計は約350kmながら、総獲得標高は実に11,000m。全9ステージの総獲得標高数16,637m中、66%以上が最後の3ステージに集中している。
フィジカルが強い上に、チームの結束力、そして勝ちたい気持ちが一番強い者が世界最高峰のU23レースを制することになる。日本チームは雨澤毅明の総合成績20位以内を最低目標に最終アルプス三連戦に挑む。
*全ステージの概要は、下記リンクにてご覧下さい(株式会社シクリズムジャポンホームページ上)
http://www.cyclisme-japon.net/modules/race/details.php?bid=819
■第7ステージ「サンジェルヴェ・モンブラン>オートリュス・レ・セズィ」=118 .4km(獲得標高3241m)のレース展開レポ
コースはスタートからすぐに上りに入り、10km地点でマイヨ・ジョーヌを着るオーストリアのギャスパーを含む6名の逃げが形成。山岳は苦手なギャスパーだが、チームメイトへの負担を軽減するためか、自ら先頭に出てマイヨ・ジョーヌを守りに行く。しかしクライマーではないギャンパーは千切れたり戻ったりを繰り返した後、遂に後方メイン集団へと戻る。
その後、ドイツのヨハネス・シナゲルが強力にリーダーシップを採りながら牽引する5名の逃げは、最高で3分50秒のタイム差をつける。
しかしメイン集団はすべての区間でコロンビアが完全に支配し、さらなる逃げを容認しない。ジロ・デ・イタリア2017でも活躍し、「未来のキンタナ」と称されるコロンビアのリーダー、エガン・ベルナル(コロンビア/アンドローニジョカトーリ)を守るため、第6ステージで優勝したスプリンターであるアルヴァロ・ホデグ(コロンビア)が平坦や下りで、他のチームメイトは上りで献身的な動きをし、国を挙げてベルナルを勝たせる意思をプロトンにアピール。
他国もコロンビアの最終攻勢がいずれ始まることを予想し、受け身の様相に。
そして遂に本日の勝負どころであり、ツール・ド・フランスでもおなじみのスキー場「オートリュス・レ・セズィ」までの約15kmの上りが始まった。組織的な牽引を開始したコロンビアチームがメイン集団のペースをアップ。それに耐えきれず、マイヨ・ジョーヌのパトリック・ギャンパー(オーストリア)や、来年度にチームスカイへの移籍が噂されるパヴェル・シバコフ(ロシア)も脱落。メイン集団は嵐を食らったようなダメージを受け、36名に。その中にはU23日本チームの総合成績を担う雨澤毅明が残る。
最終局面、コロンビアは自国のアシストを削りながらペースアップを図り、残り12km地点で先頭集団は15名程度。雨澤は耐えきれずに千切れるも、タイム差のダメージを最小限にするべくマイペースで踏む。
最後はエガン・ベルナルがソロアタックし、ドイツのシナゲルら序盤から逃げていた選手らを単独ですべて捕らえる。他を寄せ付けない軽快なダンシングで圧倒的な強さを見せつけて、アシスト達の献身的な働きに報いるステージ優勝並びにマイヨ・ジョーヌを獲得。いよいよ本レースの“真のボス“が姿を表した事になる。日本チームでは雨澤毅明がベルナルの2分37秒後にゴールし、総合25位。総合20位以上を狙って最後の2ステージをチーム一丸で戦っていく。
■リザルト:
<第7ステージ>
1位:エガン・ベルナル Egan Arley BERNAL GOMEZ(コロンビア)3時間14分2秒(平均時速35.994km)
2位:ジェームズ・ノックス James KNOX(イギリス)トップから+59秒
3位:ビョルグ・ランブレヒトBjorg LAMBRECHT (ベルギー)トップから+1分8秒
25位:雨澤毅明(宇都宮ブリッツェン)トップから+2分37秒
56位:山本大喜(鹿屋体育大学)トップから+6分43秒
80位:岡篤志(宇都宮ブリッツェン)トップから+11分27秒
82位:石上優大(EQADS/Amical Velo Club Aix en Provence) トップから+11分27秒
91位:岡本隼(日本大学/愛三工業レーシング)トップから+16分16秒
<第7ステージ後の総合成績>
1位:エガン・ベルナル Egan Arley BERNAL GOMEZ(コロンビア)22時間58分47秒(時速43.414km)
2位:ジェームズ・ノックス James KNOX(イギリス)トップから+59秒
3位:ビョルグ・ランブレヒトBjorg LAMBRECHT (ベルギー)トップから+1分8秒
25位:雨澤毅明(宇都宮ブリッツェン)トップから+2分37秒
67位:岡篤志(宇都宮ブリッツェン)トップから+11分27秒
79位:石上優大(EQADS/Amical Velo Club Aix en Provence) トップから+15分
84位:岡本隼(日本大学/愛三工業レーシング)トップから+16分16秒
110位:山本大喜(鹿屋体育大学)トップから+23分19秒
*フルリザルトへのリンク:
https://www.tourdelavenir.com/wp-content/uploads/1999/04/Stage-7.pdf
■U23ジャパンナショナルチーム浅田顕監督のコメント
「移動日明けの山岳ステージでは前半6ステージとは活躍する選手がガラッと変わった。日本チームは雨澤の個人総合成績(目標20位以内)上昇を狙いチーム全員でサポートする。レースは序盤に6名が先行、2つの2級山岳ポイントを越えた後、一人、一人と脱落しながら山頂ゴールとなる第1カテゴリーの上りに入る。一方集団は終始コロンビアチームにコントロールされ、最後は逃げ全員を飲み込みながら、ラスト5㎞あたりでアタックしたエースのベルナール・ゴメスが1分差をつけて単独ゴールとなった。日本のエース雨澤は先頭から2分37秒遅れの25位でゴールしマズマズのタイム差で山岳初日を終えた。日本チームの役割を終えた各選手もそれぞれのペースでゴールし最難関の第8ステージへと繋げた。総合18位になったチェコのメイションズカップの時よりも強くなっている。しかしツール・ド・ラヴニールの選手層が2倍以上に厚いため、同じ順位は残すのは簡単ではない。明日は引き続き雨澤の総合成績上昇を狙いチーム一丸で戦う」
■各選手コメント:
・ステージ1位:エガン・ベルナル(コロンビア)
「このレースはU23選手にとって世界で一番重要なレースだ。今日のこの勝利は、ここまでのボクのキャリアの中で最高のものだ」
・ステージ25位:雨澤毅明(総合25位、+2分37秒)
「現在総合25位、これ以上の成績アップを狙って明日・明後日の山岳ステージに臨みます。明日第8ステージはコースも厳しく、耐える受け身のレースとなりますが、チームメイトに引き続きアシストして貰って、皆の働きに成績で報いたい」
・ステージ91位:岡本隼(総合84位、+16分16秒)
「今日は補給のためにチームカーを呼ぶ場所や、タイミングなどがベストではなく、そのあたりのテクニックが要改善だと思いました。3つ中2つめの2級山岳で集団から千切れてからはマイペースで上り、翌日以降の雨澤選手アシストに備えて落ち着いてゴールしました」
・ステージ82位:石上優大(総合79位、+16分16秒)
「前半から雨澤さんを守るために積極的に動きました。3つ中2つめの2級山岳で雨澤さんを連れてうまく集団前方に行くことができた。
最後の頂上ゴールの上りに入る麓で、もっと雨澤さんを前に連れて行きたがったが、うまく行かず。明日は今レース大難関のためできることは限られるが、全力を尽くしてチームの総合エースである雨澤さんをアシストします」
・ステージ80位:岡篤志(総合67位、11分27秒)
「雨澤さんを勝負しやすい集団の先頭に送ることを心がけて走りました。しかし、後ろをみて雨澤さんがついてきている事を確認して前に上げる、という基本ができていないときもあって、そこは要改善に感じました。
全般的にはコンディションも良くなく、最終の上りでは雨澤さんをアシストできずに託してしまって申し訳ない。明日はできるだけ雨澤さんの近くでサポートするように務める」
・ステージ56位:山本大喜(総合110位、23分19秒)
「雨澤選手サポートする動きで臨んだが、3つ中1つ目の上りでスピードの緩急が激しい集団の後ろに下がってしまいキツくなってしまった。その反省で、次の上り(3つ中2つ目の2級)では集団前方で展開したら、ペースが一定で楽に登れた。最後のゴールへの上りは流石に厳しく、グルペットに乗ってゴール。足や腰のダメージはきついが、明日は積極的に展開したい」
・小野寺 玲(第3ステージでの落車で頭部を打ち、リタイアを余儀なくされた)
「怪我は順調に回復しています。皆の戦いを応援しながら、この目に焼き付けて、自分のへのモチベーションにしつつ、日本に帰って多くの人に伝えたいと思います」
■第7ステージ動画
「ツール・ド・ラヴニール2017」第7ステージ チームカーにボトルを取りに来る岡本隼
https://youtu.be/uva-ozjkGAg
■U23ジャパンナショナルチーム選手ピックアップ!
別府史之親衛隊隊長『石上優大(EQADS/Amical Velo Club Aix en Provence)』
石上優大(まさひろ)こと“まーくん”は今から約7年前、某草レース会場居た浅田顕監督を見つけるや否や、「ぼくはツール・ド・フランスに出たいんです。海外で走ることしか考えてないんです。」と、ランドセルを背負いながら、ペロペロキャンディーを片手に(筆者の記憶による)真剣な眼差しでお願いしに来た。それから1、2年のうちに浅田監督が石上をフランス遠征に連れて言った所、いきなり優勝。「なんかフランスの中学生って弱いです。」という衝撃の一言放ち、それ以降はよそ見もせずに、フランスでのプロへの階段を歩み始めた。
フランスでの経験を積むごとに徐々に発言が大人びてくる“まーくん“
「フランスのペロペロキャンディーは美味しいです、やばいです」「欧州のレースでしか走れない身体になってしまいました」、「フランスに帰国します」「日本に遠征します」、「フランス人女性の脚の綺麗さは世界一です」などなど。
そんな“まーくん”が、その人の名前の入れ墨を自分の身体に彫ってしまいそうなほど尊敬している人物がいる。「人類で一番尊敬しているは別府史之選手です。もう好きすぎてヤバイです。プロ意識も高く、欧州に真の意味で溶け込んで、プロとしての仕事を全うする。ジャパンカップクリテリウムの様に、“勝たなきゃいけないレースで勝つ”ことや、今年の全日本選手権エリートでの若手へのメッセージがこもった走り。カッコよすぎてヤバイ」
私が“そういう真っ当なセリフはつまらないから「別府選手は僕の前座です」と言ってくれ”と頼むも、本気で怒り出しそうな始末。
今年からは別府史之選手がアマチュアとして欧州武者修行を行った地、フランスはマルセイユ近くのエクサンプロヴァンスにある1925年創設の名門Amical Velo Club Aix en Provenceチームに加入。中学生の頃に描いた「ツール・ド・フランス」で活躍するという人生プランのコマを着々と進めている。「レース展開やチーム運営、選手たちの意識など、何もかもが新しい発見と驚き。このチームからプロ選手が多く生まれて来たのは必然だと思います。これからも別府史之選手を目標にして、海外でプロになるために、あらゆる努力を惜しみません」
ツール・ド・ラヴニールでの逞しい走りを見る限り、“別府史之は俺の前座だ!”という日はそう遠くないはずだ。
■レース会場諜報活動報告
アメリカU23ナショナルチーム監督『ナサニエル・ウィルソン』
『人を見かけで評価してはいけない、と昔から私は親に言われてきた。しかし今回ばかりは親の言いつけを守れない自分がいる。
どう見てもアキバ系であり、ツール・ド・ラヴニールの会場で「ポケモンGO」とかをやっていそうな監督さんが世界の舞台で我々と一緒に戦っているのだ。そう、アメリカU23ナショナルチーム監督のナサニエル・ウィルソンのことである。若干26歳、2013年までは米コロラド大学で統合生理学(身体の仕組みなどを学ぶ学問)を学びながら、アメリカU23ナショナルチーム選手として「UCIネイションズカップU23」等を転戦。ツール・ド・ラヴニールやクルス・ド・ラ・ペにも選手として出場し、後者では総合15位に入っているほどの中々の選手であった。そんな彼も早々に自身の選手としての限界を感じ、コーチの道へと大きく舵を切り、今回はアメリカU23ナショナルチームを率いている』
そんな彼にはこんな質問をしてみました。「アメリカU23の監督さんと話したいんですが、どこに居ますか?」
『ボクが監督だ。君の言いたいことはわかるよ(笑)。この帽子も監督っぽくないよね。みんなに言われるから気にしていないよ。ぼくは13歳からロードレースを初めて、一番気合を入れて競技をしたのは23歳のときかな?その後は選手としての限界を感じて引退し、2年間はアメリカ自転車競技連盟の生理学スペシャリストとして研修をしたんだ。そして今年からは監督デビューし、オランダにあるアメリカ自転車競技連盟(USAC)欧州拠点に常駐し、選手のコーチングをしたり、レース遠征にも帯同したりしている。今年始めて監督の立場として欧州のレース現場デビューをしたわけだけど、多分僕の年齢のせいで違和感を感じる他国の監督さんも居たかもしれないね。でも皆同じ仕事をしているし、実力がものを言う世界だからすぐに皆と打ち解けて楽しくやっているよ。自分の年齢が若い事のメリットは、U23選手の目線に立って指導や監督できる部分じゃないかな』
(質問:日本の選手への印象は?)
『日本のU23は強くなっているんじゃないかな。少なくとも存在感が増しているのは確実だと思うよ。先日のUCIネイションズカップレース「クルス・ド・ラ・ペ」で総合20位に入っていた選手、名前は忘れちゃったけど確か雨澤という選手がいたのを覚えているよ。いい成績だと思う。偶然では総合20位には入れないし、強いのは間違いない。もちろんまだスーパースターじゃないだろうけど、ポテンシャルは感じるよ。あのレースでは日本チームもうまく機能していたよね?「クルス・ド・ラ・ペ」の写真で日本チームが上りに入る前に大集団コントロールしているのを見たんだよ。ぼくにとっては日本チームの印象が大きく変わった写真だったね。シンプルな話だけど、僕らチームと同じく欧州に来てレースに出続けて行けば日本は自ずと強くなれると思う。もちろんコーチがパワーメーターなどの最新機材を活用してトレーニングメニューを組み、フィジカル強化をすることは当然必要。しかしロードレースはつねに経験がものを云うスポーツだから、まずは場数を踏むことが重要だよね。アメリカだって欧州に比べたら全くもってレース数が少ないんだよ。だからこそ我々は欧州(オランダ)にトレーニングベースを設置して、米国の選手を呼んでいる。フィジカルは自宅や自国でも鍛えられるけど、レースは様々な環境要因を感じ取って即座に判断しなければ行けないゲームなので、欧州の現場で場数を踏まないと学べないんだよ』
(質問:日本U23選手の印象ではUSAチームの選手は、レースの重要な場面で、つねにいい位置に居ることが多い。なんか特別な指導をしている成果かい?コンピューターでセイバーメトリクス理論を使った凄いことをしているとか!?)
『いやいや、コンピューターなんか使ってないよ!(笑) もう一重に選手の経験による判断だよ。米国の優秀な選手は15歳ぐらいから積極的に欧州に遠征を行わせているんだ。だから選手らはレースで次に何が起こるか?を嗅覚で嗅ぎ取って、プロトン内で自分たちで判断して動いている』
(質問:ランス・アームストロング事件の影響は何か君たちの活動に直接の影響はあったかい?)
『やはりランス・アームストロングのドーピング告白(2013年)は個人的にもインパクトがあったよ。でもアメリカの自転車競技界はつねに広いんだ。色々な考えの人物が居て、沢山のグループがあるんだ。だから米国だけに関して言えば、ランス・アームストロングはあくまでも“ドーピングをも厭わなかった一派の一人”という見方で、多くのサイクリストは「彼は彼、自分は自分」と考えていると思う。もちろんランス・アームストロングは海外でもっとも有名なアメリカの“元”サイクリストであるため、米国自転車界の世界的なイメージは悪くなったのは確かだ。でも既に彼はすべてを告白し、結果としては自転車競技界全体が汚染されていたドーピングの仕組みを世界に開示した。ドーピングをしていたのはランスだけではないし、あの時代は欧州にいた多くの選手が同じように手を染めていたのは君も知っているよね?
だから、あくまでも結果としてはドーピングを裏の裏まで知っていた人物であるランスが種明かしをして、ドーピングを過去のものにしたとも考えられるんじゃないかな。そして今我々は“クリーナー・ジェネレーション(よりクリーンになった世代)“として、世界自転車界盛り上げていくスタートラインに立つことができているんだよ』
写真:U23ジャパンナショナルチーム提供 筆者:山崎健一
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著者プロフィール
ファンライド編集部ふぁんらいど へんしゅうぶ
FUNRiDEでの情報発信、WEEKLY FUNRiDE(メールマガジン)の配信、Mt.富士ヒルクライムをはじめとしたファンライドイベントへの企画協力など幅広く活動中。もちろん編集部員は全員根っからのサイクリスト。