2020年04月03日
【IRC TIRE】開発者が語るフォーミュラシリーズの魅力について
近年、インナーチューブを必要としないチューブレス(TL)やチューブレスレディ(TLR)の存在感が増している。
転がり抵抗が小さく、パンクに強いというメリットはなんとなく頭で分かっていても、どのように進化しているか理解している人は案外少ないもの。
今回は、IRC TIREの山田浩志さんが今さら聞きにくい基本的なメリットから、マニアックな質問に答えてくれた。
第5世代リリースに至るまで
ーー タイヤに限らずモデルチェンジの度に思うんですけど、新製品を出すべき理由あるのかな? と。
今回のモデルチェンジでTLは5世代目になったわけですが……。
山田 理由はいくつかあります。
ひとつはマヴィックさんのUST の発売を機に、他ブランドの主にチューブレスレディが市場にたくさんでてきた。
ーー シェアはともかく、トレンドとしての潮目が変わった感じがします。
山田 TL/TLRユーザーは確実に増えました。
けれど、品質などに疑問を感じている人も多いんです。ですから、このままだと、我々が築き上げてきたTL市場がダメにされるのでは? という危機感がありました。
ーー 疑問とは?
山田 多くのブランドが参入するのは嬉しいことなんです。
でも、TLRの中には、空気の保持性が小さかったり、装着性を優先しすぎているのでは? と思えるモノがありました。
ーー TLやTLRに対して、ちょっと否定的な人もいますね。実際、一時はTL対応のホイールが減ったりしたし。
山田 ええ、対応ホイールが減ったときは心配になりました。
ーー 4世代目のときも、4年サイクルでモデルチェンジしましたよね。
山田 そうです。そういう意味でも、いいタイミングでした。
技術的にも新しいコンパウンドのRBCCの開発が上手くいき、またTLRの開発も他社のトラブル事例等も把握しながら上手く進められていたので、今年、5世代目を出すことになりました。
ーー タイミングを見極めるのって、むずかしそうですね。
山田 2019年は技術的にリリースできない状況だったし、もしかしたら2021年では先ほど申し上げた理由で、TLそのものが市場で厳しい判断をされるかもという危機感があったので、ギリギリであったと思います。
ーー TLは普及には時間がかかっているけど、着実に進化しているなって感じがします。
山田 TLは2005年に開発を始めて、2008年に発売しました。
以来、ずっと開発や作りこみを継続しています。現在は精度があがり、軽量化も進み、扱いやすい製品になってきました。
TLならではの製品としての攻め際、手出しをしてはいけない領域もわかっています。
ーー それはどんな領域?
山田 たとえば、装着性だけに気を取られてはいけないとか……。
ーー 装着するのが大変という印象が強かっただけに、簡単に装着できる手があるなら、それは魅力的な誘惑ですね。
でも、安全性をないがしろにはできないですもんね。
ーー では、攻め際のほうは?
山田 攻め際というのは、ずっとTLを手掛けてきたので、寸法精度や材質なんかもノウハウが蓄積されてきています。
主に安全面が多いですが、簡単に言えば、先行した優位性ですかね。
とはいえ、4代目で採用していたRBCCコンパウンドは、ちょっと攻めすぎた部分があり、昨年1月に非常に高性能なコンパウンドができたので、新製品で注目を集め、TL/TLRの本当の実力というか、魅力を知ってもらいたかったんです。
高性能なコンパウンドは、あの素材あってこそ
ーー なにかブレイクスルーとなることがあったんですか?
山田 クルマのタイヤで使われている技術や素材は日進月歩ですから、それを上手に自転車用タイヤに落とし込めたということでしょうか。
具体的に言えば、シリカと結合のいい合成ゴムが使えました。
ーー ここ数年、新製品と言えばシリカ配合が合い言葉になっていますけど、たくさん入れたら、グリップが良くなる魔法の粉みたいなもんですか?
山田 シリカの量はコンパウンドの質を変えますけど、それと良し悪しは別問題なんです。
ナニを良しとするかは、各々のメーカーが秘密のレシピを持っています。
そして、シリカとポリマーを上手に結合させる方法がいろいろあるので、なかなかわかりやすく説明できないんですけどね。
ーー シリカを使う最大のメリットはなんですか?
山田 簡単に言うとスタッドレスタイヤに使われる素材で、ゴムが柔らかくなり、路面追従性が良くなります。
その一方、転がり抵抗も小さいので、低燃費タイヤにも使われる。
これを両立できるのがシリカの大きな特徴です。
ーー 話は変わりますが、IRCタイヤの長所とはどんなところにあると思いますか?
山田 ロードバイク用タイヤはTLに限らずですが、相対的にトレッドゴムが柔軟で反発に富み、異物を拾いにくいので、突き刺しによるパンクやトレッドの傷が少ないことだと思っています。
IRCはパンクしやすい……ってのは、あまり言われないですね。
ーー 発表会のときに、ISO規格が新たに決まったという話がありましたが……どんなメリットがあるんですか?
山田 製造メーカーとしては規格、標準は必要なファクターです。
作る側、売る側、買う側にとっての拠所になりますからね。
規格が守られると、 ユーザーさんにとっても自由な組み合わせで好きな商品を選べるので、 良いことだと思います。
ーー 企画といえば、なぜETRTOではダメだったでしょうか?
山田 まず、ETRTOはあくまでもヨーロッパ基準です。
対してISO(国際標準化機構)は162カ国が加盟しているという違いがあります。ただ、基本的な寸法で言うと、実はあまり変わりはないんです。
ーー では、新しいISO基準のリムを採用と言われても、嵌合については問題がないってことでいいですか?
山田 全く問題ないです。
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著者プロフィール
菊地 武洋きくち たけひろ
自転車ジャーナリスト。80年代から国内外のレースやサイクルショーを取材し、分かりやすいハードウエアの評論は定評が高い。近年はロードバイクのみならず、クロスバイクのインプレッションも数多く手掛けている。レース指向ではないが、グランフォンドやセンチュリーライドなど海外ライドイベントにも数多く出場している。