2016年10月27日
【ジャパンカップ サイクルロードレース 2016】25年目の節目、それぞれの想い(後編)
ジャパンカップ25周年 ワールドツアーへと続く未来(後編)
国内最高峰の自転車ロードレース「ジャパンカップサイクルロードレース」も今年で25周年を迎えた。この25年でジャパンカップはどう進化し、今後どう発展していくのか? そして、ファンは何を求めているのか? ここではジャパンカップの歴史に名を刻む関係者とファンに話を伺った。後半は、栗村修さんと今中大介さんの登場だ。
栗村修さん「ジャパンカップとTOJ、ともにワールドツアーへ」
■古賀志林道は得意じゃなかった
「私にとってもジャパンカップは憧れのレースでした。若いころはプロとアマチュアに分かれていたので、自分たちは土曜に走って日曜にプロのレースを見ていました。クライマーだけどあまり得意なコースじゃなかったですね。古賀志林道の3分くらいで終わる上りは僕向きじゃなかった。1999年は単独で逃げたんですが、畑中(勇介、チーム右京)がそれを見て、自転車選手になろうと思ったと今でも言ってますね」。
■ジャパンカップの存続危機を救ったのは?
「ジャパンカップは以前から日本最大かつ唯一のお客さんが集まるレースで、それは今も変わらず年々増え続けています。しかし、私はブリッツェンにいたので特に感じていたのですが、昔は大半の宇都宮市民にとって、ジャパンカップってなんとなく知っているけど、触れたことのない国際大会だった。市街地から離れた森林公園で行われていたからです」。
「そもそもジャパンカップは宇都宮市の予算を使って開催していたので、それに対する疑問の声もあり、存続が危ぶまれていた時期もありました。大きな変化は、2009年に宇都宮ブリッツェンが誕生して、2010年に市街地でクリテリウムが始まったこと。それらが追い風になって、県外からたくさんのお客さんが来るようになった。経済波及効果も20億円と言われ、地域に必要とされるイベントになりました。今ではジャパンカップをやめようという声はありません。日本を代表する大会として、ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム、おおいたサイクルフェスなど自治体が予算を組んで自転車レースを開催するモデルケースにもなっています」。
■TOJとジャパンカップをワールドツアー連戦に
「ここからは私の妄想なんですけど、ジャパンカップとツアー・オブ・ジャパン(TOJ)をともにワールドツアーにしたいですね。TOJを5月のままワールドツアーにするのは(ヨーロッパのレースと日程が競合するので)難しい。そこで、TOJを10月に移動します。この時期に8日間のステージレースは難しいので、日程を4、5日に短縮し、ワンデーレースのジャパンカップと連戦にして、ワールドツアー昇格を目指したいと思っています」。
「実はTOJとジャパンカップの連携というのは裏で行われていて、運営も同じようなメンバーが動いています。レースを主催するのは本当に大変ですが、新しいビジネスモデルを作ることが自転車界の未来につながると思ってがんばっています」。
栗村修さん ツアー・オブ・ジャパン大会ディレクター
現役時代はプロ選手として国内外で活躍。引退後はミヤタ、シマノの監督を経て、2010〜2013年は宇都宮ブリッツェンを指揮した。2014年からツアー・オブ・ジャパン大会副ディレクターに就任し、今年から大会ディレクター。選手、監督、レース運営、解説者と多方面からロードレースにかかわってきた。
今中大介さん「ジャパンカップが日本人選手を成長させてきた」
■ワールドカップ最終戦での力走
「1996年は当時行なわれていたワールドカップの最終戦だったので、ポイントが大事。200人以上出場する中で、みんな必死でした。チームは地元のレースということである程度、私に任せてくれました。序盤に4人で逃げて、その後(クラウディオ・)キアプッチらが追いついて25人ぐらいの集団になりました。そのまま最後まで逃げ切って、チームメイトのマウロ・ジャネッティが勝ちました。平均39.8㎞/hの高速レースで、とても苦しかった。それでも、そういう走りができたのは、ジャパンカップに向けて身体をしっかり仕上げることができたからでした」。
■日本人選手の世界への架け橋
「ジャパンカップがあること自体が、日本人選手の成長に繋がってきたと思います。以前から国際ロードやツール・ド・北海道など国際大会はありましたが、これだけのプロ選手が集まるのは、ジャパンカップしかなかった。日本人にとっては、世界は遠いからと最初からあきらめるのではなく、『もしかしたら戦えるかもしれない』と夢を抱くことができる場だったと思います」。
「宇都宮ブリッツェンが誕生し、佐藤栄一市長の働きかけでクリテリウムが生まれ、ジャパンカップも世界に近づいていると思います。海外選手の気持ちも変わってきました。以前は日本に来るのが楽しみで、一生懸命走るけど、どこか本調子じゃなかったところもありました。今では絶好調で大会に臨んでくる選手もいます。日本人選手にとっても、そこで成績を残すことはモチベーションになるでしょう」。
■ワールドツアー昇格で世界との距離をさらに縮める
「カンチェラーラなども話しているようですが、ジャパンカップもワールドツアーを目指す方向になっていくかもしれません。ヨーロッパは毎週激しいレースが行われている歴史が脈々と続いている。その部分は、まだ日本とは距離感があります。その距離を埋めるためには、ジャパンカップがワールドツアーに組み込まれるのも必要かもしれませんね」。
今中大介さん ジャパンカップ大会オブザーバー
1996年、近代ツール・ド・フランスに日本人として初出場した、日本ロードレース界のパイオニアのひとり。その年のジャパンカップはワールドカップ(現在のワールドツアーのような最高峰の年間シリーズ戦)最終戦としてハイレベルな争いが繰り広げられる中、日本人最高の12位に入り、日本人としては初めてワールドカップポイントを獲得。翌1997年のジャパンカップで引退し、その後にインターマックスを創業。ジャパンカップでは、大会オブザーバーを務めている。
ファンに聞いた「ジャパンカップを応援する理由」(後編)
今年のジャパンカップはクリテリウムで5万人(過去最高)、ロードレースで8万5000人、2日間合計で13万5000人(過去最高)のファンが詰めかけた。なぜそこまでこのレースが多くの人を引き付けるのか? ジャパンカップ、自転車ロードレースの魅力をファンに聞いてみた。
フリーランに参加した埼玉から来た親子。「ジャパンカップは5回目です。応援している選手は新城、カンチェラーラ。以前、宇都宮で働いていたことがあったので、ブリッツェンの練習している姿を見かけてロードレースに興味をもちました」。息子さんは「レース見るのが楽しい。土井ちゃんが好き」と土井雪広選手(マトリックス・パワータグ)のファン。
ジャパンカップ名物ともいえる痛チャリでの応援スタイルの2人組。
写真左の男性は、はるばる大阪から観戦。「ジャパンカップ観戦は5年目。BMCレーシングが好きで、昨年参戦したピーター・べリトスのファン。さいたまクリテリウムよりも、選手とファンの距離が近いのがジャパンカップの魅力。大阪の堺も自転車の街といわれるけど、宇都宮の方が自転車に乗らない人でも楽しめるイベントとして盛り上がっていると思います」。写真右の男性は地元・宇都宮で、観戦歴15〜16年のベテランファン。「宇都宮ブリッツェンのファンです。年々レースが大きくなって、地元に人が集まってくれるのがうれしいです。自転車に描いたのは、地元・栃木テレビのキャラクターです」。
クリテリウムで、ゴール近く最前列のベストポジションを陣取った女性ファン。
「友達7人で来て、8時から場所取りしています。さいたまクリテリウムは見に行ったことがあるけど、ジャパンカップは初めて。カンチェラーラの引退レースだし、去年、フミ(別府史之)が勝ったのを見れなくて悔しい思いをしたから、今年は絶対来たかった。『弱虫ペダル』がきっかけでロードレースに興味を持ったんですが、駆け引きやドラマがおもしろいです。アシストの頑張る姿を見ると泣けるっ!」。
宇都宮・小山など地元栃木の学生3人組は、新城選手やキャノンデール・ドラパックのファン。森林公園のゴール前のベストポジションで観戦。「6時前に来たら、絶好の位置を取れました。スプリント勝負が楽しみです。もともとロードレースは興味はあったんですが、今年初めて来ました。昨日の別府選手のスプリントも強くて、かっこよかったです。ジャパンカップは実際にプロ選手と触れ合えるのがいいですね。地元で大きい大会があるのは、誇らしいです」。
ドラゴンボールの孫悟空のコスプレで観戦していた東京から来た男性。
「ジャパンカップは3回目です。カデル・エヴァンスが2011年のツール・ド・フランスで逆転総合優勝したのに感動して、エヴァンスとBMCのファンになりました。それからロードバイクにも乗るようになり、富士ヒルにも出ています。悟空のコスプレは海外の選手にもわかってもらえるかなと思って。この格好でフリーランを走ったら、『ドラゴンボールだ』って、声をかけてくれました。そうやって選手を身近に感じられるのが、ロードレースのおもしろいところ。生で観戦すると風や息遣い、選手の気持ちも感じるような気がします」。
ワールドツアーに昇格しても、失いたくないもの
ツール・ド・フランスなど世界最高峰のロードレースで構成されるUCIワールドツアー。2016年は全27戦のシリーズが行われたが、2017年は10戦追加され、全37戦となる。もし今後もこの拡大路線が続くなら、あるいはレースの入れ替えがあるのなら、関係者のみなさんの言葉通り、ジャパンカップがワールドツアーに組み込まれるのも、まったく非現実的な話ではないかもしれない。
そうなれば、最高峰のUCIワールドチームも全チーム参加してくるので、レースのレベルが上がる。したがって、これに立ち向かう日本人選手、日本チームもレベルアップしなければ、同じ土俵にすら立てない。これまで以上に、競技力の向上に取り組むことになるだろう。
一方、ファンの言葉に目を向けると、選手との距離の近さをジャパンカップの魅力に挙げる声が多かった。実際に、会場や宇都宮市内でファンと選手が触れ合う姿をよく見かける。チームや大会側の努力もあるが、選手個々もファンの声援に応えたいという気持ちがあるのだろう。そして今年8年目を迎えた宇都宮ブリッツェンが、地域密着型チームとして市民に愛される存在へと成長していることも実感できた。
もしジャパンカップがワールドツアーに昇格したとしても、格式ばったレースにならず、こうしたファンとの触れ合いを大事にするイベントとして今後も続いていってほしいと強く願いたい。
日本のロードレースファンにとっては、世界のトップ選手と身近に触れ合えるのがジャパンカップの魅力だ
(写真と文:光石達哉)
著者プロフィール
光石 達哉みついし たつや
スポーツライターとしてモータースポーツ、プロ野球、自転車などを取材してきた。ロードバイク歴は約9年。たまにヒルクライムも走るけど、実力は並以下。最近は、いくら走っても体重が減らないのが悩み。佐賀県出身のミッドフォー(40代半ば)。