2017年09月01日
【U23ジャパンナショナルチームレースレポート】 U23世界最高峰レース「ツール・ド・ラヴニール(8/18-27)」レースレポート
5.ツール・ド・ラヴニール 第5ステージ(8月22日)
小国ベラルーシがまさかの逃げ切り
欧州の大国をまんまと出し抜くサプライズ勝利
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ワインと古城の地をロワール川に沿って東に移動する第5ステージは、選手たちの疲れもみ見え始めるタイミングのため、激しい展開は影を潜めることが予想される。このような“移動ステージ“では総合成績に関係のない選手がステージ勝利をもぎ取る絶好のチャンス。逃げに乗りたくてウズウズしている日本U23チームの山本大喜も、スタート地点でマイヨジョーヌら各賞ジャージの真後ろに陣取り、スタートアタックを虎視眈々と狙う。
*全ステージの概要は、下記リンクにてご覧下さい(株式会社シクリズムジャポンホームページ上):
http://www.cyclisme-japon.net/modules/race/details.php?bid=819
■第5ステージ「モントルイユ=ブレイ>アンボワーズ」=157.1km(獲得標高1208m)のレース展開レポ
スタート地点では山本大喜がスタート最前列に整列するマイヨジョーヌら3賞ジャージのすぐ後ろに陣取り、スタートアタックを狙う。
スタート直後、岡篤志が他選手との接触でメカトラブル。修理後に集団を追う間に、先頭では山本大喜を含む18人の逃げが形成される。しかし15km地点の踏切が電車通過で締まり、レースが止まるというアクシデント。通常UCIルールでは30秒差以内の逃げが踏切で捕まった場合は「逃げ無効=集団と合流」となるが、コミッセール判断で逃げは「有効」に。よって、踏切が開いた時点で逃げ集団を先に行かせ、メイン集団は踏切停止時点でのタイム差である15秒待たされてから再スタート。
その後は山本大喜を含む逃げと、メイン集団とのタイム差は最大40秒まで開く。
しかし逃げに乗れなかったポルトガル、スイス、ベルギーらが強力な牽引をし、タイム差はみるみるうちに縮小、その後メイン集団が逃げを吸収しレースは60km付近で降り出しに。その後しばらく気が緩んだメイン集団を出し抜いて形成された3名の逃げが、大きなドラマを作る。
ヴァジリ・ストロコウ&イリヤ・ヴォルカウ(ベラルーシ)、そしてパトリック・ギャンパー(オーストリア)による逃げは、ゴールまで残り50km時点で7分30秒差まで一気に開く。誰もがメイン集団による強力な牽引で3名が追い詰められて捕まり、集団スプリント勝負になると思いきや、タイムトライアルスペシャリストを含む3名が粘りに粘る。結局、ゴールの街アンボワーズでの周回コースに入り、残り距離20km時点でのタイム差が5分30秒と告げられた瞬間に3名の逃げ切りは決定的に。
最後はベラルーシ2名vsオーストリア1名での勝負は定石通りベラルーシに有利に働き、本大会のダークホースとも云えるベラルーシのヴァジリ・ストロコウが番狂わせのドラマに湧く観客の前でスプリント勝負を制した。
■リザルト
<第5ステージ>
1位:ヴァジリ・ストロコウSTROKAU Vasili(ベラルーシ)3時間50分50秒(平均時速43,278 km)
2位:パトリック・ギャンパー GAMPER Patrick(オーストリア)
3位:イリヤ・ヴォルカウ VOLKAU Ilya(ベラルーシ)トップから+13秒
22位:岡本隼(日本大学/愛三工業レーシング)トップから+3分49秒
43位:岡篤志(宇都宮ブリッツェン)トップから+3分49秒
70位:山本大喜(鹿屋体育大学)トップから+3分49秒
79位:雨澤毅明(宇都宮ブリッツェン)トップから+3分49秒
89位:石上優大(EQADS/Amical Velo Club Aix en Provence) トップから+3分49秒
<第5ステージ後の総合成績>
1位:パトリック・ギャンパー(オーストリア)16時間39分50秒 (平均時速44,358 km/h))
2位:イリヤ・ヴォルカウ VOLKAU Ilya(ベラルーシ)トップから+1分23秒
3位:キャスパー・アスグリーン(デンマーク)トップから+3分45秒
33位:岡 篤志(宇都宮ブリッツェン)トップから+3分49秒
40位:岡本 隼(日本大学/愛三工業レーシング)トップから+3分49秒
90位:雨澤毅明(宇都宮ブリッツェン)トップから+3分49秒
115位:石上優大(EQADS/Amical Velo Club Aix en Provence) トップから+7分22秒
131位:山本大喜(鹿屋体育大学)トップから+20分25秒
*岡篤志の第5ステージリザルトは、第4ステージゴール前落車のタイム救済措置(=タイム差無し)が反映されたものになっています。
*フルリザルトへのリンク
https://www.tourdelavenir.com/wp-content/uploads/1995/04/Stage-5.pdf
■レース動画(U23ジャパンナショナルチーム撮影)
「ツール・ド・ラヴニール2017」第5ステージ スタート地点に集まる選手たち
https://youtu.be/4XCXWwhp1TY
「ツール・ド・ラヴニール2017」第5ステージ 序盤の山本大喜を含む逃げが踏切に捕まる・・・
https://youtu.be/F8UCg9b2Tt4
「ツール・ド・ラヴニール2017」第5ステージ 日本チームの車からの補給
https://youtu.be/07IWnxngKrk
「ツール・ド・ラヴニール2017」第5ステージ トイレ休憩後に集団へと戻るマイヨジョーヌ
https://youtu.be/AGcQoF2XjfI
■U23ジャパンナショナルチーム浅田顕監督のコメント
「フラットな高速ステージでは逃げを打つ選手と捕まえるチームの追いかけっこで速い展開が続く。序盤に19名の逃げグループが成立しスタートから果敢に動いた山本が乗る。しかし集団もこれを容認せず序盤のうちに吸収。しかしレース中盤、中休みムードのペースが落ちたタイミングで飛び出した3名(-オーストリア1名、ベラルーシ2名)の逃げが容認され最大7分までリード。後半に追い上げの主導権を取るチームもなく各チームの息も合わず最後はこの3名の逃げ切りを許してしまった。4位以下の集団では岡本の22位の成績に留まった。勝ったのは逃げた2人のベラルーシのひとりSTROKAU、国際大会ではジュニア以来の優勝と思われる。明日は最後のフラットステージ。山岳ステージを前にステージ上位入賞を狙う」
・ステージ1位:ヴァジリ・ストロコウ(ベラルーシ)
「とんでもない勝利だ!信じられないよ。ゴールまで60km地点でアタックし、ボクのチームメイトであるイリヤ・ヴォルカウと、オーストリアのパトリック・ギャンパー3名での逃げになったんだけど、つねにいい協調体制ができてみるみるうちにタイム差を広げられた。ギャンパーはゴール500m前でスプリントを仕掛けてきた。その後ボクはゴール200m前まで待って彼のことを捲くったんだ。正直、彼のほうがスプリントは強いと思っていたので勝てたことに驚いている。自分の勝利確率はせいぜい50%ぐらいだとしか思っていなかったからね。チームメイトのヴォルカウが一緒に逃げに乗ってくれたのはラッキーだったね。彼はこの勝利を掴むための素晴らしい働きを沢山してくれたからね」
・ステージ2位:イリヤ・ヴォルカウ
「チームにとって素晴らしい日になったね。アタックを決めたときは正直勝てるなんて思ってなかった。タイム差が7分程度になってから漸くして“もしかしたら勝てるかも!?”と思えてきた。3名の逃げにうちのチームが2名居たのは大きなアドバンテージだったね。作戦としてはボクが逃げからアタックしてギャンパー(オーストリア)に追わせ、ストロコウを有利にするというものだった。ストロコウが勝ってくれたので、今日の働きが報われたよ。今日のコースはそんなにきついものじゃなかったから、大集団が僕らを簡単に逃してくれたのは驚きだね。ゴールのアンボワーズの街での最終周回コースレイアウトが少々複雑だったため、メイン集団がリスクを追うような走りをしなかったのも僕らには有利に働いたね」
■U23ジャパンナショナルチーム選手ピックアップ!
日本体育会系の寵児『岡本 隼(日本U23/日本大学/愛三工業レーシング)』
2017年のアジア選手権のスプリントを制し、アジアU23チャンピオンとなった岡本隼。他の選手やスタッフによる彼への評価は「昭和体育会系の伝統を継ぐ自転車界最後の男」、「いつも静かで何を考えているのかが良く分からないが、何か凄いことを予想外のタイミングでなし遂げてしまう凄い男」という事らしい。
フランスで宿泊のホテルにて、遠目にこんな光景を目撃した。
ホテルの廊下にある椅子でタトゥーをバリバリ入れた欧州人選手が、廊下通行者の邪魔になるほど脚を無駄に広げて伸ばしながらスマホをいじっている。そんなところに、純日本体育会系男児である岡本隼が通りかかる。その欧州人選手は「へっ、ジャパニーズなんかにスマホをいじっている俺様の邪魔なんかさせねぇぜ!通りたいなら金を置いてきなっ!」とか言っちゃいそうなほどイケイケ系だったのですが、岡本隼の堂々かつミステリアスな佇まいを見ると、彼は“すいませんっ!”とばかりに反射的に伸ばしていた脚を引っ込める。そして岡本が堂々とその欧州選手の前を通り過ぎる際に、「うっす!」と礼を言った様に遠目に見ていた筆者には見えたのだ!チャらいタトゥーの茶髪(生まれつきだと思われる)の欧州選手を、昭和のDNAを受け継ぐ日本体育会系男児が撃破した瞬間である。
そんな凄い男に「趣味などは?」と聞いてみた
「車が趣味です。二十歳になったらすぐに車を買おうと子供の頃から思っていて、ずっとお金を貯めていたんです。車種はトヨタのMR2ですね。自転車に乗らないときはずっと車に乗っています。いや、もちろん自転車も大好きですよ。なので、車の助手席にはいつも自転車を乗せて居ます。」
“毎朝、丸太を担いでお寺の階段を昇り降りすることです。うっす”とかいう答えが返ってくるかと思いきや、結構普通であった。あと、彼女募集中なのではないか?とこの返事から読み取ったのは、私だけではないはずだ。
■レース会場諜報活動報告
①ベラルーシナショナルチームメカニック『アッリ』
アッリはベラルーシナショナルチームの名物メカニックとして知られている。小国ながら欧州の国際大会を小さなバンで転戦し、大国のメカニックからもマスコットキャラクター?的に愛されている陽気な男だ。第5ステージでは、人口1,000万人に未満、ロシアやポーランドに隣接する非EU加盟のヨーロッパ小国チームが、欧州の大国を出し抜いて衝撃的な勝利!今回の出場チームの中では、率直な所、日本と並んで「ナメられている」国であるベラルーシの勝利についてアッリに聞いてみた
「欧州大国に対しては”ざまぁみろ!”と言いたいね!(笑)でかいチームバスやシマノのデュラエースをフル装備したようなXXXXチーム達を僕らみたいな小国がやっつけたんだから、これ以上気持ちのいいことはないよね。今回チームとしては”他チームに警戒されていない”事を逆手に取って、どこかのステージで大逃げを仕掛けようとしていたんだ。今日優勝したストロコウは昨日のステージでも逃げに乗っていたけど、デンマークやノルウェイら強豪国に屈して吸収されてしまった。うちに残されたチャンスは比較的平坦路である第6ステージまでだ。今日は3名の逃げに、うちのチームが2名入ってしまったので、大国に警戒されちゃうかも?と思ったけど、タイム差が7分程度になるまで泳がされてたなんて、うちら相当ナメられているんだね(笑)
うちのチームは機材がかなり絞られている。コンポはトップクラスではなく、シマノのアルテグラクラス。パワーメーターは一人も着けていないんだ。パワーメーターなんて信じている選手はうちには居ない。ホントだよ。某パワーメーターメーカーから機材サポートの話もあったんだけど、選手の意見を聞いてあまり乗り気ではない様子なので断った。普段はイタリアで走っているんだけど、特にイタリアのレースで勝つには大胆さやレース展開を見極めてライバル出し抜く事が求められている点も、選手がパワーメーターに依存していない理由かもね。レースは機材で走るんじゃなくて、心と頭で走るもんだ。いくら機材が良くたって頭と精神力がなければロードレースでは勝てない。そんな考えの僕らが、僕らのやり方で勝った。日本だって絶対にやれると思うよ。警戒されていないことを利用したほうがいいよ」
②バイクによるレース情報収集スタッフ『ブルーノ・ティブー』
かつて名門プロチーム「カストラーマ」、「モトローラ」、「コフィディス」に所属し、すべてのグランツールに出場した名アシスト選手であるブルーノ・ティブーが引退後に選んだ仕事は、レースをモーターバイクで追いかけ、審判やコミッセールにレースのリアルタイム情報を伝える「レースオフィシャル情報収集スタッフ」。ツール・ド・フランスを始め、ASOが主催するすべての大会で働いているそうだ。
「レースオフィシャル情報収集スタッフ」そもそも何する仕事なのか?をブルーノに聞いてみた
「レースでチームカーや審判に対して放送される“ラジオツール”は知っているよね?“現在先頭で3名が逃げていて、ゼッケン番号は18、109、115!”、“集団後方で落車!メディカルカーが必要だ”、“日本チームの選手がパンク、チームカー前方に上がって来い!”みたいなやつ。あの情報を収集しているのが私の仕事だよ。集団の先頭を走るチーフコミッセールカーからは、当然集団の中や後ろで起こっている細かい所は見えないんだ。だから私の様にバイクでレース情報を細かく収集するスタッフ達が、ラジオツールで話すコミッセールたちに情報伝えるんだ。それら複数の情報をコミッセールがまとめ、君たちチームに対してラジオツールで提供している。これはレース集団の動きが分かっていないと絶対にできない仕事だね。レース中に選手の邪魔にならない場所で、できる限りの細かいレースの現場情報を仕入れるんだよ。自由自在にレースを見守るので「鷲の目」ともあだ名されている仕事だ。(集団後方を走るチームカーからは見えない)日本チーム選手のレース中の動きはどうかだって?君が思っているよりも遥かにいいと思うよ。名前もゼッケン番号も忘れちゃったけど(笑)大柄では無い日本の選手の2名が特に良くアタックをかけているね。しっかりとレースに参加していると思うよ。彼らが逃げに乗れないのは、もちろん力不足なのは否めないけど、タイミングを見極める嗅覚がまだまだ未熟なんだと思う。この嗅覚ばかりはレベルの高いレースに出まくって経験を積む事でしか得られないだろうね。これからも欧州に来て沢山経験を積んでいきなよ。レースまだまだ続くから、“日本選手が逃げている”と言う情報を私からコミッセール達に伝えさせてくれよ」
写真:U23ジャパンナショナルチーム提供 筆者:山崎健一
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著者プロフィール
ファンライド編集部ふぁんらいど へんしゅうぶ
FUNRiDEでの情報発信、WEEKLY FUNRiDE(メールマガジン)の配信、Mt.富士ヒルクライムをはじめとしたファンライドイベントへの企画協力など幅広く活動中。もちろん編集部員は全員根っからのサイクリスト。