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2020年04月30日

「この危機にさらに強くなる」NTTプロサイクリング入部正太朗の終わりなき挑戦(後半)

感染拡大の中、緊急帰国

日々、深刻化していくイタリアの状況を入部は振り返る。

「周りの人たちがニュースや状況を伝えてくれるんですが、日に日に感染者が増えて、外出規制が始まりそうになってきました。ついにはプロ選手は練習許可証を持っていたら外に1人で練習行くことができたけど、一般の人は外出禁止で店は閉めてくださいという状況になりました。外ではいたるとろに警察の車が止まっていて、何人も人が止められて職務質問受けたりしているところを何度も見ました。僕は一度も止められなかったけど、そういうのが日常化していました」

イタリアでは、ミラノ~サンレモなど主要レースの中止・延期が次々と発表された。入部のヨーロッパでのデビュー戦は、3月18日のベルギーのセミクラシックレース、ダニリス・ノケレ・クルス(UCIプロシリーズ)に予定されていた。さらに3月中はベルギー、フランスでワンデーレース計5戦に出場予定だったが、それらもすべて中止となった。ヨーロッパでは多くの国がロックダウンされ始めていた。

「ついにはヨーロッパの封鎖が始まりそうだから、今後の状況を考えると一度日本に帰るのが最善となりました。イタリアを出たのは、3月17日。帰るときの空港でもみんなマスクして、警察官がいっぱい立っていて、一人ひとり『どこに帰るんだ、どういう理由だ』と聞かれ、チェックを受けないと次の段階に進めませんでした。ローマの空港も経由したけど、ものすごく大きい空港なのに人がガラガラで不気味でした。僕自身もマスクして厳重な体制で帰ってきました」

「ステイホーム」だからこそトレーニングに集中

大阪の自宅に到着したのは、3月18日。体調にはなんら問題はなかったが、念のため自宅にこもり、妻以外とは誰とも会わない生活を続けた。

「もしウィルスを持ち帰った場合を考えて、自主的に約2週間隔離しました。2週間以降に陽性になる人もいると聞いたので、トータル17日間ぐらいは家にこもっていました。外に出たのは、帰ってきた次の日に自転車を輪行バッグから出して玄関先で組み立てた15分だけでした」

この「自主隔離」期間も体調に変化はなく、ローラー台でトレーニングを続けた。

「17日間過ぎて、軽く気分転換がてらちょっと外に乗りに行きました。もちろんソロライドで、補給食も全部背中に積んでコンビニとかもいっさい寄りませんでした。それを3~4日続けたところで、4月8日に緊急事態宣言が出たので、すべてローラートレーニングに切り替えて、室内にこもっていますね」

その後、外出は買い物など必要最低限に留めている。
街中などでシマノレーシング時代のチームメイトに偶然会った以外は、知り合いにもまったく会わないステイホーム生活を続けている。入部がステイホームを徹底するには理由がある。

「イタリアで誰もいない街や空港の静けさ、不気味さに少し恐怖を感じていました。イタリアでお世話になった方々も、大変な思いされていた。そういうのを自分の目で見たのもあって、日本でもできるだけ自粛してローラーでトレーニングしようという気持ちでした」

もうひとつの大きな理由として挙げたのが、「最近、ローラーでのトレーニングはメリットがあると気づいた」からだという。

「外で練習すると雨が降ってきて急いで途中で帰ったりすることもありますが、ローラーは外的要因が少ないので、計画通り狙った練習がしやすい。今はレースや移動もないので、トレーニングに集中できています。もちろん早く収束すること願っているし、外に出たときに成果を確認するのを楽しみにしながら練習できていますね」

テーマは「有酸素能力の向上」 データで見る難しさ

ツール・ド・フランスなどの一部主要レースで暫定の日程は発表されたものの、まだまだレース再開に向けて先の見えない日々が続く。選手として目標を設定してモチベーションを維持するのも難しい状況に思えるが、入部は迷いがないという。

「明確に目標設定できています。今後ヨーロッパでしっかり対応していくには、有酸素系の能力の向上が必要で、そこが僕が重点的に鍛えるべきポイントです」

有酸素能力とは、簡単に言えば長時間、高出力を出し続ける能力で、自転車ロードレースなど持久系スポーツでは基本となる力だ。入部自身、NTTプロサイクリングに加入して以降、チームキャンプやツール・ド・ランカウィ出場を通して、この部分でチームメイトとの差を感じてきたし、客観的なデータでもその必要性を裏付けている。

最近のロード選手は専門的なデータ分析にも関心が高いが、入部もその一人だ。過去にも、当サイトでTSBシミュレーターを駆使した自らのコンディション管理方法(https://funride.jp/feature/shimanoiribepower/)を紹介してもらった。そして、自分自身でいろんな情報を集める中で、有酸素能力を鍛えるためには地道な努力が必要なことも数値で明らかにした。

「今は世界中の選手のデータはネットで見れますが、そういう情報を見たときに自分は有酸素能力がそのレベルに全然届いてないなと実感しています。もちろん昔からわかっていることで、継続的に取り組んできたつもりでしが、今年からヨーロッパに挑戦できることになったので、今まで以上に意識高く、集中力を上げて取り組んでいます」

たとえば、入部が最近興味を持ったのは、ティボー・ピノ(グルパマFDJ)の18~22歳までの5年間のデータを紹介した記事だ。

「この5年間で、ピノ選手の1時間の最大平均パワー(FTP)を体重で割ったパワーウェイトレシオは5.0 w/kgから5.6 w/kgに上がっています。だいたい1年間平均で0.1~0.2w/kgの向上です。また20分間のパワーウェイトレシオは、5年間で5.7 w/kgから6.5 w/kgへ。1年間で0.1~0.25 w/kgぐらい向上しています」

「この数字を見て、効率的なトレーニングしていると思われるヨーロッパの本場の選手でも1年間で伸びるのはわずか0.1~0.2 w/kgぐらいというのがわかります。ちょっとやればボンと伸びるというのは考えにくい。つまり、1年間で有酸素能力を上げられる量は微々たるもので、逆にその微々たるものが勝負の分かれ目になるぐらい重要なんです」

「一方、自分のシマノレーシング時代のデータを見たときに、20分間のパワーウェイトレシオは過去7年間で0.6 w/kgの伸びでした。これを見ても時間がかかることがわかるし、今までのトレーニングに改善の余地はあるのかなと思います。こういうのも参考にしながら、有意義でしっかりしたトレーニングを積んでいきたいと考えています」

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