2017年09月01日
【U23ジャパンナショナルチームレースレポート】 U23世界最高峰レース「ツール・ド・ラヴニール(8/18-27)」レースレポート
3.ツール・ド・ラヴニール 第3ステージ(8月20日)
最終平均時速47.5kmの高速レースに耐えたU23日本
U23世界王者が上りスプリントを制す。
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フランスの自転車首都ブルターニュ地方を走る最後のステージとなるU23版ツール・ド・フランス「ツール・ド・ラヴニール」(未来へのツール)第3ステージ。世界最高のU23選手が集まるレースという事もあり、FDJのマルク・マディオ監督や、UCI公認選手代理人らも会場に訪れ選手を観察。この場で成績を出すことが、そのまま直接来年のプロへの切符獲得に繋がるチャンス。ちょっとやそっとじゃ勝てないレベルだが、夢の舞台に指先が触れる場所で戦う日本選手の士気はつねに高い。
■第3ステージ「ミシアック>シャトーブリアン」=139.5km(獲得標高1634m)
自転車首都ブルターニュ地方を走る最後のステージとなるU23版ツール・ド・フランス「ツール・ド・ラヴニール」(未来へのツール)第3ステージ。スタート直後から激しいアタック合戦が続き、スタート後1時間の平均時速は49.6kmにも上るも、アタックが決まったのは50km地点を過ぎてから。2017年欧州選手権王者のカスパー・ペデルセン(デンマーク)や欧州北部の大柄な選手らが中心となる14名が逃げの形成に成功。日本からは山本大喜がそれに加わるべく時速50km超で追いかけるも、逃げ集団の凄まじいスピードに届かず後続集団に戻る。
逃げ集団は直線になるとメイン集団からも目視できる40秒程度のタイム差。メイン集団は時速48km程度の巡航スピードで追いかけているために、すぐに逃げは捕まるかと思いきや、士気の高い14名の逃げ集団は完璧なローテーションを組み、真正面からメイン集団と対決。あまりもの高速レースに、第2ステージで落車に見舞われたフランク・ボナムール(フランス/フォルチュネオ・オスカロ)は集団からちぎれでそのままリタイアすることを余儀なくされる。しかしながらメイン集団のスプリンターチームによる強力な牽引に屈服し始め、逃げ集団は徐々に人数を減らす。
ゴールの街、シャトーブリアンの周回コース(約9kmx2周)に突入した残り20km地点で、最後の最後まで逃げを主張したU23欧州王者のペデルセンもとうとう力尽き、すべての逃げが吸収。レースは振り出しに戻り、集団スプリントで勝負は決することに。日本U23は小野寺玲のスプリントで勝負する段取りも、今日も北欧勢を中心にフィジカルにものを言わせた激しい位置取り合戦に、組織的なスプリントを組むことが困難。結果、最終局面で好位置にいた岡篤志が最終スプリントに参加することに。
ゴールまで300m手前ほどの最終コーナーを曲がるや、ノルウェイチームが凄まじいスピードでスプリントを開始。最後は2016年U23世界チャンピオンであるクリストファー・ハルフォルセン(ノルウェイ)が、上り基調のスプリントでライバルをごぼう抜きにする圧倒的なパワーで今レース初ステージ優勝。約1月後に迫った自国開催の世界選手権への弾みをつけた。日本U23では岡篤志が16位。第2ステージの落車で遅れた山本大喜以外の選手は全員マイヨジョーヌと4秒のタイム差をキープ。
■リザルト:
<第3ステージ>
1位:クリストファー・ハルフォルセン HALVORSEN Kristoffer(ノルウェイ)2時間56分5秒(平均時速47,534 km/h)
2位:アルヴァロ・ホセ・ホデグ・チャグィHODEG CHAGUI Alvaro Jose(コロンビア)トップと同タイム
3位:クリストファー・ロウレスLAWLESS Christopher(イギリス)トップと同タイム
16位:岡篤志(宇都宮ブリッツェン)トップと同タイム
41位:小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)トップと同タイム
81位:岡本隼(日本大学/愛三工業レーシング)トップと同タイム
99位:石上優大(EQADS/Amical Velo Club Aix en Provence) トップと同タイム
112位:雨澤毅明(宇都宮ブリッツェン)トップと同タイム
135位:山本大喜(鹿屋体育大学)トップから+6分3秒
<第3ステージ後の総合成績>
1位:キャスパー・アスグリーン(デンマーク)9時間5分27秒 (平均時速44,891 km/h)
2位:クリストファー・ハルフォルセン(ノルウェイ)トップから+4秒
3位:アルヴァロ・ホセ・ホデグ・チャグィ(コロンビア)トップから+4秒
15位:岡 篤志(宇都宮ブリッツェン)トップから+4秒
30位:小野寺 玲(宇都宮ブリッツェン)トップから+4秒
42位:岡本 隼(日本大学/愛三工業レーシング)トップから+4秒
99位:石上優大(EQADS/Amical Velo Club Aix en Provence) トップから+4秒
108位:雨澤毅明(宇都宮ブリッツェン)トップから+4秒
136位:山本大喜(鹿屋体育大学)トップから+16分40秒
*フルリザルトへのリンク:
https://www.tourdelavenir.com/wp-content/uploads/1992/04/Stage-3.pdf
■レース動画(U23ジャパンナショナルチーム撮影)
『岡篤志へのレース中補給の様子』
https://youtu.be/he8QDiAu4e0
■U23ジャパンナショナルチーム浅田顕監督のコメント
「緩いアップダウンがあるものの平坦基調の高速ステージ。チームは逃げに乗る展開を作りつつ、集団ゴールの場合は小野寺で上位を狙う。レースは序盤からアタックが止まず高速で進む中、途中の山岳ポイントをきっかけに主力国計14人の先行グループができる。しかし集団もゴール直前で勢いの衰えなかった逃げを辛うじて捕まえ、勝負は集団スプリントに持ち込まれた。勝ったのはU23世界チャンピオンのハルフォルセン(ノルウェー)、日本チームは岡が小野寺に代わりスプリントし16位でのゴールとなった。昨日落車で負傷した山本も積極的に逃げの展開を試みた後、集団から少し遅れてのゴールとなった他、他の選手は平均速度47.5㎞の高速レースを集団ゴールで終えた。明日からは徐々に風の影響を受けやすいステージが始まる。チームの団結をより高めレースに臨みたい」
・ステージ1位:クリストファー・ハルフォルセン:
(2016年U23世界王者&マイヨ・ヴェール)
「第1&第2ステージでは2位と3位だったので、やっとステージを獲れて嬉しいよ。チームは僕をつねに集団の前に連れて行ってくれたので、彼らの働きに報いる勝利をすることできて幸せだね。このレースにはステージ優勝するために来たんだ。ボクにチャンスがあるステージ(スプリントステージ)がまだあるので、これからも勝利を狙っていきたいね。
3ステージ終わった時点でマイヨ・ヴェール争いでもリードしているので、最後までこのジャージを守り抜きたい。U23世界選手権に向けては、ベルギーなどのレースで調整をしてから臨むつもりだよ。もちろん世界王者タイトルを守るつもりで走るけど、昨年のコースよりもきついレイアウトなので困難が予想されるね。調子が良ければ勝つつもりで臨むよ」
・ステージ2位:アルヴァロ・ホセ・ホデグ・チャグィ(コロンビア):
「クライマー中心のうちのチームは誰も逃げに選手を送り込めなかったので、スプリントに参加するためには逃げを吸収する動きが強いられたね。最後のラウンドアバウトで、ノルウェイチームがハルフォルセンのために、つねに強力なスプリントを仕掛けたんだ。ゴール前は自分に向いている平坦基調のものかと思っていたけど、実際は結構上っていた。U23世界チャンピオンの勝利は納得だ。彼は今日最高に強かったよね。自分の調子もつねにいいので、次のチャンスを狙うよ」
・岡 篤志(日本U23/宇都宮ブリッツェン)第3ステージ15位(総合+4秒)
「最後周回に入ってからはテクニカルなコースだったので、小野寺と一緒にリスクを避けるため前方に位置しました。しかし大柄選手による位置取り合戦がつねに激しく、小野寺ともはぐれてしまい最後は単騎で臨みました。最終局面小さな飛び出し集団が形成されたタイミングがあり、それに乗れなかったのは力不足。乗れていたら上位でのゴールも可能だったので残念」
・小野寺 玲(日本U23/宇都宮ブリッツェン)第3ステージ30位(総合+4秒)
「最終周回に入る前(残り役10km)に岡本に引き上げてもらい、集団前方のいい位置にたどり着くことができたんですが、他国の巨体選手達が激しく位置取りをするため、岡らアシスト選手ともはぐれてしまった。比較的小柄な日本人選手が世界トップの集団で位置取りをすることの困難さを痛感しました。まだまだ似たような展開のステージがありそうなので、打開策を見つけ出したい」
・岡本 隼(日本U23/日本大学/愛三工業レーシング)第3ステージ81位(総合+4秒)
「50km地点で14名程度の逃げが決まり40-50秒程度のタイム差。速度が落ちるかと思ったら、今度は逃げに乗り損なったイタリア、チェコ、コロンビアらが強力に集団を牽引。直線になるとメイン集団から逃げ集団がチラチラ見える場面もあったため、すぐに吸収されるかと思いきや、逃げもローテーションをガンガン回して吸収されまいと粘る。すべてが日本のレースの常識を飛び越えた光景でした」
・石上優大(日本U23/EQADS/Amical Velo Club Aix en Provence) 第3ステージ99位
「スタートからアタック合戦に参加していましたが高速展開が続いた最初の50kmぐらいところで脚がだるくなり、丁度そこあたりで逃げか決まってしまった。全般的に身体がきつく感じる日だった。結果論になりますが、序盤のアタック合戦で温存し、最終の周回コースで展開できるようにしたほうがクレバーなペース配分だったと思う。今日は残念な結果だったが、今日学んだ事を翌日に活かしていきます」
・雨澤毅明(日本U23/宇都宮ブリッツェン)第3ステージ108位
「とにかくスピードが速かった。スタートから50km地点までにかかった時間が1時間未満!つまり時速50km超。日本ではこのスピード域を体験したことが無いです。ちょっとスピードが緩まったかなぁ、と思っても45km程度。こういう体験を積むためにこの場所にいる」
・山本大喜(日本U23/鹿屋体育大学)第3ステージ136位(総合+16分40秒)
「スタートからアタック合戦が活発で、最初の1時間の平均時速が約50kmで集団もアップアップ。50km過ぎ地点で漸く決まりかけた逃げを見て“これは決定的な逃げに違いない!”と感じ、すぐに追走に入りました。逃げを追うボクに対して“グッドラック……”と声をかける選手もいたぐらい。結局、あまりにも勢いのある逃げだったため、追いつくことができず脚を使ってしまった。終盤は逃げを追いかけた影響もあって、ちぎれてしまいましたが、また明日からも積極的にアタックしたい」
■U23ジャパンナショナルチーム選手ピックアップ!
せっかち過ぎる『雨澤毅明(日本U23/宇都宮ブリッツェン)』
先のネイションズカップ「クルス・ド・ラペ」では総合18位に入り、U23ナショナルチームの「ツール・ド・ラヴニール」出場権獲得に貢献した雨澤毅明。彼は自分の性格を“半端やモタモタするのが大嫌い”と分析する。「今回全部で9ステージありますが、ボクが得意な山岳は7ステージまでやってこない。もう早く平坦ステージが終わってほしいです!」
国立宇都宮大学は農学部の学生だったが、自転車推薦などではなく一般受験での入学。「センター試験を受けたんですが、既に那須ブラーゼン入団が決まっていたこともあり、早く練習したくて、試験期間が短い“センター推薦”で試験を終わらせたんです。」
筋金入りのせっかちである。
父が自転車好きで、家族みんなで自転車に乗り始めてから競技の才能に気づき、学業と両立する形でプロ選手の道へ。日本のレースではデビューからつねに早く頭角を表したが、海外レースに関しては少々時間がかかり、昨年のUCIネイションズカップU23が初参戦。
「レースで見る全部が衝撃的、日本のレースとは別物です。単純に選手たちの身体が異様にでかい、よってフィジカルを使った位置取り争いが激しい。ボクはクライマーとはいえ、日本では平坦で苦しんだことは無いんですが、欧州で初めて平坦で苦しみました。“やばい”と思いましたね。このままじゃ世界では何一つ戦えない!と。ここでせっかち魂に火が付き、今はなるべく早く全力で世界との遅れを取り戻しています。」
ちなみに小野寺玲が映画「トップガン」の話をものすごい熱量で語って来たときはせっかち癖が出て「早くこの話を終わってくれないかなぁ・・」と思っていたそうだ。
そんな雨澤が最近凝っているのはレース遠征先のコンビニで読む週刊誌グラビア。「ひとまず大体の週刊誌のグラビアに目を通し、女性のトレンド動向を調査してます(笑)」せっかちな雨澤が袋とじのグラビアをコンビニで開けてしまわないことを祈っている。
■レース会場スパイ活動報告
①ブルターニュの英雄&神『ベルナール・イノー』
ツール・ド・フランス総合優勝5回、世界選手権やパリルーベでも優勝し、フランス自転車界の絶対的ご意見番であるベルナール・イノー。フランス全土でも知らない人は居ないほど有名だが、彼の本拠地であるブルターニュ地方では誇張は一切なしに10秒歩くたびにサインを求められるほどの大スターだ。近年はツール・ド・フランスのアンバサダーとして「さいたまクリテリウム」にも複数来日しているため、日本自転車界のことも観察している。そんな神様に「なぜ日本は強くなれないのか?」とズバリ聞いてみた。するとイノー氏は目を輝かせながら捲し立てる:
「日本選手がなかなか強くならないのは選手やチームが欧州に来ないからだよ。順序なんか気にしなくたっていいし、それこそ言葉なんかわからなくたって良いんだ。仮に言葉がわからないなら通訳を連れてくればいいだけだろ?とにかく欧州で特に環境が厳しい場所、例えばブルターニュ地方のレースに出ろ。日本のシルクのようなサラサラ路面なんかこっちにはないぞ。ザラザラのボコボコだ。晴れの日のほうが少ないし、風も強い。脚を一切休ませてくれない細かいアップダウンばかりだよ。環境適応や言葉なんて、こっちに来て走り続ければなんとかなるさ。
なぜ欧州以外の海外選手達が欧州に適応できないか分かるか?苦しくなって途中で自国に帰ってしまうからなんだよ。これは日本選手に限った話じゃない。
そして今の日本に必要なのは、欧州で経験を積んだ選手やスタッフが次の世代にそのノウハウを繋いでいくことだよ。アラシロとベップの後にはあまり強い選手がいないんだろう?「さいたまクリテリウム」でも日本選手を見ているけど、選手層に空洞があるのは日本の関係者からも聞いている。日本は自転車ロードレースに関するリソースが少ない国なんだから、しっかりとシステマチック&組織的に次の世代へと経験を繋ぎ次のステージに進む事に集中しろ。早く動いて日本のチームをツール・ド・フランスに連れてこい。お前らがツールで活躍するのを楽しみに待ってるぞ。」
②UCIワールドチームFDJ監督『マルク・マディオ』
フランスを代表するチームであり、ツール・ド・フランス常連のFDJチーム。その名門チームの監督であるマルク・マディオは過去に選手としてパリ・ルーベ優勝など輝かしい成績を誇るスター選手であった。そんな彼も優秀な選手を探しにツール・ド・ラヴニールの会場を訪問。そんなマディオさんにはこんな質問をしてみました=「いつになったら日本人選手をFDJで採用してくれるんですか?」と・・:
「私は日本人選手の事は全くわからない。悪く思わないでくれ。なぜ知らないかというと、成績を出さない選手に注目する理由はないからだよ。つまり日本人選手は欧州の重要なレースで成績を出していないという事だ。U23選手にとって一番プロに上がる近道はこのツール・ド・ラヴニールで成績を出すこと。あと日本選手に対して一つだけ言えることは、”欧州に来て走れ”という事だね。なぜなら欧州こそが世界の中で最も優秀な選手が、命をかけて戦う場所だからだ。」
写真:U23ジャパンナショナルチーム提供 筆者:山崎健一
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著者プロフィール
ファンライド編集部ふぁんらいど へんしゅうぶ
FUNRiDEでの情報発信、WEEKLY FUNRiDE(メールマガジン)の配信、Mt.富士ヒルクライムをはじめとしたファンライドイベントへの企画協力など幅広く活動中。もちろん編集部員は全員根っからのサイクリスト。