2015年12月10日
FELTの創始者 ジム・フェルト氏 インタビュー
来日を果たしたジム・フェルト氏。当サイトで連載中の、3モデルインプレッションにてフェルトのバイクをテストライドした直後の来日ということもあり、タイムリーに独占インタビューを行なうことができました。
菊地(以下、菊):現在の役職と職責を教えて下さい。
ジム・フェルト(以下、JF):オーナーであり創業者です。現在、携わっているのはEバイク、スーパーバイク、タイヤのプロジェクトなど、私たちの会社がこれから取り組んでいくべき未来的なプロジェクトの研究です。そして、契約しているアスリートのマネジメントも私の業務の一部です。
菊:市場においてフェルトというブランドはどのような評価を得ていると思いますか? また、その評価に満足していますか?
JF:様々なプロアスリートを通じ、レースの世界においては非常に高い評価を頂いていると思います。とはいえ、まだ創立してから25年の若い企業です。私たちの製品がどのようなモノなのか、また、誰かということを知ってもらう途上だともいえます。
菊:ロードバイクは用途に応じてZ、F、ARの3つのシリーズをラインナップしていますが、この構想はどのようにして生まれたのでしょうか?
JF:そもそもFシリーズは私がブランドを立ち上げたときのコンセプトを形にしたレーシングモデルで、いわばオリジナル。ワールドツアーに出場しているトップアスリートのために作ったもので、アスリートが要求するパフォーマンスに応えるバイクです。ARシリーズは2008年頃、空気抵抗の低減する必要性を感じて開発を始めました。Fシリーズよりもジオメトリーはマイルドで乗りやすいのも特徴です。Zシリーズはアスリートだけでなく、より多くのライダーのために作られています。ヘッドチューブを長く、トップチューブの短いジオメトリーは前傾姿勢が浅く、ホイールベースも長いので直進安定性に優れているのが特徴です。ただ、レースを楽しんでいる方からも支持されているので、まだレーシーなところが残っているんでしょうね。
菊:現在、メジャーブランドはコンセプトごとにシリーズを作り分けるのが主流になりつつあり、モデルチェンジによって世代も変わっています。フェルトのモデルごとの世代は、どうなっていますか?
JF:ARシリーズとZシリーズは2回モデルチェンジをしています。Fシリーズはむつかしいですね。というのも、ジオメトリーは一番初めに作ったものから変わっていないのです。だから、第1世代のままともいえますが、素材変更によって性能も変わりますから、第3世代ともいえます。
菊:3シリーズの販売比率はどのようになっていますか?
JF:パーセンテージでいうことは難しいですね。現状でいちばん売れているのはARシリーズです。ただし、ターゲットユーザーの範囲が広く、安定して販売量が多いのはZシリーズです。
菊:つまりARシリーズに勢いがあるということですか?
JF:今、このタイミングにおいては、そうです。でも、Zシリーズはボリュームゾーンだし、Fシリーズはロングセラーモデルです。グローバルで考えると各国の傾向もあるので、一概には答えられないのです。日本ではFシリーズが一番売れていますね。
菊:商品開発で苦労したエピソードを紹介してください。
JF:それはいっぱいあるので、シリアスなのと、ユニークだったらどちらがいいですか?
菊:では、シリアスなエピソードにしましょう。
JF:まず、選手と上手な関係を作るのが大変です。彼らが自由に意見を言える状況を作ること。たとえば「この自転車はダメだよ」と言ってもらえれば、我々はきちんと改善することができる。だから、キチンとした関係を構築することで双方にメリットも産まれる。キツイ体験としてはジロ・デ・イタリアのタイムトライアルの最中に、選手が機材不良に腹を立ててバイクを投げたことがあります。理由はチェーンが原因だったのですが、皆さんのイメージだとフェルトが悪くて……となりますから。あれは思い出しても、苦い思い出ですね。
菊:さて、話題を機材に戻しますが、カーボンに続く新しい素材のイメージはありますか?
JF:航空分野で再びアルミが着目されており、新しい技術を携えてまた出てくるであろうと期待しています。ただ、カーボンに限らず複合素材というのは取り回しがしやすい。新しい素材に対しても可能性がまだまだあるので、複合材料の自転車はしばらく作り続けられるでしょうね。
菊:カーボンフレームの価格が高騰しているが、今後はどうなると予測していますか?
JF:フレーム素材やパーツが値上がりしているし、予測していたよりも経済がよくならなかった。いろいろな要素が絡んでくるので、一概にこの先どうなるかを言うことは難しいですね。
菊:開発コストが膨大なエアロバイクの開発は、中小メーカーによってダメージになりませんか?
JF:正直にいえば、私たちの企業規模としては結構なダメージです。ただ、フェルトというのがどのようなメーカーかというと、ハイエンドに非常に注力しているメーカーです。世界でベストなバイクを作るという考えが根底にあり、開発費用に重きを置くのは当然のことだと思っています。
FELTのお問い合わせ先 ライトウェイプロダクツジャパン http://www.riteway-jp.com/bicycle/felt/
著者プロフィール
菊地 武洋きくち たけひろ
自転車ジャーナリスト。80年代から国内外のレースやサイクルショーを取材し、分かりやすいハードウエアの評論は定評が高い。近年はロードバイクのみならず、クロスバイクのインプレッションも数多く手掛けている。レース指向ではないが、グランフォンドやセンチュリーライドなど海外ライドイベントにも数多く出場している。