2017年09月01日
【U23ジャパンナショナルチームレースレポート】 U23世界最高峰レース「ツール・ド・ラヴニール(8/18-27)」レースレポート
6.ツール・ド・ラヴニール 第6ステージ(8月23日)
ワールドチーム研修生のコロンビア人が集団スプリントを制す
日本は雨澤ら3名の総合成績上位を賭けて、最終決戦のアルプスの地へ
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最終アルプス3連戦を前にした最後のスプリンター向きステージ。2013年のツール・ド・フランスで、マーク・カヴェンデュッシュがスプリントを制した時と同じゴール地点が使われるため、スプリンター達にとっては象徴的な舞台だ。翌日は休息日ということもあり、つねに激しい展開が予想される。特に風が激しい区間ということもあり、横風を利用した「集団分断攻撃」を得意とするオランダ、ベルギー、北欧の大柄な選手が幅を利かせることになるだろう。小柄な選手が多い日本チームにとっては最も苦手とするタイプのステージ。この宿題を克服しないと世界では通用しない。
*全ステージの概要は、下記リンクにてご覧下さい(株式会社シクリズムジャポンホームページ上)
http://www.cyclisme-japon.net/modules/race/details.php?bid=819
■第6ステージ「モンリシャール>サンタマン=モンロン」=139 .1km(獲得標高1129m)のレース展開レポ
最終アルプス3連戦前のスプリンター&パンチャーが勝利を狙える最後のステージ。スタート直後から、最後の勝利チャンスをものにしたいイタリアのフランチェスコ・ロマーノとアイルランドのマイケル・オローリンがスタートアタックを敢行。集団の安定化を望むメイン集団はこの逃げを容認し、この逃げに3分25秒の猶予を与えつつも、ゴールスプリントまでにじわりじわりと捕らえにかかる。一見、「逃げvsスプリンターチーム」という定石通りのステージ展開になるかに見えたものの、大柄な選手を揃えるデンマーク、ノルウェイ、オランダが、横風区間と狭い道幅を利用して弱い選手らを削りにかかり、集団内は度々パニックに。小柄な日本選手にとっては、アルプスで総合順位争いを戦う権利獲得のための、生き残りを賭けた展開となる。
そんな中、全日本選手権での鎖骨骨折からの復帰間もない岡篤志が、パンクののちチームカーに激突して落車。不幸中の幸いとしては、治療をした鎖骨には影響がなかった事だろう。その後かろうじて集団復帰を果たした。
ゴールまで残り3km。スプリンターを擁する強豪チームがコントロールするメイン集団は、ゴール2km前に差し掛かるもまだスタートアタックをした2名を捕まえられず、タイム差は25秒。2人はゴール1km手前でも15秒差で抵抗し、逃げ切りもありえるかと思えたのもつかの間、スプリントのための“お見合い”でスピードを緩めたために、ゴールまで残す所500mほどで吸収されることに。ギリギリ逃げ吸収に間に合ったメイン集団での混戦のスプリントは、既にUCIワールドチームである「クイックステップフロアーズ」に研修生として所属中のコロンビア人スプリンター、ホデグ・チャグィが僅差で制する。逃げ続けたロマーノとオローリンの2名が吸収後にも関わらずスプリントに参加し、7位と9位に入っている点も圧巻だ。
日本選手5名はメイン集団でタイム差無しゴール。
現時点での総合上位は山で活躍しないであろうスプリンターらが占めているが、総合成績を狙う選手ら90名が位置する「事実上の総合成績先頭集団」(マイヨジョーヌから3分49秒遅れ)に岡篤志、岡本隼、雨澤毅明が入っており、25日から始まるアルプス3連戦での総合成績争いに期待がかかる。
■リザルト:
<第6ステージ>
1位:アルヴァロ・ホセ・ホデグ・チャグィ HODEG CHAGUI Alvaro Jose(コロンビア)3時間0分46秒
2位:アラン・バナツェク BANASZEK Alan(ポーランド)トップと同タイム
3位:コンラッド・ゲスナー GEßNER Konrad(ドイツ)トップと同タイム
34位:山本大喜(鹿屋体育大学)トップと同タイム
53位:岡篤志(宇都宮ブリッツェン)トップと同タイム
82位:岡本隼(日本大学/愛三工業レーシング)トップと同タイム
110位:石上優大(EQADS/Amical Velo Club Aix en Provence) トップと同タイム
118位:雨澤毅明(宇都宮ブリッツェン)トップから+3分49秒
<第6ステージ後の総合成績>
1位;パトリック・ギャンパー(オーストリア)19時間40分36秒 (平均時速44,635 km/h))
2位:イリヤ・ヴォルカウ VOLKAU Ilya(ベラルーシ)トップから+1分23秒
3位:キャスパー・アスグリーン(デンマーク)トップから+3分45秒
31位:岡 篤志(宇都宮ブリッツェン)トップから+3分49秒
46位:岡本 隼(日本大学/愛三工業レーシング)トップから+3分49秒
92位:雨澤毅明(宇都宮ブリッツェン)トップから+3分49秒
113位:石上優大(EQADS/Amical Velo Club Aix en Provence) トップから+7分22秒
129位:山本大喜(鹿屋体育大学)トップから+20分25秒
*フルリザルトへのリンク:
https://www.tourdelavenir.com/wp-content/uploads/1997/04/Stage-6.pdf
■U23ジャパンナショナルチーム浅田顕監督のコメント
「前半の6つのスピードステージを終えての感想。ここには世界のトップが集まっている。U23のトップというよりこれから世界をリードする連中が確実に集まっていると感じる。スプリンターは驚異的な爆発力と粘りがあり、逃げる選手は狂っている。ここでのステージ1勝をどんなに望んでいるのか良くわかる。他のネイションズカップともプロのレースとは性質が違い、各チームの動きは組織的だが選手の可能性を殺さない。だから何があるかわからない。シナリオはあるが決め台詞は心の底からの叫びのようなアドリブだ。そんな日本選手を輩出したい。いよいよ試される山岳ステージが始まる。日本の位置と将来を占う大切なステージになりそうだ」
■各選手コメント
・ステージ1位:アルヴァロ・ホデグ(コロンビア)
「チームメイト達はボクがスプリントしやすい位置に連れて行くために、最終局面で複雑なコースレイアウトで素晴らしい働きをしてくれた。ゴール3km手前地点で10〜12番手。スプリンターのボクにとっては、平坦ステージが終わる今日が最後のステージ優勝チャンスだったし,ここまで2度も2位になっているからどうしても勝ちたかった。ボクのことを助けてくれた家族とチームメイトには本当に感謝している。この勝利は彼らのものだ。ゴール地点でガッツポーズをしなかったのは、僅差のスプリントだったので自分では勝利の確信がなかったからなんだ。(今後はコロンビアの強豪スプリンター、フェルナンド・ガビラと比べられる事になるね? との質問に)いやいや、フェルナンドとはまだまだ次元が違うよ! 彼とは親友だけど、ボクとは次元が違う選手だよ。彼はジロ・デ・イタリアで4勝したんだよ。まったくもってボクとは別次元だよ。いつか彼のレベルになれるように頑張りたいね」
・パトリック・ギャンパー(オーストリア)第5ステージの大逃げでマイヨジョーヌを獲得し、今日もキープ
「逃げにチームメイトが2名いたので休むことができた。レース終盤は横風が凄まじかったね。デンマークとノルウェイがその区間で横風を利用して集団を壊そうとしていた。昨日よりもスプリントする脚が残っていたんだけど、ゴール数キロ手前からの複雑なコースレイアウトが頭に入っていなかったので、しっかりスプリントに挑めなかった。でもマイヨジョーヌをキープできてよかったよ。25日からのアルプス最終3ステージは、ここまでの平坦気味ステージとはまったく別のレースになるだろうね。ボクはクライマーじゃないから今日が最後のマイヨジョーヌ着用日になるだろう。オーストリアとしては、クライマーであるベンジャミン・クルキックとマルクス・フライベルガーの2名にトップ10入りの勝負を託すことになる」
■U23ジャパンナショナルチーム選手ピックアップ!
自転車選手ブログ界の総合リーダー『岡 篤志(日本U23/宇都宮ブリッツェン)』
6月の全日本日本選手権での落車で鎖骨を折り、その後の夏のレースは終わったか!? に見えた岡 篤志。1ヶ月半後に迫った「ツール・ド・ラヴニール」への出場も正直な所、難しいかと思われた。そんな中、お見舞いも兼ねて筆者は落車1週間後、岡に電話をしたのだが、そこで衝撃のセリフを耳にしてしまった。
「鎖骨折れちゃいましたけど、ラヴニールの遠征が楽しみです、うへへ」。
貴様は行く気なのかっっ!? その後、岡は浅田監督にもおんなじセリフを吐いたらしく(“うへへ”は抜きで)、無事にラヴニールのメンバーとしてここフランスにいる。数年前に欧州でこてんぱんにやられ、一時期は引退も考えたようだが、心身ともに復活&グレードアップし、宇都宮ブリッツェンの主力選手にまで上りつめた岡は神妙な面持ちで語る。
「洋菓子系がとても好きなんでフランスのパティスリーにあるお菓子に目移りしますね、自分で作るのも好きです。この遠征が終わったら、ご褒美に食べたいところ(笑)」
明らかにメンタルが数年前から格段に図太くなっている。
そんな岡篤志を語る上で外せないのは、シャイな佇まいとは裏腹に軽妙なタッチで饒舌に語るブログ(http://blitzen.txt-nifty.com/oka/ )だ。
「日常の事はブリッツェンサポーターの方へ、レースの事は自分のメモ書きのような気持ちも含めて書いてます。他の選手のブログをそこまでチェックしているわけではありませんが、チームメイトのブログは見てますね。
山本元喜選手や吉田隼人選手のブログ等分かりやすく書かれていて面白いと思います。」
選手ブログ界の総合リーダーと言っても過言ではない面白さ。感性豊かな人柄が滲み出ており、私も岡のブログをチェックしている一人である。
しかしここに来て大きな問題が発生した。それは本レースのレポートを書いている私よりも、岡のほうが先にツール・ド・ラヴニール詳細レポートをブログにアップしてしまい、私の面目が丸つぶれになってしまう問題のことである。
激しいレースが終わって、車でホテルまで移動し、着替えてシャワーを浴び、夜ご飯を食べ終わると夜の8時半。「しめしめ、今日はこれで岡は眠くなって寝落ちし、明日だって寝坊してブログを書き忘れてしまい、私の逃げ切り勝利決定だ!と安心するのもつかの間、夜の9時にはクオリティの高いレポートをブログにアップしていやがるのだ!レース中に自転車の上のスマホでレポートを書いているに違いない。
「文書を書くのが凄く好きですね。書くのもかなり早いです。最近はずっと遠征続きで、日々生きる事に精一杯です(苦笑)。ですからむしろブログを書くことでストレスを発散してる部分もあるかと思います。レース中はブログを書いていません、うへへ」。岡には「UCIルールでは選手がレースの事をブログで書いて、24時間以降から」だということを教えてあげなければならない。
■レース会場諜報活動報告
イギリスナショナルチーム監督/イギリス自転車競技殿堂入りコーチ『キース・ランバート』
1975年&1980年のイギリスロードナショナルチャンピオンであり、チームスカイの名物監督、デイヴ・ブレイルスフォードの師匠的存在であるキース・ランバート。1971年のプロ入り以降、これまでずっと選手&監督としてイギリス自転車界を見守ってきた。そんなイギリスの歩く生き字引であるキースに「日本はどうしたらイギリスを倒せますか?」と聞いてみました
「まず始めに、イギリスは日本チームにはまだまだ負けられない。なぜならば、欧州ロードレース界に「住んで」いる期間が長いので、そのプライドに掛けて負けるわけには行かない。君たちが相撲でイギリスに負けられないのと一緒だよ。
さて、「若手を育てていくにはどうしたら良いか?」という点では一家言あるね。
その前に注意だけど、英国競技連盟xチームスカイの活動は少々特殊なため、U23選手の強化にはあまり参考にならないと思う。チームスカイはもう巨大な資本で動く”ビッグマシーン(一人や二人の手では手に負えない巨大な組織)”だから、参考にならない。だから、あくまでもU23選手育成という観点で語るよ。
まず日本の若者が欧州に来てレース活動にあたっては当然現地の『環境適応』が重要だよ。居心地良くこっちで過ごさないといけないからね。特に日本人はシャイだし、コミュニケーションに必要な言葉はつねに大事だと思う。あとフランスに居るということは、言葉はフランス語を学んでいるのかい?そうだったらばフランス語ももちろん必要だが、英語にも力を入れるべきだよ。だって私の国の言葉だからね!それは冗談で(笑)、ここ10年来世界の自転車界の公用語は大幅に英語へとシフトしてきていると思う。英語を話せればどこの国のチームにも行けるし、情報だって多く収集できるだろ?特に北欧、ドイツ、オランダ、ベルギー人はつねに流暢な英語を話すから、その国での活動もし易いしね。
次に重要なのは、欧州に『基地』を造って組織として遠征に来られるようにしなければならない。これは本当に重要だ。個人での活動でできる事なんてたかが知れてるからね。イギリスはヨーロッパにあるから君は気が付かないかもしれないけど、私達だって海を隔てた欧州本土への遠征はそんなに楽じゃないんだ。レースではメカ、マッサーらがトラックの陸送で多くの荷物を運ばないと行けない。だから我々イギリスだって、こっちの欧州本土(フランス)側に車を用意しないといけないし、スタッフもその基地にほぼ常駐させる事が必要だね。
最後にこれは自転車ロードレースがマイナーな国にとっては頭の痛い問題だけど、『活動予算の確保』が重要だ。競技連盟などが若手の遠征費などを資金的にしっかりサポートしないといけない。いや、給料を払うべきだとは言ってない。その前にU23選手で給料を払うべきレベルの選手がどの程度居るのか疑問だが(笑)。フランス、イタリア、ベルギーみたいに、子供が街のクラブチームから自転車を借り、地元のチームがレースに連れてってくれる様な国ならば、家庭の生活レベルにあまり影響されずに自転車競技を始めることができる。でも君の国では自転車ロードレースが盛んではないだろう?イギリスは日本より遥かにマシだろうけど、自転車ロードレースが機材スポーツである宿命で、金銭的に裕福な家庭に生まれないと始めにくい。子供に自転車を買い与え、遠征費用を負担するなんて資金的に家計への負担がなかなかあるからね。これは選手層の拡大に大きな影響を及ぼす。ジュニア以下ならまだ遠征する必要はない。でもU23は海外遠征をしないと強くなれない。この遠征予算は誰が持つ?競技連盟やそのスポンサーが、選手のレベルをしっかり見極めて適切にサポート・金銭負担するべきだ。
これらはすべてシンプルで当たり前のように聞こえる話かもしれないけど、すべてを確実に実行するのは骨が折れる。でも覚悟を決めて徹底して実行するだけで、確実に日本は進歩する」
写真:U23ジャパンナショナルチーム提供 筆者:山崎健一
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著者プロフィール
ファンライド編集部ふぁんらいど へんしゅうぶ
FUNRiDEでの情報発信、WEEKLY FUNRiDE(メールマガジン)の配信、Mt.富士ヒルクライムをはじめとしたファンライドイベントへの企画協力など幅広く活動中。もちろん編集部員は全員根っからのサイクリスト。